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104. 帰りたいのに帰れない

「娘はこのまま連れて帰る」


 キャルムに向かって言っているということは、このままクロードに伝えろという意味合いだ。

 抱きしめられていた腕から逃れるように父の胸を押した。


「いいえ、帰りません」

「帰ろう」

「やりたい仕事がみつかりました。もうなくしてしまったと思っていた家族ともう一度やり直せるならやり直したい。でも、このままでは何も変わりません。私が知ろうとしなければ、何も変わらない。家族のことも、この世界のことも。だから、今は帰れません。帰りたくても帰れない」


 今やっとでマーガレットが言っていたという「帰りたいのに帰れない」が胸に響いてきた。どんなに寂しかっただろう。ひとりで人間の世界に取り残されて、強い暗示をかけて忘れるしかなかった。彼女の心が痛い。それが今になって、自分に返ってきた。


「そんなにぼろぼろになってまで、やる事があるとは思えないが」


 見たことがないようなやさしさで溢れた表情。

 差し出された手はやさしく、その手を簡単に取ってしまいそうになる。


「近くに家族がいる。それだけで安心して過ごせます」

「君達には自力で這い上がってきて欲しいと願っているよ」


 裏表のないひとりの父としての姿をやっとで見れた。

 それだけで満足感が広がってくる。

 心が熱くなってくる。


「見ていてください」

「見させてもらおう」


 父親の顔から伯爵の顔へと変化したのを見逃さなかった。

 チーターに狙いを定められたトムソンガゼルのように飛んで跳ねて逃げられたらよかった。

 逃げなくても、父の瞳に浮かぶ光にやさしさが見えて安心する。しっかりとその瞳を覗き込む。そこには、いつも見ている瞳、鏡に映っている自分の瞳があった。ああ父親に似ていたんだ。その時、初めて実感をした。


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