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102. 違和感の理由

 手でに握りしめたであろうメモを見ながら、何かが心の中に引っかかる。


「キャルム、帰ってきた早々申し訳ないけど、付き合ってくれる?」

「お嬢様、どこに?」


 彼の質問には答えないまま、歩いていく。

 大通りに出たときに顔を押さえてしゃがみこんだ。


「あーっ! 私らしくない!」

「どうしたの? 君らしくないって? たまには流されちゃえばいいんだよ。流れに乗ってどこまでも~」


 歌い出しそうなキャルムを横目で見ながら、ため息をつく。


「お嬢様は何でも真面目に考えすぎ」

「だって真面目に考えないと好きだと言ってくれた人のこと」

「君は好きなの? 彼のこと」

「好きだけど、キャルムの考えている好きとは違う」

「どこまでも複雑怪奇ですなぁ。お嬢様は」


 髪の毛が乱れるくらいにくしゃくしゃにされた。

 私の後ろから鼻歌を歌いながら、着いてくる。

 横を歩いてくれないとお嬢様と護衛のようである。


「今日は鍛冶屋さんのところに道具を見せてもらいに行きたいの」


 少し足を遅くして、彼の横にさりげなく並ぶ。


「了解っと。あーっ、でも大工さんのところの方がもう道具出来上がっているし」

「そっか。鍛冶屋さんに足を運んだとしても商品がないかもしれないということね。それじゃあ、大工さんのところに」

「あのさ。やっぱり先に鍛冶屋でもいい?」

「どうしたの?」


 挙動不審に視線があちこちを彷徨っている。

 何か隠したいことが大工さんのところにある。

 さっき違和感があったメモを思い出した。

 あのメモは握り締められていた。

 あんなにしっかりと握って帰る必要はない。

 性格の問題とかそういうことではなく、メモの文字が歪んで見えたのは、汗のせいだ。

 汗をかく人物と大工さんのところで会っていた。もしくは偶然にも会ってしまった。

 彼の雇い主の顔が目の前を通り過ぎた。

 コスツス伯爵と会っていた。何のためにだろう。

 キャルムは、伯爵から娘が家出をしたと聞いて、護衛としてここにいると言っていた。


「伯爵は何と言っていたの?」


 思い切って聞く。

 彼は目を見開いたまま、自分の顔をあちこちさわり、どうしてわかったのかと目で訴えてきた。


「メモでわかった」

「しまった。表情じゃなかったのか」

「最終的に違和感が表情でわかってしまったといったところかな」

「表情じゃないかい」


 盛大な突っ込みを頂いたところで、表情が崩れるのを止められなかった。

 キャルムは私が思っていたよりも素直な性格のようだ。


「心配していたよ。娘が館に戻らないと嘆いていた」


 どういうことだろう。追い出したのは伯爵だ。


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