101. この感情の意味
クロードの意図と外れることになったとしても構わない。
「前進ですね。前の貴方だったら友人になるのさえもためらうのではないでしょうか」
握手していた手が心臓のように跳ねた。
手からその少しの動揺が伝わった気がして、両手で顔を覆う。
顔は雄弁に物語を語る。瞳から表情から何もかもがその人に何かを伝える。
友人になるのさえもためらう。
少し前の私だったらそうだった。
持たなければ手から零れるものは何もなく、失うものも何もない。
今、顔を覆う手のひらから零れてしまったもの。
この感情に名前はない。
名前はないことにしないとここに立っていられない。
「恥ずかしいのですか?」
顔を覆ったまま頷く。
両手首を掴まれると顔を覗き込まれる。
首まで熱を感じることから真っ赤になっていることが予想された。
「これからよろしくお願いします」
子どものような無防備な笑顔で、こちらを見る。
クロードにしては、珍しく今まで見たことがない表情だった。
幸せが全部溶けだしたような甘い表情。
「まるで好きな人を見るような表情」
心の中で思っていたことが言葉に出てしまった。
大きな手が左頬に添えられて、顎を伝い、右頬までゆっくりと撫でられる。その手が熱く燃えているように感じてしまい、さらに恥ずかしさが増した。
「今日はこの辺で止めておきます」
彼の声が耳元で聞こえる。
「声が……」
耳元を押さえながら、後ろ向きに下がったときに誰かとぶつかってしまった。
「すみません」
振り向くと、キャルムの瞳とぶつかった。
「キャルム、いつから」
「いや、いいもの見させてもらったなと」
目頭を押さえながら、片目を開けてウインクをする。
意味は、見てはならないものを見てしまった。
でも言わないよってところか。
キャルムらしい。
「お嬢様、いつから始めますか?」
「はっ、何を?」
やれやれというように天を仰いで、私を見る。
「棚作りですよ。ちゃんと聞いてきましたよ」
メモを取った紙を見せてくれる。手でしっかりと持ってきてくれたのがわかる。
しわしわで文字までも歪んで見える。




