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100. 握手

 クロードの思いを受け止めきれるほど、私の心は広くなく、狭い世界で区切られていて、そこには誰の侵入も許さないほど、頑丈な殻の中にひとり閉じこもっている。

 足は宙に浮いたまま、地面についていない。ふわふわとクラゲのように漂い、誰の側にも寄りそうことをしない。

 わざと突き放して、彼の気持ちを置き去りにした。

 なぜ、カイのように受け止めることをしなかったのだろう。

 カイの心の中にもマーガレットはいて、その条件は同じのはずなのに。

 彼は裏表がなく、良い所も悪い所も包み隠さない。

 だからなのか気を許してしまう。

 いつも彼のペースに巻き込まれてしまい、いつの間にかカイのこと。

 そこまで思考が先行して、その後で顔に熱が生まれた。


「カイのことを意識させるだけでしたか」

「カイはだって、だらしなくて、いつも誤魔化してばかりで……」


 面倒くさそうに返事をしたりする。

 でも、困っているときにいつも欲しい答えをくれる。


「クロードは一面しか見せてくれないから、よくわからなくて」

「じゃあ、お互いを知るところから始めましょう。よろしく、真由」


 そんな風にさりげなく手を差し出されると拒否はできなくて、しかもお嬢様ではなく、真由という呼び方は個人として知っていきたいという意思表示のように感じる。

 この手を簡単に握っていいのかどうかわからない。

 クロードは伯爵家に勤めている以上、私の意志ではなく、伯爵家の意志を尊重する。そんな場面が出てくる。

 その時に私を選んでくれるのかというとそうではない気がしてくる。 

 でも、この場面で嫌よと言って、背を向けることもできない。

 無下にできない時点で、握手をするということは決まったも同じことだ。


「よろしく、クロード」


 相手の瞳の奥に輝く誰にも触れることのできない領域に踏み込んでしまった。

 私は利用されて、疲れてしまって涙を流すこともあるかもしれない。

 それでもこの目の前に立っている彼を知り、友人になりたい。

 クロードは、自分で手を差し出したのに握手をしたのが意外だったらしく、息を飲み静かに見つめていた。完全に手を放すタイミングを見失った。

 彼の方に視線を投げかける。


「なぜ握手をしたのですか?」

「よろしくって手を差し出されたら、普通握手するよね」

「これは何の握手ですか?」

「友達としてのでしょ。お互いを知るってそうだよね?」

「そういうことか」


 その言葉の意味を図っていた。

 お付き合いしましょうという恋人未満の人がお互いを知るという意味でも使われるということに気がついた。

 いや、恋人未満ではないし、どちらかといえば、小さい頃に友達になれなかった子と現在友人になった感じだ。

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