第4話
お読みいただきありがとうございます!
キャロラインとニコラスは、学園内の乗馬場にたどり着いた。
キャロラインは放課後、しばしばこの場所に訪れている。理由はひとつーーーエドワードがこの場所にいるからである。
厩舎の奥にエドワードの姿を見つけると、キャロラインとニコラスは、観覧用の小さなベンチに腰掛けた。キャロラインの服が汚れないよう、ニコラスが用意したハンカチの上に座っている。
(嬉しそう。やっぱり馬が好きなのね)
エドワードの笑顔を見て、キャロラインは思わず微笑んだ。
ランデルト侯爵領は広大で、移動には馬が欠かせない。もちろんキャロラインを始め、貴族は馬車を使って移動することが多いが、基礎的な馬術は貴族にとって素養のひとつである。
だがエドワードはこれまで、実家の領地で十分に乗馬を学ぶことができなかった。父親の寵妾からの入念な嫌がらせの結果ーーー乗馬だけではなく、貴族として必要な、基礎的な教養において、エドワードは学年の平均よりも劣ってしまっていたのだった。
遅れを取り戻すべく、入学後は人並み以上に努力し、成績も徐々に上がってきているが、噂も相まって、同級生からの陰口が途絶えることはなかった。
曰く、領地の小さなグリフィス伯爵家の次男でありながら、現宰相のランデルト侯爵家長女と幼馴染という立場を利用して、付きまとっている。ランデルト侯爵の弱みを握って、脅している。さらには、あわよくばキャロラインの婚約者となり、愚かにも、次期当主の座を狙っているのではーーーそんな噂がささやかれていた。
(エドワードの家族のことも、教養にしたって、彼自身のせいではないのに。それに彼は十分に努力しているわ。そんな人をあざ笑うなんてーーー皆には、彼の良さが見えていないのだわ)
自分だけが彼を理解できているような、誇らしい気持ちになりーーー目を移すと、エドワードの後ろに一人の女子生徒がいることに気が付いた。
「珍しいわね…女の子がいるわ。ニコラス」
「見かけない顔ですね。転入生でしょうか」
「そうね……」
エドワードが女子生徒に向かって笑顔で話しかけるのが見える。何を言っているかまではわからないが、笑っているようだ。冗談でからかっているようにも見える。
そして女子生徒が返事をする際ーーーエドワードのシャツの右袖をそっと掴んだのだ。
キャロラインは、はっとして、思わずニコラスの袖を同じように掴んだ。
「…妬いてるんですか?」
ニコラスが顔を覗き込んで尋ねる。
「まさか。そんなことしないわ。友人が増えたなら、良いことよ」
キャロラインは動揺を抑え、いつも通りに返事をした…はずだ。目線は前方の二人を捉えたままで、少し早口にはなったが。
なぜか胸がズキンと痛むが、きっと急いでここまで来たせいだろう。
キャロラインは深呼吸をして、息を整えることにしたが、一向に治らない。
袖を掴んだままのキャロラインの手を、ニコラスの大きな手が包み込み、別の手で背中を支えてもらっているとーーー移動して来たのか、すぐ近くでエドワードの声がした。
「…キャロライン。来ていたんですね」
固く、冷たい声だった。