第10話
大変お待たせいたしました・・!
一年ぶりに再開です。
エドワードに気持ちを伝えると決めた。キャロラインの決意は固かった。
だが、その日以降、彼女が面と向かって話をする機会は全く得られないままーー1週間が経過していた。
学園内の廊下の向こうに、校門のそばに、一瞬顔を見かけることはあるのだが、すぐに移動してしまい声がかけられないのだった。つまり、
「避けられているわ・・・」
ずーんと暗い雰囲気をまとい、キャロラインが嘆く。
斜め後ろに控えるニコラスも、うんうんと頷いていた。
(ここまでお会いできないとは・・!やはり不義理を誤解されたまま、怒ってらっしゃるのかしら・・それとも、視界に入れたくないほど、お嫌いに思われているとか・・)
思考はどんどん悪い方向へ行く。
さらに悪いことに、キャロラインの父・ランデルト侯爵にも、エドワードとレジーナの噂が知られてしまっていた。
以前エドワードが言っていた、正式な挨拶の機会はまだ設けられていないが、ランデルト侯爵からの評価は今や地に落ちている。今にも、キャロラインとニコラスとの縁談話が進められてしまいそうだ。その話に「待った」をかけているのは、他でもないニコラスだという。
「キャロラインお嬢様のお気持ちが最重要です。旦那様も同じお気持ちかと存じます」
そう言って保留にしてくれているようで、ニコラスには頭が上がらない。
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ランデルト侯爵にとって、婿となる後継者探しは、長年頭を悩ませていた問題だった。貴族の派閥や権力バランス、先代からの縁や、遠い親戚など・・考えだすとキリがない。その上、キャロラインは子供の頃から男女を問わず人気者で、縁談の申し込みも絶えなかった。
暫定的な婚約者であるエドワードといえば、彼の実母からの半ば脅しのような声明に始まり、女関係にだらしのない実父、義理の息子を虐げる義母、その結果勉強や体力、知識、マナー、なにもかもが劣ったエドワード本人とーーー全てにおいて気が進まない相手だった。
特にエドワードが学園に入学してからは、環境も変わり心を入れ替えたとして、何度か食事を共にする機会があった。だがその度に、ランデルト侯爵は落胆していた。エドワードの、自己主張のなさに対してだ。
ランデルト侯爵は、宰相の職を賜る自分にとって、交渉力は必須と考え生きてきた。貴族社会は、私利私欲が渦巻く世界だ。自らの意見を持たず、人に合わせて生きていては、あっという間に飲み込まれる。
その点において、エドワードの、波風を立てないよう無難な回答を選び、人の顔色を伺う様は、最悪と言えた。
もちろん、キャロラインの幸せが最重要だ。最終的には、娘が選んだ相手なら、こちらも歩み寄り、いい関係を築けていけると思う。
(それが、私が思う「最悪」でさえなければ、だが)
昔から、キャロラインはニコラスに懐いている。これまでは従者という立場だったが、ニコラスは才能や知識、また正確においても次期侯爵として申し分ない。二人なら必ずいい関係になるだろうと・・そう思っているのだが。
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「おそらく俺と一緒に出席したが最後、世間からは婚約者として認知されることになるでしょうね」
涼しい顔でニコラスは言う。
ニコラスが将来、侯爵家の従者のままでいるか、はたまた次期侯爵となるか。大きな出世をかけた人生の岐路だというのにーーーまるで他人事のように、キャロラインに任せてくれている。
キャロラインは、ニコラスに申し訳ないと思うと同時に、悔いのない行動をしようと決意するのだった。
「そうよね。やはり今週のどこかで一度お話する機会をいただかないと・・舞踏会の準備に間に合わなくなってしまうわ」
・・・と、その時。
学園に登校し、靴箱にたどり着いたキャロラインの足が止まる。
その目線の先、キャロラインの靴箱の中に、一通の手紙が入っていた。
すかさずニコラスがその封筒を手に取り、ざっと確認した後、目線で許可を得て開封する。
果たしてその中には、一枚の便箋が入っていた。
差出人は、レジーナ・グリフィス。
内容は、個人的な茶会への招待だった。
靴箱のある貴族学校。迷いましたが、やはり手紙は靴箱というのが、ロマンかなと。(違う?