第1話
小説初投稿です。
温かく見守っていただければ幸いです!
「君との婚約を破棄したい」
その言葉を聞いてーーー
愚かな私は、ようやく気付いた。
***
肌寒い季節のその日、キャロラインは学園の廊下を歩いていた。
斜め後ろにはいつも通り、護衛のニコラスが付き添っている。
護衛と言っても、学園内においては、ただの「年上の同級生」ということになっている。
本来は学園の警備で十分とされている中、わざわざ護衛とともに入学したのは、当のキャロラインに理由がある。
キャロライン・ランデルトは、ヨハネス王国において重要な地位を持つ、ランデルト侯爵家の長女である。
キャロラインと妹のシンディは、現宰相であるランデルト侯爵から、まさに「目に入れても痛くない」ほど愛され、大切にされている。5年前、キャロラインの母が病気で失くなってからは、さらに溺愛に拍車がかかっていた。
キャロラインには男兄弟がおらず、ランデルト侯爵の兄弟、従兄弟もそれぞれすでに領地を持っており、侯爵家を継ぐ予定はない。つまりーーキャロラインの夫となる人物が、広大なランデルト領を継承することになる。相手の爵位によっては、大きな出世となることも考えられる。
キャロラインの現婚約者に不満のあるランデルト侯爵は、学園内で現婚約者との距離が近づき過ぎないよう、また他の男性の毒牙から守るよう、ランデルト家従者であるニコラス・ウォルターを護衛として付けた。
だがーーー
「ニコラス、あなたお父さまからの手紙を見た?」
「ええ、まあ」
キャロラインの問いに対し、ニコラスが曖昧な返事を返す。
キャロラインは足を止め、ニコラスの方を向いた。
ニコラスはキャロラインよりも頭ふたつ分身長が高いため、視線を会わせるには、かなり見上げる必要がある。
「おかしいでしょう。婚約者のいる女性が、別の男性にエスコートされるなんて」
「…俺では不満ですか」
「そういうことではないの」
キャロラインはため息をついた。
「お父さまは、本気であなたを婚約者にすげ替えるつもりね」
「………」
ニコラスは何も答えず、目線を外す。