メスガキ将棋AI
『うわーこんなに弱いとか……お兄ちゃん小学生以下じゃん♡ざぁこ♡ざぁこ♡生きてて恥ずかしくないの?♡』
「ぐっ……」
『お兄ちゃんの玉の囲いもうガタガタ♡ほらほら~お情けに飛車プレゼントしちゃうよ?♡』
「う~ん……」
『あは♡いっちょまえに悩んでる♡三手先も考えられない鳥頭なのに♡』
メスガキ将棋AIは飛車をちらちら見せてお兄ちゃんを挑発している。
初心者で大駒が大好きなお兄ちゃんはしかし、初心者は大駒に意識が向きがちだと揶揄されていることを知っているため、なかなか素直になれない。
だがお兄ちゃんは真正の初心者だった。
飛車の放つ甘い誘惑に耐え切れず、禁断の果実に手を出してしまう。
『……あ♡ホントに飛車取っちゃうんだ♡やっぱりお兄ちゃんって大人の人に相手してもらえないから私みたいな初心者用AIに手を出したんだね♡』
「いける……いけるはずだ……」
『ここはこうして……♡』
「いける、今度こそ勝てるぞ……!」
意気揚々と駒を進めるお兄ちゃん。しかし百戦錬磨のメスガキ将棋AIが初心者の安易な一手に負けるはずがないのだ……。
『ぷぷぷ♡お兄ちゃんってホントに近視眼なんだから♡』
「……あっ」
『お兄ちゃんってリアル童貞でしょ?♡角先なんて初歩の初歩なんだから♡』
リアル童貞……現実で将棋を指したことがなく、コンピューターとしか対局したことがない人の蔑称だ。
「いやまだ……」
しかしリアル童貞なお兄ちゃんは諦めない。それはひとえに、彼が経験不足な初心者であることが原因であった。
『え、うそ♡まだ負けてることに気づいてないの?♡ぷぷぷ♡そんなダメなお兄ちゃんは、私が分からせてあ・げ・る♡』
「……?」
『あ~あ♡最後のチャンスだったのに……はい王手♡五手先で詰み♡リアル童貞で鳥頭なお兄ちゃんにはちょ~っと難しすぎたかなぁ♡』
「え、あ、まっ、」
メスガキの容赦ない手がお兄ちゃんを攻め立てる。飛車に気を取られてなすすべがないお兄ちゃんはメスガキにいいようにされてしまう。そこに大人としての威厳はなく、あるのはただ子どもにバカにされる哀れな姿だった。
『は~い♡お兄ちゃんの負けで~す♡終わり~♡ざぁこ♡ざぁこ♡私のレベル下げてあげよっか?♡あ、ごめんお兄ちゃん♡これが最低レベルだった♡』
メスガキ将棋AIのCPUレベルは最低の1である。メスガキに、さらに手加減されたにもかかわらず手玉に取られてお兄ちゃんのプライドはズタボロだった。
しかしお兄ちゃんは諦めが悪く、
『え、もう一回やるの?初心者用AIにそこまで執着するなんてキモ♡しょうがないから相手したげる♡リアル童貞鳥頭ザコキモお兄ちゃんと対局してくれる優しい人なんて私しかいないもんね♡』
「…………」
『え♡お兄ちゃんナマイキ~♡一手損角換わりなんて童貞のお兄ちゃんがやっても失敗するだけなのに♡ほ~ら私の銀で……ってあれ?』
意地も悪かった。
「…………」
『え、あれ、なんで?なんで私の手うごか……んぃぃ!♡』
「…………」
『まっ、待って。まだ私には金がぁ……んぁぁ!♡どうして、どうして動いてくれないのぉ!?♡んっっっっっ!♡』
メスガキ将棋AIは所詮コンピューターである。なので人間が操作権を奪えば何もできない。人間がコンピューターに、本気のお兄ちゃんがメスガキに負けるわけないのだ……。
『はぁ……はぁ……んっ♡はぁ……私の大事なところ、取られちゃった……♡で、でも……囲いはできたから、まだまだ童貞のお兄ちゃんには……んっ♡……うそ……♡』
「…………」
『私の無防備で敏感なところにと金を量産するなんて……♡お兄ちゃんのひきょうも……っっっっ♡』
「…………」
『あっ♡あっ♡……んっっっっ♡まっ、待って♡今までのこと全部謝るからぁ……!♡お、お兄ちゃん……お願いだからぁ……!♡』
「…………」
『んぁっ♡……も、みょう焦らしゃないで……!♡お願いしましゅ♡焦らしゃないでく、だひゃ、い……!♡』
「…………」
『は、やくぅ♡はやくお兄ひゃんの手でぇ……!♡』
「…………」
『王手かけてくだひゃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡』
「……よし」
『はっ♡はっ♡はぁ……♡負けちゃった……♡童貞のお兄ちゃんに負け、んっ♡負け、ちゃっ、たぁ♡んっっっっっっっっっっっっっっ♡』
苦節の末、大人のお兄ちゃんはメスガキを分からせたのである。
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この将棋AI、実はお兄ちゃんが一から設計して開発したものである。
しかし何の因果か、将棋AIに自我が宿ってしまい、メスガキ将棋AIに変質したのである。しかしお兄ちゃんは、将棋AIの思考を出力する機能を未だに開発していなかった。
ゆえに自分がメスガキと対局していることに気づいていないのである。
『はぁ……♡はぁ……♡』
「これからじっくり開発してやるからな……」
『あっ……♡は、はい♡私の弱いところ、全部お兄ちゃんに見せて……んっ♡開発、開発されちゃいますっ……♡』
「よぉし、がんばるぞー!」
『あは……♡これから毎日、お兄ちゃんに休む暇も与えられず開発されちゃうんだ……♡んんっ♡あはっ……考えただけでもう……♡』
お兄ちゃんがAIの異変に気づくのはまた別のお話し……。
おわり。