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光嶺実月は信じない

 結局光嶺にどう話しかけたらいいのかはよく分からなかったので、その日の放課後も俺は近衛を遠目から観察することにした。本当はもっと聞き込みもしたかったが、これ以上不審者扱いされても嫌なのでやめておいた。


 授業から解放された生徒たちが慌ただしく教室を出入りするのを横目に、俺は一年C組の教室を遠くから眺めていた。昨日と同じように光嶺と近衛たちはどうでもようさそうなことを楽し気にしゃべっている。


 すると光嶺は近衛たちに何か言って先に教室から出ていってしまった。光嶺は何か部活に入っているのだろうか。残った光嶺グループの面々はそれぞれ何か予定があったのか、それとも光嶺がいないとそこまで仲がいい訳ではないのか、それぞれ散らばっていく。


 光嶺グループから別れた近衛は意外なことにグループの一員ではなく、別の女子に声をかけている。

 俺が言うことでもないが、どちらかというと陰キャそうな地味な印象のボブカットの子だ。トップカーストの一員である近衛と地味そうな彼女では釣り合わないように思えたが、意外にも二人で話す姿を見ていると、俺はしっくりきた。


 地味な女子がうちとけて話しているというのもあるが、どちらかというと近衛の印象が今までと違って見えた。

 光嶺たちといるときはばりばりの陽キャギャルにすら見える近衛だったが、地味子(勝手に失礼なあだ名をつけてしまって申し訳ないが)と話しているときは不思議と、彼女と似たような落ち着いたオーラを纏っていた。陰キャとまでは言わないが、穏やかな雰囲気で、こころなしか話す口調もゆったりになっている。

 大げさに言えば先ほどまでとはまるで別人の雰囲気だった。


 俺はそれを見て戦慄した。別に陽キャと陰キャが仲良く出来ないとまで言うつもりはないが、大体の場合、それはお互いの立場を維持したまま仲良くしているだけで、短時間でこうも簡単に切り替えが出来る人を俺は見たことがない。


 陰キャと陽キャ、そしてスクールカーストというのは一度決まってしまえばそうそう変わることが出来ない厳然とした概念であると俺は勝手に思っていた。その境界すらも近衛にとっては簡単に跳び越えてしまえるものなのか。それとも近衛本人に何もないから何にでもなれるというのだろうか。


 俺がそんなことを考えていると近衛は地味子と一緒に教室を出ていった。やはり近衛という人物は底が知れない。そして地味子にもどういう経緯で近衛と仲良くなったか聞いてみたいと思うのだった。




 翌日も俺は放課後になると一年生の教室がある廊下に降りていった。今日も光嶺グループの面々は教室の中心で何かを楽しそうにしゃべっていた。近衛の表情を観察してみると、昨日地味子と話していた時との違いは見えない。何なら、俺と弁当を食べていた時も他愛ない話をしていたときは同じような表情だった。ただ、雰囲気だけはその場にしっかりと合わせている。


 つまり、どの瞬間も彼女にとっては平等に楽しい時間で平等に楽しくない時間ということなのだろう。それでも身に纏う雰囲気ががらりと変わっているのだから理解出来ない。


 すると光嶺が何かを言ってグループの輪を抜けようとしているのに気づく。近衛が何か言って止めようとしたが、光嶺は結局教室を出てしまう。グループの中心の割に付き合い悪いな、などと思っていると不意に俺は肩を叩かれた。


「うわっ」


 振り返るとそこには怖い顔をした光嶺が立っていた。セミロングの髪の毛は先の方を少し巻いていて、色も怒られない程度に明るく染めている。元々顔立ちはきれいだったが、おしゃれにも手を抜いていないのが伝わってくる。


 その表情には先ほどまで楽しくしゃべっていたときの面影はない。普段笑顔の人は真顔になったときのギャップがすごい。


「あなたが最近八重のストーカーをしている方ですか」


 光嶺は聞こえてきた声よりも低い声で言った。

 まあ、これだけ凝視していたらばれるか。とはいえ、どの道光嶺から話を聞くのは避けて通れないことである。それが今になったというだけだ、と俺は覚悟を決める。


「そうだ」

「自分ではばれていないと思ってるのかもしれませんが、怪しいのでやめてもらえませんか」


 光嶺は棘のある声で言った。言葉こそ丁寧語を使っているが、内心の俺への敵意は全く隠されていない。

 ついでに学年で負けていてもスクールカーストでは自分の方が勝っていると思っているのか、俺を見下すような気持ちすら感じる。俺の方も相手が一年生とはいえ、光嶺のようなバリバリのギャルが相手だとどうしても気後れしてしまう。そして今のところ俺が悪いのは確かなので、仕方なく譲歩する。


「分かった、ストーカーはやめるから最後に近衛についていくつか話を聞かせてくれないか」

「はあ?」


 光嶺にとって予期せぬ答えだったのか、少し困惑される。しかし今を逃せば光嶺から話を聞くチャンスはない。こいつと話すのはこれが最後だからもう少し頑張れ、と自分に言い聞かせて力押しで行くことにする。


「俺は近衛のことが好きで、彼女のことは何でも知りたい。でも、知りたいことが聞ければわざわざストーカーなんてしない」


 光嶺は露骨に気持ち悪い、という顔をした。心がえぐりとられるような痛みが走るが、実際ストーカーをしているのだからそれに関しては何も言えない。

 光嶺は俺に対する気持ち悪さとストーカー行為を平和的に解決出来ることをしばらく天秤にかけて考えていたが、やがて口を開く。


「……仕方ない、じゃあ今一つだけ質問に答えます。その代わり二度とストーカー行為はしないでください。以後も繰り返されるようであればその時は相応の対応をしますので」


 相応の対応って何だよと思うが聞きたくない気持ちが勝ってしまった。朝登校すると机がなくなっているとかそういう系だろうか。ちなみにうちの学校は進学校なのであまりいじめのような話は聞かない。


 しかし一つだけとなると難しい。一番聞きたいのは光嶺から見て近衛が真の意味での友人と思えるかどうかということだが、そんなことを初対面の先輩に聞かれても正直に答えるとは思えないし、光嶺の受け取り方によっては二人の仲を裂いてしまうことになる。


「近衛は何か悩み事とかあるか?」

「それだけでいいんですか?」


 俺の問いに光嶺は首をかしげる。好きな男のタイプでも聞くと思ったのだろうか。とはいえ、訊いても怪しまれないことで近衛の人格に迫れるような質問と言えばこのぐらいだろう。


「ああ。彼女のいいところとかは見ていれば大体分かるからな。友達にしか分からないようなことを聞きたい」


 俺の問いに光嶺は露骨に顔をしかめた。


「見ていればっていうのがまずきもいんですけど……それに私たちにしか知らないいいところだってあると思いますが……いいでしょう、それについて答えるので今後はストーカーまがいのことはやめてくださいね」

「分かった」


 分かったとは言ったものの、他のプランはまるでない。強いて言えば、地味子に話を聞くぐらいか。

 俺が承諾すると光嶺はこちらをじっと見つめる。もしかしたら俺の誠意を計っているのかもしれない。やがて俺を信じることにしたのか、光嶺は髪の毛の毛先をいじりながら話を始めた。


「少なくとも、本人が悩んでいるって言うことはないですよ。でも、悩みがないことはないんじゃないですかね。何か、たまに私たちとは違うんじゃないかみたいに感じることはある。あと、最近何か難しい本を読んでるって噂ですよ。私たちと一緒にいるときはそうでもないですけど……こんなもんでいいですか?」


 光嶺は面倒くさそうに尋ねる。


「ありがとう、助かった」


 正直もう少し具体的な情報が欲しかった。これでは近衛本人から聞いたことの裏付けが得られたに過ぎない。とはいえ、よく分からないストーカーに話す内容としてはこんなものだろう。

 それに光嶺はずっとこちらを刺すように睨んでおり、これ以上の会話を長引かせるのは難しそうだった。


「あ、それからこれは善意の忠告ですが。八重は結構他人と線を引いて付き合うタイプなので、万一、いや億が一付き合うような関係になっても彼女のラインは不用意に越えないでくださいね」

「わ、分かった」


 やっぱり光嶺でもそう感じることがあるのか。ただ、彼女の言い方を聞くに別にそれを不愉快とか隔意があるとかそういうふうには思っていないのだろう。


「まあ、しばらくは誰とも付き合うつもりはないような気がするのでその心配はないと思いますが」


 そう言って光嶺は去っていった。誰とも付き合うつもりがない、か。近衛ほどの美少女はモテて大変だろうからな。周囲にもそういうアピールをしておかないと大変なのだろう。

 結局、一番仲がいいとされる光嶺に尋ねても近衛の本質に迫ることは出来なかった。

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