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取材Ⅰ

「今日はわざわざ時間をとってもらってすまなかった。俺はしがないネットニュースの記者をしている山口という者だ」

「いえ、こちらこそ」


 そう言って軽く頭を下げた少年天塚晴は見た感じどこにでもいる普通の高校生で、とても犯罪者のようには見えなかった。ただ、どちらかというとあまり他人とコミュニケーションをとる方ではないのか、俺と向き合いつつも若干どうしていいか分からない様子だった。俺と目線が合わないように少し視線を俯けて、目の前に置かれた俺の名刺をじっと眺めている。とはいえそれも現代っ子であることを考えると不自然というほどでもない。


 俺たちは今、客が少ない昔ながらの喫茶店で向かい合って座っている。外はまだ残暑が厳しいが、店内には過剰なほどの冷房がかかっていてかえって肌寒いぐらいだった。


「とりあえず何か好きな物を頼んでくれ」


 俺はメニューを目の前に広げる。すると彼はすぐに一番安いコーヒーを指さしたので俺は苦笑して店員を呼ぶと二人分の飲み物を頼む。彼も俺がコーヒー代を払うことを知っているだろうに、その上で一番安いコーヒーを選ぶところを見ると、そういう性格なのだろう。


「さて、何から聞こうかな」


 目の前の少年・天塚晴は県内随一の進学校と言われる藤嶺高校の二年生である。平凡というよりは中の上ぐらいの人生を歩んでいると言えるだろう。


 なぜ俺がわざわざこの見たところはごく普通な少年の話を聞きに来たのかというと、彼は一か月ほど前に近所で小さな事件を起こしたからだ。

 彼は同じ学校の一年生近衛八重とともに、同じく一年生の北嶋姫乃を一人暮らししていた彼女の家に監禁するという事件を起こした。どちらかというと、北嶋姫乃を拘束して二人で立てこもったというのが正しいのだろうか。


 それだけでも少し奇怪だが、さらに奇怪なのは彼も近衛八重も被害者に特に恨みがあった訳でも、家族

に身代金を要求しようとしていた訳でもなく、二人で北嶋姫乃の家に滞在していただけだったということだ。


 そして誘拐した翌日には娘と連絡がつかなくなったことを心配した北嶋姫乃の両親が駆けつけて通報し、特に抵抗することもなく逮捕されている。その際、ガムテープで手足を縛られて口を塞がれた北嶋姫乃も押し入れの中から発見された。


 一応誘拐監禁ではあったが期間が短かった上、被害者に外傷などもなかったために小さな事件として処理され、二人は保護観察処分となった。

 二人は「いたずらが行き過ぎてしまった」という供述をしており、北嶋姫乃は二人の動機については何も語らなかったため、多少不自然ではあったが他に何かがあった訳でもなくそれで処理されたらしい。


 だが、俺は何となくこの事件は何か裏があるのではないかと思っていた。いくら何でもいたずらで同級生を監禁するなどということがあるだろうか。あるとしたら相当悪質ないじめであるが、近衛八重と北嶋姫乃の関係はむしろ良好だったという。だとすれば表には出せない事情があるはず、というのが俺の勘だった。


 例えば本当は北嶋姫乃は有名政治家の隠し子で、彼女を誘拐して金をたかろうとした、とか。ネタ切れだった俺は近所でおもしろそうな事件があったと聞いて取材に来たという訳である。

 とはいえ最近特にいい記事が書けている訳でもない俺は、例え何もおもしろくない真相であったとしても彼の話をおもしろくおかしく脚色して記事にしてやろうという気持ちはあったが。


「まず、君と近衛八重という少女はどういう繋がりがあったんだ?」


 俺の問いに彼の表情が少しだけ変わった。何と言うか、今まではただ初対面の相手にどう対応していいかよく分からずに困惑しているだけだったのが、何かを伝えようという意志に変わったようである。

彼の変化に、俺も身を乗り出しメモ帳とボールペンを取り出して熱心さをアピールする。


「俺と八重の関係は一口では言い表せません。なのでそれを安易に恋人とか未成年淫行みたいな言葉で記事にするのはやめて欲しいです」


 一転して彼の口調には強い意志のようなものが宿っていた。俺はその様子に内心ほっとする。やはりこの件には何かがあるらしい。


 ちなみに天塚晴と近衛八重は恋人だったらしいが、俺が取材した限りでは特に未成年淫行という話は聞かなかった。二人ともわざわざ余計なことを話して罪を重くするようなことはしたくなかったのだろう。早速新しい情報が出てきたことに俺は内心ほくそ笑む。


「大丈夫だ。そんな記事を書くだけなら俺がわざわざ君に取材する必要はないからね。ただ、正確に記事にするにはきちんと話を聞かせてもらう必要がある。それは分かるね?」


 俺の問いに彼はこくりと頷く。安心しろ、仮にただの恋人とか未成年淫行とかいうつまらない事実だとしても、何かおもしろい記事にしたててやる。


「分かりました。でしたら俺と八重が出会った時のことからお話しします。俺たちの関係をきちんと把握していただくのであればそこから話さないといけないでしょうから」


 そう言って、彼は話を始めた。

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