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異世界無双は、ままならない!  作者: 数奇屋柚紀
第一章 開幕と冒険の辺境編
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1-11 不穏な顔合わせ



 集合場所に行くとすでに商人たちと他の冒険者パーティーの姿があった。

 隊商のリーダーは三十歳前半ほどのメルティナという女性。

 リーダーをやっているためか、女性であるにもかかわらず豪胆で姉御肌な人物だ。

 護衛の依頼を受けたことを伝えると大変に歓迎された。

 

「もうすぐ出発の日なのになかなか人が集まらなくて困っていたから、正直言って大助かりだね。護衛の経験はあるかい?」

「オレはまだ新人なんですけど、彼女がCランク冒険者なんで大丈夫かと」

「ただの新人がベテランとパーティーを組めるわけないじゃないか。あんたにも期待してるよ、魔術師さん」


 そう言って朗らかに笑った。


 オレが盗賊退治の事情を話すと、メルティナさんは了承してくれた。

 囮なんて気持ちのいいものではないはずなのだが、そんなことはおくびにも出さない。

 まあ、囮というのは便宜上のもので、実際はただの護衛だ。

 盗賊が現れた場合、撃退後に護衛を抜ける許可ももらった。

 報酬は抜けた日までの分を払ってくれるそうだ。


 護衛に参加する冒険者はオレたちの他に一パーティー、プラス一名。

 少々ガラの悪い四名のEランクパーティー。

 そして、元騎士のDランク冒険者。

 計七名だ。


「チッ、ガキの癖に俺たちより上のランクだと?」

「本当に実力があるか怪しいもんだぜ」


 Eランクパーティーは突如参加を表明したオレたち見て、露骨に舌打ちをしたりして

 忌々しそうに睨み付けている。

 しかし、そんな視線を浴びてもエアリスはどこ吹く風。

 気に留める様子もない。

 やっかみの視線には慣れているのだろう。


 そして一方、騎士崩れのDランク冒険者。

 年齢はおそらく二十代前半から後半といったところか。

 冒険者にしては華美な格好で、腰には装飾が施された剣をさしている。


 メルティナさんとの話し合いを終えると、彼はゆったりとした足取りで近寄ってきた。


「赤いバンダナをしたCランク冒険者……風の噂で聞いたことがある、若い優秀な冒険者の少女がいると。君がその噂の冒険者かな?」


 エアリスの方を見ると、気まずげにバンダナを弄っていた。

 派手な装備による売名行為は実戦で邪魔になると言っていた本人が、意図せずバンダナで売名行為をすることになったからだろう。

 それでも外そうとしないところが筋金入りだ。

 女の子のオシャレとして譲れない最後の防衛ラインでも担っているのだろうか。


「初めまして。僕はDランク冒険者のマルメドだ。君ほどじゃないにしろ、ここらではそれなりに名が通っている方さ。それにしてもこんなところで君に会えるとは幸運だ。君もこの隊商の護衛依頼を受けるのかな?」 

「ええ、まあ……」


 やけになれなれしい態度にエアリスはやや引き気味だ。

 さりげなく肩に手を置こうとするマルメドからやんわりと距離をとる。

 エアリスの行動にマルメドの表情が僅かに揺らいだが、すぐさま笑みを浮かべ直す。


「そうか。それは心強い。むしろ過剰なぐらいの戦力だ。これからこの隊商に襲い掛かって来る魔物や盗賊が哀れでならないよ」


 と、そこでオレの方をちらりと眺める。

 オレにも何か言ってくると思ったのだが、すぐさまその視線は逸らされた。

 無視されているかのような態度はあまり気分のいいものではない。


「……ああ、そうだ! これも何かの縁に違いない。どうだい? ぜひ、僕と二人でパーティーを組まないかい? ランクも近いし、ちょうどいいと思うんだけど?」


 名案を思いついたとばかりに手を鳴らすマルメド。

 オレの事が人数に数えられていないのはわざとだろうか。


「遠慮させてもらうわ。パーティーメンバーならもういるから」


 エアリスは考えるそぶりもなく、マルメドの提案を断った。

 袖にされるとは予想もしていなかったのか、マルメドの顔がはっきりと歪む。


「パーティーメンバー? まさかとは思うけど、隣にいる貧弱そうなこいつのことかい? とても君にふさわしいほどの実力を持っているようには見えないが……」


 マルメドは胡散くさげにようやくオレのほうに向く。

 明らかに見くびっている様子だ。

 やれやれ、そういう奴はたいてい後で痛い目を見るんだ、せいぜい気を付けろよ。

 特に冒険者ギルドを根城にするゴブリンには。

 ゴブリンはゴブリンでもレベルがカンストしている超越種だ。


「ちなみにこいつの冒険者ランクは?」


 装備の良さから測りかねているのか、マルメドは探るように尋ねてきた。


「昨日登録してきたばかりだからまだEランクだ」

「昨日登録してきたばかり!? Eランク!? なんだそれ! 全然君のランクとつりあってないじゃないか!? すぐにパーティーを組むのをやめるべきだ! ランクが二つも下の奴と組むなんて自殺行為も同然、足手まといを抱えることになるんだぞ!」


 やや大げさともいえる口ぶりでマルメドはエアリスに忠告する。

 親切心と言うにはオレを見る彼の視線に侮蔑の感情が込められ過ぎていた。

 あとは嘲笑と愉悦だろうか。

 あげつらう弱みがあって都合がいい。

 マルメドの瞳の奥底はそう語っている気がした。

 顔はそこそこ良いのだが、性根がねじ曲がっているな、こいつ。


「誰と組もうが、あたしの勝手でしょ。あたしは自分の見る目を信じてる」

「ふう、同年代の者と組みたいという気持ちはわかるけど、冒険者はそんな生ぬるい職業じゃない。それぐらいのこと、君なら言われるまでもなくわかっているだろう? パーティーメンバーは命を預ける相手なんだから能力で決めないと」


 マルメドはエアリスの不機嫌な様子を気に留めることなく、諫めるように言う。

 続いて、その矛先をオレのほうに向けた。


「お前も身の程を知るべきだ。その恰好を見るに魔術師のようだが……どうせ少しかじった程度だろう? 魔術師は数が多くないから貴重がられるのはわかるが、必ず戦力になるわけじゃない。大方半ば強引に彼女のパーティーメンバーにしてもらったんだろう? 高ランク冒険者に寄生して申し訳ないという気持ちはないのかい?」


 言い聞かせるような口調だが、態度ははっきりとオレを見下していた。

 その物言いにさすがの温厚で有名なオレもカチンと来る。

 よく知りもしない初対面の相手にそこまで悪しざまに言われる覚えはない。


「勝手なことを言うなよ。お前がオレの何を知ってるんだ」

「なんだと?」


 確かにオレは少し魔法をかじった程度の駆け出し冒険者に過ぎない。

 この装備だってエアリスの金で揃えたものだ。

 冒険者はおろかこの世界についての知識にだって乏しい。

 しかも自分の力を無暗に過信して絡まれた相手に順当に叩きのめされたことさえある。


 だけど、だけど――!


「………」


 ……あれ、ダメダメじゃね?


「あたしはきちんと実力を加味してパーティーメンバーを選別したわ。こう見えてユーマは確かな実力を備えてる。ギルド長じきじきに盗賊討伐の依頼を任されていて、依頼達成の暁にはDランクに昇格することも決まってるの。何の問題もないでしょ」


 見かねたエアリスがオレに変わってそうマルメドに反論する。

 そう言えば、そんな話もあったか。

 押し付けられたことばかりに意識が行ってランク昇格の話を忘れていた。


「なっ、Dランクだと!? 昨日登録したばかりで……。それに盗賊討伐?」


 顔色を変えたマルメドだったが、何かを考えるそぶりを見せる。

 やがて納得のいく答えが出たのか、余裕を取り戻した様子で口を開く。


「は、はは! なるほど、いろいろと見えてきた。それで君らは盗賊団の手がかりをつかもうとこの護衛依頼に同行したわけか。でもその依頼を君が手伝っている時点で寄生しているも同然だ。こいつの功績にはならないよ。……いや、そもそもギルド長は君が一緒に受けることを前提にしたとか? ああ、きっとそうだ。たかが盗賊団程度なんてCランクの君一人がいれば簡単に潰せると思うしね」


 その言葉にエアリスは不機嫌さを強め、言い返そうとする。

 だが、マルメドはそれを手で制し、さらに続けた。


「僕はこんな奴を過去にも何人も見てきた。たいていはろくでなしだったよ。実際はたいしたことないのに自分の実力を過信する。戦いはおろか装備や金の工面にだって他人に頼る。どうせこいつもそのダメ人間の一人だ」


 ぐぬう、なんか微妙に真実の一端をついているから反論しにくい。

 なんだこいつ、心でも読みやがったのか。

 

「……まあ、この話はまた後でしようじゃないか。僕は君のためを思って忠告しているんだ。それを忘れないでいてくれ。こいつは君にふさわしくない。僕のような者こそが君の隣に立つべきなんだ。それをこの護衛依頼で証明してみせるよ」


 マルメドはそう言うなり、話を打ち切った。

 去り際にエアリスに馬鹿丁寧なお辞儀、オレには勝ち誇ったような視線をぶつけて。



◇◇◇



 その後、ほかのメンバーを交えて護衛の陣形について相談をした。

 護衛する馬車は全部で五台あるそうだ。


 Eランクパーティーの四人の名前はそれぞれセルビオ、ゼオン、ケスタ、ヘイゼル。

 パーティー名はない。

 

 命名できるのはCランク以上のパーティーと冒険者間で暗黙の了解があるのだ。

 もちろんつけても罰則などないが、周りに「あいつら低ランクのくせにパーティー名なんかつけてやがるぜ!」と笑われることになる。


 Eランクの冒険者など本来は目を引く存在ではないが、魔術師であるというゼオンだけは気になった。

 なにせオレのほかに初めて見る魔術師だ。

 どんな魔法を使うのか興味がある。

 自己申告によると炎魔法の使い手だそうだ。


 大した相談事はなく、適当に馬車に戦力を割り振るだけだ。

 初めて顔を合わせるメンツなのだから勝手知ったパーティーごとに動くのが一番だ。

 それで話し合いが終わればよかったのだが、Eランクパーティーのリーダーを務めるセルビオがこんなことを言いだした。


「いいか、依頼中の指揮は俺たちがとる。命令には従えよ」


 あまりに一方的な要求にマルメドが異を唱えた。


「待ってくれ。どうして僕が君らの指揮下に入らなきゃならないんだ」

「うるせえ、騎士崩れ! ソロのてめえに指揮なんかとれるか! てめえらもそうだ。途中で依頼を外れるかもしれないんだってな? そんな中途半端な気持ちの奴らの言う事なんか聞く気にならねえよ。いいから黙って俺たちに従ってな!」


 ランクを立てるならエアリスが指揮を執るべきだろう。

 だが、一方で途中で抜けるという勝手をする可能性がある以上、口出しはしづらかった。


「Cランクだかなんだか知らんが所詮はガキ。大人としてお前らのようなガキを引っ張ってやる義務があんだよ。なあ、お前もそう思うだろ?」


 セルビオがマルメドに賛同を迫る。

 本来ならDランクであるマルメドのほうに分があるが、マルメドが一人なのに対し、セルビオたちは複数人。

 半人前のEランクでも四人集まれば二人前だ。

 そんな力関係を理解しているのか、マルメドの歯切れがすこぶる悪い。 


「い、いや、それは……。まあ、エアリスならともかく、もう一人の奴は戦力的にマイナスだし、確かに不安かもしれない。それだったらあんた方の指揮の方が良いような……悪いような……気がしなくもない、かな」

「……だ、そうだ。パーティーによる多数決の結果、俺たちが指揮を務めた方が安心できるという意見が過半数を超えた。当然お前らも文句はないよな?」

「悪いような気がしなくもないって消極的な否定では」


 そんなオレの突っ込みは当然のごとく無視された。

 彼らが求めているのはこの中で最も高位の冒険者であるエアリスの賛同だけだ。

 エアリスはしばし黙考し、メリットとデメリットを天秤にかけていたようだが、穏便に済ませる方がいいと判断したのか「わかったわ」と返す。


「よしよし。まあ、そういうことだ。馬車の護衛の順序は俺たちのパーティーが先頭、次が騎士崩れ、最後尾がお前らだ。これで決定だな」


 それだけ決めるとEランクパーティーはさっさと行ってしまった。

 露骨に顔に優越感を浮かべ、エアリスを言い負かした喜びを隠そうともしない。


「Cランクといっても所詮はただのガキだな。ちょっと脅せばすぐにこっちの言いなりだ。まったくちょろいもんだぜ」

「そう言うなって。素直なのはいいことじゃねえか。年上の先輩を敬う気持ちを忘れていなくてうれしい限りだぜ。もっとも逆らうようなら少しばかり思い知らせてやろうと思っていたがな。ははははは……!」

「生意気そうだが顔はなかなかだし、この依頼が終わったら俺たちのパーティーに迎え入れてやってもいいかもな!」

「おう、そりゃあいい考えだ。全員でかわいがってやろうぜ!」


 下卑た笑いを響かせながら去っていくEランクパーティーの面々。

 冒険者と荒くれは紙一重といっても態度が酷すぎる。

 しかし、エアリスは特に怒るでもなく肩をすくめた。


「じゃあ、あたしたちも行きましょう。出発に向けていろいろ準備しないと」

「……よかったのか? あいつらの要求なんか受け入れて」


 立ち上がって歩き出したエアリスの背中を慌てて追いかけながら問う。


「別にかまわないわ。指揮といってもどうせ偉そうにふんぞり返るだけで大したことはできないだろうし、あたしたちの目的はあくまで盗賊の討伐よ。それ以外はなんだっていい。頭には来るけど、好きに言わせとけばいいわ」

「ならいいんだけど」

「でも」


 と、そこでエアリスに追いつき、肩越しに彼女の笑みを見た。

 怒りを塗りつぶそうとして失敗したかのような、笑みを。


「もしも邪魔になる……いえ、なるとあたしが判断したら遠慮なくぶちのめすけど」


 ……これで何も起きないわけがない。




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