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異世界無双は、ままならない!  作者: 数奇屋柚紀
第一章 開幕と冒険の辺境編
12/82

1-10 いろんな依頼

章ごとに題をつけるつもりです。

二十話ほどでまとめるつもりなので折り返し地点です。



「護衛の依頼……護衛の依頼……っと、結構あるな」


 護衛の依頼を探すために冒険者ギルドに顔を出した。

 見たところギルドに設置されているボードには護衛の依頼書が十二、三枚はある。

 都合のいい護衛依頼が張ってあるかどうか不安だったが、これは嬉しい誤算だ。

 より取り見取り、選びたい放題。


「そりゃあね……これだけ被害がでていたら誰だって用心ぐらいするわよ。盗賊団に襲われた時の被害を考えれば、冒険者に払う報酬なんて微々たるものなんだし」


 商人が無防備に盗賊に遭えば荷物はもちろん馬や馬車も根こそぎ奪われる。

 それに加え、襲撃の際に命を落とす危険や奴隷として売られる危険まであるのだ。

 女性の場合はさらに悲惨を極めることだろう。


 戦力は十分であるという保証を貰ったものの百パーセント確実ではない。

 いざという時はエアリスだけでも絶対に守らなければ。

 オレが決意を固めていると、エアリスがこちらに振り返る。


「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫よ? ユーマはあたしが守るから」

「男女の役割が逆では」

「前衛と後衛なんだから仕方がないでしょ」


 適材適所と言うのはわかる。

 それでも女の子の影に隠れるのは後ろめたい。


「月に五、六回の被害か……。多いんだよな?」

「確かに多いほうではあるけど、すごく多いっていうわけじゃないわ。商会が業を煮やして人海戦術の山狩りの依頼を出さない程度には抑えられている。意図して頻度を維持しているっていうなら、なかなか頭が回るわね」

「本当に二人で大丈夫なのか? 人海戦術とまではいかなくても何人かメンバーの募集をかけておいたほうがいいんじゃないか? 相手は大人数なんだろ」


 たとえ戦闘技術を持たなくとも数が集まれば脅威になる。

 

「別に全員を相手にするわけじゃないんだから問題ないわ。アジトの留守を守らせる人員を考えると、一度に戦うのは総数の半分かそこら。せいぜい十数人ね」

「それだけの人数がいればリンチが可能なんだけど」

「あたしならたとえこの盗賊団が総員で襲ってこようとも対処できるわ。だいたいユーマだって魔法が使えるんだから、盗賊の十や二十ぐらい簡単に殲滅できるでしょ? 盗賊なんてオーガと比べたら物の数にも入らないじゃない」

「オーガと比べたら大抵のものは霞むぞ」


 その比較は装甲車と歩兵を比べるようなものだ。

 どちらにも違う恐ろしさがある。


 まあ、ここはエアリスの見立てを信じよう。

 彼女はオレなんかよりずっと戦いに精通しているのだ。

 ショートカットのために危険な森を越えようとしたりとか、不安がないでもないが。

 ……本当に大丈夫だよね?


「どの依頼にする?」

「盗賊が釣れそうな隊商がいいわね。条件はなんでもいいわ」

「襲いやすそうな隊商だな」

「せめて襲われやすそうなって言って。お願いだから」


 ボードに張り付けられた護衛の依頼書に目を通していく。

 Cランクのエアリスがいるため、受けられる依頼の幅はぐっと広がる。


 盗賊に狙われる要素となるのは大きく分けて二つ。

 『手薄な護衛』と『高価な積荷』である。

 これらの条件は反比例するため、ほどほどのバランスのところが狙い目だ。

 当然、依頼書にそんな情報は掲載されていないので、報酬や適正ランクから予測する。


「受けるとしたらこの内のどれかか。じゃ、エアリス先生お願いします」

「あたしが選ぶの? どれも似たようなものだから選びようがないんだけど」

「ほら例の魔法でどこの隊商に盗賊が来そうか当ててくれ」

「こんな使い方じゃ、気休めにもならないと思うわよ」

「いいんだよ、気休めで。ただのゲン担ぎというか、願掛けだ」


 この一度で盗賊と遭遇できるとは思ってはいないが、できれば早く引き当てたい。

 そのためなら気休め程度の効果であろうと頼れるものには頼る。


「じゃあ、これ!」


 エアリスが目をつぶり、手に取った依頼書は報酬が一日約銀貨十枚のもの。

 日程は一週間ほどで、周辺の街をまわるそうだ。


 拘束時間を考えるとコンビニのアルバイトよりも薄給であるが、そもそも護衛の依頼はどれもこの程度の報酬らしい。

 質の高い冒険者を集めるとお金がかかるし、それなら専属で雇った方がいい。

 それにランクが低くとも人数をかき集めれば威嚇にはなる。

 量より質という考えなのだろう。


 そのままその護衛の依頼書を持って手続きを受けるために受付に足を運ぶ。

 受付には見知った受付嬢さんの顔もあった。

 知り合いのほうが気安いだろうと思い、そこに向かう。


「あ、ユーマさんではありませんか。その後のお体の調子はいかがですか?」

「休んだら治りました。心以外は支障はないですね」


 あれだけの暴行を受けていながら骨一つ折れていなかった。

 オルゲルトが手加減してくれたからだろうか。

 もっともそれが善意によるものかどうかは怪しい。

 単に大けがさせたら問題になるとか、労働力が減るとか考えてそうだ。


「それにしても昨日はあのギルド長相手に予想以上の大健闘でしたね。申し訳ありません、正直ユーマさんのことを見くびってました。謝罪します」

「健闘って、あれが……? 完全敗北以外の何物でもないような」


 殴られて、土下座して、不意打ちを仕掛けるもさらに殴られてノックアウト。

 主人公どころか、それにやられる雑魚キャラそのものだ。

 あれ以上無様に負けるのもなかなか難しい。


「いえいえ、とんでもない! 頑張った方ですよ。ギルド長じきじきのテストなんてめったにあることではないですが、過去一番善戦したと思いますよ。その証拠に、ほら」


 そう言って受付嬢さんはギルドの壁の一か所を指さす。

 オレがあけた大穴のある場所だ。

 間に合わせのつもりなのか、木の板が何枚か釘で打ち付けてある。


「あの応急処置はユーマさんの健闘の証です!」

「いや、あれはオレが借金を背負った証でしょう」


 ほかにもギルド内に視線を走らせると不自然に沈んだ床や修理が中途半端なテーブル、ひっくり返された酒や料理のシミの跡が見受けられた。

 その修理費用の請求が全部で四十万というのは安いのか、高いのか。


「ところでギルド長は今どこに?」

「ギルド長ですか? ああ見えてあの人もこの街のギルドのトップですから、なかなか忙しくて……何か御用があるのでしたら伝言を承りますよ?」

「大したことじゃないです。ただやられっぱなしっていうのも面白くないので」 

「あ、もしやリベンジマッチですか?」

「いえ、ただの復讐(リベンジ)です。背後から鉄パイプで襲いかかろうかな、と」


 正面からでは無理だということはもうすで痛感したからな。

 今度は人数を集めて、気が緩んでいるところへ死角から奇襲をかけてみよう。


「無理でしょうねえ……。間違いなく鉄パイプの方が折れます。あの人は現役時代にタンク役を担っていたそうですから。生半可な攻撃では傷一つつきませんよ」

「ちなみにオーガと殴り合ったら勝つのはどっちですかね?」

「オーガごとき、と言うと語弊がありますが、束になってもギルド長には勝てないでしょうね。一撃でけりがつきます」


 なるほど、手を抜いてもらえたということがよく分かった。

 オーガをワンパンで沈められるなら、オレなんて体が爆散していただろう。

 

 闇討ちはしばらく延期だな。

 下手にマジ切れされたら冗談抜きで命に関わる。


「どうしてもというなら依頼を受けるといいですよ」

「依頼ですか? 何の?」

「もちろん、ギルド長のです。結構な額がついてますから」

「討伐依頼!? あのギルド長、周りからも魔物として認識されてんの!?」


 本当に人間なんだよな、あの人!?

 ていうか、仮にもギルドのトップにギルドが懸賞金掛けるなよ!


「ギルド長は冒険者としては優秀なんです。現役時代にいろいろと経験して現場のことを誰よりも理解してますし、それに対するフォローも的確です。ですが……ですが! 事務方のこととなるとこれっぽっちも理解しようとしないんです!」


 突然、受付嬢さんが荒ぶりだした。


「勝手にギルドの予算を割り振るは、出席が義務付けられているギルドの総会をさぼるは……必要書類を渡した十分後にそれをゴミ箱の中で見つけた時の私の気持ちがわかりますか!? 今この瞬間だって果たして仕事をしているかどうか……」


 受付嬢さんの後ろの方で職員たちが賛同するように強く頷く。

 中には涙を拭っている人までいた。

 依頼を出したのはお前らか。

 依頼は誰にでも出せるそうだが、やりたい放題やってるなぁ。


「どうです? 受けてみませんか? 倒すところまでいかなくとも、手傷を負わせるだけでいくらか報酬が出ますよ。多くは望みません。昨日のように軽く壁にめり込ませるだけでいいんです。それだけで多くの職員の心が救われるんです!」

「いや、そんなこと言われても受けるわけ……って、成功報酬が三百万レンド!?」


 なんてことだ、この依頼を達成すればギルド職員だけではなくオレも救われる!

 借金を返してなお、当座をしのげるぐらいのお釣りがくる!

 討伐難易度は当然Sランクだが……受けるべきか、受けざるべきか……。


「ちょっと保留にしといてください。あの悪鬼に天誅を与え、職員の皆さんを救いたいという有り余る誠実な義憤はあるんですけど、片付けないといけない依頼があるんで」

「金額を聞いていきなり目の色が変わりましたね……。今はいいですが、報酬につられて無茶な依頼を受けるなんてことはないようにお願いしますよ」


 我を忘れても職員の責務と忠告を忘れない受付嬢さんは受付嬢の鏡だった。


「それで御用の方は何でしょう。確かユーマさんはギルド長から盗賊討伐の依頼を受けていたと記憶していますが」

「受けたんじゃなくて、選択肢を潰された上で押し付けられたんですけどね」


 オレは護衛依頼の依頼書を出しながら作戦の概要を軽く説明した。

 受付嬢さんはその依頼書を眺めていたが、やがて得心が行ったのか何度も頷く。


「囮作戦ですか。手段はお任せしますが、盗賊を何人か討伐するだけでは依頼達成とはなりませんよ。拠点ごと潰していただかなくては」

「エアリスが尋問してくれることになってます。一人でも盗賊を捕縛できれば、確実にアジトの位置と人員を割り出せるそうです」

「は、はあ、尋問ですか? あれは専門技術がいると聞いたことがありますが……。やはりあの歳でCランクになるような人はそんなこともできるんですね」


 恐れのこもった受付嬢さんの目がオレを待つエアリスに向けられる。

 彼女の頭の中ではエアリスが盗賊を拷問する光景が繰り広げられているのだろうか。

 

 風評被害が発生していたが、能力をむやみに言いふらすのはよくないし、誤解を解くのも面倒であるため放置することにした。


「一パーセントでしたっけ? 十代でCランク以上の冒険者は」

「はい。Cランクというのは一つの大きな壁ですから。伸びしろもあるとなればどのパーティーでも引っ張りだこですよ。強さで言えばカレンディア王国の王都勤務の騎士団相手にも十分に渡り合えるほどの実力者ということになりますし」


 王都勤務の騎士団の実力とやらもあまりよくわからないが。

 やはり国の首都を守るだけあって戦いのエリート揃いの集団なのだろうか。

 だけど冒険者の真ん中の実力と同程度ってどうよ。

 それとも冒険者の戦力的な地位は高いのか?


 雑談をしている間にも受付嬢さんの手は止まらない。

 やがて、作業を終えたのか書類をデスクの上でトントンと整える。

 

「はい、依頼の手続きが完了しました。では補足を加えますね。受付は行いましたが、現在はまだ仮受諾の状態で、この後に行われる顔合わせで依頼主に問題ないと判断されて初めて本受諾となります。とはいえ、よほどの事がなければハジかれることはないでしょう」


 商人たちとの顔合わせは今から二時間後。

 中央広場の噴水で集まるそうだ。


「それとこれは昨日渡しそびれた盗賊団に関する資料です」

「そんなのあったんですね」

「申し訳ありません。なにぶん急な決定だったもので……」


 オレにあの依頼を押し付けたのはオルゲルトの独断だったようだ。

 あいつは組織の管理とか向いてないな。


「基本的に護衛は荷物も守るということになっていますが、いざというときは人命を最優先に行動してください。裁量はお任せします」

「了解です」

「どうぞお気をつけて」


 受付嬢さんの声を背に受け、オレは受付を後にした。

 


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