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扉が開くことを期待している。あるいは開かないままこの建物が崩れて潰されてしまうことを期待している。不意に居心地が良くなることも、不意に居なくなることもどちらも無理だと納得している。私は比較的穏やかな人間である。少なくとも他人の前では感情をむき出しにして怒ったり悪口を言ったりしない。私は穏やかで無責任な人間である。何かを言うことは何かをしなければならなくなるということだ。私は何もしたくないので何も言いたくない。必然的に口数は少なくなる。数少ない知人や友人には感謝をしなければならない。私は自分が無責任でいられる相手とだけ自由に話ができる気がする。ある程度意思疎通のできる相手とだけしか話をしたくない。感覚が共有できる相手とだけ同じ空間にいられる。無遠慮な人間が現れたらこの仕事だってできなくなるかもしれない。私にはあまり後がない。こういう人間のできる仕事はかなり限られてしまうからだ。