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091.枕を拾うと、女騎士に睨まれる

 

「いい加減、その少年はいったい何者なのか教えてくれませんか? えっ! 腕を引っ張るなんて……。いったい何が目的ですか? ひょっとして「あなたの期待するようなことはしません!」

「そ、そんな……」


 どうして僕が期待しているようなことはしないとおっしゃるのでしょうかね?


 レイラさんなら、僕をそのまま寝室に引き込もうとしますよ。──勿論、最後までは行きませんがね!


「とにかく、ついて来てください。屋敷に帰りますよ。こんなところでは話せないので」

「そんなに秘密にすることですか? まさか、この少年はあなたの「だから、あなたの期待するようなことは一切ありません!」


 どうしてそんな目で僕を見るんですか。少しくらい期待してもいいじゃないですか。


 ******


 屋敷に帰ると、僕はミカエラさんにナイフを突きつけられました。


 生憎、これまで女性にナイフを突き刺されるようなことをした覚えはなかったので、恐怖のあまり頭に乗せてあったろくでなしを盾にしまいました。


 しかし、僕のふくよかなお腹に鋭利な刃物が刺さることはありませんでした。


 代わりに、彼女は僕の顔にナイフを刺して、化粧を引き剥がしました。


 あれは怖かった。マジで怖かった。あともう少しで頭をばっくり裂かれて恐怖の晩餐会に料理として参加するところでした。


 勿論、あの後、ろくでなしにズバズバと悪口を言われました。


 けれど、僕の顔が刺されたので、結果的に言えば、お腹の前にいてよかったと思います。むしろ、感謝してほしいくらいです。


 さて、みじめに面の皮を文字通り剥がされた僕はそのままレイラさんが待つ部屋に押し込められました。


 そして、今、怪訝そうな顔をしているレイラさんにぐちぐち文句を言われているのです。


「で、オーク殿は外に出るなり少年を拾ってきたと。まさか、オーク殿は「そんなわけないでしょうが! 僕は大人の女性が好きですよ!」


 まったく、レイラさんといい、レミオラさんといい、この世界の変態さんはオークは老若男女関係なく襲いかかるバカだと思っているのでしょうか? 生憎、僕はそこまで変態じゃありません。


「じゃあ、わたしに手を出さないのはなぜだ? なぜなんだ!」

「お嬢様、ご乱心はいけません。今はこの少年について話します」


 レミオラさん、ありがとうございます。あなたが変態であると心の中で思ってしまったことは訂正いたします。だから、その冷たい目で僕を見ないで!


「そんなにこの少年は訳ありなのか? そのようには見えないのだが……。ほら、眠っているし」


 ほんとだ。眠ってやがる。


 まったく、人が無実の罪でメインディッシュにされそうになっているのに、今回の一件の最大の原因は吞気に居眠りですか。なんだか吹き飛ばしたくなってきました。


「起きてください!」


 レミオラさんは吞気に居眠りをしている諸悪の根源を叩きました。


「うげっ! な、何するんだ! まさか、ボクに仕事を押し付けてバカンスに行くのか!」


 あなたは、どこのブラック企業の社員ですか? 幼い顔をしてよくそんな台詞が言えるものですね。


「いや、仕事なんてありませんよ」

「そっか。人間界に仕事なんてなかったよね」

「仕事がないことにどうして安心するんですか? ん? 人間界?」

「あぁ、この人、ルードリヒといいます。一応、魔王軍第4大隊の大隊長をしています」


 えっ! マジ! レレミナちゃんとあの骨と同じ大隊長?! まったくそんな風には見えないんですけど!


「そう! ボクは“怠惰”! だから、ボクは仕事をしなくていいんだ!」

「あれはあくまで設定です! その二つ名があっても、仕事はサボれませんよ!」

「そ、そんな……」

「本当にこの少年があの“怠惰”なのか? 魔王軍でも最古参と言われる伝説の夢魔なのか?」

「睡魔じゃなくて、夢魔だったのですか! サキュバスとはどう違うんですか!」

「サキュバスはやらしい夢を見せるんだけど、夢魔はそういうのは見せないよ。ただ、寝不足の人を寝かせて、そのついでに、エネルギーを分けてもらうんだ」


 そう聞くと、優しい魔物ですね。あと、ちょっといやらしい夢を見せてもらえるともっとありがたいです。


「私はやらしい夢なんて見せませんよ」

「えーーっ! あのとき、とんでもない夢を見せたじゃないですか!」


 ──あれ? レイラさんが立ち上がったぞ? 今、立ち上がる必要なんてありますかね? って、いきなり揺さぶってきた!


「いったい何を見たんだ! 詳しく聞かせろ!」

「黙秘権を行使します!」

「答えろ! オーク殿!」


 もうやめて! 死んじゃうから!


「ところで、どうしてこんなところにいるんですか?」


 レミオラさん、こんなところとは言ってはいけませんよ。一応、ここは人族の中でそれなりに強い力を持つ国の王都ですからね。くれぐれもこんなところとは言ってはいけません。


「だって、レレミナとレミオラがご執心のオークって聞くと気になるじゃないか」

「本当は?」


 えっ! それ、嘘なの! 心が舞い上がってしまったんですけど!


 あと、もう揺さぶるのやめて! なぜか愛らしいオークの顔が朧気に見えてしまっているんですけど!


「事務員が引きこもっているせいで、仕事を押し付けられて死ぬんじゃないかって思って逃げ出しました」

「あの吸血鬼は一応、大隊長ですよ」

「えっ! あの事務員、大隊長だったの!」

「そんなことも知らなかったんですか!」


 さすがに、あの中二病がかわいそうです。せめて、大隊長の名前くらい覚えてあげて!


「だって、気づいたら、大隊長が勝手に入れ替わっているんだもの。ほんと、どうして魔王様は千年も変わらないのに、ポンポン入れ替わるの?」

「あなたが長生きしているだけですよ!」

「そうなの?」

「なぁ、こいつをこのままにしていいのか?」

「お嬢様、安心してください。この子はちゃんとお家に帰しますから、お嬢様はオークと二人仲良くしていてください」


 えっ?! いきなり、何を言っているのですか! まさか、僕をここに閉じ込めるつもりですか!


「本当に良いのか?」

「どうして、私にそんなことを訊くのですか?」

「なら喜んで!」

「ぴぎゃあああ!」


 まだ、二人っきりになってもいないのに涎を垂らして抱き着こうとするんですか! 気持ち悪いですよ!


「それでは二人はこれから色糸と楽しむそうなので、帰りましょうね。大隊長様」

「嫌だ! ボクは書類仕事なんて絶対にしない! ボクはゴロゴロするのが仕事なんだ!」

「だから、そんな仕事ありませんよ」


 レミオラさんはろくでなしを抱えると、部屋から出ました。そして、鍵を閉めました。


「あれ? どうして、鍵まで閉めるんですか? ちょっと待って! お嬢様、どうして近寄るんですか!」

「決まっているだろ? アレをするんだよ!」

「アレって何ですか? ぴぎゃああああああああ!」


次回も明後日更新予定です。

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