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008.オークと魔王軍第7大隊大隊長(笑)

今回は待望のあの人登場です。

待っていなかった人にはすみませんでした(棒)。


 あっ、お久しぶりです。

 オークです。


 体感的にはお久しぶりじゃない?


 僕からしたら、お久しぶりなのですよ。


 あれからというもの、あの女騎士様が来なくなったので、一時のいとまを楽しんでいます。


 ひょっとして、彼と相討ちになったのかもしれませんね。

 それなら、とってもラッキーなのですがね。


 なら、俺たちに話しかけてくるな?


 それは無理な話です。


 残念ながら、僕に新たな悩みが生まれました。


 ひょっとして、ドラゴン?


 そんなわけないでしょう。

 つい先日出てきた彼は別に悩みの種じゃありません。

 ただ、のんきに人の悪口が言えなくなった程度です。


 彼には森中の全部の声が聞こえているらしく、その中で自分の悪口が聞こえたときのみ襲い掛かる身勝手なドラゴンなのです。


 だから、森の中では某ストーカー女騎士の文句をいうときも細心の注意が必要です。


 まず、主語は明確にしましょう。

 ついでにトカゲの悪口も控えましょう。

 そして、お空に向かって悪口を言わないようにしましょう。


 これでこの森ではドラゴンと会うことはありません。

 やったね!


 さて、そんな単細胞な彼のことは放っておいて、今は目の前の迷惑な人について話しましょう。


 きちっとした燕尾服えんびふくを着ていますが、ひどく頬がこけて、目にも大きな隈を浮かべたいかにも不健康そうな彼のことですよ。


「や、やぁ。わ、吾輩はま、ま、魔王軍第7大隊大隊、ゲフン、ゲフン。──失礼。第7大隊、ゲフン、ゲフン」


 風邪なら、わざわざ出しゃばらないでいいのに。

 さて、自己紹介を続けさせておくと、長引いてしまうので、こちらから軽く説明しておきましょう。


 あの存在しないはずの彼(笑)です。以上。

 説明終わり。


 短い?


 そんなことはありません。


 僕はただ、彼が嫌いなだけです。


 かつては例の女騎士さん並みに僕のストーカーをしていたのですよ。

 だから、彼には──ウザい、という感情しかわきませんよ。


 ちなみに、どうして彼がこんなにも不健康な顔をしているのかと言うと、あまりにも僕がそっけない態度を取るのでこれほどまで体調を崩したそうです。


 昔は僕が──爆発しろ! って思うくらいあんなにハンサムだったのに……。

 今では見る影もありませんね。

 意外と僕の呪いは効くのかもしれませんね。


 そうそう、村娘さんをあとで叱りつけるのを忘れていました。

 まぁ、僕と普段から会うたびに世間話をしてくれる親切な村娘さんだったため、どうも彼女に制裁を加えるのに気が引けました。


 彼女は本当に素晴らしいです。

 結婚を視野に入れて告白したいくらいです。


 ところで、半年もあったのに、どうして彼女にしか出会わなかったのでしょうか?


 ひょっとして、僕の怒りに気づいて、村娘のみなさんが彼女にこの役を押し付けたのでしょうか?


 もし彼女以外の方とお会いしたら、そのときはしっかりお尻ぺんぺんしてあげましょう。


「いい加減、ちゃんと話を聞け! ガハッ! ゲフン! ゲフン!」


 あぁ......。

 また、血反吐を吐いちゃって……。


 だから、無理してくるなって思っていたのに。


 どうして、そこまで無理をするのでしょうか?

 僕には彼がそうする理由が皆目見当つきません。


 そういえば、彼は話を聞いて欲しいそうですが、彼の話は10割聞く価値がありません。

 だから、聞かなくていいのですよ。


 全部じゃないか?

 

 そうですよ。存在しない人の話を聞く価値なんてありますか?


 言っておきますが、幻聴をまともに聞いていたらそのうち発狂しますよ。


 気を付けてくださいね。


 さて、そろそろ木の実採集に向かいましょうか。


 ついでにそのままお引っ越しも済ませちゃいましょう。 


 本当、この魔法のペンが手に入ってよかったですよ。

 着の身着のままで引っ越ししても、魔法陣を描けば荷物は回収できますから。


「お、おい、ま、ま、待て! わ、わ、吾輩の話を聞いてくれ!」


 死にそうな彼は僕の腕に最後の力を振り絞ってしがみつきます。


「いやですね。どうしてこんなに腕が重たいんだろうな? アハハ、ヨクワカラナイナ」

「お、お前、わ、わ、吾輩をバ、バ、バ、バカにしているだろう! い、い、言っておくが、お、お、お前がこ、これ以上そんな態度を取り続けていたらま、ま、ま、ま、魔王様がお前を懲らしめに来るぞ!」

「魔王? あなたがてっきり思春期特有のアレをこじらせてしまった可哀そうな大人だと思っていましたので、魔王が存在するなんてこれっぽちも思っていませんでした。──ところで、あなたはいったいいつになったらこの世から消えてくれますか?」

「今なんて言った?! 最初から最後まで全部吾輩の悪口じゃないか! いい加減にしないと魔王様を呼び出すぞ!」


 おっとすっかり嚙み癖が治ったようですね。それは良かったですね。

 けれど、僕は木の実を取りに行くので邪魔しないでくださいね。


「あれれ? あなたは自分の失敗の尻拭いを上司にさせるのですか? 魔王軍というのはブラック企業ということで専らな評判ですが?」

「ま、魔王軍がブ、ブ、ブ、ブラック企業なわけがないだろ?! そ、それに魔王軍がく、く、く、黒を好むのはあ、あ、あくまでシンボルカラーであって、じ、じ、実態はホ、ホ、ホワイト企業だぞ!」


 あれれ? なんかすごく動揺していませんか? 余計怪しくなっちゃうじゃないですか?


「へぇ~。どれくらいホワイトなんですか? 言っておきますが、オフホワイトだけは無しですからね。あの色はほとんど黒だというじゃないですか」


 ちゃんと引き離しておきましょう。

 ひっ付いたままだとしっかり聞き取れないので。 


 それに、ずっと男にへばりつかれて喜ぶような奇特な嗜好はぼくにはありませんからね。


 ついでに女性のストーカーにへばりつかれても気持ち悪いです。


 それが超絶美女だったら、──やっぱり無理です。


 それは僕にトラウマを思い出させます。


「き、聞いて驚くな! 魔王軍は週休二日制に加えて、平日の好きな一日だけ休みにしてもいいという変則的週休3日制を導入しているのだ。それに、ボーナスは3か月に一回しっかり出るし、勇者を魔王領から追い出すだけでボーナスがさらに出るのだ。すごいだろ!」

「な、なんだって?!」


 そんなうまい話があるわけがない。

 元の給料が低いんだ! そうだ! 絶対にそうだ!

 僕は決して騙されないぞ!


「ふふ。給料なんてどうせ最低賃金がリンゴ1個買えるか買えないか程度なんでしょ」

「そんなわけがないだろ! 一兵卒でもリンゴ10個など余裕で買えるわ!」

「嘘だー!」


 そんなうまい話があっていいんですか!

 僕はなぜか負けた気分になってしゃがみこんでしまいました。


「フフフッ。やはり、貴様も魔王軍の素晴らしさがよくわかったか。では、オークよ。魔王軍に来るが……「結構です」」


 起き上がった僕は即座に断りました。


「魔王ぐ「結構です」」

「ま「結構です」」


 彼は僕が喋るのを邪魔するので、怒った顔をしています。


「いったい何なんだ! どうして、吾輩の勧誘を断るのだ?」

「そんなうまい話があるわけがないじゃないですか」

「うまい話なわけないだろ! これは事実だ!」

「魔王軍は人間界を侵攻すると言うことで専らな評判じゃないですか。僕は無益な殺生は好まないのですよ」

「お前がそんなことを言うか!」


 ひどいですね。風評被害ですよ。風評被害。

 人のあることないことを言いふらすから、あなたは嫌われるんですよ。


「あなたたちは人間を殺しても苦しまないですよね。僕は良心が痛むのですよ」

「そんなことあるか! お前に部下を毎日つけているが、たまに力の加減を間違えて殺していたのを見たことがあるぞ」


 ちょっと聞き捨てなりませんね、その言葉。後で詳しく教えてくださいよ。

 もし、可愛いサキュバスの女の子が僕に尾行しているのだったら喜んでその女の子()歓迎しますよ。


 しかし、気配を感じないのは素晴らしいですね。


 女の子であるかもしれないので、一応頑張って気配を掴みましょうか。


 うーん。

 誰もいないようですね。


 ──まぁ、一応、弁明でもしておきますか。


「僕を殺そうとするやつはみんな蛆虫うじむしですよ。あなたは蛆虫に生きている価値なんてあると思いますか?」

「何を言っているんだ。あんな下等生物など放っておればいいのだ」


 あなたも人のこと言えないじゃないですか。下等生物って言うだなんて。


 ──あっ、僕もつい蛆虫って言ってしまいました。


 許してください。

 だって、僕はこれまでに幾度も彼ら(特にいきった黒髪の少年少女)に対して身の危険を感じたのですから。

 分かってくれますよね?


「──では、なぜ魔王軍は人間界を侵略しようと思っているのですか?」

「そんなことは思っていない! やつらのフェイクニュースだ! 勝手に吾輩たちの国にどかどか入ってきて、いきなり人を斬りつけたらもちろんつまみ出すだろ? それを勇者教会の阿呆どもが我々に侵略の意思があると勝手に言いまわっただけだ」

「勇者教会?」


 教会は知っているのですが、勇者教会ですか。

 聞いたことありませんね。


「知らぬのか? 人間のほとんどが信仰していると言われているゴミみたいな宗教だぞ?」

「宗教にゴミもくそもありません。人が神に救いを求めるのは当然のことです。無宗教のぼくたちにはその価値を見出すことは大変難しいかもしれませんが、彼らの精神的支柱をバカにするのは決して許せません」


 僕は文化を否定するような悪い人ではないので、差別はしませんよ。

 やっぱり互いに認めなくちゃいけませんよね。

 ほら、そんなに小さいことを気にしているからこんなにストレスを溜め込むんですよ。


「な、何を言っているのだ! あんな危険なやつらのどこが守るべきなのだ? 魔物だと知ったら、容赦なく殺そうとする恐ろしい集団なのだぞ」


 僕はその言葉に二の句が継げませんでした。


 ──そうですね。よく考えたらそうでした。

 ついつい、彼らを擁護してしまいました。


 たしかに「こいつは魔物だ! こいつを倒せば、俺の経験値が上がる!」とか言って、こちらの言い分も聞かずに笑いながら殺してくる方のどこが擁護できるのでしょう?


 いくらオークでも、言葉が通じるのですから話し合いで解決しましょうよ。


「貴様が『自動殺戮機械オートキリングマシーン』に惚れ込んでいるのは分かっている。あれを味方にできればこれほどいいことはない。しかし、どうしてあれほどの化け物を伍しきれるのか?」

「『自動殺戮機械オートキリングマシーン』という物騒なネーミングはとりあえずおいときましょう。──まず、僕はあの変態女騎士には惚れ込んでいません。それに彼女を支配したいとも思っていません」

「それにしては『自動殺戮機械オートキリングマシーン』の方は貴様に惚れ込んでいるような気がするのだが?」

「気のせいです。あんなストーカーはごめんです。欲しければ、譲りましょうか?」

「結構だ。吾輩も死にたくない」


 そこ、即答しない。こっちは困っているのに。


「さぁ、魔王軍に来い! お前には第5大隊の大隊長のポストを用意しているぞ」

「なんとどうしてそんなに好待遇なのですか? 騙そうとしているのを堂々と隠さないスタイルに少し尊敬の念を感じます」

「騙すわけがないだろ! 貴様みたいな|災厄持ち≪カースホルダー≫候補が冷遇されるわけなかろうが」

「カースホルダー?」


 何ですか。その中二臭い称号は。

 僕は大人ですからそんな称号は欲しくありませんよ。


「そうだ。この世には七つの大罪という言葉が存在するだろ? その各々の罪に見合う強き者には魔王様から|災厄持ち≪カースホルダー≫という素晴らしい名誉が与えられるのだ」

「そんな恥ずかしい名誉は必要ありません」

「これは魔王軍では誉れ高いのだぞ! 特にオークのお前には“暴食”とは良い称号ではないか? 何を恥じる?」

「僕は少食ですよ?」


 そうですよ。暴食っていう称号が与えられているのにその人が少食だったらイメージが崩れちゃうじゃないですか。

 少食の僕にその称号をあげるくらいなら、いっそ他のオークたちに差し上げてください。


「そんなことを言っているわけではない! オークの中で強いものはみな、“暴食”と呼ばれてきたのだ! ──まぁ、スライムも“暴食”の候補の対抗馬として名前が挙がるのだがな。ちなみに吾輩は“傲慢”だぞ。“傲慢”。似合うだろ?」


 傲慢?

 どこからどう見ても、卑屈な人にしか見せませんが?


「お帰りください、“病人”」

「その病人呼ばわりに、帰れとはなんだ?! いや、帰るわけにはいかない! お前があの恐ろしい『自動殺戮機械オートキリングマシーン』の側につかれたら、──ま、魔王軍は滅んでしまう!」


 そんなに怯えることですかね。


 僕と彼女が手を組むだけで消えてしまう軍ってあるわけないですね。

 

 ──まぁ、彼が最高幹部にいる以上、戦力が大したことが無いのは見え見えですね。


「それは聞き捨てならないな!」


 はっ、この声は! 

 どこだ? どこにいるんだ!


「な、なんで『自動殺戮機械オートキリングマシーン』が『黒龍』と一緒にいるのだ?!」


 彼が上を見上げて、この世の終わりだと言いたげな顔をしているので、空を見上げました。


 すると、なんとあの変態女騎士様が大きな黒いドラゴンの上に跨って空を飛んでいたのです。


「久しぶりだな。オーク殿。さぁ、一緒に愛の巣に帰ろうではないか!」


 な、なんで彼女が彼と一緒にいるのですか!


 それに愛の巣って……。

 僕はあなたと一緒に暮らしていないでしょうが!


次回、009.竜騎士vs.オークwith大隊長(笑)

 

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