057.似ていない親子
「娘って……。いったい誰の娘さんかな?」
「名前はゲオウって言います。一応、この辺りのハンドクラブのマスターなんですけど……。って、どうしてオークにこんなこと言っちゃってるんですか! ひょっとすると、ここはオークの占領下にあるかもしれないのに!」
動揺されているところ申し訳ありません。まず、ここが占領される心配はありませんよ。
だって、ここには人の皮を被った化け物たちがたくさんいますもの。
あっ、一匹だけ蜥蜴の皮を被っていました。
え? 僕が入っていない?
そんなことないでしょう。
だって、僕は心の中は人間ですから。
それに、人のやることとは到底思えないあの人たちに比べれば、僕はかなりマシだと思うんですけどね!
それにしてもまったく似てませんね。あなた、本当にオークイーターの娘さんですか?
「安心してください。ここはオークの占領下にはありませんよ」
「どうしてでしょうか?」
「だって、あのレイラさんが住んでいる屋敷ですよ。そんなところがたかがオークごときに蹂躙されませんよ」
「そうですね」
なんでそういうと、信じちゃうのかな? マジで不安になってしまうんですけど!
「それはそうと、父はここに来ましたか?」
「えぇ、来ましたよ」
「あれ? なんで開けるんですか?」
「いや、なんで後ずさりするんですか?」
あっ、これは門を開けるべきだと思って僕は開けたんですけどね。どうして後ずさりするんでしょうね。
「だ、だって、オークって女の人には目がないって父が言っていましたよ。「だから、俺は女のふりをしているんだ!」って、よく言ってましたよ?」
「いや、なんで僕があなたを襲うと思っているんですか?」
「さっきから私の顔の下30センチほどの辺りを見ているような気がしたんですけど……」
「なんかすみません。ほら、顔があまりにもお美しいのでつい目を逸らそうとして……」
「それなら、上を見たらいいんじゃないですか?」
「じゃあ、そうしておきます。とりあえず中へどうぞお入りくださいませ」
僕は顔を上げたまま彼女に入るよう促します。
「なんか信じられないんですけど、万が一のときはこの笛を鳴らしますからね」
これは笛じゃなくて法螺貝ですよ! しかもなんでこんなに大きいんですか!
「鳴らすと何が来るんですか?」
「父です」
「一番嫌な人が来ちゃうんだ!」
ほら、僕にとってあの人は天敵じゃないですか。だから、彼(?)は嫌な人なんです。
「そういえば、どうしてあなたの父親はあんなことをしているんですか?」
「それはお肉を生で食べていることですか? それとも、オークたちを牧場で虐めていることですか? もしかして、父があなたに“ピーピーピーピー”してきたのでしょうか?」
「それはさすがにされていませんよ!」
あの人はオークにそんなことをしていたんですか! 僕の“ピー”が心配になってきましたよ!
「まぁ、出荷前のオークですし、そんなことされていませんよね」
「僕はあの人が何故女装しているのかって聞きたいんです!」
「それは女性のフリしているからですよ。さっき言ったじゃないですか!」
「あれは本当なの! それなら、もっと上手く変装しろって言えませんでしたか? 絶対言えたよね!」
「あぁ。そのことだったら、たぶん、それは私のせいです」
なんか急に地雷を踏んでしまったような気がします。
これは続きを聞くべきなんでしょうか? それとも、そのまま何も喋らずに屋敷の方へ案内するべきなのでしょうか?
「私が小さい頃、母が殺されたんですよ。それもオークに」
いや、言っちゃったよ! マジでやばいこと言っちゃったよ!
「別にしてオークに殺されることなんてよくあることですよ。オークに“バリバリ”されて、“ドドドドーン”されて、しまいには細切りにされて死んでしまったんです」
「いや、そこまで言わなくて良かったんですよ。なんでこんなこと言っちゃってるんですか!」
この話はあくまでコメディですよ! なのにどうしてそこにシリアスが顔を出しちゃっているんですか!
「すみません。なんか私言い過ぎてしまうらしいんですよ」
「それにしてもよくオークにこんなこと言おうと思ったね!」
「それで、父は母が亡くなって以来、何故か女装するようになったんです」
「え?」
話の展開が唐突過ぎたこともそうですが、そんなことよりも妻が死んだら、夫は女装するものなのでしょうか? 理解できませんよ!
「最初は父の言うとおり、オークを誘うためだと思っていたんですが、徐々にそれがますます女らしくなってしまって……」
へー。そのときのオークイーターを見てみたいものです。どうせ今と変わんないでしょ。
「しまいには女性になろうとしたんですよ。さすがの私も止めました。「お父さん、もっと男らしくなってよ!」って。そしたら……」
「あんな風になってしまったんですか」
「えぇ、そうです」
あなたのお父さん。少しおかしなところがありますね。
普通、男らしくしてよ! って言われたら女装しなくなりません? もしくは「これは俺のポリシーなんだ!」とか言っちゃいませんか? あなたのお父さんは本当におかしいですよ!
「あれ? なんか気づいたら屋敷に着きましたね」
「そうですね」
「開けますよ」
「さっさとしてくださいよ!」
「はいはい」
僕が扉を開くと、そこには心を読む系少女が立っていました。
「どう? 浮気は楽しかった?」
「浮気なんてしてませんよ。そもそも、僕はあなたの婚約者でもなんでもありませんからね」
「えー。そんなのありえないよ。お前はお嬢様の婚約者でしょ?」
「そっちも無いですよ!」
「私はオークは嫌いですよ。お母さんを殺しましたから!」
それは残念。まぁ、分かってましたよ。
お母さんが殺されたのなら、そんな生き物好きにならないよね。
っていうか、なんで僕と話せるんでしょうか?
普通、殺しにきません? これまでオークに恨みがある人は必ず僕に襲いかかって来ましたよ!
「で、これまで門の方に避難していたくせに何しに来たの?」
「この人をお父さんに会わせたいんですよ」
「お父さん? 誰のこと?」
「ゲオウって言うんですけど、分かります?」
あれ? どうして彼女を凝視するんですか? まさか、オークイーターと彼女を見比べているのですか?
言っておきますが、何十回凝視してもまったく似ていませんよ!
「えーーっ! 全然似ていない」
「とにかくお父さんがいるところを教えてください! 早く!」
「いつもの応接間だよ。まぁ、そこでオークの尻についての話をしてたからたぶん入ってもいいと思う」
二人とも何故そんなことで話が盛り上がるのでしょうか? 理解ができません。
って、ちょっと待ってくださいよ! まだ変態さんたちがおかしなことを語り合っている途中でしょ!
「お父さん! いい加減、ちゃんと男の人の格好をしてよ!」
「なんでそこを指摘するんですかー!」
次回、058.女になりたい父とそんな父を男にしたい娘が屋敷に来た理由




