056.お肉大好き変態、再び
どうもオークです。
最近、妙に外堀が埋まりつつあると感じてしまっているオークです。
突然ですが、今、僕は危機を迎えています。
変態女騎士からの熱烈な求婚でも、メイドであるはずなのに女王様な方にど変態な蜥蜴と一緒に追いかけ回されているわけでもなく、ましてや包丁を持った料理長が近くにいるわけでもありません。
最初の二つならまだしも、最後に関してはありえません。
さすがのメイドさんたちも二週間も携帯食だけで過ごすのが辛くなったのか、料理長はメイドさんが常時十人ほど監視されています。そのため、僕の方には来ません。
もし、来たら、空に向かってキーラさんの悪口を言うことにしています。そしたら、女王様と一緒に蜥蜴が来るのです。
どうやら、あの危険生物はオークよりも蜥蜴の方を調理したいらしく、彼を呼びつけると僕ではなく蜥蜴の方に向かうのですよ。
ほんと、ゴム味のお肉のどこが良いんでしょうね。僕には理解できませんよ。
まぁ、今は世の中の理不尽に対して文句をぐちぐち言っている場合ではありません。
「オークちゅぁぁぁん」
僕は今、恐怖と再会したのです。
この屋敷には門と城壁という素晴らしい防護壁はありますが、この低音が無理矢理女らしく出す微妙な声。さらに、この壊滅的なファッションセンス。
迫りくる変態共に対する万全な防御体制が敷かれていてもこれらは防ぎ切れません。
そもそも、なんでここにいるんだろうって今、後悔しています。
屋敷にいると、ヤツらに追いかけ回されますが、仮にそうだとしても目の前のセクシーポーズを必死に取ろうとするスキンヘッドのおじさんを見るくらいなら、追いかけられる方がまだマシです。
できることなら今すぐ屋敷の方へ戻りたいです。
「美味しいオークちゃん。ここに居たの? ママは心配したわ。元気かしら?」
「僕のママはたぶんオークですよ。だって、この体を見てください。どこからどう見ても、オークでしょ」
「なら、あたしがあなたのママになってあげるわよ」
「結構です。あと、涎が出てていますよ!」
「あら? それは失礼」
じゅるるるるる。
また、汚い音が聞こえました。もう辛いです。
「そんなことより早くこの門を開けてくれないかしら? そこのメイドさんたちもどうして木陰に隠れているのかしら?」
「それはあなたが怖いからですよ! って言うか、開けたら絶対にあなたは僕に襲いかかるでしょ!」
「そんなことはしないわ。今日は残念ながら仕事でここに来たの。だから、貴方をメインディッシュにするのはお預けなの。まったく残念なことだわ」
「僕は一生、あなたのメインディッシュになりたくありません!」
「じゃあ、さっさと開けてよね。どうして開けてくれないの?」
「だって、仕事って僕を屠殺場に送ること以外あるんですか!」
「失礼ね。あたしも一応、ハンドクラブのクラブマスターなのよ。だから、早く開けて頂戴。これは勅命なの」
オークイーターは僕にどこかの家紋が描かれた封蝋を見せてきました。
いや、僕、そんな家紋見たことありませんよ。せめて葵の紋とかじゃないと分かりませんよ。
「勅命? そんなの知りませんよ。僕はオーク。あなたはオークイーター。そんな手紙があるから通せ、と言われたくらいで素直に通すほど僕は優しいオークではありません!」
「それなら、あなたの後ろにいる彼女に聞いてご覧なさい」
あれ? あなたを見ても平気な女性がいるのですか?
レイラさんの気配はまったくしませんし、いったい誰のことで……。
「ゲオウ様。我が主人レイラがお待ちしております」
メイド長さん、あんたかよ!
ん? ゲオウ? なんですか? そのいかにも男らしい名前は?
「ありがとう。あと、ゲオウじゃなくてゲオラね。ちゃんとかわいらしい名前があるの」
「だって、二、三十年ほど前は森の中でオークを食い荒らすゲオウ君じゃなかったかしら?」
へー。ようやくなんか話が繋がった気がします。
あぁ、そういうことなんですね。だから、情報が錯綜していたんですね。ようやく分かりました。
「それはひどいわ。あたしもさすがにもうあんなに臭いお肉なんて食べたくないわ」
「さぁ、どうぞ。お入りください」
「ありがとね」
「あぁ、オーク君はそのまま門番続けてね」
「分かってますよ」
どうせ屋敷に戻っても、僕にとって平穏な場所は無いのです。だから、引き受けますとも。
あれれ? なんか近いんですけど! 何かありましたか?
「あと、くれぐれも私の年齢を詮索するような真似はやめてくれないかしら。彼女が来るまでうちのメイドさんたちと話してたでしょ?」
「ピギ!」
なんでバレているんですか!
******
あれから一時間経ちました。僕は門の後ろでボーッとしています。
だって、メイドさんたちが僕の話にまったく応じてくれないもの。
ほんと、ダメですよ。いくら、上司が厳しいからって、少しは話をしてくださいよ。なーに、あの手の話は二度としませんから!
あっ! 八咫烏が来た。
ウィード君からの手紙かな。お勤めご苦労さん。
さーて、ただ、ボーッと誰かが来るのを待っているのも退屈なので、手紙でも読みますか。
最初、突然、僕の方に手紙が来たんですよね。
てっきり某弟子を名乗る少年K、あるいは某大隊長様からの迷惑メールかと思ったら、ウィード君からの手紙だったっていうわけです。
彼は手先が器用なので、普通サイズの手紙を書いてくるんですよね。最初、読んだとき最後まで読んでから初めて彼から送られたものだと知って驚きました。
そういえば、僕はあの後、ウィード君と文通する仲になりました。
たしかに彼もおかしなところはありますが、これまで会ってきた人の中では比較的付き合いやすい人です。
なにしろ、彼の生涯を聞くと、あぁ、自分はまだ恵まれているんだなって思ってしまうんですよね。
あと、彼が理性を持っているオークだから話したくなるんでしょうね。
まぁ、ほとんど彼の女神様についての話題なんですけどね。
ちょっと僕にはつらいです。なんかこれまで彼が不遇な生涯を送っていたのを聞いていたから、なおさら彼が騙されているような気がしてしまうんですよ。あぁ、辛い。
まぁ、これも自分勝手に思っていることなんですけどね。
あと、女神さまから聞いた女騎士さんのかわいいところを追伸のように書いてくるのはやめてほしいんですけどね。なんかついでにこんなこと聞いたよって書いてくるんですよ。
言っておきますが、僕はあなたのように人間を信じられるほど頭の切り替えができる人間じゃないんですよ!
あぁ、なんて返事「ちょっといいですか?」
「あぁ、なんでございましょ……」
これはなんということでしょうか!
目の前にスーツがよく似合う茶色のボブカットの美しい女性が立っているんですけど!
あと、なんか「あれ? ここで合ってるよね? 門番がオークなんだけど本当に大丈夫なのかな?」ってちょっとおろおろしているところがなんかかわいいんですけど!
ウィード君。ドジをするところがかわいいと言っていましたが、あなたの女神さまはかわいいとは何たるのかを理解していませんよ。
かわいいとはそんなわざとらしくドジをすることではないのです。
かわいいとは俗人には到底分からないもっと高尚で奥深いものなのです。
ここは不肖オーク、突撃させていただきます。
「失礼ですが、お嬢さん。お時間はありますか?」
「父に会いたいのですが、そちらにいらっしゃるでしょうか?」
は?
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