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055.哀れなオークたちの語らい

 

「待って! ストップ! ストップ!」


 どうもオークです。


 ただいま、巨大なオーク(緑)の体毛にぶら下がっています。


 まさか、この巨大なオークがこんなに臆病なオークだとは思いませんでした。


 だって、危険生物さんにこんなこと言うのも悪いですけど、蟻と象と同じくらい差がありましたよ。


 なのに、どうして斬られそうになっただけでこんなに動揺するのでしょうか? 不思議です。


 それに、目隠しされているくせにどうしてこんなに早く走れるんでしょうかね?


 まぁ、ここまで走ってくれたら、危険生物もいな「待つのでござる!」


「ピギャーー!」


 どうしてあなたまで体毛にぶら下がっているのですか!


 あと、その包丁を何本も突き刺してロッククライミングのようにオークの身体をよじ登るのはやめてあげてくれませんかね。


 さっきから皮膚の潤いと揺れが激しいんですよ! 


 なんでこんなことになっちゃうんですか!


「いやぁ、まさか、こんなオークと一緒に拙者の前に出てくるとは思わなかったでござる。さぁ、拙者に腿をいただけないだろうか?」

「ももってあの桃ですよね。絶対、果物の桃ですよね!」

「んなわけないでござる。そのまるまると肥え太った脚についている腿のことでござるよ!」

「ピギャーー!」


 もうダメだ! 死ぬ! 絶対に死ぬよ! これ!


「さぁ、その脚をいただきたいでござる」


 ──もうダメだ! そう思ったとき、何かが空から降ってきました。


 そして、その何かは危険生物の上に降り立ちました。


「八郎。ようやく捕まえたぞ! 茶菓子が無くて困っていたんだ」


 よく見ると、女騎士様が危険生物を取り押さえていました。


 危険生物の名前は八郎なんですね。知りませんでした。


 ──あれ? よく考えたら、性別を知りませんでした。


 見た目は女の子ですが、ひょっとすると、男の子かもしれませんね。


 まぁ、今は関係ないんですけどね。


 しかし、てっきり僕がどこにもいないことに気づいたのかと思ったら、こっちの方でしたか。さて、今のうちに森の方へ帰りましょうか。


 ──おっ! なんか飛んできた。


 ──なーんだ。また、包丁ですか。


 ほんと怖いですね。次からは見境なしに包丁を投げないでくださいね。このオーク(緑)、かなり血が出ていますからね!


 あと、その血走った目はやめてください。怖いからやめて!


 ──あっ!


 レイラさんと目があっちゃった。


「オーク殿もいたのか。これは驚いた。さぁ、帰ろうではないか!」


 レイラさんは咄嗟に僕の腕を掴むと緑色のオークの耳元に駆け寄りました。


 すると、オーク(緑)はゆったりと屋敷の方へ動き出しました。


 やっぱり、帰れませんよね!


 ******


 レイラさんに屋敷に連れ戻された僕は今、庭にいます。


 庭ではドレスに着替えたレイラさんとパパビーナさんがお茶を楽しんでいます。


 しかし、あの危険生物も仕事が早いですね。あっという間に美味しそうなケーキを作り上げたのですから。いったい、いつ作ったの? あんな一瞬でこんな美味しそうなケーキが作れるの?


 まぁ、今はレイラさんのそばで縄でぐるぐる巻きにされていますがね。いったい何をしようとしてそんな目にあったのでしょうか?


 しかし、こうして見てみると、貴族の令嬢が楽しく茶会を嗜んでいるように見えるのですが、さっきから話していることがおかしいんですよね。


 まぁ、期待させて悪いんですが、言葉にするのもおぞましい話をしているのです。少なくとも、オークにとっては辛いお話をしています。


 あれ? なんかこっちを見た。いったい何をする気なのでしょうか?


 まさか、ペティ(パパビーナさんが飼っているオークの一人)君のように僕を“ダダダダダダ”するつもりなんですか! 絶対にやめてください。怖いです。


「ところで、この子は本当オークなのかしら?」


 い、いきなり、僕の方を向いて、何をおっしゃるのでしょうか。


「なぜなんだ? 見るからにオークだろ? 一度、父上にオークに変装した恰幅の良い男と見合いをさせられたことがあるが、そのときに感じた違和感は無いぞ?」


 その手は既に使われていたのですか。残念です。


「そうなの。けれど、私が寝巻き姿で彼のお腹の上に乗っかってみたら、かなり緊張していたの。だから、私にはオークの皮を被った初心な少年にしか見えないわ」

「それはオーク殿が奥手なだけだろう」

「僕は奥手じゃありませんよ!」

「なら、どうしてわたしは“ピー”されないんだ?」

「そ、それは……」


 たしかにあなたはお美しいですよ。レイラさん。だけど、僕はストーカーを生理的に受け付けないんですよ。


 いくら、顔が良くても、いくら、素晴らしいプロポーションをしていても、僕はストーカーを愛せません。


 けれど、そんなこと言ったら、あなた泣くでしょ?


 いや、絶対泣くよね!


 だから、そんな潤んだ目でこっちを見ないで!


「だから言ったでしょ? この子はやっぱりおかしいって」

「まぁ、そこが良いんだよ」


 ほんと、懲りない人ですね。しかも、いつの間にかまた、パパビーナさんが飼っている(?)オークの話に戻っています。


 ほんと、こういう話、気持ち悪いので、止めてくれませんかね!


 そうだ! 今のうちに隣の彼と話してみましょう!


「そういえば、あなたはどうしてパパビーナさんと一緒にいるんですか?」

「お嬢、俺、助けた」

「昔なにかあったのですか?」

「昔、俺、村、追われた。女、俺、追い回す。俺、緑色」


 そうだったのですか。それは悲しいです。


「ある日、俺、オークの大群、襲われた。怖い女、俺の目、くり抜いた」


 え?


「ちょっと待ってください。怖い女って誰ですか?」

「お前絶対知らない。だけど、この世で一番怖いやつ。俺、怖い女の奴隷だった。女、俺、虐める。俺、苦しかった」


 そうだったのですか。おじさん、涙が出そうです。ほら、なんか生まれて初めて人生の理解者に出会えたような気がするので!


「ある日、女神来た」


 ん?


「女神、俺、助けてくれた。俺、恩返す。だから、女神大事」

「そ、それはよかったですね」


 こんなにうっとりとした顔で三歩も歩けないあの女性を女神と呼ぶのですか? ちょっと引きます。なんか怖いです。やっぱりあなたもただのオークだったのですか!


「ところで、お前、あの女の匂いしない。なぜ?」

「僕はあの人の部下に拐われたんですよ。だから、あの人のことを信用してないんですよ」


 部下と言っても、メイドさんだけどね! しかも、一対百以上の私刑を挑まれたからね! あんなの絶対に勝てないよ!


「あの女、信頼できる。俺、分かる。あの女、匂い良い」


 え? 何言ってんの? こいつ。


「あの人、オークを何度も潰してきたんですよ。僕はそれを何度も見てきたんですよ」

「諦めろ」


 そんな目で諦めろなんて言わないでくださいよ。僕の心が折れるじゃないですか。


「あら? 二人とも仲良くなったの?」

「俺、こいつ、友達。こいつ、俺と同じ」

「そう。良かったわね。ウィード」

「ウィード?」

「この子、身体の色が草原みたいでしょ? だから、そう名付けたの」

「俺、気に入っている。女神最高」


 こいつダメだ! もう洗脳されてやがる! いったい過去に何があったんだ!


「あら? もうこんな時間なの? そろそろ帰らないといけないわ」


 懐から懐中時計を取り出したパパビーナさんは申し訳なさそうな顔をしてレイラさんに言いました。


「もう帰るのか?」

「だって、レイラちゃんに会ったらすぐに帰れって言われてるもの。それにしても、あなたのオーク。なかなかかわいかったわ」


 できれば、そのオークに対する異様な執着心と谷間に挟んでいたアレを無くしていただけるとありがたいです。


「次会うときはお裾分けしてくれると嬉しいわ」


 えっ! 今、なんて言った? お裾分け? ま、まさか、僕を食べちゃうの?


「いやだ!」


 レイラさんはいつにも増して嫌そうな顔をしました。──ねぇ、僕のことは食べないよね? 最近、口元を赤くしてたから、心配なんですけど!


 すると、パパビーナさんはにこやかに微笑みました。


「冗談。冗談。揶揄っただけよ」


 レイラさんにそう言うと、彼女は僕の方を向きました。


「じゃあね。オーク君、次会うときはちゃんとすることしておくのよ」

「僕は何もしませんよ」


 僕がそうぼやくと、いつの間にかパパビーナさんは僕の耳元に口を近づけていました。


 え? どうして、そんなに早く動けるの? 絶対、三歩歩いた後、──足挫いた! って言ってたの嘘じゃん!


「あんまり彼女の思いを無碍にしちゃダメよ。彼女、いつか暴発してしまったら困るでしょ?」


 そんなこと言われてもこまるんですけどね!


「じゃあね! 二人とも! 次会うとき楽しみね!」


 パパビーナさんはそう言ってウィード君の肩に乗って帰っていきました。


 まぁ、僕は二度と会いたくありませんけどね。──あれ?


「なんでしがみ付くんでしょうか?」

「だって、オーク殿が奪われるんじゃないかって思ったんだ」


 そ、そんな子犬のような潤んだ目をされて僕はほだされませんからね!


次回は久しぶりにあの人が出ます!


次回、056.お肉大好き変態、再び!

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