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053.変態集団、豚女の集い

 

「なんであなたが泣いているんですか!」


 普通こっちが泣く方でしょうが!


 えっ? それはおかしい?


 当然、僕の方に決まっているじゃないですか。


 だって、怖い料理長に追いかけられて、逃げた先にナイフを谷間に挟んだ謎の美女が僕の腹にのしかかっていたんですよ!


 こっちの方が泣きたいですよ! もう!


「ごめんね。レイラちゃん、いくらなんでも泣きすぎよ。ほら、ひょっとこさんの真似! どう? 面白い?」

「あんたはどうしてそうやって泣き止まそうとするんですか!」


 どう考えてもバカにしているように見えるんですけど!


「しょうがないじゃない。私は妹が二人いるんだけど、二人とも一人立ちしちゃってどうやったら泣き止むのかわからないのよ」

「だから、そう意味じゃないんですよ!」

「じゃあ、どういう意味なの?」


 そう言われても困りますよ。


 まぁ、どうせあなたに(おもちゃ)を取られたって勘違いしているんですよ。


 あれ? いつの間にか泣き止んでる?


「うぇーーん!」


 なんか泣いたフリをしているような気がするんですけど!


 僕はちゃんとした大人ですから泣き止ませましょう。まぁ、どこからどう見てもただの嘘泣きですけどね!


「レイラさん。泣き止んだら、僕にハグしてもいいですよ」

「ハグっていつもやってるからもっと過激なものを」

「過激ってなんですか! 過激って! そっちは笑っているんじゃないですよ!」


 そもそも、ハグってあんたが勝手にへばりついているアレですよね! アレをハグって呼んじゃダメなんですか!


「だって、二人とも似た者同士だったから面白かったのよ」

「どこが似たもの同士なんですか!」

「さすがだな。パパビーナ殿。そういうことも簡単に分かるのだな」

「だから、似てないって! どこを見たらそう思うんですか!」


 って、パパビーナって何? 名前ちょっとおかしくないですか?


「だって、嗜好が似ているじゃない」

「どこがだよ!」

「それは失礼したわ。なら、需要と供給が一致した関係かしら?」

「さっき言ってたことと全然違うし、もっと分からなくなったよ!」

「とにかく、オーク殿が逃げたというから心配したのだぞ。それと、パパビーナ殿。来るのなら、早く連絡してくれ。あなたの妹が来たと勘違いしてしまうじゃないか」

「そっちはそっちで話を変えているんじゃない!」


 それに妹だと勘違いするって何? あの悪戯メイドってそんなにやばいやつだったの?


「いいじゃない。あなたが珍しく一匹のオークに執着するなんて聞いたら、居ても立っても居られないじゃない」

「そんなの僕からすれば、大迷惑ですよ!」

「そうか。なら、しょうがない。では、屋敷に戻ろうではないか!」

「ありがとう。レイラちゃん」

「あと、パパビーナ殿。あなたの妹をいい加減止めてくれ。あれがここ最近、毎日のように八咫烏を飛ばすのだ」


 飛ばす? だって、彼女の妹って確か屋敷にいるでしょ? どうしてそんなめんどくさいことをするんですか?


「少しくらいいいじゃない。あの子はあなたのことが大好きなのよ」

「私は人ではなくオークが好きなのだ!」

「私も同じだから分かるわー」

「分かっちゃダメでしょ!」


 二人とも、オークが好きなのはダメですよ!


 もっと、人間に興味を持ってください!


 パパビーナさんの妹さんの方がまだずっとマシですよ!


「そうか。オーク殿は知らなかったな。彼女は豚女の集いに所属している同好の士だ」

「は?」


 豚女の集いって何?


 ******


 僕たちは今、山を降りて歩いています。


 どうやら、あの危険生物から逃げるためにかなり遠くまで走っていたそうです。


 ちなみに、パパビーナさんは三歩歩くと足がもたないらしいので、レイラさんがおんぶしています。


 じゃあ、なんで僕のねぐらにいたの!


 聞きたくても、豚女というもっと聞き捨てならない話があるそうなので、聞けません。


「豚女の集いとはオークを愛でたい紳士、淑女が集う会なのだ」

「豚女って言っているくせにそこに紳士がいるのはどうしてですか?」

「それはこの集いが作られた頃に遡るわ」

「は?」


 何でそこまで遡るんですか? いい加減、これ以上話を長くするのをやめてくれませんかね。


「昔々、オークが愛らしい! オークが愛おしい! と思っていた淑女たちがいました」

「はぁ……。それが、豚女の由来なのですね」

「彼女たちは積極的にオーク狩、オークを愛でに森に行きました」


 今、狩りって言ったよね! 愛でるんじゃなくて狩りに行くんだよね! 


「しかし、オークを愛でるのは貴族としてはあってはならないことなのだ」

「まぁ、そうですよね」


 だって、イカれた謎の団体がいますものね。けれど、本来、人間であるはずのあなたたちにとって常識でしょ? 


「それもオークが魔物だからという理不尽な理由でだ! それは許されないことではないか!」

「いえ、魔物に近づくのはおかしいんじゃないんですかね?」

「彼女たちはその明らかにおかしい貴族の慣習に立ち向かうために徒党を組むことにしたの。それが豚女の集いなの」

「ただのヤバい奴らじゃないですか!」


 しかも、さっき僕が言ったことがガン無視されちゃった! なんで話を続けるの!


「ヤバいとか、危ないとか言ってはいけないぞ。オーク殿。我々はオークを思って、日々生きているのだぞ!」

「それにしては狩るとか言ってたじゃないですか」

「言ってないわ」

「言った」

「パパビーナ殿はそんなこと言ってないぞ!」


 これは意地でも認めないようですね。話を進めましょう。


「そもそも、オークイーターがオークを襲っているのはよく知られているのに、あなたたちの存在が知られないのはなぜですか!」

「オークイーターは子オークが嫌いなの。なんか芳醇な香りがまったく無いとか言ってたけど」

「初耳です。そんなことよりあなたたちはなぜバレていないんですか?」


 話をオークイーターに逸らそうとしないでください!


「間違えないで。これは保護なの。小さい頃からオークを育てたら、オークちゃんたちは理性を持つじゃない。これは正しいことなの」

「ま、まさか、村中のオークを一匹残らず駆「保護よ」

「保護? 何を言っているんですか! だって、そのとき、大人のオークはどうしているんですか! 村には大人オークがいっぱいいるでしょ!」

「そちらは悲しいことだけど、私たちが丹精込めて育てたオークちゃんと戦わせてるの」

「じゃあ、駆「保護よ!」

「まぁ、私はそういうのは認めていないがな!」


 ほんとにやっていないんですか?


 最近、血塗れですけど、あれってオークの返り血じゃないんですかね。


「ごめんなさい。けれど、それはリーズちゃんに言ってよ」

「あれとは会話が成り立たないのだが……」


 さっきからこの二人は何を言っているのでしょうか? どう考えても、一般人ではないでしょうが! それくらい手遅れな変態よりも会話が成り立たない変態がいる? そんな化け物がこの世にいるんですか!


「そういえば、このオーク君に紹介してあげたかった子がいるの」

「はぁ……。それは変態ですか?」

「そうじゃないの。オークよ。あと、変態っていうのは聞き捨てならないわ。レイラちゃん。ちゃんと育てているの?」

「わたしは少し反抗的な方が好きなのだ」


 そこ! なにうっとりとした表情で答えるんだ! 


「そう。ならいいわ。私もそういう子は好きだから」


 あなたもその表情をしないでください。もうあなたがあの悪戯メイドにしか見えなくなってきました。


「で、そのオークはどこに?」

「カモン!」


 パパビーナさんが手拍子をすると、緑色の大きなバケモノが現れました。


「こ、これって、オークなんですか!」


次回、054.哀れなオークたちが語りあうところに至るまで

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