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005.ストーカーさんの生態

いやぁ、この話は難儀でしたね。


少しタイトル詐欺だと思われるかもしれませんが、まぁいいでしょう。こんなときもあるさ。

 

 みなさん。おはようございます。

 朝が来ました。


 いや、そちらの時間はもうおやすみに入る時間でしたか。

 それはそれは申し訳ありません。


 しかし、こちらはもう朝なのでそんなこと気にしませんよ。


 ちなみに回想はもう終わりましたよ。


 ここから一応、はじまりとつながっています。


 ──いや、無理矢理つながっていることにしましょう。


 異論反論は受け付けません。


 いやぁ、昨日も怖かったですよ。


 人(オークですが、ぼくは人でありたいので、人ということにします)が木の実を拾っているところなのに完全装備で押しかけに来ますか?

 いくらなんでもおかしすぎません?


 あのあと、本当に危なかったんですから。


 まず、いつものように鬼ごっこが始まります。


 ちなみにあの必殺技は一回限りの役立たずの代物だったみたいです。

 2回目からはあの人も不気味な笑みを浮かべながら、自ら沼にダイブして追いかけてくるんですから。

 

 もう本当に怖い!


 しかも、近頃は夜になっても続くんですから。


 ──夜は瘴気だらけで人はとても出歩かないって言ったんじゃなかったのか?


 いや、ぼくもそう思っていたんですよ。


 しかし、7回目の遭遇の際に彼女は兜も被って全身武装してやってきたのですよ。

 いきなり完全装備の騎士が現れたので、僕は慌ててそこら辺になっていたリンゴを収穫するために持ってきていたはさみを持って、その人と相対したわけです。


 すると、「わたしだ。わたし。わたしだぞ、オーク殿」といういかにもどこかの小冊子に載っているよくある詐欺の事例に載りそうな台詞をのたまったわけですよ。


 一応、僕は耳がいい方なのですぐに彼女だと気づいたのですが、ここは知らない人のふりをすることもよさそうだと思って、そのまますれ違うように逃げ出したのですよ。


 ほら、オークって女騎士に構わず逃げるときもあっていいじゃないですか。

 むしろ、このとき逃げない以外の選択なんてないでしょ?


 そしたら、僕の腕を掴んで兜の顔の部分を開いて僕に見せてきてこう話しかけてきたのですよ。


「オーク殿。わたしだ。わ、た、し」


 なんか最後の『わ、た、し』がどこか寒気がしたのですが、それは置いときましょう。


 少し冷静さを取り戻した僕が


 ──どうして急に兜をつけてきたんだ?


と尋ねたところ、


 ──この兜は夜になると増えてくる瘴気をカットしてくれる優れものなのだよ。むふふ。これでオーク殿を一日中追いかけることができるぞ。


と恍惚の笑みを浮かべながら、彼女が身に着けている鎧についてひたすら自慢し始めたのです。


 このとき、僕の中で革命が起きました。


 これまで僕はただでさえ花粉を防ぎきれないのに、瘴気がカットされるマスクなんてあるはずがないと思っていたのですよ。


 ほら花粉症だったら、分かるでしょ?

 春になったら、鼻がむずむずしてマスクをしていてもあまり効果がないっていうことあるでしょ?


 瘴気なんて人間からしたら、害悪そのものなのですよ。

 それこそ毒ガスが夜になると一面にまき散らされるというわけですよ。


 そんなのガスマスクじゃないと生活できません。

 あれ、よく考えたら兜がガスマスクにも見えないわけでも……。


 ──いやいやどう考えても隙間があるじゃないですか。


 おかしいじゃないですか!

 

 ──これも異世界のご都合主義なのか!!


 じゃあ、どうして昼間は大丈夫なんだよ? って言われるかもしれませんが、ちょっとすみません。僕にも分かりません。

 

 ファンタジーの世界なんてそんなものでしょ。

 多分、夜は化け物の時間だから瘴気が流れているとかそういうことになっているんじゃないですか?

 

 ほらここって、理不尽なことがよくあるんですよ。

 だから気にしちゃいけません。しかし、へこたれてはいけません。

 この言葉を言えば、すっきりしますよ。


 もう異世界なんて意味不明で嫌!

 来世は元の世界に戻してくださーい!

 あと、できればイケメンであるともっといいです。


 女と話せないやつがそんなこと望んだって意味ねぇよ?


 そ、そんなのやってみないと、わ、分かんないじゃないですか!


 話を戻しますと、僕は彼女に一度は捕まってしまうんですよ。

 しょうがないでしょ。

 スピードは鎧を身に纏っているはずの彼女の方がなぜか速くて負けてしまうのですよ。


 ダメじゃないかと思ったそこのあなた!


 これは作戦なのですよ。ここからが一番大事です。

 耳の穴かっぽじってよく聞いてください。


 そして、彼女は急に鎧を脱ぎだしてこちらが何かをしでかすのを待つかのようにゆっくりと体をゆらゆら揺らしながら、装備を外していくわけですよ。


 まるで、どこかの“ピピッピー”のようですね。


 これをはじめて見たときの僕の感想をみなさんにお伝えしましょう。


 ──絵面がヤバい!


 普通逆でしょ!

 そっちが“ピー”になっちゃってどうすんの!


 普通“ピー”させるのこっちでしょ!

 このまま“ピー”までいっちゃったらどうしてくれんの。やばいじゃん。

 もうこの先どうすればいいの(泣)。


 そこで僕が決まって用意をするのはこの“スプレー型睡眠香”です。


 ただの催眠スプレーじゃねぇか! と言ったそこのあなた!

 実はこの催み・・・、ゴホン、ゴホン。


 失礼しました。ぼくは最近風邪気味なのですよ。許してください。


 あぁ、あぁ、あぁ。マイクテスト。マイクテスト。


 ――続けましょう。


 ところで、この睡眠香には様々な効能があるのです。


 ただの寝てしまうタイプのものや麻痺状態にしてしまうもの、さらに“アッハーン”な夢を見せてくれるものまで様々です。


 さすがに一度も最後のあれは使ったことが無いのですが、使い分けることによって彼女に免疫がついてしまうことを防いでいるのです。


 ちなみに僕は370種類の香りを持っています。


 どうだ、すごいだろ!!


 あぁ、ちなみにこれも心優しい狩人さんたちが落としてくれましたよ。


 どうせお前が強請ゆすったんだろ?


 失敬な!


 ちゃんと、お縄にぐるぐる巻きにしてから“ビュービュー”か“メキメキメキッ”、どっちがいいって聞いたんですよ。


 そしたら、決まって荷物は置いていくから縄をほどいてくれって言うんですよ。

 そして、いつも荷物を忘れて行ってしまうんですからね。


 ほら、別に強請ってなんかいないでしょ?

 

 僕はただ、お縄をつけて、質問をして、逃げた彼らが落とした荷物を拾っただけですよ。

 別に悪いことはしていません。


 ホントウダヨ。


******


 それからというもの、雨の日も、風の日も、吹雪が降る日も、瘴気がたくさん漂っているはずの真夜中にも、この約半年の間、ずっとあの人がやってくるのですよ。


 出没するところも様々でした。


 例えば、僕がいつも水浴びに使っていた川に一日中張り込んでいたらしく、すっぽんぽんの状態の僕にアタックしてきたり(もちろん貞操は守りました)、僕がかわいいうさぎちゃんを涙を流しながら血抜きしているところに押しかけてきたり(ちなみにうさぎはその後、別のオークに食べられてしまったとか)、しまいには僕のねぐらの藁が敷いてあるところにで寝ていたこともありました。


 いやぁ、あのときほど怖いことはありませんでした。


 ねぐらにドングリを持って帰ったら、ストーカーが僕の寝床で寝ていたんですから。

 そして、彼女は物音で目が覚めたのかむくっと起き上がってこう言うのです。


「おおーっ。奇遇だな、オーク殿。今日はあなたの寝床を温めたぞ。さぁ、“バッキューン”なことをしようじゃないか」


 あれほど怖いことはありませんでした。


 僕はこれまで何とか逃げ切れたのでいいのです。

 しかし、魔物を守る法律すらない理不尽な世界ならまだしも現代社会なら大問題だと思います!


 いや、考えてみてくださいよ。


 仮に知らないかわいい女の子が家に帰ったらなぜかいたらあなたはどう思いますか。

 そのまま匿ってムフフなことをするんだ! って言ったそこのあなた!


 美人局つつもたせならどうするんですか!

 特にその子がJKだったらマジでやばいですよ! 犯罪ですよ!

 この先、まともな暮らしができるかどうかも分からないじゃないですか。


 じゃあ、前世にそんな経験があったかって?


 そんなのあるわけないだろ! “ガッシャーン”が!


 ──すみません。つい取り乱してしまいました。

 申し訳ありません。


******


 さて、ここまで聞くと僕が彼女にとても愛されている、だからストーカーされているのだと勘違いをされる方もおられることでしょう。

 残念ながらそれは間違いです。完全な誤りです。

 

******


 あれは僕がキノコ狩りをしていたときのことです。

 僕が持ち前の嗅覚を使って、松茸、椎茸、毒キノコを探しまくっていました。

 

 ──言っておきますが、僕は毒キノコを食べませんよ。あくまで友達のためです。


 ぼっちだと言っておきながら、実は僕には友達が何人かいまして、その一人が毒キノコを好むんですよ。

 だから、僕は彼のために毒キノコを拾っているんですよ。別に悪戯じゃありません。


 ──勿論、ちゃんと僕が食べるものと区別していますよ。


 そんなときに何やら物音がしました。

 普段はこういうときは逃げているのですが、毒キノコを50本持っていますので何があっても大丈夫だと思っていたぼくは野次馬根性を出して物音のする方に向かいました。

 

 そこにいたのは例の女騎士さんでした。

 その上にはしっかりオークが跨っていました。


 なんかデジャブを感じた僕は頭をフル回転させてなんとなくこの経緯を察しました。

 ──どうせ彼女が負けたふりしてオークに押し倒されているだけだ、と。


 すると、僕と彼女は目が合いました。


 僕が彼女に微笑みかけると、彼女も微笑み返してきました。


 何という強心臓でしょうか。

 僕には決して真似ができません。 


 逃げ出したくなった僕は動揺しているオーク君(2号)に頑張れという視線を送ってから、そっと立ち去ろうとしました。


「待ってくれ!」

 

 ──彼女がこう叫ぶまでは……。

 

「え? お楽しみの最中だったのでしょう?」


 僕はにこやかな笑みを彼女に向けます。

  

「そんなわけがないだろ! わたしはあくまでオークに負けたからしょうがなくオークに押し倒されてしょうがなく“ピー”されようとしているのだ」


 それは何ですか?

 浮気した女性がまるで、彼氏に弁明しているように聞こえますが、──冗談ですよね?

 僕とあなたにはそのような関係はありませんよ。

 それなのに、どうして弁明するのでしょうか? 僕には分かりません。


「さて、僕は帰るとしましょうか」


 そう言って僕はしっかり分厚い軍手をはめてから、毒キノコを一つ投げつけました。

 すると、毒キノコは瞬く間に胞子を吐き出し、辺りは胞子でいっぱいになりました。


 このキノコは不思議なキノコで投げると胞子を出すんですよ。

 一度、なぜか野球のユニホームを着ていた狩人の方に投げつけられたことがあるのですが、あれほど狩人の方に痛めつけられたことはなかなかありません。


 まぁ、最近は痛いことばかりですがね。


 ──勿論、あんなバカな人に痛めつけられたことはありませんよ。

 

 さて、帰るとしましょ……。


「ちょっとなんてひどいものを投げつけてきたんだ? いくらなんでも酷いじゃないか」


 なんであなたがピンピンしているんですか!

 意味が分かりません。


 オーク君はぶっ倒れているのに、どうしてあなたは平気なんですか!


 いくら、催み、ゲフン。──睡眠香よりも弱い毒だからといっても、普通の人なら泡を吹いて気絶しますよ!


「もういやー! 誰か助けて~!」


 僕は追ってくる彼女から逃げ続けたのでした。

 幸いなことに彼女があのチート兜を被ってきていなくて助かりました。

 夜中も追いかけられていたら、今頃“ドッカーン”でしたね。


******


 とにかく、そんなことが何度もありました。

 こういうことが何度もあったからこそ分かったのですが、彼女はオークなら何でもありだそうです。

 

 若いオークとか、ダンディなオークとかそういうの関係なしにとにかくオークに“ドドド”や“チリチリリン”なことをされたいそうです。


 そんな彼女に目をつけられた僕は不幸です。

 誰か変わってほしいくらいです。


 とにかくそんなわけで僕はここ最近ずっと森中を駆け回ってへとへとなわけです。

 それに引っ越しが多くて困りましたよ。

 さすがにストーカーに居場所がばれたら引っ越すでしょ?


 これまで僕は215回ほどねぐらを変えたのですが、そのうち127回が彼女が原因ですよ!


 そうです! 127回です!!


 彼女のおかげで僕はへとへとです。

 もう二度と会いたくないくらいです。

 何としてでもオーラをかき消さなくてはいけないと思いました。

 ──まぁ、出来ていませんがね。


 ちなみに2位は絶対に名前を言ってはいけないあの大隊長(笑)なのですが、どうでもいいでしょう。別にあんな人のことなんて。


 とりあえず、今日もいつあの変態が現れるか不安で不安でしょうがないので今日はこの辺で終わりにしておきます。


 異論反論は受け付けません! 以上。


次回、006.オークの食事事情

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