040.お兄様その1との決闘
「決闘?」
何やらお嬢様が一段とピクピク震えていますが、どういうことでしょうか?
なんか変なこと期待していないでしょうね。
「古来、婿と言うものは兄と戦い、勝ってこそ婿になるのだ」
「そんなの聞いたことねぇよ!」
「所詮、下賤なオークか」
そう言って、お兄様は唾を吐き捨てます。
そんなことしちゃダメですよ! 第一、あんな刺激的なものを飲んだのに、そんなものを吐き出したらまずいでしょ!
「いや、オークじゃなくても今どきそんなことありますかね?」
「ナッシング」
「まぁ、ねぇな」
「ほら。無いって言っているじゃないですか」
「そんなわけないだろ!」
すると、女騎士さんは突如口を開きました。これまで黙っていたのですが、いったい何をしでかすか分かりません。
「——いや、あるぞ」
「今度はいったい何を考えているのですか」
「いやぁ、兄上がまさかオーク殿ことをわたしの婿だと認識していたとは思わなかった」
「――いや、お兄ちゃんは認識していないぞ。むしろ、考え直してほしいと思っているよ。それならいっそ俺と結婚してほしいくらいだ」
これは重度のシスコンですね。
女騎士さんを見ると、例の裏切り者と遭遇したときくらいひいています。これは珍しいことです。あの裏切り者のドワーフ以外に彼女を怯えさせたものはありません。
サキュバス? あれは気のせいです。むしろ、レレミナちゃんのかわいさを理解できないあの人が悪いのです!
「まぁ、せっかくだしやってみたら?」
メイド長さんは朗らかな笑みを浮かべながらそう言いました。
「なんでですか! この人たちを喜ばせるだけじゃないですか!」
「あなた強いのにどうしてビクビクしているの?」
「いや、この変態さんの兄だから強いでしょ」
「案外そうじゃないわよ。ほら、レイラ様に比べたら誰も弱いって思えばいいのよ」
「オークイーターは?」
「——あれはしょうがないことよ」
「ですよねー」
すると、シスコンお兄さんはこれまで我慢してきたのかこう言いました。
「お兄ちゃんはお前を変態呼ばわりするやつなんか絶対に認めないぞ!」
「変態とは心外だな、オーク殿。――まぁ、そこがいいのだが」
おい! てめぇ! そんな頬を火照らせてそんなことを言ってはいけないぞ!
「何だって! くー! もういい。決闘だ。首を洗って待っていろ」
やっぱりこうなったじゃないか! いやだよ! 死にたくないよー!
******
もうすぐ決闘なのですが、少し、——いや、かなり待たされています。
たしか一時間後には帰らないといけないと言っていたはずなのですが、おかしいですねー。とっくの昔に一時間を過ぎていますよ。
それなのに、なぜ僕は待たされているのかと申しますと......。
「なんで俺の聖剣が認められないんだ!」
この危険なシスコンは武器を持ち込もうとして止められていました。
これって、決闘ですよね?
なのに、どうして武器がダメなのですか?
まぁ、安全であれば何よりですが……。
「いくら、魔物の腕を生やすことが容易いとはいえ、それはさすがに不味いでしょ。これはあくまで決闘ではないんですから」
あれ? 魔物の腕を生やすのは容易いことなのですか? そんな話聞いたことありませんよ! そこのところもう少し詳しく教えて欲しいです!
「そんなことをいうな! 俺はこいつに成敗するんだ!」
「レディ・レイラの言うことは絶対です」
片言さんがそう言うと、変態女騎士さんは上目遣いをしながら、お兄さんに話しかけました。
「お兄様。わたしはお兄様がわたしのために怪我をしてほしくないから聖剣を使って欲しくないのです」
「はい。分かりました」
てめぇ、すんなり意見変えるんじゃねぇ! そのニヤリとした笑みを見ろ! どっからどう見ても、——しめしめ、と思っているかもじゃないか!
「さて、決闘といえば、賭けだな。賭けをしようではないか! 俺はお前が出ていけばそれでいい。――まぁ、お前はどうせ「喜んで」……?」
しばらくこの会場を沈黙が包み込みました。
「――今、何と言った?」
「え? 出ていくって言いましたけど」
僕たちはこのとき、まるで数十年会っていなかった竹馬の友と再会したかのように力強くがっしりと手を握り合いました。
「お兄さん、気が合いますね」
「お兄さんとは呼ばれたくはないが、この際これほど喜ばしいことは無い」
僕たちはレイラさんの方を向けてこう言いました。
「「さぁ、レイラさん(たん)! 僕(オーク)が出ていくと言っているので、この決闘はなしだ!」」
「そんなの認められないぞ!」
「何だって!」
「決まっているだろう? あなたはわたしの夫なのだ。それは揺るがない事実なのだ!」
「いったいいつから!」
「決まっているじゃないか。この屋敷に入った瞬間だ! それに、みんなが認めてくれているのだぞ」
「いやいや、そういったらあなたは×何個あるんですか?」
「そんなのレディに聞くことではないぞ! わたしは“ピー”だ! だから、問題ない!」
「お前、裏切ったな!」
いきなり、血の涙を流すシスコン変態が謂れのない罪をふっかけて、僕に襲いかかってきました。
「理不尽!」
僕はこのとき、僕の身代わりになってくれたオークの微笑ましい顔を思い出しました。
しかし、その朗らかな微笑はすぐに消え去り、僕は現実に戻ってしまいました。
「あれ?」
斬られた気がするのに、痛みがなかったのです。
なぜだ。なぜなんだ!
「だから言ったでしょう? オーク君、レイラちゃんより強い子はいないのよ」
「そう、みたいですね」
メイド長に言われてようやく思い出しました。
そう。この世で一番怖いのは女騎士!
この世で一番危険を感じるのは例のオカマ!
僕はシスコン程度で怖がるオークではありません!
「な、何だ? いきなり、俺の頭を掴んで何をしようとしている!」
「なーに、あなたも骨や終末期な方のように吹き飛ばすだけですよ。そう。こうやって!」
「骨といい、終末期といい、いったい誰のことなんだ!」
うむ。うまく飛びましたね。案外、僕は強いようですね。逃げ足だけが取り柄だったのですが、少し自信がつきました。
「今日のところはひとまず引き上げることにする! しかし、絶対に許さないからな~!」
そんなこと僕に言わないでくださいよ。さて、これで危険はなくなっ......。
「——ってなに、へばりついているんですか?」
「決まっているだろ? オーク殿が勝ったし、結婚が認められたのだから当然抱き着くだろ? 旦那様」
「ピギャー!」
このハグは嬉しくない!
次回、041.超簡単! 自動殺戮機械の作り方




