039.王都暮らしの自動殺戮機械(オートキリングマシーン)のお兄様その1が現れた! 居候のオークはどうする?
「レイラたーん! 会いたいぞー! 早く門を開けてくれー!」
なんか騒がしい変態がいます。
ほら、鎧を着たイケメンが門に頬ずりしたり抱き着いていたら、変態って言いませんか?
言わなかったらあなたの感性はおかしいですよ。
ほら、自分の家のドアが頬ずりされていたら誰だって怖いと思いません?
逃げ出したくなる気持ちわかりません?
そういうことですよ。分かってくれましたか?
「おい! ミカエラ! そこにいるだろ! 早く開けろ! お兄様が来たとレイラたんに伝えてくれ」
えっ!
片言さんの本名ってミカエラさんだったんですか! 言葉を教えてもらっているのに、まったく知りませんでした。
「レディからブラザーが来たら、キープしておけと言われているので入れません」
「それって意味違うよ!」
──キープってとっておくって意味じゃないですか? 多分、お嬢様は放っておけって言ったんでしょ?
よく考えたら、どうして僕がそれについて説明しなくちゃいけないんですか!
「いい加減、開けてくれ! 俺もあと一時間したら、王都にすぐに戻らなくちゃいけないんだ」
「じゃあ、どうしてカムしたんですか?」
「かわいい俺の妹に会いたいから」
「ゴーホーム!」
「なぜなんだ!」
たしかに犬みたいな扱いされると嫌な気がしますね。 ──いや、犬も門にへばりつく変態と同じにしないでくれ、と思っているかもしれませんね。
「そんなことよりなんでそこにオークがいるんだ!」
「お嬢のペットだよ。そんなのも分かんないのか? お兄様?」と、キーラさんが言いました。
「僕はペットじゃありません! 客人です!」
オークだからペットと決めつけてはいけませんよ!
しかし、お兄様は少し溜息をついてからキーラさんの方を向きました。
「お前、メイドだろ! なんで主人の兄に偉そうにしているんだ!」
「え? オレ様の主人はお嬢だけだぜ。だから、あんたみたいな変態に従う筋合いはないぜ!」
「理屈が分からん!」
「さて、いい加減、人の家の玄関に変態が引っ付いているのも困るわねー。やーっておしまい!」
「「「ラジャー!」」」.
メイド長様の命令により、お兄様に放水銃が放たれました。
その中には黒蜥蜴に水を飲ませて、その水をお兄様にぶちまけるキーラさんの姿がありました。さすがに、それはひどいですよ。
「おい、なぜ水をかけるんだ!」
「え? ゴミは洗い流せって言うんじゃないの?」
「俺はゴミじゃなくてお兄様!」
すると、何やら玄関が騒がしいことに気づいたレイラお嬢様がドレス姿で現れました。
「あぁ、うるさい。どうして、こんなに騒がしいんだ? ──オーク殿。お久しぶりだな。ところで、昼食を一緒に取りたいのだがどうか? メインは分厚いグレートブルのステーキだが?」
「いただきましょう」
毎日、人の家で紛争をしているくせにお久しぶりとはおかしなことをおっしゃいますね? まぁ、グレートブルのステーキは美味しいので喜んでいただきましょう。
「おお。それはありがたい」
彼女は僕の腰に手をやってエスコートしました。なんか立場が逆な気もしますが、グレートブルが僕を待っているんだと思うと、うれしくてしょうがありませんね。
「レイラー! なぜ兄ではなく、オークに構うのだ!」
「え? あなたはお兄様じゃないですよね? お兄様がそんなセミみたいに門にへばりつくわけありませんよね?」
「お兄様だぞ!」
その声を聴いたレイラさんは目を見開いて驚いた顔をしました。
「ほんとだ!」
******
結局、水に濡れてびちょびちょになったお兄様はしばらくお風呂で温まっているらしく、僕は優雅に変態さんと昼食を取ります。
いやぁ、相変わらずこの牛肉は素晴らしいですね。あの“ござるロリコック”が作ったとは到底信じられませんよ。
「ところで、あの人は何ですか?」
「ただのシスコンだ」
変態さんは自信満々に答えました。
「え? お兄様ではなく?」
「シスコンだ」
「──それってどういうことですか?」
「わたしは9人兄妹の末っ子で一人娘だからな。人一倍愛されていたのだ」
「ほう。それでシスコンが量産されたと?」
「まぁ、そういうことになるな。わたしはかわいかったこともあるからな。すでに結婚した兄以外は魅了されてしまったらしく、軒並、生き遅れになった。だから、わたしも25で結婚していなくとも問題ないのだ」
「それ、問題しかないですよ? 普通生まれたばかりの妹に魅了される兄なんていないですよ」
「いや、わたしとしてはそんな兄しか知らないから分からないのだよ」
「あんたの家庭がおかしいんだよ!」
「まぁまぁ、とにかく妹は愛される生き物なのだよ」
「はぁ……」
いったいこの人はどこの世界の人なんでしょう。さっきからおかしいことばかり聞かされているような気がします。
「ちなみに、あの兄は三男で今年で四十になるはずだ」
「まったく四十に見えねえ!」
会話が弾んでいると風呂上りのシスコンお兄さんがやってきました。
「なんか、会話が弾んでいるようだが、なんの異常もないよな?」
バスローブ姿がカッコよく見えてしまうところを見ると、なんか無性に腹が立ちます。──いえ、血の涙を流しているところを見ると、カッコよさが薄まりました。
お兄さんはアフロヘアのメイドさんが用意した椅子に座ると、近くにいた眼鏡をかけたメイドさんに声をかけました。
「ところで、わたしにご飯は?」
眼鏡をかけたメイドさんが申し訳なさそうな顔をして、お兄様に話しました。
「ランチは人数分しかありません。出せるのは紅茶しかありませんが?」
「まぁ、いい。わたしは修行しているからな」
修行? 紅茶を飲むのに修行なんて必要なのでしょうか?
すると、彼の目の前に禍々しい紅茶が渡されました。──あれ? これはどう考えても色が違います。これは紅茶というよりもシンプルに紫色の何かですよ!
「ふむ、美味だ。なかなか今日も刺激的だな。どんなものを入れているんだ?」
眼鏡をかけたメイドさんはポケットから紫色の液体が詰まった瓶を取り出して言いました。
「新しく仕入れたこの森に自生する生き物から取り出したエキスがいいものですからそれをふんだんに使いました」
僕にはどう考えてもこう聞こえたんですが、気のせいでしょうか? 気のせいだといいのですが!
「ほう。ではあとで欲しいな。また、飲んでみたい」
「すみません。これが当家にある最後のものでして」
「なんと!」
いや、待ってください。さっき、小さな瓶でしたが、たんまり入っている毒を見せられたじゃないですか!
それをどうしてこの一杯限りだと勘違いしているのですか!
「とにかくあなた様だけに召しあがってもらいたかったのですよ」
「ほう。それはありがたいが、ちょっと失礼」
そう言ってから、彼は駆け出していきました。
「どこに行ったんですか?」
「どうせトイレでしょ?」と、キーラさん。
「まぁ、あの人も鍛えてますから腹痛で収まっているのでしょう?」と、眼鏡をかけたメイドさんが凛々しく答えます。
「あんたらひどいな! あの人、あぁ見えて偉い人でしょ!」
「えぇ、一応お嬢様のお兄様ですから」と、眼鏡をかけたメイドさんが頷きます。
「じゃあどうしてあんな仕打ちを?」
「「「そりゃ、消えてほしいからでしょ」」」
なんかみなさん、お兄さんに辛辣ですね!
******
「ふー。今日もなかなか刺激的な愛をありがとう」
お兄様はレイラさんに笑顔でそう話しかけました。
レイラさんは引きつった笑みを返すだけです。 ──おい! あんた、お兄さんになんて曖昧な返しをするんだ!
「ところで、なぜオークがわたしの妹の屋敷にいるのだ?」
「それはレディがプロポーズしているからです」
相変わらずあの禍々しい紅茶に口をつけるお兄さんの顔が硬直しました。
そして、ブーと吐き出しました。
僕たちは咄嗟にそれをお盆などで防ぎました。
本当にここにお肉が無くて助かりました。
さすがにキング君のた、 ゲフン。 ──エキスだからとはいえ、刺激的すぎるのでそうは受け入れられませんからね。
ん? 何やらお兄さんがぶるぶる震えていますが、これはどういうことでしょうか?
「もういい。決闘だ! 勝負だ!」
えっ? どこにそんな決闘する要素がありましたか?
次回、040.お兄様その1との決闘




