038.アンドルセン家別邸で流行中のアレ
どうもオークです。
極悪非道なメイドさんたちにうさぎちゃんたちも取られて、キング君はただのスライムにされて悲しい思いをしているオークです。
家畜生活から脱出したとはいえ、この世界、──いや、この屋敷での生活は残酷です。
僕のようなオークには幸せなんてものは認められていないようです。
よくよく考えてみると、毎日木を切るときも。日向ぼっこしているときも。言葉を教えてもらうときも。さらに、ちょっと用を足しているときまでメイドさんに監視されていました。
一度、「きゃあ!」とかわいらしく叫んでしまったことがありますが、彼女たちに「豚が“ピー”しているところなんて見ても問題ない」なんてハンカチで鼻を押さえて言う始末。
──僕は何ですか? ただのペットですか? それとも珍獣?
珍獣と思っているならそっとしておいてほしいですね。
いや、あの人だけは違いましたね。
とあるストーカー5号様は相変わらず、夜な夜な僕の小屋(もうかれこれ三週間以上おじいさんが戻ってきていないため、僕の小屋と化してしまった)に忍び込もうとしています。
こそこそ覗き見をするよりも、堂々と人のプライバシィにずかずかと踏みこんでくる気概は認めます。
しかし、それを人の幸福だと思っているのだけはやめてほしいです。
さて、近頃、僕にちょっかいをかけてくる腹立たしい意地悪な桃色の髪をしたメイドさんが視界に入ってきました。──おやおやなんか変なかごを持ってきましたね。
「ねぇ、オーク君?」
「何でしょう? 正直、あなたと話すことはありません」
「ぷー! つれないな」
「そんなこと言ってもかわいくありません」
「まぁ、いいよ。かわいさよりもセクシーさを売りにしているから」
それにしては胸のあたりが極度に薄い気がしますが……。
「そうは見え「るでしょ?」──見え「るでしょ?」──見えます」
「そうそう。それが正しいよ。くれぐれも貧乳とかそういうのは言わないでほしいね。こう見えて「君の鎖骨は実に美しい」なんて領主さんに下卑た面で言われたことがあるんだからね」
「そこ自慢します?」
「さて、セクシーさをも一つ習ったオーク君にお誘いをしましょう」
「何ですか? 帰ってください」
彼女がセクシーを少し履き違えているような気がして、つい、帰れと言っていまいました。色んな人にお詫びを申し上げます。
「ぷすー。あんまり女性と話したがらないとモテないよ」
「──いいでしょう。話をしましょう。ただし、5分だけですよ」
「──なんなの……。この変わり身」
そこでひかれても僕は何も変わりませんよ。
「──さて、何の話ですか?」
「賭けだよ。それもあなたが何日生き残れるかの賭け」
「なんてこと勝手にしてくれてるんだ!」
「ちなみに胴元はわたしだよ!」
「どう考えてもそうだと思ったわ!」
「誰が守銭奴だ!」
「守銭奴とは言ってなーい!」
「まぁ、とにかくこれから賭けをしましょうよー」
「僕が生き残って森に帰るの一点賭けです」
「それって大穴中の大穴じゃん!」
「えっ! どういうことですか?」
「それでもいいならいいけど。今のうちに変えておく方をお勧めしておくかな?」
「──いろいろ聞こうじゃないか」
僕にそう尋ねられた彼女は懐からメモ帳を出してぼくに掛けの内容について説明してきました。
「今、賭けで一番人気なのは五日以内に死ぬので、1.08倍だよ」
「それほとんど賭けになってないじゃないっすか!」
「ちなみに、2番人気は1日」
「それ賭けになっているんですか?」
「だから、みんな大損しているんだよ。けれど、みんなオークが生存するほうにかけないんだよね」
「どうしてですか?」
「生理的に嫌!」
「それ一番ひどい理由!」
「ちなみに、1人だけお嬢様と結婚することに賭けているよ」
「それだけはやめてくださいよ!」
そもそも、誰がそんなことを賭けたんだ!
ひょっとして、女騎士様?
それとも、あの置物ババア?
いい加減、そんな妄想考えないでください!
「けれど、生き残るためには素直に婿入りする方がいいかもね」
「それって死亡フラグ立つじゃないですか?」
「ふらぐ?」
フラグを知らないとはなっていませんね。あなたの知り合いのメイドさんに聖言語に詳しい方がいるでしょ? その人から聞いたことがないのですか?
「──まぁ、死ぬ危険性が高いっていうことですよ」
「まぁ、これまでお嬢様の寝室に入って生きて帰ってきたオークは一匹もいないからね。帰ってきたとしても粉になって帰ってくるもん」
「お肉にすらなってない!」
「だから、領民から非難を受けてね。最近は一度豚小屋に入れて調教してからそれでも生き残ったどうしようもないのをしょうがなくお嬢様に献上しているの」
「僕はどうしようもないやつに入るんですか!」
「だって、欲まみれじゃん」
「僕はあくまで逃げたい欲しかありません」
「うさぎに関しては? どう考えても犯罪者の類にしか見えないけど」
「──そ、それはその」
まさか! 僕のうさぎちゃんたちに対する愛が変態扱いされるとは……。
たしかに、少し熱く語り過ぎるところはありますが、それは彼らが可愛すぎるせいなのです。
けれど、いくら僕をいじめる悪い女性だとしても、その人に変態だと思われたくないしなぁ。
僕は意を決して答えました。
「だって、かわいくておいしくてほおずりしたくなるじゃないですか〜。僕の衝動は誰にも止められませんよ」
「ひくわー」
「ひどい!」
なんでですか! これが最適解ではないのですか!
「──けれど、危険なのはうちのお嬢様だけじゃないからね〜!」
「え?」
「あの黒蜥蜴もいるし、メイドの中にも屈強な戦士はいるしね」
「一部、マジで筋肉な方もいますしね」
あの腑抜けた蜥蜴はひとまず置いときましょう。
まぁ、誰とは言いませんが、あの方はかなり鍛え抜かれた筋肉を持っていました。──ただし、それがメイド姿でなかったらよかったのですがね。
「筋肉は必要だよ?」
「知っているよ!」
逃げるときには欠かせませんからね!
「──まぁ、それ以外にもいるんだよ。おじいちゃんに、マダムに、シェフもすごいよ」
「あのロリっ子が?!」
「ロリって言ったら三枚おろしされるから気をつけてね」
「それ、魚じゃないですか!」
「俎板の鯉っていろんな生き物にも言える言葉じゃないの?」
「だからと言って、オークである僕を魚にたとえないでください!」
「そうだね。肩ロースにフィレにもも肉、ランプ、カルビ……」
「──なんか適当に言っているけど、僕は解体してほしいわけじゃないからね」
「そういう意味じゃないの?」
「だから言っているじゃないですか。生きて逃げるに一点賭けって」
「お金は?」
「後払いで」
「逃げた人に払う金もないんだけどね」
僕が彼女と話し込んでいると、何やら門の方で黄色い罵声が聞こえてきました。何かあったのでしょうか?
──ひょっとして、僕を罵る声ですか? さすがに、それは傷つきますよ。
「あぁ、今日はたしかレイラお嬢様のお兄さんが来るらしいね。死んだね、あなた」
「うそー!」
次回、039.王都暮らしの自動殺戮機械のお兄様その1が現れた! オークはどうする?




