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037.アンドルセン家別邸よりみなさんへ

 

 どうもオークです。


 逃げると言っていたにもかかわらず、未だに逃げ出せていないちょっと臆病チキンなオークです。


 オークだから、チキンとか言ってんじゃねぇよなんて言わないでくださいね。


 僕もちょっとカッコつけてみたいんですよ。


 ほら、最近いろいろあったじゃないですか。


 え? お前のことなんて知らねぇし、興味がない?


 よろしいです。そんな声も十分承知したうえで、説明しましょう。


 最近、 ──と言っても先日に既に申し上げたと思うのですが、僕は豚小屋での家畜生活から無事卒業し、解体屋のおじいさんの住む小屋に泊めてもらっています。


 まぁ、いろんな事情で屋敷から離れたところに住んでいるらしいのですが、意外と常識人でした。


 ほら、出会い頭に命を懸けた鬼ごっこをした相手なら第一印象なんてどん底ですよ。


 それでも、ここ二週間ほどでその印象は急激に上昇しました。


 まず、普通に話せる。


 ほら、今まで僕が会ってきた人たちはごく一部の方は除いておかしな人がいっぱいじゃないですか。


 オークに“ピー”されたい人とか、中二病で自分が悪役の幹部だと思い込んでいるのに、その設定に付き合ってくれる美しい女性がいるうらやまけしからん人とか、見た目がどう考えてもオークなのに、人間だと思い込んでオークのことを師匠だなんて勝手に言って慕う変な青年とか、エトセトラ。etc。


 数え上げただけできりがありません。


 とにかく彼らとは話がかみ合いませんね。


 以前から僕の愚痴を聞いてくれている心優しい方々ならきっとわかっていただけるでしょう?


 あの人たちの非常識さに。あの人たちの理不尽さに。


 勿論、あのおじいさんもちょこっとだけお嬢様を慕っていますので、僕に無理難題を押し付けようとするところがありますけどね。──あれ? 普通に悪い人に見えて来ちゃったぞ?


 さて、そのおじいさんの小屋で起きた僕はどこからともなく現れたおじいさんと朝ご飯を食べてから木を斬ったり、メイドさんたちに頼まれて大きな荷物とか運んだりしています。


 ──あの人たちは非力じゃないと思ったそこのあなた。そういうことは人前で言わないものですよ。


 さて、その合間に片言さんに呼び出されると、言語講座が始まります。


 ぶっちゃけオークである僕には必要ではないのですが、片言さんがなにやら実験したいらしくて、僕はそれに付き合って勉強しています。


 しかし、その文字がなんか残念なんですよね。


 普通、異世界の言語といえば、楔形文字とかアルファベットが変形したものとかそういうのを想像するでしょ?


 それがなんとひらがなの鏡文字なんですよ。


 ほんと苦痛しかありませんよ。


 ほんと書きにくいし、読みにくい。


 けれど、読めないことは無いし、書けないことも無い僕はすんなりその言葉を読み書きできるようになりました。それを見た片言さんったら「アンビリバブル」しか言わないんですよ。


 そう遠くないうちにこの時間は無くなりそうですね。ヤッタネ。


 さて、夜は片言さんからもらった絵本を読みながら、眠くなったら寝ます。


 最近、おじいさんはどこか外に出ているらしくて好きな時間に蝋燭の火を消して寝られるのですよ。


 まぁ、それはいいのですが……。


「嫌だー! 私はオーク殿とあんなことやこんなことをして$%##”%#!」

「何言っている、んですか。お嬢。あんな汚らわしいクソぶ……」

「 ──キーラ。あなたはさっきなんて言いましたか?」

「い、いえ、クソぶったくせに妙にイカした野郎って言ったんですよ」


 これで褒めているつもりなんでしょうか? 僕にはそう聞こえないのですが。


「ならいい! じゃあ、わたしはそんな素晴らしい人に会うんだからそこを退いてくれ!」

「いいえ、許しませんよ。来い、“べべべべべ”!」

「GYAOOOOO‼」

「お前は“ボボボー”じゃないか! どうしてそこにいるんだ!」

「フフフ。お嬢の代わりに躾けておいたんですよ。普段は役に立たないただの空飛ぶ大蜥蜴ですが、こういうときのために壁になってくれるでしょう!」

「くっ! 裏切ったな、“ボボボー”! えーい! どこからでもかかってこい!」


 そんな感じで人が寝ようとしている小屋の前で怪獣戦争を起こすんですよ。


 近所迷惑もいいところですよ。


 だから、おじいさんも逃げたのかな?


 ──やっぱり、あの人信じられねぇ!


 とにかく、その怪獣戦争はひどいものでたまに包帯ぐるぐる巻きのメイドさんに会うことがあるのですが、その痛ましさは言葉に言い表せません。


 「本当にお勤めご苦労様です」って言いたいところですね。


 けれど、そんなことを僕が寝ようとしているところで毎晩毎晩戦争を起こさないでほしいですよ。まったく、もう。


 そんな毎日を過ごす哀れでかわいそうな豚である僕なのですが、最近気づいたことがあります。


 ここの庭にはたくさんのゴールデンうさぎちゃんがいるのです。


 そう! 小さいのがとっても可愛くて、丸いお尻をして、つぶらな瞳が輝くうさぎちゃんですよー!


 こら、今、良からぬことを思ったそこのあなた。


 僕はそんなことを一言も言っていないでしょう。


 まったく、人を犯罪者扱いしないでほしいです。


 さて、最近、上質な牛肉を食べて少し太ってきたかもしれない僕ですが、ゴールデンうさぎちゃんと比べると牛さんでは物足りませんね。


 では、いただきましょう。ブヒ……。


 僕は駆けだそうとした途端、罠にかかりました。


 あっという間に左足が大きな木につるされた哀れな猪の図が出来上がりました。


 おい! これはいったいどういうことなんだ! ぼくはただ、彼らを美味しくいただこうとしていただけなのに!


「そんなのダメですよ。メ!」


 かわいらしく悪い子を諭すように注意する茶髪でショートヘアのかわいらしいメイドさんが木に吊るされた僕の目の前に現れました。


 うん? また新キャラですか?


「新キャラって何ですか! ほら、あなたを捕まえる際にいたじゃないですか」

「心が読めるの?!」


 なんか誰かと被っているじゃないですか!


「被ってなんかいませんよ! さっきからあなたが独り言のように言っているからじゃないですか!」

「嘘!」

「嘘じゃありませんよ!」


 僕の独り言がそんなに大きいですかね?


 僕はそう思わないのですが、あなたはどう思いますか?


「さて、そんなことよりもあなたに言わなくちゃいけないことがあります!」

「僕は無実です。信じてください」

「そかに仕掛けてあった罠で引っかかっている時点で無実とかおかしいんじゃないですか」

「どうして!」

「どうせ、あなたのことだからこの黄金兎ちゃんたちを汚らわしい目で見たんでしょう」

「人をロリコンのように言うのはやめてくれませんかね? 僕はあくまでうさぎちゃんをみていただけですよ。それなのに、どうしてそんなに睨みつけるんですか?」

「この子たちはとても貴重な生き物なのです」

「え?」


 どうして貴重なの? 貴重って言うのはツチノコくらい滅多に見ないっていう意味じゃないの?


 僕、結構会っているんですけどね。


 一瞬、追いかけそうになるのですが、彼らのかわいさを見ると、まだ一ヶ月経っていないことを思い出してしまい、泣く泣く見逃しているわけですよ。ごく一部のうさぎちゃんは連れて帰ってしまうのですが、それは気にしないでください。


「この黄金に輝く毛並み、ツンと張った耳、つぶらな赤い瞳に、愛らしい前歯、そして天敵から逃げるために鍛え上げられたにもかかわらずそう見せない脚。こんなにかわいいうさぎちゃん、一生お目にかかれるかどうかも怪しいくらいですよ」


 ──あなたも十分変態だと思うのですが、気のせいでしょうか? おっと、女性を変態呼ばわりしてはいけませんので、とりあえず彼女の話にのってあげましょう。


「え? 僕、一日に2,3回くらい会いますけど?」


 一瞬、彼女はかわいらしく目を丸くして驚きましたが、すぐに僕を蔑むような目を向けてきました。


「──どうせ、手あたり次第乱獲して養殖場とやらに入れていたんでしょう?」

「それはあくまで保護のためですよ! 食用は野生の子たちにしていますよ!」

「嘘でしょ! ほら、こんなにビクビクしているじゃないですか。まるで、天敵を見ているような目をしていますよ」

「ほら、信じてください。僕はぱぱでちゅよ」


 僕がにこやかな笑みでそう言うと、彼らはそそくさと逃げていきました。


「ガーン!」

「口で言ってもかわいくありませんよ」

「これはどういうことですか?」

「わたしもよく分からないのですが、この子たちは錯乱の魔法がかけられていたらしくそれを解いたのですよ。そして、保護したまでです」

「どうして僕が保護していたのを知っていたのですか! ──っていうか、一度も錯乱の魔法なんてかけていませんよ!」

「前にわたしたちがあなたを監視していたって言ってませんでしたっけ? あと、錯乱の魔法はかけていないと説明がつかないのであなたの言うことは信じません」


 そ、そんな……。──アレ? 今、なにか怪しいこと言わなかった?


「ところで、僕が集めた魔法道具の数々も」

「はい。接収しました。どこかで戦争を起こせるくらいの魔法道具の数々でしたからね。当然のことですよ」

「そんな!」

「どうせ、このうさぎちゃんたちみたいに力で奪い取ったのでしょう?」

「──僕は相談したうえで受け取ったのですよ」

「じゃあ、何で木をなぎ倒す必要があったのですか?」

「そ、それはその……」

「とにかく、貴方がため込んでいたものはすべて接収しているので」


 そのとき、僕はあることを思い出しました。


「──そういえば、キング君は?」


 そう。キング君です。僕の友達のキング君です。


 あのとき、スラ子さんに攫われていきましたが、彼は命からがら僕のもとに帰ってきたんですよ。


 それからというもの彼は壺の中に入っていっこうに出て来なかったんですよ。かれこれ、一か月近く会っていないので心配です。


「誰ですか? 王様人形のことですか?」

「そんなの知りませんよ!」

「王様人形って、王様が即位するたびに作られる人形のことです。愛称が“キング君”なんですよ。この国の王宮はそれを使って子どもから人気を得ることによって臣民の王家に対する忠誠心を早いうちから育ているんですよ」

「なんか急に下世話な話になっちゃっているんですけど! それに、僕はそのことを言ったわけじゃありませんよ!」

「じゃあ、何のことですか?」

「ポイズンキングスライムのキング君ですよ」

「なんで笑うの!」

「ネーミングセンスが無さすぎません?」

「失敬な! 僕のネーミングセンスをバカにしないでください!」

「じゃあ、この子にはなんて名前を付けるんですか?」


 そう言って、彼女はそこら辺をほっつき歩いていたゴールデンうさぎちゃんを持ち上げました。 ──うむ。眼福。これは素晴らしい名前をつけなければなりませんね。


「──ぴょん吉」

「何ですか。その変な名前」


 彼女は大笑いしています。いったいどこに面白みがあるんですか!


「ひどいですよ!」

「キングスライムのことですね」

「そうですよ。僕のネーミングセンスをなじる必要がありましたかね?」

「さて、これからあなたに彼のことについて話しましょう」

「何でしょうか?」

「こちらに来てください」


 彼女はそう言うと、僕の左足にかかっていた縄をナイフで切り裂いて手招きしました。


 彼女の後をついていくと、倉庫の前に着きました。倉庫の前を護衛しているメイドさんに彼女がいろいろ話すと、彼女たちは小さい瓶を持ってきました。


 そこには、とっても小さくなったキング君がいました。


「な、な、なんてことをしたんですか!」

「決まっているでしょう? わたしたちはお嬢様の危険を排除するためにいるんですよ。だから、これくらいも当然です」

「それが僕の友人をこんなに小さくしていい理由にはなりませんよ!」

「ついでにお嬢様を守る毒も手に入ったのでありがとうございます。これでわたしたちも強くなれます」

「そんな台詞聞きたくないですよ!」


 僕の友達をここまでするなんてひどいですよ!


 あんまりですよ!


 いくら、女騎士さんのメイドさんだからとはいえ、これはさすがにやりすぎでしょ!


 うわーーーーん!


次回、038.アンドルセン家別邸で流行中のアレ

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