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034.キーラ先生によるオークぶった切り講座

※良い子はキーラ先生の真似は絶対にしてはいけません。そんなことしたら、捕まりますからね。

 

 突然ですが、大剣を片手に持ったメイド服を着た女性に「ぶった切りの時間よ~!」なんて言われたらどう思いますか?


 喜んでしまう人がいたら正直どうかしています。


 そう思い直すことで、少し気を落ち着かせた僕は彼女にいくつか質問しました。


 Q(オーク):そもそも、ぶった切りの時間とは何なんですか?(少し震えながら)


 A(ドSメイド):決まっているだろう? これはあくまで調教の一環だ。ピギピギ啼き喚く豚も痛い思いをすればオレ様の言うことを聞くだろう?(そう言ってから、彼女は首をかしげる)


 Q:そんなの意味が分かりませんよ!(大声で)


 A:今は意味が分からなくともその身に刻み込んだらなんとなく分かるだろう?(微笑) なぁ、“ブババババ(機関銃が乱射される音)”?


 K(黒蜥蜴):GYAOOOOOOOOOOOOOOOO!(涎を垂らし、尻尾を振りながら喜ぶ)


「いったいあなたは何を言っているんですか!」


 なんかこういう話し方も分かりやすくていいのかなって思って挑戦しましたがしんど、ゲフンゲフン。


 ──哀れな名前を付けられた黒蜥蜴君があまりにもおかしすぎるのでやめました。


「違う違う。これは喜んでいるのだよ。これまたすごい鳴き声だ。──何をしてほしい? ──ふむ。それはこいつの躾が済んでからだ。お前はその辺を飛んで来い」


 哀れな名前を付けられた黒蜥蜴は喜びながら空を飛んでいきました。


 ──しかし、彼はどうしてあんなかわいそうな有様になったのでしょうか?


 ストーカー被害を受けていた僕からすれば、2号がいなくなってせいせいしているのですが、彼の今後の人生が心配です。


 ほら、彼は一応、ドラゴンなので、あと数百年は生きるじゃないですか。


 もし、彼女の死後、自由の身となって、狩人の方と戦うことになったら、どうなると思いますか?


 たぶん、ギリギリまで攻撃を受けて死にそうになったら本気を見せるとかそんなことをするんじゃないでしょ? 彼らは舐めプをされて死んでしまうのです。こんな酷い仕打ちよりも哀れなことがこの世にあるでしょうか?


 だから、僕は彼の今後のことを心配しているのですよ。──別に彼に騙されて死んでいくHさんたちは気にしません。だって、その頃には僕の体は骨ですからね!


「──というわけで、お前を今からこの鉈で斬りつけようと思う。何、ぶった切られると痛いというのではなく、痛気持ちいいというのだろう?」

「──それは苦しくて悲鳴を上げているんですよ」

「なら、この切れ味抜群の大剣でお前を斬りつけてやろうか?」

「どっちもだめですよ!」

「そうだな。じゃあ、腕をくっつけるときに気持ちよくなるのは間違いなく鉈の方だ。しかし、ちゃんと腕がくっつくのは大剣の方だ。お前はどっちの苦しみ方を選ぶ?」

「どっちも痛い思いをするじゃないですか!」


 僕が泣き喚くと、キーラさんは首を傾げました。


「これまでオレ様が調教したやつらは喜んでいたのに、なぜこいつは喜ばないんだ?」

「それはあなたが調教していたやつらがおかしいだけですよ!」

「そうか。なら、すぐ終わらせることにしよう」

「やめてー!」


 ──あれ? 全然刃が通っていない?


 何度も僕の体に鉈が触れましたが、少しヒリヒリするだけです。どういうことなんでしょうか?


「あれ? 全く刃が通らないだと? いったいどういうことなんだ? ──そういえば、クズノキの聖剣で斬られても傷一つついていなかったような……」


 彼女はしばらく考え込みます。


 ところで、いったいいつから僕にメイドさんたちの監視があったのでしょうか?


 正直、僕のプライバシーがすべて筒抜けになっていて怖いです。


 ほら、“ブンブンブン”や“ドドドドーン”などがバレていたらいやじゃないですか? ──僕は決して村娘さんに“ドッカーン”していませんからね。それだけは忘れないでください!


 すると、考え込んでいた彼女は急に晴れやかな顔をしてこう宣言しました。


「──まぁ、そんなことどうでもいい! とにかくこいつの腕が斬りたくなった!」

「いよいよ本音が出た!」


 彼女は鉈を放り投げて、いつも持っている大剣を振りかざしました。


 絶体絶命の危機! 僕は目を閉じてこの残酷な日々に別れを告げようとするのでした……。


 しかし、いつまで経っても僕は三途の川やその向こう側にいるはずの黒蜥蜴、僕の身代わりになってくれた哀れな(オーク)たちはおろか、走馬灯すら見ませんでした。


 何事か! と思って目を開けると彼女の大剣が僕の体に刺さらず、止まっているではないですか!


「なぜだ。なぜなんだ! オレ様の相棒“こんこんスケスケ”はダイヤモンドも砕く大剣のはずでは無かったのか!」

「ネーミングセンスがひどい!」

「何だと?!」


 彼女は血走った目で僕を睨みつけます。


「こうなったら、お前の首を切り落としてやる!」

「ピギー!」

「逃げるなー!」

「いやどう考えても危ないじゃないですか! ぼくを殺したら、あなたの主人はどう思うんですか?」


 彼女はいったん立ち止まります。


 少し考えてから彼女はにっこりと僕に微笑みかけます。


 ──ひょっとして、斬られないんじゃないかと期待してしまった僕は彼女につられて笑顔になります。


「──まぁ、事故だったということで」


 彼女は再度、大剣を振り回して僕を追いかけます。


「あんたひどいな!」

「とにかくそのうっとうしい顔を真っ二つにしてくれる!」


 彼女の大剣の刃先は僕の首元に向かいました。


 絶体絶命のピンチ! 僕は再度、目を閉じてこのオークには優しくない世界から別れを告げるのでした。


 パキーン!


 おかしな音がしたので、目を開けるとそこにはしゃがみこんでいるメイドさんと真っ二つに割れた大剣がありました。


「な、何だと……。オレ様のこんこんスケスケが! こんこんスケスケがー!」


 ──こう聞くとなんか新キャラがいつの間にか死んでいってしまった悲しいシーンを思い浮かべるかもしれませんが、あくまで剣が折れただけです。くれぐれも勘違いしないでください。


 目を赤くした彼女は僕を指さし、こう叫ぶのでした。


「もうこうなったら、プロを呼んでやる!」


 彼女はそんな捨て台詞を吐いて豚小屋から逃げ出していきました。


 ふー。とりあえず、命は助かりました。


 ──ところで、プロとはいったい誰のことでしょうか?


「ねぇ、あんたプロ呼ばれたら、やばいよ」


 ──いきなり後ろから声を変えるのはやめてほしいですね。紫髪おかっぱの心を読む系ロリメイドさん。


「──プロってあのオカマのことですか?」


 え? 誰のことかって?


 オークイーターのことですよ。そう、壊滅的なファッションセンスをしたあの化け物のことですよ!


「うちにはその手のやつが八人ほどいるからよく分からない」


 その手のやつって……。


 ──別に僕は彼女と違って彼らを差別はしませんよ。おおらかな気持ちをもって彼らを受け入れています。


 しかし、残念ながらこれまで僕は心優しいオカマさんたちに会ったことが無いのでオカマと聞くとびくびくして夜も眠れなくなっているだけなのです。


「オークイーターですよ!」

「オークイーターはあぁ見えて偉い立場にいる。だから、毎日呼ぶことなんてできない」


 まぁ、世紀末の住人たちを束ねられるのなら、偉いのでしょうね。──壊滅的に似合わない格好はやめたほうがいいと思うけどね!


「──じゃあ、誰なんですか?」

「お嬢様が騎士になるまでは最強と謳われていた男だよ」

「そんな人がいるんですか!」

「まぁ、今はおじいちゃんだ。──けれど、少なくともあんたの体を切り刻むことは造作もないと思うよ」

「──じゃ、じゃあ、どうすればいいんですか」

「わたしに任せればいい!」

「──なんか裏がありますよね?」


 彼女は目を背けてこう言いました。


「──乙女を疑うのは良くない」

「あなたみたいなお子ちゃまのどこが乙女なんですか! 十年後に出直してきてください」

「わたしは16歳だよ」


 この世界は何ですか? 見た目で年齢詐称が普通にできる世界なんですか?


「そんなことはない。そもそも、うちのメイド長はあの見た目して70代後半だから」


 ──いい加減、心を読むのをやめてくれませんかね?


 まぁ、話が通じるのはスムーズに会話が進むので喜ばしいことなのですが、僕のプライバシーが侵害されているような気がするのでやめてほしいです。


 あれ? そういえば、“99人のメイドが僕のねぐらの前に大集合!”の際(029.参照)にそんなおばあさまはいなかったような気がしますが。どういうことなのでしょうか?


「そんな人いましたか?!」

「いたよ。年齢にやけに厳しい人いたでしょ?」


 たしかに人が年を尋ねたとき、やけに食いついてくる人がいましたね。


「あの人、後期高齢者だったんですか!」

「──今、老人を差別した」

「どっちもどっちでしょ!」


 老人は差別してはいけません。年を取るも取らないも同じ人間ですからね。それに、今じゃ八十を超えてからようやく高齢者の仲間入りじゃないでしょうか? 


 ほら、今や人生百年時代でしょ? 七十代じゃまだ、人生を七割しか達成しませんよ。そう考えると、人生って長いんですねー。


 まぁ、僕は三割行く前に強制リタイアしちゃいましたが。──まったく残念なことです。


 ということで、今世は八割まで生きようと思っているんですよね。


 ほら、腹八分目っていう言葉があるじゃないですか。人生長く生きても、苦労ばかりです。それなら、出来る限り苦しまずに楽に逝きたいものですよ。──ただし、死因は老衰限定ですけどね!


「とにかく私に任せる? 任せない? 任せないなら、死ぬ可能性の方が高いと思うけど」

「もう、任せるから!」

「分かった」


 少女はそう言って、テクテクと歩いていきました。


 ──ところで、本当にプロって何でしょうか? そもそも、こんなにも強い人たちがいるのに、オークを殺すプロなんて必要ですか?


絶体絶命のピンチ! さて、オークはこの危機を乗り越えられるのか?


次回、035.解体屋さんも加わり、危険な講座は続行です!

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