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033.僕(豚)と赤髪ドSメイド(女王)の調教記

 

 どうも、オークです。


 メイドさんに拉致されて、今日で一か月になります。


 毎日、聖水の風呂に六時間も入って、遠くにある豚小屋に放り込まれて食事は枯草。


 飢え極まりない人生です。


 ——いや、貧乏というよりは囚人みたいな暮らしですかね?


 なんか想像していたお屋敷生活とはまったく違うんですけどー!


 ほら、あの人たち僕を拉致する前なんて言ったか覚えてますか?


 客人がいつまで経っても来ないから迎えに来たって言ったよね?


 そうでなくても、そんな感じのニュアンスで言ってたよね?


 全然違うじゃないですか!


 誰が客人にこんな生活をさせるんですか?!


 ——まぁ、ここの枯れ草はなかなか質が良いようで、ちょっと美味しいのは癪ですがね。


 あれ? よく考えてみれば、家畜(!?)としては健康的で文化的な最低限度な生活を送っていますね!


 ほら、いちいち食糧を探す必要もない。


 天敵(オカマとか、オカマとか、女騎士とか、オカマとか、とにかくオカマとか……)に狙われる心配はない。


 なんかいいことずくめですね。


 ——まぁ、ここがあの変態女騎士さんのお屋敷でなかったらもっと良かったら、ですけどね。


 ちなみに、あの人とは例の「サキュバス連呼事件」以来、会っていないのですが、恐怖しかありません。


 ここ最近、いろいろ濃いキャラがどんどん出てくるから忘れているかもしれませんが、彼女はかつてあの純情オーク君をはじめ、様々なオークたちをスクラップにしてきた悪魔なのです。バケモノなのです。危険な人なのです。


 今のところ、家畜としては健康的で文化的な最低限度な生活を送っていますが、いつかやってくる出荷の日(要するに、彼女にスクラップにされる日のことです)を考えてみると、もう怖くて怖くてしょうがありません。


 ——逃げないのか?


 出来るわけがないでしょ!


 ここにはなぜか40人以上のメイドさんが見張っているんですよ!


 99分の40以上ですよ! 


 ほぼ半分じゃないですか!


 家畜が逃げないためにどんだけ警戒しているんですか?


 いや、僕は根っからの人畜無害なオークですよ!


 少しは信頼してくださーい!


「おいおいおい! なんかまた変なこと考えてないか? 言っとくが、テメェがいやらしいこと考えたら、斬ってやるぞ?」


 ——そういえば、忘れていました。


 僕は家畜としては健康的で文化的な最低限度の生活は送れていませんでした。


 そうです。この大剣を持つ赤髪メイドさんことキーラさんがいました。


 僕は現在、彼女に調教されているのです。


 ******


 あれは、僕がこの豚小屋生活を始めて三日目のことです。


 僕はあれから一度も鎖を外されず、枯れ草はおろか水を一滴も飲めませんでした。


 このときの僕の顔はどうなっていたんでしょう。かなりヤバかったと思います。


 少なくとも、豚ではない何かの顔をしていたと思います。


 残念なことはここに鏡や水たまりが無いことです。


 あれば、正確にみなさんに僕が辛い思いをしていることを伝えられるのに!


 そんなひもじい思いをしている僕に例の片言お姉さんと大剣担いだ赤髪メイドさんこと、キーラさんがやって来たのです。


 僕は彼女たちのことを今も昔もまったく信じていないのですが、このときだけは彼女たちが救世主、女神さまのように見えました。——いや、勘違いしていたのです。


 彼女たちは豚小屋に入ってくるなり、僕の鎖を外さずこう言いました。


「まだオベイしないようですね。ソー、彼女にトーチャーしてもらいます」

「僕のどこに反抗心がありますか? ただ従順なかわいげのある豚さんじゃないですか! ——それにトーチャーって拷問じゃないですか! 僕は犯罪者じゃありませんよ!」

「言い過ぎました。ティーチしてもらいます」

「拷問するって言った時点でごまかせていませんから! どっからどう聞いても僕を痛めつけるようにしか聞こえませんよ!」

「おいおい! まだ、枯れ草すら食べられていないんだろ? それなら、早く解放されたいんじゃないのか? それなのに、どうしてオレたちに文句を言うんだ?」

「いや、文句を言いたくなるでしょうが! あなたたちは僕を招くって言っていましたよね?」

「ホワット? そんなこと言ってましたか?」

「お前の空耳じゃねえのか?」

「嘘だ! ぼ、僕には証人がいますよ。彼らがあなたたちの嘘をきっと暴くと思いますよ」


 ほら、僕にはあなたたちという素敵な味方がいたではないですか?


 え? 味方じゃない?


 ちょっとこっち来てくださいよ。色々すり合わせをしないといけませんからね。


 ほら、弁護士と容疑者ってあらかじめ情報をすり合わせするじゃないですか。


 ——言っておきますが、僕はあくまで無実を主張しているのでくれぐれも売るような真似はしないでね。


「そんな奴どこにいるんだ?」


 ——はっ! そうでした。彼女たちには見えないんでした。これは不覚!


「——すみません。画面の向こう側にいます」

「ガメン? お前、何言ってんだ?」

「すみません。何でもありません」


 キーラさん。怖いので、そのジト目をやめてください。


 僕はかわいいジト目は許せますが、こういう蔑みのこもったジト目は好きじゃないのですよ。


 ——実のところ、僕が日頃いただくジト目のほとんどはそういう意味がこもっていますが……。


 本当に悔しいです!


 僕がショックを受けていると、片言メイドさんがコホンと咳をしました。


「さて、彼女にはユーのティーチをしてもらいますが、彼女は実にグレイトな調教師です」

「それ教育じゃなく調教じゃん! もはや隠す気ないでしょ!」

「調教も立派なティーチでしょ?」

「どこが立派な教育なんですか!」

「このワールドにはしつけというワードがあります」

「ありますね。それがどうかしたんですか?」

「調教としつけはイコールですよね?」

「それはちょっと色々語弊があると思いますが、まぁ、動物相手なら同義、なのかな?」

「それなら、ユーに対しては調教もエドュケーションの一環なのです」

「それ間違っているよ!」

「いいじゃないですか。ユーは魔物です」

「それでも言葉の通じる生き物をいじめて良心の呵責に苛まれはしないのですか!」


 彼女たちはしばらく考えてから、こう答えました。


「すみません。オークにはそんなフィーリングは感じません」

「オレ様も同じく。つーか、オークは絶滅すればいい」

「それはいくらなんでもひどいでしょ!」


 僕が二人にそう反論すると、片言メイドさんが口を開きました。


「それに、あなたには分厚いファットがあるんですから」

「その脂肪もあんたたちのおかげで薄くなっているよ!」

「それなら、尚更躾甲斐があるねぇ」


 キーラさんはにやにやしながら、懐から明らかに調教にはそぐわない物体を取り出しました。


「なんですか。その鎖にトゲトゲした球体がついているのは」

「モーニングスターだけど? これは便利でねぇ。優雅に紅茶を飲みながら、調教もできる最高の道具だよ」

「それ、折檻ですよ!」


 紅茶を飲みながら、調教するのもおかしいですけど、そもそもその道具を調教道具だと思っている時点で調教師ではないですよ!


 どこかの秘密警察ですか!


「オールレディ言ったでしょう。ミーたちは折檻でも拷問ではなくただ哀れなピッグにティーチするのです」

「それを折檻と呼ばずに何という!」

「反抗的ですね。このままデッドするのをウェイトしてください、——と言いたいところですが……」


 ん? なんか僕に言い知らせでもあるのでしょうか?


「何かあったのですか?」

「それが……」

「言いにくいのなら、オレ様が言おうか?」


 片言メイドさんは「ドンウォーリー」とキーラさんを制して、僕にこう返しました。


「——実はレディがイェスタデイからまた森に出かけているのですよ」

「それがどうかしたんですか?」

「お嬢様はミーたちがこのピティーなピッグを連れてきたことを知らないんですよ」

「あんたはさっきから僕のことをなんでそう呼んでいるんだ!」

「普通、そこじゃなくて姉貴がお前がここに居ることを知らないことを聞くんじゃねーのか?」

「どうせ伝えていないんだろうなって思っていましたよ」


 フフフ。僕はこういうときは空気が読めるのですよ。——いや、正しくは常識を持っていると言ってもいいですね。


 もし僕がメイドさんたちと同じ立場なら絶対にそっとしておいてこっそり縁談を用意しておきます。そして、オークを連れてきたと言って騙すのです。


 ——言っておきますが、これは願望ではありません。本望です。


 僕が少し上機嫌になっていると、片言さんは僕を警戒するような目で見つめてきました。 ——えっ? どうして?


「尚更、教育をする必要が生まれました」

「なんですか! 変なこと言いましたか?!」

「いえ、何でもありません」

「ねぇ! 僕は言っちゃったんですよね! 変なことを」

「安心してください。ユーも彼女のレクチャーを受けたらここまでグローアップしますよ。キーラ、ユーのアートを見せなさい」

「あいよ!」


 キーラさんは一度、豚小屋から出ていきました。


 ところで、アートとはなんでしょうか? 調教や拷問に芸術性なんて感じられるのでしょうか?


 ******


 それから、数分後、彼女は何かを引きずりながら豚小屋に戻ってきました。


 僕は彼女が引きずってきたものを見て驚きました。


 それは黒蜥蜴だったのです。


 ——えっ? 黒蜥蜴を知らない? 


 普段から僕をつけ狙っていたあのおつむの小さい彼のことですよ。よく思い出してくださいよ。


 しかし、彼は少しおかしいのです。異常です。


 普段の彼なら、僕にちょっかいかけていたはずなのに、僕に襲いかからず、なぜかキーラさんの方をうっとりとした目で見つめています。


 一瞬、見間違いかと思って目を閉じました。


 しかし、開いても変わりません。むしろ、悪化していました。彼は涎をドバドバ垂らしています。いったいどんな良いことをされているのでしょうか?


「これはいったいどういうことなんですか!」

「これは彼女が凄腕の調教師だからです。一度彼はお嬢様に忠誠を誓っていましたが、とある一件でお嬢様を裏切りましてね」


 なんか心当たりがあります。たぶん、裏切り者がやってきたときのことですね。


 まぁ、別に彼がドSメイドの奴隷ペットになっていてもあんまりどうでもいいですよね!


「さすがに、こいつもロットしてもブラックドラゴンですので、このままレディにキルされるわけにはいきませんでした。だから、ミーたちが保護したのです」

「それってあなたの主人を危険生物扱いしているのですか?」


 ここではロットしても……のくだりには触れません。


 ほら、なんか滑ったような気がするのに、そのことに触れたら彼女がかわいそうじゃないですか。


 片言さんはにこやかな笑みを浮かべてこう言いました。


「いえ褒めていますよ。オークにご執心なところをエクセプトすれば高潔なナイトの鑑です」

「そんな無表情で言われても信じられませんよ!」

「とにかく彼女に躾けられてキーラの奴隷になって、レディにヘイトされるといいのです」

「理不尽!」


 ******


 それからというもの、僕はキーラさんに晴れの日には素手で殴られ、雨の日には土砂降りの中、泥に顔を突っ込まされ、風の強い日には自動追尾型魔法弾とまきびしを投げつけられる始末。


 ここ一か月。僕は彼女にいじめられているだけです。


 ちょっと思ったんですけど、これって調教なんでしょうか?


 僕も馬の調教についてよく知りません。


 しかし、それでも少しがんばったらいい餌をあげるとか、毛並みを整えてくれるとかしてもらえるんじゃないのですか?


 しかし、彼女にはそんな飴は一切ありません。——いや、彼女はそんな知識を一切、持ち合わせていないのです。


 来る日も来る日も僕をいじめ、僕をいじめ、ごくたまに連れてきた黒蜥蜴を見たくもないのに、僕の目の前でいじめ、汚い鳴き声を発しながら喜ぶ黒蜥蜴を尻目にさらに僕をいじめるだけです。


 ただ、この哀れな名前の付いた黒蜥蜴がどうして彼女に従うのか理解できません。


 彼にMの素養があったと考えられなくもないのですが、オールウェイズ折檻ですよ?


 本当にどうして片言さんは彼女に教育するセンスがあると思ったのでしょうか?


 アイキャントアンダースタンド!


 ——ついつい、あの人の片言がうつってしまいました。以後、気をつけます。


 ******


 そんなある日、彼女がいつものように大剣を持って僕の前に現れました。


 彼女はいつもよりにこやかな笑みを浮かべています。

 僕は彼女に少しでもかわいい子豚さんのふりをして、今日の折檻のノルマを減らしてもらおうとにこやかな笑みを浮かべます。


 彼女はそんな僕の思いを察したのか、僕の期待に誤った形で答えました。


「さて、今日はいよいよぶった切りの時間だ」

「ファッ?!」


 いきなり、何を言っているんですか、こいつ!


残虐な女王様による哀れなオークの調教が続いていますね。

さて、彼は哀れな黒蜥蜴のような末路を辿るのでしょうか?


次回、033.キーラ先生によるオークぶった切り講座

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