030.私たちがいつまで経っても来ない客人を迎えに来ました
ブヒー! ブヒー! ブヒー!!!
なんかデジャブを感じたみなさん。
どうも、オークです。
お察しの通り、僕は今逃げています。
猛スピードで逃げています。
今までで一番、必死に逃げています。
──なんだ。オカマ野郎が現れたのか。
そうお思いの皆さん。僕が懇切丁寧に説明しましょう。ほら逃げない逃げない。取って食うつもりはありませんから。僕をそこら辺のオークと一緒にしないでください。
僕は今、メイドさんに追いかけられています。──ほら、聞こえてくるでしょう。メイドさんたちの声が......。
「待ちやがれ! ゴミ豚! 逃げても無駄だぜ!」
「待ってよー! こんなに早いなんて聞いていないよー!」
「それはあなたが日々の鍛錬を怠っているからでしょ! ──こら! 単独行動はよしなさい」
「えー! 目の前にオークがいるじゃねえか!」
「ムフフ。オークちゃん。待ってー!」
「オカマ野郎は黙ってやがれ! てめぇのことをオークイーターだと勘違いしてあいつが逃げちまうだろ?」
「わたしはオークイーターと違ってちゃんとカツラを被っているわ。それに、あんなおじさんと違ってしっかり女の体に仕立て上げているの。だから、違うわ」
「どっちもどっちだろ!」
あれ? これってメイドさんの台詞なんでしょうか? 本来はもっとお淑やかに話すべきだと思うのですが、気のせいでしょうか? 追いかけられているこっちの方が不安になりそうなくらいです。
それに僕を今、追いかけているのは4人ですが、赤い髪のちょっと怖い女性。金髪でふわふわした髪のロリ。眼鏡をかけた黒髪の女性。それと金髪のかつらをつけた大おと、ゴホン。──失礼。男装の麗人ならぬ、女装の麗人?
なんか変なやつらのオンパレードじゃないですか!
ちなみにどうして僕が彼女(一人だけ明らかに違う気がするのですが……)たちをメイドさんだと思っているのかと言うと、それは簡単です。
みんなメイド服を着ているからですよ!
この世界にはどうもコスプレというのは存在しないらしく、あの忌々しいストーカー4号をのぞいて明らかにコスプレしているな、こいつ……って思う人はいないんですよね。
実際のところ、それ以外にも根拠はあるのですが、──すぐに語るから待ってくださいよ。
それにしても、ロングスカートを着ている彼女(一人だけどこか違う気がするのですが)たちがよく僕についてこれるなんて……。この世界には常識なんてものは微塵もないのでしょうか?
実は、僕は出会い頭に彼女(くどくど言いますが、一人どう考えても違う気がするのですが)たちに追いかけられているわけではございません。これには理由があります。
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あれは良く晴れた朝のことです。厳密にいえば、今朝ですね。
いつものようにドングリ、山菜を採集しに行こうと寝ぼけ眼でそう決めた僕は顔を洗おうと洞穴から出ました。
すると、そこにはメイドさんたちが目の前に立っていました。それもかなりの人数です。
突然ですが、あなたは家を出ると目の前にたくさんのメイド服を着た女性(一部どう考えても女性ではない人がいるのですがそれは抜きで)がいたら、どう思いますか? うれしいですか?
僕はまったくうれしくありません。
まぁ、先日、MDR99なるメイド諜報部隊の話をミリア様から聞いていたのもありますが、これまでの僕の経験上、僕のねぐらまで、それも僕のセンサーに引っかからず、朝になってから外に出て初めて気づくことは一度もありませんでした。
いや、正確にはあの特殊な嗜好を持つおかしな女騎士様以外、僕はねぐらに近づけたことはありません。
勿論、レレミナちゃんも近づけたことはありません。
それにしてもレレミナちゃんが来ないのはなぜでしょう。毎日来るって言っていたのに、彼女は洞穴に来ないんですよね。別に年齢上は法律に抵触しないはずなので、来てもらって“バババーン”してもいいのに。
なのに、なのに!
どうしてメイドさんが僕を待ち構えているのですか。意味が分かりません。
MDR99? それは僕にまったく関係ありません。僕は悪いことは決してやっていません!
すると、一人の青い髪をした女性が前に出てきてこう言いました。
「ユーがお嬢様の言っていたオークね」
この人の二人称の呼び方にはあえて触れませんが、鈴のように凛としてきれいな声でそう言われるとなんか違う気がします。すぐにでもやめてほしいです。
「僕はユーでもお嬢様の言っていたオークでもありません。人違いです」
「そこはオーク違い、いや、“ピー”豚違いだろ」
そう言った赤髪の美人は汚らわしいものを見るような目を向けながら僕を嘲笑います。
「僕は人間だと思っているんですよ! だから、人違いでも何でも関係ないんです!」
「あぁ、なんだ? やんのかてめぇ?」
「待ちなさい。キーラ。ミッションをコンプリートしていないのに、勝手なアクションをされても困ります」
「はいはい、分かりましたよ」
青髪メイドさんはコホンと咳を一つしてからこう言いました。
「さて、わたしたちはユーをインバイトしに来ました」
「インバイトとは何ですか! それにさっきから変な言葉使いすぎですよ。ちゃんと言葉をしゃべってください!」
「お迎えに来たというのに、ノットアンダースタンドとは。やはり、オークはオークなのですね」
「なんかますます意味不明なんですけど」
「これは聖言語をたくさんユーズすることで、魔を取り払う効果があるのですよ。だから、オークにコンプレインされる筋合いはナッシング」
「そんなこと聞いたことない!」
セイクリッドワードなんて知りませんよ! ──まさか、例の聖言語のことですか? それなら、ちゃんと言語の方も真面目に表現してくださいよー!
「それはあなたがライス以下のインテリジェンスだからでしょう」
「今、ストレートにかなりひどいことを言われた!」
そう言ったのですが、よく考えたら、ライスって発音によってどちらにも取れるじゃないですか。ここはあえてダメージの少ない米粒の方だと僕は信じます。
「そんなことよりもユーにはミーたちのレディの屋敷にカムしてもらいます」
「いやです」
「それはオールレディヒア」
まったく意味の分からない単語ですが、彼女の話が続いているようなので、渋々問いかけるのはやめて聞くことに徹しました。
「しかし、ミーたちのレディは一度インバイトと決めたらネバーギブアップなお方なのです。だから、ミーたちがレディの思いにこたえてあげるためにナウここに居るのです」
「それは嫌です。自由に一人で静かに生きたいのです」
「ドンウォーリー。うちにカムしたら数日でユーは静かに逝けますから」
「字が違う!」
「そんなことはありません。ここニアリー半年、ユーを見て来ましたが、ユーはこれまで随分と忙しい日々を送ってましたね」
「いや、まるで“君のことをずっと見て来ました。辛かったね”みたいな視線を送らないでください!」
「これはルードネス! あまりにもピッティ―なピッグを見たもので……」
「それだと僕が子豚になっているじゃないですか!」
「そうだぞ! こんな豚臭いやつのどこがかわいいミニブタなんだ!?」
大剣担いだ赤髪メイドさんがヘッ、と笑いました。
「ミニブタと子豚は違いますよ! ミニブタでも大きくなるものは大きくなりますから!」
「はぁ? なんか文句でもあんのか?」
「シャラップ。話が進まないじゃないですか」
「──はいはい。分かりましたよ」
青髪メイドさんに注意された赤髪メイドさんは渋々大人しくなりました。
「さて、とにかく説明もフィニッシュしましたし、これからユーをゲットします」
「もうインバイトの意味なくなっちゃったよ! 僕をどこかのボールを投げたら入るようなモンスターと同じにしないでください。ぼくは人間です!」
「オークがワットをセイしているんですか? 早く楽になった方がユーのためですよ」
「それって彼女がまるで僕を殺すために呼んでいるって言っているようじゃないですか」
すると、青髪メイドさんは急に変態女騎士さんのことについて語り始めました。
「彼女の趣味嗜好にはかれこれ10年以上セイ続けました。しかし、3年前にリアライズしたんです。『あ、この人にワットをセイしてもオベイしてくれないな。そうだ! オークはハフタキルだし、この人の攻撃をまともに喰らって死なないオークなんでいないからもう好き勝手させて私たちは彼女の後始末をすればいいんだ』ってシンクしました」
「それだと10歳くらいの頃からあんな頭をしていたのですか? ちょっとおかしくないですか? ところで、彼女が小さいころから忠告できるあなたは何歳……」
そう僕が聞こうとすると、どこからともなくナイフが飛んできました。い、いったい誰ですか? そんな危険なものを投げつけてきたのは!
「あらあら。つい手が滑っちゃってナイフが飛んでしまったわ」
茶髪の少しマダムさが漂うメイドさんがフフフと笑いながら、僕に謝りました。
「すみません。あなたではなくこの人に聞いていたのですが」
僕が青髪メイドさんの方を指差すと、青髪メイドさんは僕に怪訝そうな目を向けました。
「それでも女性にエイジをアスクするのはナットベターですよ」
「どうしてあなたは僕があの女性に年齢を聞いたように言っているんだ! それに彼女はどう考えても、4『ひゅっ、ひゅっ』──なんですか! この果物ナイフは!」
「あらあら聞き間違いかしら? わたしが48歳のおばさんって言ったのは」
「そんなこと言っていませんよ! 僕はただ──すみません。あなたは28歳のぴちぴちのお姉さんです」
「よろしい。見た目は豚さんだけど中身は案外優しい子なのね?」
「──ケッ! どう考えても弱虫な気がするけどな」
赤髪メイドさんがそうぼやくと、茶髪のメイドさんはにこやかな笑みを浮かべてこう言いました。
「キーラ? 何か言いたいことがあるのかしら?」
「──い、いえ、何でもありません」
「よろしい。さて、後は頼みましたよ。さっさとお嬢様の本懐をかなえてあげなくちゃ」
「そうですね。ついついレールアウトしました。──とにかくユーをゲットして、レディにプレゼントし……。──ホワット?」
そこに僕はいませんでした。なぜなら、僕は彼女たちが話し込んでいる隙に逃げ出したからです。──ふふふ。これくらい離れていたら、大丈夫なはずです。
すると、メイドさんたちが僕を一斉に追いかけ始めました。
「あらあら。こんなに逃げちゃって。さすがに今までのオークちゃんたちと一味違うわね。彼女が毎日、森に出るわけだわ。これはいいメイドになるわ」
いったい何なんですか! あの人たちは! 走りながらニコニコするなんてどう考えても、おかしいですよ! 主人とそこまで似せなくてもいいですから!
あと、明らかにマダムにしか見えないメイドさん。
あなたが、手あたり次第メイドに仕立て上げる最強のメイドだったのですか! 少なくとも、男やオークもメイドにしようとするところは感心しませんよー!
次回、031.メイドとオークの鬼ごっこ(注:鬼はメイドで、オークは逃げる方です)




