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029.彼女たちはどうしてここまでぼく(オーク)に執着するのでしょうか?

 

「レレミナさん。ほら、このアスタシア様が英雄王様にお花で作った冠を被せる話とかいいと思いませんか?」

「それもいいけど、やはりわたしは英雄王様が盗賊に囲まれたアスタシアちゃんを救うっていう話がいいと思うなぁ」

「そう! それもいいよね!」


 いやぁ、ものの五分で修羅場も収まって一安心です。彼女たちが謎の書物で意気投合するとは思いもしませんでしたが、安心しましたよ。


 しかし、怖かったです。


 あともう少しでこの森で怪獣大戦が起こりそうなところでしたからね。


 ──レディにそんなことを言うのは失礼?


 彼女たちがただのレディだったのなら、そうは言わなかったのですがね。


 ほら、今朗らかにドロドロした修羅、──平和なお伽話のように聞こえる謎の書物を仲良く読んでいるところなんてまるで普通の女子の会話に見えるのですが、話の中身はなかなか怖いですからね。


 あれ? 今のところまったく修羅場みたいなところに触れていませんね。──まぁ、そこは気にしない。気にしない。


「さて、そろそろMDR99について話していただけませんかね? 僕はそれが気になって気になってしょうがないのですが」

「あぁ、いつの間にこんなに時間が経っていたのですね。これは申し訳ありません。今までこんなに話が合う方とお会いしたことが無かったので、つい、喜んで話し込んでしまいました」

「そうそう。わたし、あんまり友達がいなかったから、アリシアちゃんと友達になれてとっても嬉しいの」


 レレミナちゃんはそう言って、アリシア様に抱き着きました。


「まぁ、あなたの友達になれて私も光栄ですわ」


 聖女とサキュバスが抱き着いているシーンなんてそうそうないですね。


 僕の心の奥底のハードディスクに強く焼き付けておきましょう。


 ──あれ? よく考えたら、アリシア様ってレレミナちゃんがサキュバスだって気づいているのかな? 


 まぁ、そんなこと言ったら、怪獣大戦争が勃発するので、──気にしない。気にしない。


「いいところ申し訳ありませんが、そろそろそのMDR99という団体について教えてほしいのですが……」

「よく考えたら、オークさんがメイドさんのことで頭がいっぱいになったのだ、悪いのではありませんか?」

「そんな! それなら、明日からメイド服着てくるよ!」

「それはやめて! あなたのお姉さまにどんな目に合うのか分かんないから!」


 あの人なら、絶対にこう言うよ。


『わたしの妹にいったいなんていうものを着せているんですか。この“ビヨーン”豚!』


 そんなこと言われたら、さすがにへこみますよ!


「安心して。今日から1週間、クズノキが来るっていうから骨の護衛に回されているの」


 もはや、名前が分からないから骨って言っちゃったよ! 同僚を骨呼ばわりってさすがにダメでしょ! っていうか、クズノキ君は覚えているんだね! 君、色々おかしいよ!


「骨ですか。お姉さまの上司に対しては随分辛辣な言い方ですわね」

「骨は骨だから骨と呼ぶのが正しいの」

「そうですか!」

「そこ、納得しない! そんなことより早く言ってくださいよ!」

「「ひょっとして、愛の告白?」」


 一瞬、彼女たちの上目遣いのあまりの可愛さに愛の告白が出そうになりましたが、何とかこらえました。なぜなら、僕は孤高の修行僧ですからね。


「それじゃなくて、MDR99ですよ!」

「「なんだー、それかー」」

「随分やる気のない声ですね」

「本当、男の人ってメイドさんが好きなんだから。どうして、そんなにお世話されたいとか思うのでしょうか?」

「きっと、ちやほやされたいだけだよ」

「別にそういう意味で聞いていませんからね。僕はあくまで危険人物のことについて聞いておきたいのですよ」

「そうでしたか。なら、安心しました。彼女たちには一切、“ピヨピヨ”ないのですね」


 ──そう言われると、ちょっとね……。


「目をそらさないでくれます?」

「は、はい。大丈夫です」


 ──まぁ、男の人は世話されたいものですからね、と僕は心の中で思っていると、アリシア様はMDR99について説明をはじめました。


「さて、彼女たちが元諜報員のメイドさんであることは説明しましたね」

「まぁ、いろいろ突っ込みたいところはあるけど、そういうことなんですよね。──しかし、僕は鬼ごっことかかくれんぼには無類の強さがありましたよ。小さい頃ですが、かくれんぼしていたら夜になるまで誰も見つけてくれなかったんですから……。──ちょっと泣かないでくださいよ」

「だ、だって、泣くに決まっているじゃない。オークさんがかわいそう」

「レレミナさんの言う通りですよ。こんなにかわいそうなことありませんよ」

「そ、そんなことよりもどうして彼女たちが危険なのか聞きたいのですよ」


 涙をぬぐったアリシア様は再び説明しました。


「一言で言うと、彼女たち全員が集まったら、どんな堅城でも一時間で陥落させられるのですよ。それこそ、すべての国の王城を一日で開門することくらい造作もないんじゃないでしょうか?」

「そんな過剰戦力をよく一つの屋敷にまとめられたよね!」

「それは当然、レイラ様が危険だからでしょう?」

「うん。わたしもそういう話は聞いたことあるよ! アンドルセンの屋敷には気をつけろって、魔王ちゃんがよく言うもん!」

「マオウちゃん?」

「──まおちゃんね。友達のまおちゃんだよね」


 僕は慌ててレレミナちゃんの「魔王ちゃん」発言を必死に隠そうとしました。


 彼女に意図が通じたのか、彼女も「そう! まおちゃん!」と言ってくれました。


 まったく、不思議ちゃんとはいえ、聖女様に魔王なんて言ってはいけませんよ。一応、彼女は魔王を倒したと言われる英雄王をこよなく愛するとあるヤンデレ女性を信奉しているのですから。


「──まぁ、いいでしょう。そんなことよりも彼女たちのすごさは十分わかったでしょうか?」

「──待ってください! そもそも、どうして他国の諜報員だった人がなんで連携を取れるんですか? おかしいじゃないですか」

「それはレイラ様ですよ」

「え?」


 どうして、そこで変態さんが出てくるんですか?


「彼女の人格に惚れ込んでいるメイドさんはたくさんいると言われていますよ。だから、これまで彼女を襲撃しようと企んだ人たちは実行する前に彼女たちの手によって必ず、川で洗濯されているらしいですから」

「そこにいきなり、メイド要素を入れないで! っていうか、それってその人たちを殺しているじゃん!」

「そうだね。──まぁ、そこはまったく関係ないかも?」

「いえ、レレミナちゃん。十分関係ありますよ。ただでさえ、レイラ様から逃げ延びている英雄王様ですよ。レイラ様が思うように英雄王様を捕まえられないから彼女たちはきっと主人であるレイラ様のために貴方を捕獲しにくると思います」

「──そんなことないでしょ」

「それ相応の対策を練っているはずです。だから、危険なのですよ。出来ることなら、この世で敵に回したくない人ランキングで三位に入りますね」

「何? そんなバケモノカルト集団より上がいるの! この世界って何なの? ちょっとおかしくないですか!」

「なら、いい方法がありますよ」

「うん、わたしもあるよ」


 こういうときって、大体返答が一致しているんですよね。まぁ、一応聞いておきますか。


「聞きたくありませんが、一応、聞きましょう」

「「わたしたちのところに一緒に来て(ください)!」」

「嫌です」


 ──ガッシャーン!


 僕が答えた途端、なにやら金属が地面に落ちたような音が聞こえてきました。


「──今、物音したよね」

「──なんか怖いですわ」

「心配しないでください。僕が見て来ますから」


 何でしょうか?


 変な金属音がしたのですが……。彼女たちはそんなじゃらじゃらしたものを持っているわけじゃないので……。──いったい誰なのでしょうか? こんなにも尊い彼女たちを怖がらせるとはとんでもない人ですね!


 僕はとりあえず木を引っこ抜いて、物音がする方に恐る恐る近づきました。過剰防衛かもしれませんが、もし僕が想定している人だとしたら、これでも足りないくらいですよ。


「お、オーク殿ではないか」


  ──あぁ。やっぱり。あなたでしたか。変態女騎士さん。


「何の用ですか? 出来れば、帰っていただきたいのですが」

「そんなことよりも、アリシア様に、──その腕につけているサキュバスは何だ!」


 いつの間にか、僕の腕に二人がしがみついていましたが、ここで動揺したら目の前の敵に弱みを見せることになります。だから、僕は冷静に彼女の問いかけに答えました。


「彼女は僕の友人です」

「そうでーす」


 レレミナちゃん。そこでピースサインは良くないと思うよ。誤解されるじゃないですか。


「──サキュバスが……」

「サキュバスがわたしのオーク殿を奪った~!」


 女騎士さんは──サキュバスが……、──サキュバスが……と繰り返し叫びながら逃げていきました。


「別に僕は誰のものでもないんですけどね」

「それはちょっとないですよ」

「わたしもそう思う!」


 ジト目も可愛いですけど、そのジト目は欲しくありませんね。


「アハハハ」


 この後、全速力で逃げ出したのは言うまでもありません。


次回、030.私たちがいつまで経っても来ない客人を迎えに来ました


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