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028.白くてとっても大きな恋人

※これは、少し遅れてしまったバレンタインについての話でも、あるお菓子についての話でもありません。多分、読んだら分かります。まったく関係がないってことが分かるはずです。


 

 今、僕の目の前に大きな白いスライムがいます。


 しかも僕の体をぺちぺちと触手で叩いています。


 あれ、このスライムどこかで見たことがあるんですけど……。──いったいどちら様でしょうか? おいしそうな豚が欲しければ、向こうにたくさんいますよ。ほら、僕ってうさぎちゃんしか食べていないからそんなに栄養価は高くないと思いますよ。


 ──えっ? 僕を最高級豚肉って言ったオカマさんがいる?


 そんな人、僕は知りませんよ。


 あ、あんな不気味な人なんて僕は知りません!


 しかし、いつまで経ってもこの白くて大きなスライムがいったい何者であるのか思い出せません。


 この白いゲル状の物体はどう考えてもスライムだから、多分、キング君関連の方だと思うんですよね。しかし、こんなに白くて大きなスライムは知りませんよ。


 あれ? なんか触手が増えたし、威力が増している?


 てっきりうさぎちゃんが甘噛みするような感じかなぁって思って黙って受けていたのに、どういうことなんですか!


 ──さては、僕を吸収しようって? 僕はまずいですから!


 ほら、あちらにオークの村がありますからそちらのオークさんたちなら食べ放題ですよ。──まぁ、手荒な歓迎が待っていると思いますが、あなたならきっと彼らを食べきれます!


「あらあら。これはこれは英雄王様ではありませんか? ここで何をされているのですか? ──まぁ、スラ子ではありませんか。あなたったら馬車から走り出したと思ったらここに居たのですか?」


 ──スラ子?


 どこかで聞いたことがある名前ですが、どちら様でしょうか?


 ──え? キング君の恋人って確かスラ子さんじゃなかったか、ですって?


 えぇ、確かに彼女の名前はスラ子さんです。しかし、スラ子さんは半年ほど前に会ったときは僕と同じくらいの大きさでした。


 それが今では、僕の倍くらいの大きさになっています。さすがに、ちょっと大きすぎます。


 ここ半年ほど、僕がドングリクッキーを食べている横で豪勢な食事をしているキング君でもこんなに大きくなっていませんよ!


「なになに? このオークから恋人の匂いがする? それに何回も会っているのに一向に思い出してくれない? ──英雄王様!」

「イエス! マム!」

「なんだか馬鹿にされているような気がしますが、それはとりあえず触れないでおきます」


 バカにしている? 


 そんなことはありません。僕はあなたに敬意をもって日々生きています。ただ、距離が近かったため、ついそう言ってしまっただけです。──だから、その手に持っている教典を朗読しようとするのはやめてください。


 英雄王とアスタシア様のどろどろした話なんて聞きたくありません! ──っていうか、そんな宗教よく信じますね!


 まったく、この世界はおかしなことでいっぱいだ!


「さて、一つ聞きます。この清い身体をしたスラ子を忘れるなんてひどいじゃないですか! 万死に値します!」

「どう考えても、大きさが違いますよ! キング君より大きくなるなんてどんな生活を送ったらそうなるんですか!」

「わたしの聖魔法で生み出した結晶を毎日あげていたらこんなに大きくなったのですよ。ほら」


 彼女が両手を近づけると不思議な白い光が現れました。


 ──マブシイ!


 そう思っていると、その光は石になりました。


 彼女はそれを僕に渡しました。


 きれいですね。この石。まるで、あなたを見ているような……。


「──痛い! 痛い! 痛い!」

「あぁ、申し訳ありません。オークにそんなものを触れさせたら、拒絶反応が起こるのでしたね。早く治さないと」


 彼女が詠唱の準備をしています。──これはまずい。このままだと彼女に殺されます。確実に殺されます。


「やめてください! 回復魔法を使われたらもっとひどくなりますから」

「そうですか。なら、やめておきましょう」


 彼女が詠唱をやめると、白くて眩しい光が消えました。──あぁ、怖かった。


 ******


 ふー。危うく彼女に殺されるところでした。


 ところで、彼女は僕に聖魔法を使うととんでもないことになるって知らないのでしょうか? 僕、一応、オークですよ。とっても悲しいんだけど、人じゃないんだよ。


 そういえば、なぜ聖魔法を使うと、オークはダメージを受けるのか疑問に思った方がおられるかもしれません。僕もよく分からないんですけど、なんか聖なる魔法を魔物に使うと、とてつもない拒絶反応が起こるらしいんですよ。


 ──おっと、今はそんなことよりもスラ子さんの話ですよ。


「──さて、とにかく彼女はスラ子さんということでしたね。彼女とは一年ほど前にあって、ペットにしたと」


 こんな大きなスライムをペットにすること自体不思議なのですがね。


「そうです」

「それであなたがその結晶を彼女に毎日与えていたらこんなに大きくなってしまったと」

「そうです。──しかし、スライムの顔をろくに覚えられないなんて……。──ひょっとして、わたしとレイラ様の区別もできないのでしょうか?」

「それくらいはできますよ!」


 そうやって、僕に哀れみの目を送らないでください!


 人はまだしも、スライムなんてどれも同じじゃないですか?! どこをどう見たら見分けられるんですか!


「なら、スラ子を見分けられないのはなぜですか!」

「大きくなったからですよ!」


 僕がそう言うと、彼女は急に気が沈んだのか、俯きました。


「──それはわたしも分かっていますよ。なんかやりすぎたなって思っています。教会の方からも追い出すように毎日言われているのです」

「──それはすみません」


 まさか、彼女の悩んでいるところをついてしまうとは……。本当に申し訳ないことをしました。


「いえいえ、これは私の問題なのです。英雄王様が謝らないでください」


「いやいや、僕の方が……」


 ──トントン、と僕の肩を叩く感触がしたので、話すのをやめるて振り返ってみるとそこにはスラ子さんがいました。


「スラ子さん、いったい僕に何をしようとしているんですか? ──さては、僕を食べようと思っているのでしょうか。それなら、もっと美味しいオークがいるので、そちらを紹介しますよ」

「そんなわけないでしょう。彼女は恋人と会いたいからあなたに頼んでいるのですよ」

「嘘!」

「嘘じゃありません。あなたは彼女の恋人のことをご存じなんでしょう」

「はい、存じ上げております」


 しかも、一つ屋根の下で暮らしています。


 ──なんかその目をやめてください! 彼はスライムですよ。それに彼、男性ですよ。だから、別に浮気相手を住まわせているとかそんなことじゃないですからね! あれ? よく考えたら、あなたとは結婚はおろか恋人関係ではありませんよ!


「何を考えているのかはわかりかねますが、とりあえず呼び出してくれませんか?」

「イエス! マム!」

「だから、それをやめてください!」


 ぷんぷん怒っている彼女を尻目に僕は魔法陣を描きました。そして、魔力を込めると見慣れた壺が出てきました。


「どうして壺が出てきたのですか? まさか、彼の死体とか言わないですよね?」

「スライムの死体は液化するとは言いますが、これはただ彼がインドアな性格だからですよ。さて、出てきてくださーい! キング君、あなたの彼女が目の前にいますよ!」


 ──あれ? 出て来ない。


 けれど、たしかにこの壺の中にはキング君がいます。それは壺から漂う彼の刺激臭から明らかです。


 ──勘違いしないでください。加齢臭ではなく、本当に危険な刺激臭です。たしかに加齢臭はひどくなると危険らしいですが、人を殺すほどのものではないはずです。──そうだよね?


 あれれ? おっかしいなぁー。いつになったら、出てくるんだろう?


「──まさか、彼女と喧嘩してしまったことをまだ根に持っているとか?」


 あれれ? なんだか壺がプルプル震えていますけど。


 それと同じくしてスラ子さんもプルプル震えているんですけど……。──って、いったい何をするんですか! 壺を持ち上げて。その中にはあなたの彼氏がいるんですよ!


 うわー! 壺が壊されました! 中からは小さいキング君が出てきました。


 ──まったく。どれだけ彼女が怖いんですか。そんなに縮んでも可愛くありませんよ。たしかにただのフィギュアだったら、可愛いのかもしれませんが、匂いがダメです。刺激が強すぎます。


 それと、大変申し訳ありませんが、友よ。そんなに可愛くプルプル震えながら、こちらに助けを求めても無駄ですよ。


 僕には大きくなった彼女を止めることなんてできません!


 スラ子さんは小さくなってしまったキング君を目にも留まらぬ速さで持ち上げて、そそくさとどこかへ走り去りました。


「さて、二人は今頃愛を語っている頃だと思うので、わたしたちも「それは違うので」──つれないですね」


 いや、オークと聖女様が結婚でもしたら、大事件ですよ! 勇者教会と戦争が起きますよ! それに、僕は例のあの人たちに囲まれるのはごめんです! だから、その教典を懐にしまい込んでください!


「さて、そんなことではなく本題に入りましょう」

「本題って何ですか? ──ひょっとして、ぼくたちの結婚が決まったとか?」

「違いますよ。──あら? もしかして、わたしと結婚したいとか? なら、わたしと教会に行きませんか?」

「結構です」

「──はぁ……。英雄王様なら、そうおっしゃると思っていましたよ。──それより、ただいまMDR99がこの森をうろうろしています」

「“MDR99”? 何ですか? どこかのアイドルグループみたいな名前ですが」

「アイドルって偶像という意味ではないのですか?」

「いやいや、そういう意味だけではないのですよ」


 ──言えない。僕が今、話したアイドルの意味を。彼女にもしその意味を言ったら、何を言われるか分かりません。


 別に後ろめたいことは無いのですが、この世界ではどうも女性が前に立って歌を歌うことは良くないこととされているらしいのですよ。祈りの場面ではいいのですが、なんか人を喜ばせるような娯楽みたいな感じはダメらしいのです。僕にはまったく違いが見出せないのですが、まぁ、こちらの人からしたら違いがあるんでしょうね。


 そういえば、以前僕を見捨てたあるドワーフが応援していたアイドルグループが近衛兵に摘発されたのを散々愚痴っていましたね。あれ? ここはいったいどこですか? ──そうでした。ここは一応、中世をモチーフとした異世界でした。


「MDR99とは世界最強のメイド部隊です」

「メイド? メイドさんが強いってどういうことなんですか?」

「レイラ様が世間でどう呼ばれていつのかはご存じでしょう?」

「──ま、まぁ……」


 自動殺戮機械オートキリングマシーンなんて仰々しい名前がついていますね。


「彼女の力を狙う各国が彼女に様々な諜報員を送っているのですよ。──まぁ、男も女も軒並彼女の周りにいるバケモノたちによってメイドに仕立て上げられました」

「意味が分かりません! 何がどうしたら、スパイのお姉さんがメイドにされるんですか?!」


 それに彼女の周りにいるバケモノって何ですか! 


 聞いただけで震えが止まらないんですけどー!


「そこにはどんな凶暴な女性でもメイドに仕立て上げる史上最強のメイドがいるらしいのですよ」

「なんですか! その世の中の男を喜ばせるような凄腕のメイドは!」


 メイドはロマンです。ほら、あのきりっとした姿。女性の奥ゆかしさを見事に表現されていると思うのですよ。(注:これはあくまでとあるオーク個人の見解です)


 ただし、手当たり次第という点はいけませんね。男の人のメイド服姿は想像したくもありません。まぁ、見たことないから分からないのですが、少なくとも男性にはメイド服を着せるよりは執事服の方が合うと思いますよ。(注:これはあくまでとあるオーク個人の見解です)


 ところで、あなたはなに、もじもじされているのでしょうか? 僕にはまったく理解ができません。


「──えっと、わたしもメイドになった方がいいのでしょうか?」

「いきなり何を言っているのですか!」


 あなたは聖女でしょ! むしろメイドをこき扱う立場じゃないですか!(注:これはあくまでとあるオーク個人の見解です)

 

 ──いや、あなたがそんなことをするとは思っていませんよ。た、多分、こういうこともあるんじゃないかなって思っただけですから。


「ほら、メイドさんって聞いてどんな男も興奮するのは今も昔も変わらないらしいですからね。──ほら、世の男性はメイドさんを好むのでしょう。英雄王様もアスタシア様にメイドの服を着せようとしてあれやこれやと色んなことをされたとか」

「そんな話、聞きたくありません!」

「えぇ、これはロマンチックな恋物語でしょう? ──何をそんなにかわいそうな目で見つめてくるのでしょうか?」

「──いえ、なんでもありません。僕はただあなたがすばらしいあたまをされているので」


 その話にロマンを感じるあなたが怖い。


 ──いや、たしかにメイドにはロマンがあるかもしれませんが……。僕がメイドにロマンを感じるのはあくまで空想上の話であって、実際にそんな女性に押しかけられても恐怖しか感じませんよ。(注:これはあくまでとあるオーク個人の見解です)


「えぇ、そうでしょう。素晴らしいお話ですよね、この教典は。ほら、この話とか」

「そんなどろどろした愛憎劇のどこが素晴らしいんですか!」

「これはあくまでアスタシア教の教典です。──決して、いやらしいものでも何でもありません!」

「ねぇねぇ、これってアスタシア教の教典の中でも結構貴重なものですよね」


 何か聞き覚えのある声がしましたので、振り返ってみるとそこにはなんとレレミナちゃんがいたのです。


 ──いや、待てよ。ちょっと待てよ! この状況は何かまずい気がしてなりません。


 ほら、聖女様がいて、見た目はただの村娘ですが中身はサキュバスのレレミナちゃん。


 どう考えても水と油のような関係じゃないですか!


「あれ? あなたはどちら様でしょうか? 普通の農民の方にはこの教典の重要性を理解されていないのに。──さてはオーク殿に用でも?」


 あれ? そのいかにもドロドロとした恋愛小説に価値があったんですか?


 しかし、なぜか聖女様が警戒しています。ただの村娘さんがその本の価値に気づいたらダメなんですか?!


「そういうあなたこそ誰でしょうか?」


 レレミナちゃん。張り合わないでよ。


 ──なんだかデジャブがします!


 もうヤダ! 僕の前でこんなことを起こさないでください!


 ──あっ。そういえば、危険な集団がうろちょろしている話を聞けていません。


 なんとなく理由は分かるのですが、そんなことをやっていないで、教えてくださーい!


次回、029.彼女たちはどうしてここまでぼく(オーク)に執着するのでしょうか?


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