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027.村娘さんとサキュバスさん

 

「彼女はレレミナ。魔王軍第3大隊大隊長をしています」

「改めてよろしくお願いします。オークさん」


 今、僕は村娘さんこと、レレミナちゃんと、真面目系サキュバスさんであり、僕のストーカー6号でもあるレミオラさんの二人と話しています。


 いやぁ、テーブルにするにはちょうどよくきれいに斬られていた切り株があったのでよかったです。


 まぁ、最初は僕が確保している洞穴の一つを勧めていたのですが、レミオラさんに「は? そんな豚臭いところに誰が行きたいですか?」と散々に貶されまくりまして、しょうがなくちょうど目の前にあったこの切り株でティーパーティー、もとい会話をしているわけです。


 よく考えたら、紅茶を用意した方が良かったですね。生憎、僕の貯蔵庫にはお酒しかありませんので、紅茶みたいな洒落たものは用意できません!


 しかし、驚きましたね。まさか、彼女があの某中二病さんと同じ大隊長だったとは……。


 どこからどう見ても、彼女は普通の村娘さんのような気がするのですが。


 ──ところで、ちょっと気になるのですが、レレミナちゃん。どうしてこんなにへばりついているのでしょうか? ちょっと力が強いです。もっと離れてほしいなぁ……。


「レレミナ、いい加減オークから離れなさい!」

「えぇ~! いやだよ! 姉さま、わたしはオークさんとくっつきたいの!」


 まぁ、いいじゃないですか。お姉さま。──別にあなたも抱き着いてもいいのですよ。


 ところで、急に敬語が取れたのはなぜかな? まぁ、その喋り方も十分可愛いからいいんですけど!


「わたしはそんなこと思っていませんよ!」


 うん? なんかレレミナちゃんが僕に耳を近づけてきましたね。ひょっとして、愛の告白?


「レミオラ姉さまはわたしたちに憧れているんだよ。小さい頃に屋敷の書庫にあるか「それ以上、言ったらお尻ぺんぺんですよ」──すみません。レミオラ姉さま」


 レミオラお姉さまって心読めるんじゃないかなって思っちゃうんですよね。


 ほら、なんか僕たちの考えていることをすぐに言い当てるんですよね。


 あれ? レレミナちゃんのはちょっと違うかも。なんか秘密を暴露されそうになったから止めようとしたのかな? 


 その秘密、僕に教えてください! 


 ほら、別にばらす人がいないので、教えても構わないでしょうよ。──だから、そんなに睨みつけないでくださいよ。


 ──はぁ……。誠に残念ですが、少し話題を変えましょうか。


「ところで、どうしてレレミナちゃんは村娘のふりをしているんですか?」

「そうですよ。どうして、未だにこうしているのですか?」

「だって、魔王城で事務仕事なんて退屈で面白くないじゃん! けれど、人間の世界は面白いよ! 最近はめっきりなくなったけど自分たちで勝手に戦争はするし、お金も自分の大事な人も奪い合う。魔王軍と比べたら、スリルがあって面白いんだよ」

「たとえ、人間の方がスリルがあるとしても、あなたは責任のある第3大隊長であり、“色欲”の称号を持つ身なのですよ! そんなことをしていたら部下に示しがつきませんよ!」


 なんか人間がそう思われているなんて……。ちょっと悲しいです。別に僕たちはそういうことがしたくて生きているわけじゃないのですよ。


 ところで、魔王軍ってそんなに平和なんですか? いくらなんでもあり得ないでしょ、それ! 名前からしてどう考えても戦争する気満々でしょ!


「なら、レミオラ姉さまが第3大隊長すればいいじゃん。それで万事解決だよ」

「あなたの方が魔王様の信頼が厚くて、呪術も強いじゃないですか! それなのに、どうしてそんなことを言うんですか!」

「だって、わたし、好きで大隊長やっているわけじゃないの。それに1~3の大隊長以外は弱いじゃん。そんなところにいても面白くないよ」


 あのぅ、それじゃほかの4人は何なんでしょうか? スペアですか? 埋め合わせですか? さすがにかわいそうですよ、その扱い。


 ──はっ! 今、僕は話題を入れ替えることと、自分の疑問を解消する最適解を見出しました。


「そういえば、大隊長ってどんな風に決まっているのですか? ほら、あの痛々しい燕尾服を着た病人がなぜか大隊長になっているじゃないですか。僕ずっと気になっていたんですよー」


 うん。これでいい。これで尊い二人がこれ以上言い争いをすることは無い。なんか話が逸れているかもしれませんが、とにかくこうしないと話がますます嫌な方向へ行ってしまうでしょ。だから、これが正解なのです。


「そうだ! オークさん。あなたが魔王軍に入るのなら、戻ってもいいよ」


 あれ? どうしてそっちの方に話が行くのかな? そりゃ勿論、「「嫌です!」」


 一瞬、レミオラお姉さまと目が合いました。

 その刹那、彼女から蔑むような目を向けられたのは気のせいでしょうか? 気のせいだといいのですが!


「ちょっと台詞が一致しただけでそんな気持ち悪い目を向けないでくれませんか? 早く消えてください」


 気のせいじゃなかった! ──残念。


「えぇ~! だって、クオ、──なんたらよりオークさんの方がはるかに強いじゃん! それにオークさんがいたら、毎日が楽しくなりそうだし!」


 ──ほう。それはどういう意味で?


「──わたしの妹にその目を向けないでください」


 まぁ、そりゃそうですよね。僕の見た目はオークですからね。かわいい女子高生の妹を太ったおじさんがそんな気持ち悪い目で見ていたらそりゃそう言いますよね。ただし、年は大分違う気がします。僕の方が大分年下のような気がしますが、そこを気にしては話が進みません。


 まぁ、一応ここは断っておいた方が良さそうなので断っておきましょう。僕はいろんな意味でレミオラさん派なので!


「──すみませんが、僕はあまり魔王軍という組織に入りたくないんです。ほら、僕ってかれこれ10年以上ぼっち生活をしているじゃないですか。そんなぼっちオークにいきなり取締役なんてできますか? 絶対にできませんよ!」

「それでも、強いんだからいいよ! それに、あのクビキラレサウルスなんてこのときのためにいるんだから。あいつに丸投げすれば万事解決だよ!」


 レレミナちゃん。自信満々に言っていますが、ちょっと名前が間違っている気がしますよ。あと、その、──クビキラレサウルス君は雑用がなんかですか? ほんの少しだけかわいそうになってきました。


「だから、第7大隊長の名前はクオーツェルですよ。そんな間抜けな恐竜の名前をしていません」


 そうでした。彼の名前はそんな名前でした。ここ最近、会わないので忘れていました。


 ──待てよ? そういえば、絶対に名前を言ってはならないあの愚かな黒蜥蜴君はどこにいるのでしょう?


 とある女騎士さんがクインブル氏から敗走してから彼を見たことがありません。しかし、いざ蜥蜴の悪口をお空に向かって叫んだら、やってきそうなので、そんなことをするのはやめましょう。


 けれど、ストレスが溜まっているんじゃないかって心配しないでください。ちゃんと穴を掘ってからそこに叫んでいますから!


 ──あぁ、そうでした。彼女への返答をしなければ。


 おお、そんな目を向けないでください。僕の孤高のオークになる夢が壊れてしまうじゃないですか。って、ほぼ達成しているじゃないですか! じゃ、じゃあ、変態女騎士さんから嫌われることを目標に頑張りましょう!


「それでも僕は一人の方がいいんですよ。いくらかわいくて尊いレレミナちゃんの頼みと言えど、その思いには応えられません」

「えぇ! どうして! 私の胸が小さいとか? それとももうちょっと痩せてほしいとか? それともしっぽが欲しいとか? 言ってくれたら、何でもするから! ねぇ、入ってよ?」


 あれ? 何を言っているのでしょうか?


 これ以上、彼女がかわいくするところなんて正直ないでしょ。


 だから、痩せようと思って食べ物を抜こうなんてやめてください! 健康に良くない! 絶対に悪い! 


 強いて言うなら、お姉さんに一目惚れしてしまったからですが、そのことを彼女の目の前でいうのもなんか気まずいし……。──あぁ、どうしましょう!


「いいじゃないですか。彼の決意は固いようですし。さぁ、帰りましょう」


 そんなうれしそうな顔をしないでくださいよ。僕が悲しくなるだけですよ。


「ヤダ! ヤダ! ヤダ! ヤダ! ヤダ! ヤダ! ヤダ!」


 そう言われるとうれしいですね! 僕の心の癒しはキング君とあなたと聖女様だけですよ! あぁ、勿論、レミオラさんも入っていますから安心してくださいね。だから、そんな冷たい視線を向けないで!


「さて、僕はそろそろドングリを拾いに行くので、さようなら」


 ここは逃げの一択ですね。これ以上一緒にいたら、レレミナちゃんが本気を出すかもしれません。


 いくら、あの中間管理職もどきのスケルトンが弱かったとしても、彼女は油断なりません。


 ──なぜなら、彼女は魅力的だから!


「えぇ、できれば二度と会いたくありませんね」


 そこはせめてオブラートに言ってよ。お願いですから。ねぇ、お姉さま!


「えぇー! わたしはずーっとオークさんと一緒に居た……」


 嘘でしょ。いつの間に気絶しましたよ。


 そんな偶然ありますか? ──ひょっとして、突然死?


「生きてますよ。ただ、手刀をしただけですから」


 だからどうしてそんなに心が読めるんですか? さすがにちょっと怖い!


「手刀ってそんなに素早いもので、都合よく意識を失わせる技でしたっけ?」

「言ったでしょう? 彼女には力業なら勝てるって」

「いや、それはさすがにおかしくないですか? どう考えても、あなたの方が上司より強いでしょ!」


 僕が彼女にそう言うと、急にいやそうなかおしながらも、こう答えました。


「彼の実家のローズブロッド家は魔王軍始まって以来の魔王様の直臣の家柄ですから、彼を大隊長に入れておかないと、彼のような自分のことを強者だと思い込んでいる人たちを中心にいろいろまずいのですよ」

「中二病たちに配慮しなくちゃいけないって、どんだけ魔王軍って平和なんだよ!」

「別にいいじゃないですか。そんなこと。それに、彼女を連れて帰るなら何でもしていいと魔王様から言われているので」

「──まぁ、いろいろ突っ込みたいですが、魔王軍に行きたくはないので、あなたのやることにはとやかく言いません。しかし、妹をそんな無碍に扱うことは許さない!」

「これは家族の問題です。あなたのようなオークには関係ありません。──それと、二度と会わないことを祈ります」


 レレミナちゃんを担いで去っていく彼女に僕はにこやかな笑みを浮かべてこう言いました。

 

「そう言って、ストーカー続けるんで「ドッカーーーーン!」」


 僕がそう言った途端、辺り一面が吹き飛びました。


 いやぁ、かなり嫌われましたね。しかし、レレミナちゃんの話を額面通りに捉えると案外無碍にはされていないようですね。


 あと、僕が傷付いたと思う方もおられるでしょうが、僕は腰布が飛び散っただけなので安心してくださいね。


 しかし、さすがにすっぽんぽんのままではいられないので、せめて腰布だけは呼び出しておきましょう。


 さて、これからドングリ狩りをしましょうか。別にさっきの発言は方便を言っているわけではないのです。──以前言ったかもしれませんが、僕は生きるためにドングリを拾っているのですよ。


 ******


 あれから数日後のことです。


「な、なんでここに居るんですか?」


 僕の目の前にレレミナちゃんが可愛らしい胸を張って立っていました。


「帰ったはずじゃなかったのですか?」

「実は魔王ちゃんに言つけをもらったんです!」


 ──ちゃんって……。一応、その魔王ちゃんはあなたの上司でしょ? やけに馴れ馴れしいような気がするんですが、そういうことを気にしない人なのですか?


 そう思いながら、彼女が持っていた羊皮紙を見ると、僕は驚きました。


 “クロフグの森のオークを勧誘することを条件に人間の村に村娘として住むことを認める”


 ここって、そんな名前だったんですね。あれ? ここってフグなんていましたっけ? ほら、フグって海の生き物でしょ? ここは森なのにどうしてそんな名前なんでしょうか?


 いや、そっちじゃなくて彼女が村娘になることですね。まぁ、彼女がいてくれるのはありがたいことですよ。だって、僕を訪ねてくるほとんどの人が危険人物ですからね。少しは彼女のような人がいていいものです。


「1週間、魔王ちゃんの食事中も執務中もトイレでも付きまとっていたらしぶしぶ認めてくれたの」

「それはさすがに迷惑でしょ」


 いくらなんでもひきます。むしろ、──クビだ! クビ! と言われてもおかしくないでしょ! 


 はっ! なんか聖女様と同じ匂いが……。──いや、これは気のせいです。僕に近寄る女性は大抵愛が重いなんておかしいですよ!


「これで毎日会えるね?」


 あぁ、なんか怖い。──けれど、こんなかわいい子が毎日会いに来てくれるのはうれしい! さて、今日は何をしましょうか?


「ちょっと待った!」


 その声とともにレミオラお姉さまが現れました。


「やっぱりいましたね。いい加減、僕のことが好きならはっきりそういえばいいのに」

「わたしは汚らわしいオークから妹を守るためにそう言っているだけであって、そんなつもりは断じてない!」

「そう言って内心どうやってオークさんと話そうか真剣に考えているんだよ」


 レレミナちゃんが僕の耳元でそう囁きます。


「ふむふむ。そうですか。──さぁ、レミオラさん。僕に抱き着いて来てもいいのですよ!」

「そんなこと言わないでください、レレミナ! このオークを調子に乗らせるだけです!」


 ──え、調子に乗っている?


 僕が調子に乗っていたら、あのスケルトンは重度の疾患だと思いますがね。


 友の酷い裏切りで少し心が折れそうになりましたが、かわいい女の子たちが会いに来てくれるなんて……。これからの人生が楽しみになってきましたよ。


 ──女騎士様は?


 あれはただの猟奇的な殺人鬼もとい、猟奇的殺豚鬼です。


 危険人物以外の何者でもありません。


次回、028.白くてとっても大きな恋人

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