026.愛しの村娘さん
突然ですが、クインブル氏に見事に裏切られた僕は月に一度のある人との再会を待ち望んでいました。
誰かって?
決まっているじゃないですか。名前も知らない村娘さんですよ。
以前、どこかで彼女について軽く話しているはずなのですが、知らない人のために彼女のいいところを説明しましょう。
一つは出会い頭に怯えない。
次にすぐに不思議な呪文“オーク退散!”を言わない。
それにめちゃくちゃ可愛くて、尊いんですよ。
黒髪のショートボブで、スタイルもよ、──ちょっと胸の部分がさみしいですが、とにかく小動物のようなところが何とまぁ可愛いのですよ。──別に僕は胸の大きさに関係なく、優しい人であれば大歓迎ですよ。ただし、あの変態女騎士さんはダメです。あれはどう考えても僕には合いません。
あと、僕と少なからず話をしてくれるところですかね。
まったく彼女は素晴らしいですよ。
しかし、ここ最近、彼女とは会えていませんでした。
と言うのも、正直会いたくもなかった変な人たちがなぜか怒涛の勢いで押し寄せてきましてね。会う余裕がなかったのですよ。──別に探そうとしなかったわけではありませんよ。
さらに、その変な人たちから今がいつなのか簡単に聞き出せるので、彼女を探す必要性が無くなったっていうかなんていうか、その……。──とにかく、彼女と会う必要性が無くなったのですね。ハイ。
そもそも、僕と彼女には一切の恋愛関係などありませんし、彼女もこんなオークは願い下げでしょうからきっと僕はただの人と話せる不思議な大きな豚さんとしか見られていないのでしょう。
ところで、何で急に彼女の話をし始めたのかと言うと、彼女が僕に会いに来たんですよ。
そう、彼女が会いに来てくれたんですよ。
信じない人にもう一度言ってあげましょう。
彼女が会いに来てくれたんですよ!
──ヤッホー!!!
とにかくうれしいですね。もう最高です。
もう心が天に召されそうです。
──はっ。それだと死んじゃうじゃないですか。
僕は老衰で死ぬ予定なので、そんなことはダメです。絶対にダメです。
「どうしましたか? そんなに短時間で様々な変な顔をして……。お体が悪いのですか? 最近はキノコが旬のいい季節なので、このキノコでも食べて元気になってください」
何で変な顔をするとキノコを食べた方がいいと考えるのかよく分かりませんが、彼女の贈り物ということなのでひとまずもらっておきましょう。
──げげっ!
これってあの恐ろしい毒キノコじゃないですか。
それもドラゴンが一口食べても2秒で死ぬといわれる恐ろしいキノコ。触っただけでも十分危険なキノコ。
まぁ、僕は皮膚が分厚いのでしっかり処置を施したら、問題はなんですけどね。
けれど、──あぁ、痛い、痛い、痛い!
そんなものをどうして彼女が持っているんですか?
意味が分かりません。
──いや、よく考えてみると、彼女は最初から変な人でしたね。
僕と初めて会ったときだってコボルトをペットにしようとして、そこら辺に転がっていた白骨化死体(たぶん、ハントクラブの方か勇者だったものです)の大腿骨をフリフリして手懐けようとしていましたから。
彼女を普通の村娘さんとして思ってはいけませんでした。ビーカーム。ビーカーム。
──あれ? よく見ると、彼女の手もただれています。これってヤバいじゃないですか!
「お嬢さん。ちょっと川まで手を洗いに行きませんか?」
「──あら、ヤダ。そんな川に行ってあんなことやこんなことをするなんて。いけませんわ」
ちょっと変な勘違いをしておられていますね。
こちらとしては十分うれしいことなのですが、生憎このままだと手が壊死するかもしれないのでここは仕方がありませんね。
「あら? 大胆じゃありませんか。どうして、急にお姫様抱っこをするんですか?」
あれ? 誰かとキャラが被っているような気がしますが……。まぁ、彼女とは可愛さの方向性が違うので被っていません。そういうことにしておきましょう。ただ、口調が似ているだけなのです。
「あなたがさっき僕に手渡ししてくれたあのキノコは毒なんですよ。このままだとあなたの手が腐ってしまうので、早く川で手を洗いに行くために僕が運んで走った方が早いのでそうしているのですよ」
「あら? そうでしたか。だから、手がひりひりしていたのですね。あぁ、残念。てっきり、“ブォーンブォーン”されるのかと思って心が舞い上がりそうになっていたのに……。──まったく残念です」
「そんなことより手を洗いましょうよ!」
うれしいのですが、少しは命の危険を感じてくださいよ!
僕だって、ちょっとキノコに触れてしまった手をあなたの御身体に触らないようにしているのですよ!
「あぁ、あんなところに大きな鳥さんが!」
「こら! 動いちゃダメでしょ!」
本当にこの人はどこか気が抜けています!
******
本当にこの毒キノコが水に弱いので助かりました。
少し水に手をさらすだけであっという間に治ってしまうんですから。
あれ? よく考えると、水に触れるだけで治るのも不思議ですね。
後でここの水をすくってクインブル氏に調べてもら……。──よく考えたら、彼には裏切られていました。ここで友を失った喪失感というのをひしひしと実感します。
──べ、別に僕にはキング君がいるから心配しなくてもいいんですけどね!
「本当に不思議ですね。ここの水って。こんなに簡単に治ってしまうなんて」
──それは今、僕も思っていたところなんですけどね。しかし、傷があっさりと治って驚いている顔もかわいいので特にそうぐちぐち言わないんですけどね。
あぁ、いつ見てもかわいい! 尊い!
「さて、今日は何をしに来たのですか?」
「ほら、オークさんっていつも私たちに暦を聞いて回っていたじゃないですか。それが最近パタリと無くなってしまって喜んでいた子もいたのですが、わたしは不安に……。──ちょっと泣かないでくださいよ。ハンカチ使いますか?」
「い、いえ、これは心の汗ですから。心配はいりません」
あぁ、めっちゃいい子だ。本当にいい子だわ。
よし! あとで、ほかの村娘さんと会ったら少しオハナシでもしましょう。
べ、別に変なことをしようっていうわけじゃありませんよ。
ただ、彼女たちにオハナシをするだけですからね。
そう。説教という名のオハナシです。だから、勘違いをしてはいけません。──お尻ペンペンはするかもしれませんが、それはスキンシップです。決してセクハラではありません。
「ちなみに会わなかったのも、最近、僕も忙しかったんですよ。──ほら、前に女騎士さんに追われている話をしたでしょ?」
「そうでしたね。けれど、なんだかちょっと逆の気もするんですが、とにかく不思議な女騎士様がいる話ですよね」
「実は僕を困らせているのは彼女だけじゃなかったんですよね。──僕にはストーカーがなぜかたくさんいまして、彼らに追いかけられていたんですよ」
「あれ? いつもそう言っておられるので、不思議だと思ったのですが、“ストーカー”とは何でしょうか?」
あれ? あんなに変な聖言語(笑)がこの異世界にゴキブリ並みにひどく蔓延しているはずなのに、ストーカーという単語を知らないとは? それに文脈から意味が分かってもいいはずなのですが。
どこかの変な骨さんがストーカーと言われて、猛反論していたような気がしたので、通じるのかと思ったのですが……。──まぁ、知らない人にはしっかり教えてあげた方がいいですよね!
「ストーカーというのは簡単に言うと、人を追いかける気持ち悪い人のことですよ」
「なるほど、そういう人のことですか。知りませんでした」
「別にこんなこと知らなくてもいいんですけど、──まぁ、あなたにはそんなことはないでしょうね」
「ありますよ。最近、隣に住むライドが怖いんですから。わたしを最近、つけ狙っていて毎日、振り切るのでやっとですから。──って、ちょっと待ってくださいよ! 今から何しに行くんですか?」
「そのライドという不埒者を懲らしめに行こうと思いまして。なーに、心配しなくても僕が消してあげますから」
「そんなことしなくてもいいですよ。こう見えてわたし、強いんですから!」
止められたら仕方ないんですけど、──強くは見えませんね。しかし、なんかマッスルポーズしている彼女がちょっとかわいいですね。うん、眼福です。
「──久しぶりじゃないですか。オーク」
あれ? 一瞬、何か心に語りかける冷たい声が聞こえたような。
ひょっとして嫉「そんなわけないでしょ!」
──あれ?
そう思って振り返ってみるとそこにはサキュバスさんがいました。
そう。僕の間違っていたサキュバス像を正してくれたあのサキュバスさんです!
名前はすみません。サキュバス、サキュバス連呼していたせいで思い出せませんが、──ちょっとあなたにはいろいろ聞きたかったことがあったのですよ。ねぇ、どうして……。
あれ? さっきから言葉が出せていない? なぜだ! なぜなんだ!
「──それにレレミナもここで何をやっているのですか?」
なぜか喋れない僕を尻目にサキュバスさんは村娘さんに向かってそう言いました。
あれ? 彼女が村娘さんのことを知っているわけなんか……。
あれ? よく見ると、村娘さんがいません。
どこに行ったのでしょうか?
あっ! いつの間にかサキュバスさんが村娘さんを掴んでいます。羽交い締めにしています。
これはどういうことなんでしょうか?
サキュバスさんは魔王軍ですが、村娘さんはただの一般庶民ですよ。どうして羽交い締めにするんですか。せめて、もっと優しく抱擁してくれた方が僕の目の保養になるんですが……。
「あなたとの追いかけっこでは一度も負けたことはないはずなのに、なぜ逃げようと思ったのですか? レレミナ」
「ふふふ。呪術で勝ったことが無いくせに力技で勝った気になったらダメだよ。姉様」
あれ? これは一体どういうことなんでしょうか?
まさか! 彼女はひょっとして……。
次回、027.村娘さんの正体




