002.ストーカー女騎士さんとぼく(オーク)の出会い(1)
長いので、とりあえず分割してみました。
センスの欠片もない題名ですが、よろしくお願いします。
あれは半年ほど前のことです。
僕はドングリの木が生えているところに落ちてあるドングリをたくさん拾っていました。
前世の頃は子供の頃の遠足でたくさん拾ったぐらいで、結局飽きちゃってすぐに捨てたんじゃないかと思います。
しかし、今世では違います。
真剣に拾っています。マジで拾っています。
べ、別に一人でさみしいからドングリでお人形さんとか作っているわけじゃありません。
えっ、嘘だって?
いくらなんでもひどすぎます!ぼくはまじめに採集をしているんですよ。
それこそ100とか200とかそういうレベルではありません。
一応、目標は1万個です!
ほら、大人拾いしていますでしょ。
エッヘン!
僕は子供の遊びをしているわけじゃないんですよ。──そう、僕はね。
もし、僕のドングリ採集によってドングリの木が消えたとしても、僕としては住む森を変えるだけのことで、環境破壊だのなんだの言われても構いません。
だって、生きなくちゃいけないんです。
30年後とか50年後のこととか今はとても考えられません。
環境を守るのは余裕のある人がやってください。
ちなみに、比較的まだ余裕のあった前世ではゴミの分別くらいはしっかりしていましたよ。
出来る限りごみを増やさないように努力もしてきましたよ。
──おっと、前世のことはこれくらいにして今の話をしないといけませんね。
僕はかつては豚のようにドングリをがりがりと食べたこともあります。
しかし、それでは満足できませんでした。
これを砕いて、形を整えてクッキーにするとそれなりに腹持ちもいいし、なにより前世で食べた美味しいクッキーのことを思い出せるからです。
ドングリと水しか使っていないので、どうもパサパサして味気のないものになりがちですが、まぁ、腹持ちがいいのでよしとしましょう。
特にこれから冬が来ると、木の実とかは極端に取れなくなるので、今のうちに取っておかないと危ないです。
最悪の場合は、農家の人が植えているジャガイモとかをそこら辺のイノシシに混ざって掘り起こさないといけませんからね。
そういえば、一度だけクマとかに見習って冬眠したことがあるのですが、起きたときに味わった虚脱感というのでしょうか、どうも気持ち悪いくらい力が入りませんでした。
あのときの経験があまりにも気持ち悪くて、冬になるとウトウトして眠くなりそうになるところを懸命に堪えています。
僕が必死にドングリを拾っていると、剣がぶつかり合う音が聞こえました。
──あっ、これって誰かが殺しあっている最中だ。
普段なら、この音を聞いただけで逃亡しているところなのですが、このときはどんぐりを持っていました。
そういえば、普通のオークも一応、ドングリも食べます。
あくまで好みのお肉が人間という同種である僕ですら正直意味の分からない生き物なのですが、僕のお手製クッキーも人のお肉が手に入らなくても困らないようにと教え込まれたものです。
レシピを知らずにドングリからクッキーを一から作れるわけないでしょ。
しかし、オークに教えられたものを実践するのも癪だったので、豚のようにドングリをがりがり食べていたというわけです。
──ただし、すぐに飽きてしまって結局オーク直伝のクッキーを作っていたのですが……。
やっぱり悔しいです。
だから、僕が今巾着袋に入れているドングリはあいつらからしてもお宝のように映ります。
あいつらは年中発情、年中空腹の生き物ですからね。
──僕ですか?
安心してください。一人さみしく“ピッピッピー”ですよ。
だって、女性のオークはどうも前世は人だった僕の好みからは逸脱していますし、村娘さんたちを“ドッゴーン”しに行くことなんて到底できません。
そんな勇気僕にはありませんよ。
それに、あの人たちいつも訳の分からない呪いの言葉をかけてきますからね。
気が狂っているんじゃないかと思って近寄らないようにしています。
ほら、あなたも「フフフッ、わたしは魔王軍第7大隊大隊長のクオーツェルであるぞ。図が高い。愚民であるお前たちは頭を垂れよ」なんて言われたら避けますよね。
えっ、クオーツェルって?
なんかリアルだって?
あんな変な人ぼくは知りませんよー。
えぇ、本当に。嘘じゃありませんよ。
ちなみに僕のような見るからにぼっちオークは普通のオークにカツアゲされます。
初めてオークにカツアゲされた恐怖は説明のしようがありません。
しかし、一応オークに生まれ変わった身ですので、自衛くらいはできます。
これでもなぜか普通のオークさんにも一対一なら負けたことはありません。
なぜでしょう? 彼らの方がどう考えてもたんぱく質は豊富に取れているはずなのにね。
僕には分かりませんよ。本当に。
そんなことよりも本題に入りましょう。
もう前回より文章多いですからね。
つまらないオーク情報に飽き飽きされた方々ならもうとっくの昔に話を聞くのを止めていますよね。
やめてくださいよ。
一応、みなさんに困ったことを言いたいんですから。
こうなったら、最後まで聞いてくださいよ。本当にお願いします。
僕は剣戟の音がするあたりまで近づきました。
すると、そこには女騎士さんと同胞が戦っていたのです。
銀髪でポニーテールの少し切れ目の綺麗系の方ではありませんか。
──ぐふふふふ。今晩のネタは決まりました。
あっ、別に変な意味じゃないから安心してくださいよ(焦)。
いやぁ、これまで男の方の騎士には何度も会っていまして、謂れのない罪を吹っかけてくるものですから懲らしめているのですが、女騎士さんには会ったことがありません。
そもそもこの世界に女騎士っていたんですね。驚きました。
いや、若い頃は「異世界と言えば、女騎士だよね!」という淡い幻想を持って生きてきましたからね。
そんな純粋だったころの僕はハゲで筋肉もりもりの騎士さんたちに出会っていくうちにその幻想が無くなっていったのですよ。
──せめて、ハンサムな王子様系イケメン騎士でも出せよ! と思うのですが、どうも異世界にはイケメンが不足しているらしいのでおっさんしか会いません。
ちなみに、狩人の方なら一定数いましたが、ここでそのことについて語っていると話がまったく進まないので、ここでは話しません。
とにかく、そんな夢幻など僕は持っていません。
しかし、本当に女性が戦っているところを見ていると何か華がありますね。男の人だとどうも力で押し切るところがあるので、型とかそういうのが崩れていて気持ち悪いんですよね。
ほら、なんか最初はカッコつけたいのかどうか知りませんが、カッコつけた戦い方をしているのにだんだん切羽詰まってくると急に力任せに戦おうとしますからねぇ。
本当に醜いったらありゃしません。
あっ、こうしていくうちに女騎士さんが押し倒されちゃいました。
これは残念ですね。
勝ってくれたら目の保養にちょっとご挨拶してから全速力で逃げようと思っていたのに、──よりによってオークかよ!
女の子に追いかけられるのはどこか魅力的に感じていたのですが、あんな気持ち悪い人の形をした豚に追いかけられるのは嫌ですね。
あっ、僕もそのオークでした。──ぼっちですけど。
そう思っていると、ぼくは偶然彼女と目が合ってしまいました。こう目を合わせるとなんか、その美しいお方だと思ってしまいましたね。
「隠れている貴様、お前もオークだろ? そこにいるのは分かっているぞ」
あれ、一応100mくらい距離を取ったはずなのに何でバレているの?
ねぇ、どうして?
ひょっとして彼女はアフリカの狩猟民族でもやられていたのですか?
あなたの上にのしかかっているオークさんちょっと動揺していますよ。
てっきりあなたのことを独り占め(これだけ聞くとなんだかカッコよく聞こえるんですけどね)に出来ると思っていたのに、別の男がいることを知って少々慌ててふためいているところ彼は案外若いオークなのかもしれません。
壮年のオークはそんなことお構いなしに“ドンドコドン”しますからね。
本当にあれは気持ち悪かったです。
後で僕に見苦しい絵を見せたそのオークはしっかり処理しておきました。
しかし、そのせいなのか、はたまた僕がぼっちオークだったからなのか、そのオークの敵討ちにたくさんのオークが僕を殺しにきました。
──あのときは本当に怖かったですね。二度とあんなお人好しな真似はしないと心に誓ったくらいですから。
──おっと、また話が逸れました。いくら久しぶりに人と話すからと言ってこれはだめですね。すぐに話が逸れちゃいます。
ちゃんと戻すから待っててください!
うぶなオーク君は少し落ち着いたのか、大きな声でこう叫びました。
「おい、仲間よ! いるのなら出ていけ!! 俺様の楽しみを邪魔するんじゃない!!!」
いやぁ、そんなこと言われた余計邪魔したくなっちゃうんですけど……。
──まぁ、彼には一応帰る村がありそうなので、もし彼のご機嫌を損ねるとまずいことになりそうですね。
あのときの二の舞になりそうです。
ここはひとまず退散しておきましょうか。
「おい、逃げるんじゃない! 男なら、わたしと戦え!」
女騎士さんどうして僕のことが見えるのかはわかりませんが、今の状況を見てください。
あなたどう考えてもうぶなオーク君に負けているじゃないですか。
それなのにさらに敵を作るんですか?
お気はたしかですか?
僕は弱いものいじめをするほど意地悪な人間(見た目はオークですけど、心は人間ですよ)ではありませんから去ることにしましょう。
彼女を見捨てるのは心苦しいのですが、しょうがないです。自分の命が大事ですから。
──紳士?
オークにそんなものを求めないでください。
僕は二人のいたところから500mくらい離れて切り株に腰を下ろしました。
この辺りはドングリが生っているのでそれを一匹のそれもうぶなオークがいるだけでみすみす逃すような真似は致しません。
ほとぼりが冷めるまで待つことにしましょう。
そう思った瞬間、ドッカーンという大きな爆発音が聞こえました。
あれは女騎士さんとオーク坊やがいたところじゃありませんか。
これはどういうことなのでしょうか?
正直意味が分かりません。
──ひょっとして、彼女が爆弾を持っていたとか?
ないない。少なくともこの世界に手榴弾とかそういうのはなかったはずです。
とはいえ、なんだかこれはまずいことになったようなので、今日はこの辺にしてトンずらしましょうか。
そう思った途端、僕の腕をがしっと掴む何かに気づきました。
ひょっとして、あの純情オーク坊やが憧れの女騎士様との熱い“ガッシャーン”の邪魔をされたから追いかけてきたのでしょうか?
それにしては手が少々小さいような……。
「追いついたぞ。オーク殿。逃げるだなんてひどいじゃないか。こう見えても私は女性なのだぞ。少しはあのオークと私を賭けた奪い合いとかしてもいいんじゃないのか?」
なんかこの人さっきから変なこと言っていませんか?!
それになんか怖い。
あなたの上に乗っかっていたオーク坊やは?
それにこの腕の力は何なんですか?!
ひょっとして、あの爆発音はオーク坊やに負けたはずのあなたがやったんですか?!
次回、003.ストーカー女騎士さんとぼく(オーク)の出会い(2)