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019.おバカな勇者の騙し方

 

「師匠、どうしても聞きたいことがあります」


 ねぇ、どうして鬼気迫ったような顔をしているのですか?


 それほど僕のそばにいる彼女が危険なのですか?

 正直言って彼女には素晴らしい魅力がある以外はただの可愛い女の子にしか見えませんよ?


 それにあなたは何ですか?


 「こんなに女に取られるくらいなら!」と言って、彼女を殺してから自分も死ぬ危険人物さんですか?


 それとも僕によりつく女性は手あたり次第殺したい人ですか?


 どちらもやめてください。

 怖くて怖くて仕方がありません。


「なんでしょう? あなたに打ち明けるような秘密なんてありませんが」

「な、なんと……。私は師匠に信頼されていないのですか」

「信頼も何も僕があなたみたいな頭の可笑しい人と付き合いがある時点で十分ショックですから」


 まぁ、異世界に来て2か月で既にハーレムを作り上げて魔王退治の練習としてオークを殺しに来るような狂った感性の持ち主ですからね。彼のことをおかしいと思って当然ですよね。


 え? どうせお前も勇者として転移したら、そうしてたんだろ、ですって?


 アハハハハハハ、何のことかな。

 僕はオークだから全然分からないや。


「僕はこれまであなたに何度も何度も貢いできました」

「その言い方がそこはかとなく僕を傷つけようとしていることだけは分かります。──あなたはそんな冷たい目で見ないでください」


 貢ぐなんて謂れのない一言を言われると傷つきますよ。あくまで彼の落としたものを拾っただけです。返せと一度も言われていないので、使ってもいいと思っていたのですが……。


 それに彼女が僕を怪しんでいるじゃないですか!


 せっかくあともう少しで口説き落とせると思ったのに……。


 まったくひどいじゃないですか!


「──気のせいでしょう」

「──気のせいと言うなら、目をそらさないでください!」


 ほら、嫌われちゃったじゃないですか!

 どうしてくれるんですか?!


 ──えっ、彼女は最初からお前のことが好きじゃない?


 そんなわけないでしょう。彼女は僕のことが好きなはずです。ほら、さっきから僕のすぐそばにいますよ。


「どうして師匠は私よりもそのぽっと出のサキュバスが良いんですか! これまで私はあなたに魔王軍の幹部の魔石が採れたら、一目散に渡してきたじゃないですか!」


 また同じようなことを言わないでください。

 彼女にますます嫌われるじゃないですか。


「ねぇ、どうして僕をそんなに冷たい目で見るんでしょうかね?」

「──気のせいでしょう」

「気のせいなら、ちゃんと僕に目を合わせて言ってくださいよ!」


 ──もう、手遅れなくらい嫌われてしまいましたよ。

 これじゃ脈なしですよ。


 ──最初からお前に望みなんてないよ?

 そんなの試してみないと分からないじゃないですか!


「これ以上、師匠が淫魔に(たぶら)かされているのを見過ごすことはできません! 私が師匠のためにそこにいる淫魔を殺しましょう」

「──咄嗟に僕の陰に隠れるのはやめてくれませんかね? 勘違いしちゃうじゃないですか」

「勘違いしないでください。わたしはあくまでそこにちょうどいい肉壁があったから隠れただけです」


 肉壁って言われるとなんだか悲しくなりますね。

 ──まぁ、頼られていると考えると、少しうれしくなるんですけどね。


「きー! もう怒りました! その汚らわしい淫魔に誑かされるあなたは私の師匠ではありません」

「最初から僕はあなたの師匠じゃないんですけどね」

「そういうのであれば、この汚らわしい淫魔をあなたごと成敗してくれる!」

「いいでしょう。僕は彼女の肉壁になるのなら喜んでしましょう」

「──気持ち悪いです。勘弁してください」


 いやいや、そう思っていながら内心「憧れのオーク様に近づけてラッキー!」とか思っているんじゃないですか? いや、そうですよね?


「──その台詞でにやけている師匠を私は見ていられません!」

「僕のダンディなこの顔がにやけているとでも?」


 彼はいったいどこを見てそう言っているのでしょうかね?


「十分にやけているじゃないですか!」

「そもそも、オークにダンディなんていう言葉が合うんですか?」


 サキュバスさん。オークにもダンディな方はいますよ。


 ほら、人が見ているのを気にせずに“ドンドン”するオークもいますからね。


 ちょっと意味合いが違うかもしれませんが、気にしない。気にしない。


「そういえば、師匠。この淫魔を私にくれるなら、第7大隊長の魔石をあげましょう。だから、どいてください!」


 いやいや、それは先に言ってくださいよ。


 これはやはりあの大隊長(笑)さんは死亡確定ですね。別に喜んでいませんが、ストーカーが減るのはうれしいことです。


 けれど、たかがどこかの大隊長(笑)の魔石如きでサキュバスさんを渡しませんよ。


 それにサキュバスさん、なんか一瞬、ニヤリと表情を崩しましたね。今更知らん顔してもごまかせないですよ。いったいどういうことなんですか?


 ひょっとして、あの大隊長が死んでせいせいしているとか?


 それなら、僕のねぐらに永久就職してください!


 まぁ、そんなこと言うとますます引かれるので落ち着きましょう。ビーカーム。ビーカーム。


「──さっき伝えようとしたのはひょっとして」

「はい。うちの上司のク……「そうです。そのスケルトンを殺したのはこの私なのです!」」


 また、邪魔するなぁ。僕はいくら君の自慢話を聞いてもホメませんよ。


 かえって厄介ごとが起こるので勘弁してほしいくらいです。


「私はこれまで何人もの大隊長を成敗してきました。これまで何千年にもわたって人類を苦しめてきた魔物たちを殺すのは正しいことなのです」


 あぁ、また、はじまったよ。いったい何回目かな、これ。


 ──聞いたことが無い?


 気のせいですね。あなたも聞いたことがあるはずです。嘘は言わせませんよ。


「師匠はそんなオークに身をやつしている奇特な人間なのですが……………………」


 しかし、よくそんなに長く喋れますね。僕は途中で聞く気力を失って、彼の台詞を途中で割愛してしまうくらいですからね。


「ねぇ、あなたはあのクズノキをどうやってだましたんですか?」


 そこが気になりますか?

 僕は目の前の黒髪の少年の長い台詞がいったいどのようにして生み出されているのか気になっているのですが……。


「知りませんよ。勝手にあっちの方が勘違いしているんですよ」

「そうですよね。どう考えても、豚くさいオークの臭いしかしないのにこれまでどうしてあのクズノキが勘違いするのか不思議でした」


 やっぱり僕には加齢臭が……。


 くそ! あいつにまともな対策法を聞いておくべきだった。

 今度会うときには絶対言ってやる!


 そういえば、死んでいましたね。忘れていました。


「ひょっとすると、彼の防衛反応じゃないでしょうかね? ──ほら、僕に一度も勝てないから強い人間だと思って現実逃避しているんですよ」

「それなら、魔王様も人間扱いになるのではないでしょうか? あのクズノキは何度も魔王の間に入っているのですが、そんな素振り一つもありませんよ」


 ──嘘!?


 これまで彼からあの魔石を含めて12個くらい大きめの魔石をもらっているのですが、そんな彼でも勝てないなんて魔王様はどれほど強いんですか!


 それなら、部下をもっと強くしてくださいよ。


 僕をFAしようとしていないでさー。もっと部下を鍛えてよ!


「おかしいですね。どうしてあなたがそんなことを知っているんですか?」

「──妹が大隊長をしています」

「妹さんが?」


 なんか言いたく無そうでしたが、どういうことなんでしょう?

 気になりますね。


 しかし、ここではまったく関係ありません。聞かないことにしましょう。


「──そうです。わたしよりも腕が立つから大隊長になれました」


 あれ? 答えてくれるんですか?

 ラッキー!


「へぇ、彼女はひょっとして「わたしの妹が変態なわけないでしょ!」──そうでしたね」


 残念です。この世界には“ぴょんぴょん”なサキュバスはいないそうです。てっきり目の前にいるサキュバスさん以外はまともな“ぴょんぴょん”なサキュバスだと思っていたのに!


「その妹が毎日ヤタガラスを飛ばして来るから知っているんですよ。──ところで、どうしてそんなに動揺しているんですか?」

「すみません。なんか聞いたことがある鳥の名前が聞こえたので」

「ヤタガラスを知っているんですか? 珍しいな。その昔、第2大隊長が気まぐれに三本足のカラスを育てたところ、勇者たちが「ヤタガラス、ヤタガラス」というので、かっこいいという理由でその名前になったんですよ」

「気まぐれに3本足のカラスを育てないでください!」

黄金兎おうごんとを育てているあなたにだけは言われたくない」

「オウゴント? そんなの知りませんよ。──って、なんでファイアボールを打ち込んできますかね。僕と彼女の愛の言葉のキャッチボールを邪魔「そんなこと決してしていません!」──すみませんでした」


 しかし、どうしてこんなにサキュバスさんから嫌われているんでしょうか? 僕にはまったく分かりませんよ。


 いやいや、そんなことよりも目の前にいる危険人物の処理が最優先事項です。目の前にいる彼は血の涙を流しています。


「もういい! 師匠! 僕の話をこれっぽっちも聞けないあなたは消えてください! ──師匠、安心してください。不肖な弟子ながら、ここまで成長したんですよ!」


 もう何回こんなセリフを聞いたんでしょう。

 辛いです。


 どうしたら、彼にあの魔石を落として帰ってもらえるでしょう?


 そうだ!


「あなたは何か勘違いしています」

「なんのことでしょうか?」

「彼女は僕の恋人なのです」


 いきなり何を言うのか、とお思いのみなさん。

 もう少し待っていただければ、彼は自然と僕に魔石を譲るのでもう少しだけ辛抱してください。


 ちなみに、後ろにいる彼女が僕に何かを言おうとしていましたが、しっかり手で口をふさいで口止めしておきました。


 これは正しい口止めです。とやかく言われる筋合いはございません。


「どう見ても、そう見えないのですが。くだらない妄想でもしているのですか?」

「くだらないとは何ですか!」


 彼女と付き合うことのどこがくだらない妄想何でしょうか? 懇切丁寧に説明してほしいものですね。


「私はそんなにくだらない男なのか?」

「彼女は僕の恋人なのだ! それにお前のようなゴミ勇者には分からないようだな」

「い、いったい何のことでしょうか! 師匠!」

「彼女も人間なのだ!」

「な、なんと! いや、そんなはずがない! 彼女は淫魔だ! これは間違いない!!」

「そう、彼女も人間。彼女も奇特な人間でして。──とある趣味でサキュバスになったんです」

「な、なんと! そんな素晴らしい女性が師匠の恋人に?!」


 なぜそこで素晴らしいという発想に思い至ってしまうのかは知りませんが、彼はこういう人なんだと思ってそっとしてあげてください。


「そうなのです。だから、帰ってください」

「帰りたいところですが、師匠にこの魔石を渡すまで帰れません!」

「なら、その辺に捨てて帰ってください」

「ラジャー!」


 彼は魔石を置いて一目散に山を駆け抜けました。

 まったく普段からもっと早く帰ってほしいですね。

 こういうときは彼女にいてほしいですね。


「──悪は去った」

「いろいろ言いたいことはありますが、とりあえず一言言わせてください」


 なんでしょうか? ひょっとして告白ですか? それなら、ありがたいです!


「わたしはあなたの恋人じゃないです」


 ──ノーン!


次回、020.サキュバスさんの説教


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