017.自動殺戮機械vs.オーク・イーター
軽く前回までのあらすじといきましょう。
ある日、僕は例のオカマに捕まって、豚肉にされそうになったところ、あの変態女騎士様が颯爽と現れたのです。
──これまでまともなあらすじが無かったのにどういうことか?
いえいえ、本格的な戦闘シーンがこれまでなかったので、つい興奮してしまったんですよ。
ほら、僕と彼女の鬼ごっこなんてまったく戦闘要素ないじゃないですか。
あるとすれば、そこには恐怖しかありません。
──そう言って本当は怖くないでしょ、ですって?
冗談を言わないでください!
彼女に追いかけられるのってとっても怖いんですから。
朗らかな笑みとは明らかにかけ離れた引きつった笑みを浮かべた女性に追いかけられて嬉しいんですか?
剣を身につけ、鎧を纏っている女性に追いかけられたいですか?
僕は嫌です。
もし、捕まったら、舌を噛むつもりです。
──おや、オカマに対しては舌を噛んでないじゃないか?
──ひょっとして、貴様はあちら側の人間だったのか?
そ、それは違います。僕はあくまで人間の女性が恋愛対象です。決して目の前にいるロリータ服を着た坊主のオカマも、そこら辺にいる雌オークには興味はありません。さっきのは言葉の綾です。だから、許してくださーーーーい!!!
さぁ、気を取り直して話に戻りましょう。
「そういえば、あなたとは何度も仕事であったことがあるけど戦ったことはなかったわねぇ」
「そうだな。大体、わたしは単独行動をさせられているからな」
「そりゃ、あなたみたいな男限定の殺戮機械と一緒にいたら、みんな嫌がるじゃない。ほら、騎士ってみんな男じゃない」
あれ? オークだけじゃなくて人の雄まで斬っていたのですか?
ほんと節操がないですね。
「いや、それは誤解だ。邪な心を持ってわたしを触ろうとするものは容赦なく斬ってしまうのだ。そう、このオーク殿を除いてな!」
「いきなり、何言ってるんですか?! 僕もどうせそこら辺にいる同胞みたいにバッサリと斬るんでしょ!」
「この坊やはそう言っているのだけど」
「信じてくれ! わたしはあなたがたとえ邪な心を持っていたとしても、斬ろうとはしない。むしろ来い!」
「──本当ですか?」
「本当だとも!」
それはそれでなんかいやですね。
勿論、僕は自分から彼女の方には行きませんよ。
彼女の方がこっちに来るんですからね。
「もう二人とも乳繰り合わないでよ」
「「乳繰り合っていない(いる)!」」
僕と女騎士さんは台詞が微妙に一致していないことに気づき、つい目を合わせました。
ねぇ、どうして「まさか、否定したわけないよな」って目を向けるんでしょうかね? 僕には否定しない理由の方が見当たりませんよ。
「あれ? どっちなのよ?」
「──わたしはいると言ったのだが」
「──どうして僕があなたと乳繰り合わなければいけないんですか?」
「ひどい! いくらなんでもひどいじゃないか!」
「そんなことよりも早く戦わないかしら? この坊やはしっかり縄で木に括りつけておいたから逃げられないようにしておいたから安心しておいてね」
「おう、そうか。なら、わたしが勝ったらオーク殿をわたしにくれ! ──だが、万が一、もし、わたしが負けたらあなたに、──しょ、しょうがないが、オーク殿をゆ、譲るとしようではないか」
すごい譲りたくないように聞こえるのですが……。
まぁ、僕からしたら今すぐ殺されるかもしれないか、飢えで殺されてお肉にされるかのどちらも死ぬこと確定の選択なのでぶっちゃけどっちも選べませんよ。
──って、いつの間にか大木に括りつけられているんですけど!
これじゃ僕が逃げられないじゃないですか!
僕を大木に縛り付けた当のご本人は女騎士さんに不満げな顔をしています。
「それだけじゃ足りないわよ。ハンデを頂戴。ハンデを」
「どうしてだ? あなたは十分強いはずなのだが?」
「決まっているじゃない。あなたのことだからさっさと意識的に殺戮モードになってあたしを殺す気なんでしょう?」
殺戮モード?
あの人はそんなロボットみたいなことができるんですか!
じゃあ、今までのあれは本気を出していなかったんですか!
それじゃ僕老衰で死ねないじゃないですか!
「──ど、どうしてわかったんだ!?」
「そんなの簡単よ! あたしが死んだら、自動的にあたしの負けだからよ。──だけど、それじゃダメなの」
「どこがだ?! あなたはもう5「そんなに年は取っていないわ。あたしは永遠の32歳なの」──そういうものなのか?」
──いや、32歳で若いって言うのはちょっと無理があるような気がします。たしかに最近は32歳も16歳もあんまり違いが無いように見えますが、それはあくまで僕の前世の話であって、この世界はちょっとねぇ……。
村娘さんたちを見ても、若いお嬢さんとおば、ゴフン、ゴフン。──失礼。若いお嬢さんとお姉さまではだいぶ差があると思いますがねぇ。
まぁ、円熟味が大事だと思う方にはそれくらいでもいいのでしょうが、僕にはちょっとねぇ……。
「聞こえているわよ。32歳が年取っているって?」
「キ、キノセイジャナイデスカ? ボクハイイトオモイマスヨ」
「言っておくけど、レイラちゃんは25歳よ。32歳が年取っているっていうのなら25歳も同じだと思うのだけど」
「えぇっ!」
この見た目で25歳?! ありえない。
「ちょ、ちょっとうれしいな。──ところでわたしは何歳に見えていたんだ?」
「──それ今、言う必要ありますか?」
ほら、尺的にもまずいじゃないですか。
そもそも、これからアクションシーンが始まるはずでしょうが?!
それなのに、もうすでにかなり話し込んじゃっているじゃないですか。
このままじゃ、アクションシーンなんて一瞬で終わってしまうじゃないですか!
「わたしはオーク殿からどう見られているのか聞きたいのだ!」
「僕は言いませんよ」
「いけずー!」
「ねぇ、そんなことしていないで早く勝負をしましょうよ。とにかくあたしはオークをもっともっと食べたいのよ。──特に彼のような強くて美味しい極上のお肉のオークを」
──狂っている!
ほんとこの人はオーク肉を食べることしか考えていないのですか!
普通喋る生き物がいたら、気持ち悪くて食べる気が失せるでしょ!
──そうでした。ここは異世界でした。そんな常識は通用しないのでした。
まぁ、これでオークの言い分が間違っているという事実にまた一歩近づきましたね。
いくらなんでも“オーク・イーター”という二つ名を持つ人がそんな慈善活動するとは到底思えないのですよ。そんなことよりも臭いお肉を平気な顔をして食べている絵の方が想像しやすいです。
──別に僕はその手の方々を否定しているわけではありません。どんな人を好きになるのかはその人の自由ですからね。それに僕はオカマが怖いのではなく、あくまで“オーク・イーター”を恐れているだけなのです。
「そうか。ならばいいだろう。それでもわたしが勝つ。とにかくわたしがあなたを殺さずに『参った』と言わせる。あるいは、気絶させればわたしの勝ちでいいだろう?」
「それならいいわ。なら、さっさとはじめましょう。言っておくけど、殺戮モードじゃないあなたよりあたしの方がはるかに強いと思うわ!」
なんとオカマは徐々に大きくなっていきました。
そして、そこら辺にある大木より少し大きいくらいで止まりました。
ところで、大きくなったら普通は服がビリビリに破けてしまうと思うのですが、不思議ですね。
彼、──ゲフン。彼女のドレスはまったく傷一つついてません。
これも異世界だからっていう理由で片付けられちゃうのでしょうか。
生憎、僕にはそれを確かめる余裕なんてありません。今のうちに少しでも縄を緩めないといけませんからね。
しかし、どうしてこんなにきつく縛るんでしょうか? まったくひどいことしますね。
『では、始めましょうか』
「これは聞いていないぞ!」
『あたしは今はもういない巨人族の血を引いているのよ。だから、これくらい大きくなることができるのよ。──ほら、大きな人間って誰とも生活できないじゃない。それじゃ生きていけないからその力は巨人族には必ず備わっているのよ』
いや、いないなんてありえませんよ。目の前にいるじゃないですか?
ほら、今喋っているオカマさんのことですよ。
ひょっとして、純血の巨人族がいなくなったとかそんな感じですか? それなら、ちゃんと説明してくださいよ!
「まぁ、いい。──それなら、私も少しは力を入れて戦うことにしよう」
女騎士さんはオカマさんに斬りかかりました。
しかし、オカマさんの拳が女騎士さんの斬撃を防ぎました。
「き、斬れないだと?!」
『巨人族の皮膚と骨は強靭に出来ているの。だから、いくらその剣が聖銀でできているのだとしてもあたしの手には傷一つつかないのよ』
「そんなのそっちの方が有利じゃないか! 今すぐハンデをなくせ!」
あなたって絶対に勝てる戦いしかしないんですね。本当に女騎士なんですか?
『じゃあ、今度はこっちから行くわよ!』
気持ち悪い服装をした巨人は女騎士さんを殴りました。
その衝撃で女騎士さんは吹き飛ばされ、木がなぎ倒されていきました。
──ちょっと待ってくださいよ。女騎士様、お願いですからもっと時間稼いでくださいよ。
これじゃ逃げ切れないじゃないですか!
僕がそう思っていると、バタバタと音がしました。
「フフフフフ。たった一発殴られただけでわたしがへこたれるわけなどなかろう。わたしのすべてはオーク殿のためにあるのだからな!」
女騎士さんが今までにないスピードで足を動かしているのです。
その動き、台詞。──なんとまあ、気持ち悪いことか。まるで何か別の生き物を見ているような気がします。
──いや、そもそも僕と彼女は別の生き物でしたね。
僕は変態じゃなく紳士なおーくですので。
「そういえば、そんなに大きかったらちょっとやそっとでは、あなたは殺せないな」
『殺しちゃダメって言っているでしょうが!!』
「いや、少し斬るだけだ。心配はいらない」
彼女が深呼吸をすると、彼女からなにやら湯気みたいのが出てきました。
まさか、これがオーラなのでしょうか? 僕にはどこからどう見ても寒い日に運動した後、汗が蒸発して湯気に見える現象にしか見えないのですが……。
そう思っていると、彼女はいつの間にかオカマさんを斬っていました。──いや、血は出ていないので峰打ちでしょうか。
オカマはゆっくりと縮みながら倒れました。
「な、なんて馬鹿力なの?」
「これは馬鹿力ではない。私の血の滲むような鍛錬によって培われた実力だ!」
「ほんとあなたは規格外だわ」
「──ということだ。オーク殿。一緒に帰……、あれ?」
そこは大きな穴が空いているだけでした。
まるで木が一本分ぽっかり抜けているかのように大きな穴が空いています。
「オーク殿! どこに行ったんだ! さてはお前が踏みつぶしたんじゃないのか! なぁ!」
女騎士さんは倒れているオカマさんを叩き起こしまして問いただしました。
オカマさんは息絶え絶えにこう反論しました。
「そ、そ、そんなわけないでしょ。あ、あたしがそんなへまをするわけないじゃない……」
「じゃあ、どこに行ったんだー! オーク殿!!!」
******
なんか誰かが僕を呼んでいるような。
まぁ、そこら中にオークはいますからオーク違いでしょ。
──結局逃げられたじゃないかお前! と思ったそこのあなた。
いやぁ、しんどかったですよ。
どんなに引っ張ってもほどけないんですから。
噛み千切ろうにも口から大分離れていますからね。
それでしばらく考え込みました。
そして、思いつきました。──よく考えたら、自分で木を引っこ抜いて走ればいいじゃないかって。
そしたら、僕は彼女や例のオカマから逃げられるじゃないですか。
なら、引っこ抜いて逃げるしかないでしょ。
──しかし、そんなことに途中まで気づかなかったなんて。僕としたことが……。
まったくうっかりしていました。
まぁ、いいです。彼女からも随分、離れましたし。
少し一息ついてまた走りますか。
ほら、あの女騎士さんは油断できませんからね。ちょっと深呼吸しただけで追いついてきそうですからね。──あぁ、女騎士退散。女騎士退散。
僕についているこの木は後でキング君に溶かしてもらうとして、僕はしんどいのでもうねぐらに帰ります。
──自然破壊?
そんなのもっと余裕がある人が代わりに木を植えてくださいよ。
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