016.オーク・イーター
「いよいよ、あなたを食べられる時が来たわ。まぁ、本当に楽しみだわ。──ドバドバドバドバ……。──あら、ヤダ。つい涎が出てしまったわ」
それは涎がしたたり落ちる音でしょうか?
どう考えても滝のように流れ出していませんか?
あっ、どうも。オークです。
なんかロリータ服(女性用)を着ている気持ち悪い大男に縄でぐるぐる巻きにされて、担ぎ上げられています。
ところで、今まで疑問に思ったことがあります。
そんなに僕は美味しいんですか?!
みなさんにはすでに話したと思いますが、ある下処理をしないと食べられないんですよ。
それに僕は他のオークと比べて確実にまずいと思いますよ。
ストレスに満ちた生活をしている豚さんはまずいって言うでしょ。
ほら、毎日、女騎士様から避け、たまに来る病人に「病院へ帰れ」と言い、愛がちょっと重い聖女様はあの手この手で僕を教会に連れて行こうとする。しまいには友人であるクインブル氏からは伝手もないのに貴族の娘さんを紹介してくれと頼まれますしね。──もし、そんな伝手があったら、あの女騎士様を止めてもらいたいですね。
振り返ってみるとなんと恐ろしい人生なのでしょうか。
しかし、それももう、終わりですかね。
キング君を呼び出そうにも、ペンも出せないくらいにぐるぐる巻きにされて担がれているものですから。
本当に嫌なものですよ。
僕は老衰で死ぬはずだったのに……。
どこかで人生設計を間違えましたかね?
──いや、生まれたのがオークだった時点で間違いでしたね。まったく不幸です。
どうせ食われるのなら、かわいい子の方がよかったのですが、こんな変態オカマおじさんに食べられるなんて……。
神さまとはこの世に存在しないんですね。
こういうときほどそう痛感することはありませんよ。
僕ってなんて不運なんでしょうか?
こんなこと考えても無駄ですね。
ところで、僕はこれからどんな風に食べられるのでしょうか?
シンプルに丸焼きでしょうか?
それとも、解体されて、ホルモンとかを焼肉にされるのでしょうか?
はたまた、回鍋肉とか、角煮にでもされるのでしょうか?
そうそう、豚カツもいいですね。
豚カツは僕からすれば、珠玉の揚げ物ですからね。
味噌カツならなおよしです!
──じゅるじゅるり。
失礼。
少し考えると、こちらの方が涎が出てきました。
久しぶりに豚肉を食べたいっていう気持ちはあるのですが、どうも顔が似ている生き物を殺すことには気が引けてしまうんですよね。
まぁ、どうせ僕は死ぬんだし。そんなことどうでもいいか。
「ウェー。──なに、涎垂らしちゃっているのよ? ひょっとして、何かいいものでも食べられると思ったわけ? 残念ながら、坊やには三日間断食してもらいますからね。そうすると、もっとオーク肉が引き締まって美味しくなるのよ」
みなさん、聞きましたか?
なんと、僕は三日間ずっとお腹が減ったまま過ごさなければいけないそうです。
もうすぐ死ぬのに、最後の晩餐すら許されないなんて……。
もう、不幸以外の何物でもありませんよ。
ちなみに、僕が最後の晩餐に食べたいのは1㎏のステーキです。
300gまでは食べたことがあるのですが、やっぱりもっと食べたかったんですよね。というわけで、1㎏のステーキが食べたいんです。
──勿論、牛ですよ?
豚はこの体じゃ共食いしているように思えて食べられないって以前言ったでしょう?
「おう、これはこれは。クラブマスターではないか。オークを担いで何をしているのだ?」
何だか聞き覚えのある声ですね。
顔は見えません。たぶん、オカマと向かい合って話しているからでしょう。
声から察するにあの変態女騎士様に違いありません。
そして、どうやら、僕のことにはまったく気づいていない模様です。
普段なら、『オーク殿!』と言って飛び掛かってくるのですが……、──気づいていないようですね。
どうせなら、担いでもらっていないときも気づいてほしくなかったのですがね。
まったく肝心な時に限って気づかないんですから。
本当に使えないストーカー5号ですね。
「これは私がこれまで一生かけてでも手に入れたかったオークちゃんなの。いやぁ、今からでもこの子の味を想像すると涎が出ちゃうわ」
──ドバドバドバドバ。
相変わらず、汚い音が聞こえましたね。
お目汚し申し訳ありません。
ただし、ブラウザバックだけはやめてください。
「──ちょっと気持ち悪いから、涎を垂らすのはやめてくれないか?」
「失礼。──まぁ、そういうことだから邪魔しないでね」
「ところで、強いオークは見かけませんでしたか?」
僕には強いという特徴しかないのですか。
まぁ、大体のオークはみんな似ているので、判別できませんね。
あえてするなら、お腹に浮き出ている文様で区別しています。
その文様はこのオークがどこ村のものかと言うのを示すものです。
普段はその文様によって人間に推測されるのを防ぐために隠すように言われています。
生憎、はぐれ者の僕にはそんな文様はありませんからね(泣)。だから、腰布(クインブル氏特製のオシャレなやつ)だけなのです。
「まぁ、強いオークなら、この子だけど。──また、オークちゃんたちをたぶらかして何かするつもりなの? オーク肉愛好家からすれば、あなたのやり方はあまり好きではないのだけど」
「失敬な! 私はオークを食べたいわけじゃないのだ! 私はただオークと愛し合いたいのだ」
相変わらず夢物語を語りますねー。
オークである僕でも実現するとは思っていないのに……。
「いいわねぇ、それも。──だけど、どうせ殺してしまうのなら、半殺しにとどめて私の方にくれないかしら。もっと美味しいオーク肉を提供しなくちゃいけないからね」
こいつ、サラッとなんかひどいこと言わなかった?
オーク肉を提供?
ひょっとして、こいつオーク肉の業者かなんかなの?
見た目が手遅れ過ぎるほどの変態なのでよく分からなかったのですが、これが噂の“オーク・イーター”だったのか!
“オーク・イーター”とは、オークの肉を食べやすくし、庶民にも分け与えるという慈善事業をしている人のことです。
オークからすれば、ただの殺人鬼なのですがね。
ちなみに、オークの村では危険人物として教えこまれています。
特徴はおっさんのくせに気持ち悪いほど似合わないお姫様の服を着た大柄の男。
まったく信じられません。
僕からすると、あなたはただのストーカー4号だったのに……。──あなたのことはただの気持ち悪いオカマだと思っていたんですよ。
それが悪名高い“オーク・イーター”だったなんて……。──この世界は本当に恐ろしい。
あれ? よく考えたら、小さい頃にオークの村で教えてもらった特徴とまるっきり合致するじゃないですか!
僕はなんてバカなんだ!
まったく気づきませんでした!
じゃあ、クインブル氏が言っていたオカマはこの人じゃないのですか? クインブル氏の言っていた特徴とかなり合致しているのですがね。いったいどちらが本当のことなんでしょうか? まぁ、僕は友人であるクインブル氏を信じますけどね。オークなんて日頃から“ピーヒュロロロ”なことしか考えていないバカな生き物ですからね。
「──善処する」
なんだかすごい間の空いた台詞ですね。顔を見なくても嫌そうにしているのが分かります。
──お前がぺちゃくちゃ独白していたせいですって?
僕からすれば、今は彼女の発言よりも“オーク・イーター”のことについて語る方がよっぽど重要ですよ。何しろ命がかかっていますからね。
「というわけで、今日はこの辺で失礼するわ。バイバーイ」
「おう、わかった」
オカマと女騎士様が通り過ぎる際、僕と彼女はほんの一瞬、目が合いました。
彼女は何か驚いたような顔をして、僕の顔を何度も見ていました。
──何ですか? 人の顔をじろじろ見て。
僕の顔にゴミでもたくさんついているのですか?
唾でしたら、拭っていただけると助かります。
そのついでにこのオカマも払っていただけるともっと助かります。
「ちょっと待った!」
「いきなり何かしら。あたしはこの子の熟成の作業に入らなくちゃいけないのよ」
あなたはそんなに嫌そうな声を出さないでください。
それにそれは熟成じゃないくて、ただの拷問ですからね。まったく……。食べ物ならどんなに痛めつけてもいいっていう考え方は嫌いなんですよね。
ほら、僕はうさぎちゃんに食べる前に懺悔していますよ。
ひたすら懺悔してから彼らを火の海にポーンしているから問題ないでしょ?
「この人は私の大事な人なんだ! 返してもらおう!」
僕はあなたのことを大事だと思ったことが無いんですけどね。
けれど、助かります。ありがとうございます。隙が出来れば逃げますので。
「それは無理な相談ね。いくらあなたが『史上最強の騎士』だとしても、あたしには譲れないものがあるのよ」
なんですか、その譲れないものって?
ひょっとして、オーク肉を臭いまま食べたいとか?
それとも、みんなと下処理をしたオーク肉を食べたいとかですか?
どちらもやめてくださいよ! 僕からすれば、迷惑でしかありませんからー!
次回、017.自動殺戮兵器vs.オーク・イーター




