015.既知(変態)との遭遇
ブヒー! ブヒー!! ブヒヒヒー!!!
今、僕は全速力で走っています。
あぁ、いつものように女騎士様から追いかけられているんだな?
そんなわけがないでしょ!
全速力の僕であれば彼女から逃げられることを知った今、もはや怖いものなどありません。
それに、僕の気配が消せないのなら、いっそ彼女の気配をこちらの方から探ればいいんだということに気づきました。
ほら、あんな化け物のことですから、オーラは駄々洩れに違いありません。
結論を言えば、それはとてもうまくいきました。
今では彼女が1㎞先にいても感知できるほどにまでなりました。
その結果、彼女に会わない日はなんとかれこれ2週間続きました。
やったね!
──いやいや、僕が話したいのはそれじゃありません!
今、もっとヤバいものに追いかけられているんでした。
「ねぇねぇ、愛しの子豚ちゃーん? ママから逃げるなんてダメよー」
僕は今、ゴリゴリのムキムキの下手な女装メイクをした丸坊主のロリータ服(勿論女性用です)を着たおっさんに追いかけられているのです。
ひょっとして、あの化け物のことを僕の母親だと思ったそこのあなた。そんなわけないでしょう!
僕の今世の父も母もオークですよ!
そもそも、見るからに男にしか見えないあの化け物に果たしてオークの子供を授かるという特殊能力があるのでしょうか?
──ひょっとしたら、あるのかもしれませんが、これ以上考えるのが怖くて怖くて仕方がないのでやめておきます。
さて、ここまで話を聞いたみなさんには不思議に思ったことがあると思います。
彼はいったい何者なのでしょうか? そして、どうして僕を追いかけているのでしょうか?
それは簡単です。
彼はハントクラブのクラブマスターです。
以前、彼の周りにいたいかにも終末期の服装をした雑、ゲフン。──下っ端さんたちが「やっちまってください! マスター!」なんて言っていたので、多分そうでしょう。
さらに、僕の友人であるクインブル氏から狩人さんたちの親玉は特殊な趣味があるので、逃げるように言われていたのですよ。
その親玉の特徴が、「全身ムキムキで、丸坊主。そして、まったく男を隠せていないメイクにオネェ口調。そして、壊滅的に似合わなすぎて吐き気がするほど気持ち悪い服を身に纏った化け物」だそうです。
まるっきりその通りじゃないですか!
ちなみに、壊滅的に似合わないロリータ服を着ている彼の特殊な趣味というのは「オークの肉を喰らう」ことらしいです。決してその下手すぎる女装のことではありません。
たしかにオーク肉は庶民にも親しまれるほど、超安くてお手軽お肉扱いを受けているのですが、これはある下処理をしないと、とてつもなくまずいお肉なのです。
ほら、肉食獣の肉は臭いと言うじゃないですか。要するにそれと同じです。オークの死体はそれはそれはあまりにも臭すぎてハエもたからないほどひどい臭いなのです。
しかし、この男は違います。
──いや、そもそも服装の時点で十分人と違うのですが、それだけではないと言いたいのです。
それは彼がオークの肉を下処理もせずに食べることです。
森に悪臭を漂わせながら、臭い肉を喜んで食べるという恐ろしい趣味を持っているのです。
オークから見れば、自分のことをか弱い女騎士と名乗る自動殺戮機械様よりも質の悪い生き物です。天敵です。
彼は狙った獲物は逃がしません。
これまで僕の代わりに何匹ものオークが犠牲になりました。
そして、これまで何度も彼から逃れてきた僕に対しては一際執着があるようです。
今日、僕の目の前に現れた時なんて恍惚の笑みを浮かべながら、こう言ったのです。
『ムフフーン。私の可愛い子豚ちゃーん。今日という今日はあなたを捕まえるために5日間断食していたの。もう、オーク肉が食べたくて食べたくてしょうがないのよ』
このとき、僕の防衛反応は一瞬にしてレベルマックスに達し、僕は一時的に野生に返りました。
──いや、元から野生でしたね。
そういうわけで、僕はこのオカマの化け物と命を賭けた追いかけっこしているのです。
いつも「僕は美味しくありませーん」って言っているのに、なんか彼からすると、僕は美味しいにおいをぷんぷん醸し出しているらしいのです。
「子豚ちゃーん。あんたはまるで、ゴールデンラビットのように噛めば噛むほど肉汁が出るとても美味しい最高級オーク肉なのよ。こんなオークを目の前に我慢なんてできるものですか!」
このように聞きたくもないオーク肉の情報をかたりながら、いつものように追いかけてくるのです。
本当に化け物です。
レベルが違います。
異次元です。
あなた、女騎士様より強いんじゃないですか?
今、僕は女騎士様に追いかけられる教訓から仕掛けることにした罠の方に向かっているのですが、このままでは彼に追いつかれそうです。
ヤバいです。もう、身の危険を感じます。本当にもうヤバい!
けれど、女騎士様との鬼ごっこで鍛えた僕の逃走力は伊達じゃありません。もうすぐあの罠です。
以前の危険を察知できない純粋オークの頃の僕だったら、今頃彼に捕まって丸焼きにされているところでした。
危ない。危ない。
さて、今回仕掛けた罠がもうすぐそこにあるので、その罠を飛び越えましょう。
そして、全速力で走って木陰に隠れて、彼が罠にはまるのを待ちます。
ふふっ。いよいよ、この逃走も終わりを告げるのです。──さて、僕はぶどう狩りに「ねぇ、子豚ちゃーん。いくらなんでもひどいじゃない」
──何だって!
「本当、ママも引っ掛けようとしちゃって。いくらなんでもひどいわ。あたし、あなたをこんな子に育てた覚えなんてないわ」
僕はあなたに育てられたことなんてありません!
だって、僕の今世の母親はオークですからー!!
次回、016.オーク・イーター




