014.女騎士様と聖女様
今日は少ないですね。
まぁ、いいでしょう。こんな日もあっていいのです。
「さて、オーク殿。何かわたしに弁明はあるか?」
兜をしっかり外した彼女は怪訝そうな目で密着しているぼくたちを見つめています。
「い、いえ何のことでしょう? 僕には分からないなぁ。アハハ」
「そんなひきつった笑みを浮かべるんじゃない! その腕についてるものについて聞いているんだ!」
そんな怖い目つきで僕の腕についている方を睨みつけないでください。
僕が恐怖のあまりお漏らししてしまいますから。
「ものとは何でしょうか? さすがに人様の腕を“もの”と呼ぶのは感心しませんね」
そっちはそっちで笑っているのになんか怖いですよ! 般若がバックにいるような感じがするのでやめてください!
「そういうあなたこそなんだ? この人はわたしのオーク殿だぞ!」
「そういうあなた様こそなんですか? オーク様の了解なしに勝手に自分のもの扱いして。本当にひどいですね!」
前世ではこういう修羅場に巻き込まれている男を疎ましく思っていました。
しかし、今は違います!
僕が悪かったです!
神さま、修羅場をくださいって七夕でお願いしてすみませんでした。
まだ、七夕じゃない?
言葉の綾ですよ。言葉の綾。
それに僕は修羅場をお願いしたんでしょうか?
そんなお願いを短冊に書いていたら、いろんな人に引かれます。間違いなく引かれます。
「なんかムカッとするな。その言い方。──おい、オーク殿!」
「へい、なんでごぜえましょう!」
なんかキャラ崩壊していない?
これは動揺しただけですよ。動揺しただけ。
だって、女騎士さんの目が怖いんですよ。
「わたしと、──ここにいるアリシア様。どちらの方がいいのか?」
彼女はいつの間にか外していた鎧を置いてアリシア様が抱き着いていない方の腕に抱き着きました。
「あらあら、答えは自明のことですが、私も聞きたかったのですよ。──教えてくれませんか? まさか、ここにいる“自動殺戮機械"さんではないですよねぇ?」
「自明? ハハッ。そんなことをおっしゃって実際は違っていたら、恥ずかしいことこの上ないなぁ。──なぁ、どっちなんだ、オーク殿?」
「オーク様。どちらなのでしょうか?」
うーん。困りました。
この二人でなら、間違いなくアリシア様一択なのですが、彼女は少々愛が重いんですよ。
僕には残念ながら、Mの素養なんて欠片もないので、困りましたねぇ。
美少女と美女からのジト目はありがたいのですが、この二人から番を選ぶなんて難問です。すみません。正しくは番ではなく恋人でしたね。つい、オーク風で言ってしまいました。
さて、どう答えましょうか?
そのとき、僕の目の前に黄金に輝くうさぎちゃんが通りかかりました。
あぁ、今すぐ飛びかかりたいくらいの可愛いフォルムをしています。
肉付きのいいお尻につぶらな瞳。
遠くから見ただけで涎が出てきます。
──別に登下校中の幼女たちを見つめる犯罪者予備軍ではありませんからね。
だから、その手に握っているスマホを手放してください!
僕が追いかけているのはあくまで文字通りの黄金のうさぎちゃんですからね!
「──う、うさぎちゃんだーーーー!!!」
「い、今なんとおっしゃいましたか?」
「アハハ。ま、まさかそこのうさぎのことを言っているわけないだろうな?」
二人はとてつもなくショックを受けたような顔をしています。
うさぎに負けるなんて信じられないというような顔をしています。
ケッ! そんなの僕には関係ありませんよ。
今の僕にとって一番大事なのはうさぎちゃんなのですから!
「そうです! 僕はうさぎちゃんをこの世で一番愛しているのですよ! ブヒー!」
僕は彼女たちの腕を引き離し、一目散にうさぎちゃんを追いかけました。
「ま、待ってくれ! なんで今日は追いつかないんだ?! 必死に走っても走ってもまったく追いつかないぞ!」
「本当に二人とも化け物みたいな体力をして。──ハァハァ……。本当にしんどいですわ。──しかし、辛いですわ。まさか、オーク様の鳴き声がうさぎ如きに出せるなんて。悔しーい!」
──なんか不穏なことを述べてますね。聖女様。
このままだと7号認定ですよ。7号。
あんな変出者集団の仲間入りなんてしたくないでしょ。
──失礼。正しくは一人まったく違う方がおられました。彼女はとある魔王軍のネタ枠大隊長様の命令により渋々僕を尾行していましたね。
彼女にはいつかお詫びの意味を込めてリンゴを渡すことにしましょう。
そして、甘い言葉をかけて僕に気を許した彼女を“ババババババ”をしたり、“ゴーン、ゴーン”をするんです。
──失礼。つい、夢のサキュバスお姉さまのことを想像してしまいました。
心からお詫びを申し上げます。
──まぁ、今の僕には女騎士様も聖女様もサキュバスさんも関係ありませんね。
「待っててね! うさぎちゃーん!!!」
だって、愛しのうさぎちゃんを追いかけるのに精いっぱいなのですから。
「なんで私から逃げるのにうさぎは追いかけるのだ~! オーク殿!!!」
「──ゼェゼェ。もう、追いつけません。死にそうです」
「こら、わたしを引っ張るな! このままでは欲求不満なオーク殿がうさぎに“サクッサク”なことをしかねないぞ!」
何を言っているんでしょうかね?
あなたはいい加減そちら方面から離れてください。
「もう無理です。私はしんどくて息ができませんわ」
「だから、わたしにへばりつくな!」
二人は足を引っ張りあうのに夢中すぎて僕には手出しができないようです。
好都合です。僕はさらにスピードをあげるとしましょう。
ブヒ! ブヒ!! ブヒー!!! ブヒヒヒヒー!!!!!
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この後、僕は無事に愛しのうさぎちゃんを手に入れ、少し怖いお二方から無事に逃げることに成功したのでした。
ちなみにそのうさぎちゃんは勿論、食べました。
僕は優しいので、ニートのキング君にも分けてあげましたよ。
──決して彼が刺激的な涎を垂らしていたから分けたのではありませんよ。友情の名の下に分け与えたのです。
ちなみに、うさぎちゃんは舌がとろけ落ちそうなくらい本当に美味しかったです!
次回、015.既知(変態)との遭遇




