012.第7大隊長再び
これは朝起きて、川に顔を洗い行こうとしたときのことです。
目の前にそれはそれはいつにもまして痛々しいポージングを取っている“病人”が立っていました。
「久しぶりだな。オーク! あの忌々しい黒龍のブレスで黒焦げになった吾輩を置いていったことなど色々聞きたいことがあるのだ!!」
「ずいぶん元気になりましたね。“病人”」
てっきり、黒焦げになったので、二度と僕に会いに来ることはないと思っていたのですが、これは想定外ですね。
「吾輩はあくまで“傲慢”の候補なのだ! 決して、病人とは呼ぶな!」
「では、さようなら。“病人”さん。どうかお大事に」
では失礼します。
──あれ? なんで、腕を掴まれているんでしょうか?
「その顔をやめろ! その顔!」
あぁ、ウザいですね。本当にウザい。
「いい加減、その顔をやめろ! さもなくば……」
「さもなくばどうするんですか?」
「さもなくば、ま、魔王様を呼び出してやろうぞ!」
「魔王様はそんなに手軽に呼べるものなのですか? 人が嫌そうな顔をしているのに駄々をこねて『助けて! 魔王様!』とのたまうとは。──どこぞの眼鏡をかけた小学生以下ですね」
「ショウガクセイも何もそんな台詞聞いたことないぞ!」
てっきり聖言語(笑)のことですから日本の漫画の頂点に君臨するとも言われるあの有名な漫画のパロディをしてみたのですが通じないとは。
なんか偏った文化しか持ち込んでいませんね。彼らは。
「そんなことよりも、吾輩をあのとき置いていったことの言い訳でも聞こうではないか! 早く言え!」
「すみません。ちょっと何を言っているのか分かりませんよ。──そもそも、あのとき、僕の目の前に黒焦げのスケルトンはいましたが、まさか、あのスケルトンが吸血鬼であるあなたのはずがないですよねぇ?」
「吾輩がスケルトンであるはずがないだろ? いや、そもそも、仮に赤の他人であったとしても困った人がいたら、助けるのが世の中の道理ではないのか?」
「いや、それあなたが言います? ──仮にあなたが勇者(笑)に襲われた時にあなたは命乞いをする彼らにポーションをあげますか?」
「それとこれはまったく違う!」
まぁ、そうですよね。
人命救助と殺し合いをしていた相手への情けは一緒にしないでくれというのですよね。
「いや、そもそも僕はその哀れなスケルトンを助けたかったんですよ。──ただ、そのスケルトンが困っているとかどうとかおっしゃらなかったし、友達も来たので、しょうがなく彼を見捨てたんですよ」
「いつまでも吾輩のことをスケルトンと呼ぶな! それに、しゃべらなかったからも、しょうがなくも言い訳にはならんぞ! さっき、見捨てたって言ったではないか! 見捨てたって!」
チッ! 本当にこいつってなんか人の話をよく聞きますね。
なんか人が言い間違えをしたら、そのことを責めようとする人なんでしょうかね?
「舌打ちをするな!」
「すみません。そろそろ冬も近づくので、木の実を収集したいので、今日はお引き取りいただけないでしょうか?」
「まだ6月ではないか! 冬というよりもむしろ夏ではないか!」
チッ! こいつはどうして騙されないのでしょうか?
あの変態女騎士様なら、『そうか。それなら、わたしも一緒に手伝うぞ』って言って、一緒に手伝ってくれてから追っかけっこをはじめてくれるんですから。
しつこくないのはいいのですが、人の良さでは彼女に負けていますね。
──すみません。忘れていました。彼は人じゃなくて魔物でした。
「舌打ちをするな!」
本当にしつこいですね。
どうしてまったく同じ台詞を言うんですか?
意味が分かりません。
「そうだ。あなたの同僚のデュラハンさんが死んだと聞きましたが、ひょっとして、用意された地位は彼の後釜ではないでしょうか?」
「──急に話が変わるなぁ」
そこでなんで目をそらすんでしょうか。
追及してほしいって言っているんでしょうか?
「そっぽ向かないで、ちゃんと答えてくださいよ」
「そ、そんなわけないではないか。そもそも、ベルルハット伯爵のことは知っているが、野良デュラハンなど知らぬな。アハハ」
「そのベルルハット伯爵は前の第5大隊長ですよね?」
一瞬、僕の周りが静かになったような気がしました。
「──そうです。申し訳ありません。──だが、第5大隊長は代々“暴食”の方々が継いでおり、ベルルハット伯爵はあくまでそのつなぎをやっていたにすぎないのだ」
「言い訳は聞きたくありません。彼は勇者に殺されたのですね」
「はい、そうです。忌々しいクズノキがやりました。あいつのせいでここ最近、大隊長が欠員だらけで吾輩が直々にスカウトして回らなければならなくなったのでございます」
クズノキって聞くとなんだか、クズのように聞こえますね。
──そういえば、彼は正真正銘のクズでしたね。忘れていました。
「そんなの配下のサキュバスさんにでもやらせればよかったじゃないですか?」
「──よく知っているな。あなたにつけているのはたしかにサキュバスだが……。──後で注意しておこうか」
「いえいえ、大丈夫ですよ。別に尾行の一人や二人いても構いませんし」
──気にしないでください。そもそも、気づいていなかったので。
いやぁ、まさかストーカーが増えるとは思いませんでしたね。
一号は目の前のスケルトン、二号はおつむの小さい彼、三号はそのクズノキくん、四号はここ最近、現れていませんが、五号はあの変態女騎士で、六号はなんとサキュバス!
いやぁ、前の五人は最低でも、サキュバスさんがいると少し華がありますねぇ。
女騎士様? 彼女に華はありません。
だって、あんなことやこんなことを平気に喋って、平気に望むような人だからね。
そんな人のどこに華があるの?
サキュバスって淫魔じゃないか?
どうせあの人と同じ感じじゃないのか?
そうでしたね。けれど、あの人ほどではないでしょ。それに僕、サキュバスに会ってみたかったんで。
ほら、せっかく異世界転生したんだから、エルフとかサキュバスに会いたいじゃないですか。あわよくば、“ピー、ピッピッ”してもらえたりして。グフフフフ。
「鼻の下が伸びているぞ」
これはいけない。
ついうっかり“べンべンべン”を考えてしまいました。
ビーカーム、ビーカーム。
「さて、お願いがあるのだが「ごめんなさい」」
「まだ言っていないのだが」
「いやぁ、あなたが言いそうなことって一つじゃないですか」
「そ、そんなわけがないじゃないですか。ほら、あなたにつけているサキュバスを差し上げますからお願いですから……って痛い!」
「部下を売るなんて上司のすることですか!」
「痛い! 痛い! なんだ、さっき吹き矢が刺さったぞ! いったい誰がやったんだ!」
──いや、あなたに売られそうになった彼女がやったんでしょうに。
本当にゴミくずみたいな上司ですね。
いっそあなたのことをゴミスケルトン、略してゴミストンと命名したいくらいです。
ほら、ゴミを投げるとストンとゴミ箱に入った方がいいでしょ?
我ながらいいあだ名を思いついたものです。
寒い? そんなことは無いでしょ。なぜなら、僕がいる森は今、6月らしいですからねー。
そんなことよりも、そろそろ目の前にいる病人さんにも帰ってほしいですねー。
僕がちょっと医者の真似でもしましょうか。
「さて、手遅れなあなたに治療を施してあげましょう」
僕はそう言って彼の頭を掴みました。
「その治療とは何だ! どう考えても治療には見えないのだが?! 棍棒なんて持って吾輩にいったい何をするんだ!!」
「なーに、あなたの頭を叩き直すだけですよ。ほら、壊れた魔法道具も叩けば直るでしょ?」
「そんな魔法道具があるか?!」
「そうそう言い忘れていたことがあります」
「な、何のことかな?」
そこでどうして期待の眼差しを向けるのでしょうか? チワワのようなつぶらな瞳を見せても目以外はスケルトンなのでまったく可愛くありませんよ。
「つい、僕の力が強すぎてついお空を飛んじゃうことがあるかもしれませんが、──まぁ、大隊長様(笑)ですからきっと大丈夫ですよねー」
「そ、そ、それはも、も、もはやち、ち、治療ではないぞ!」
「さーて、行きますよー!」
「いやー!」
ガッシャーン! ホームラン!!
いやぁ、初めて人型の魔物を飛ばしたのですが、案外飛びますね。
おつむの小さい彼だとかすり傷しかつかないのですが……。
二度と僕のストーカーをする気概が無くなるような怪我をしているといいですね。
──女騎士さんにしないのか?
僕はあくまで紳士なので、そんなことはしませんよ。
それに、あの人僕が頭を掴んだら、そのままへばりついて離れなさそうじゃないですか。
僕は施しは欲しいですが、施しはあげたくないのですよ。
ほら、施しを与えることが必ずしも変態のためになるとは限りませんからね。
さっきからルビがおかしい?
つい本心が表に出てしまったようですね。
ビークール。ビークール。
さぁ、木の実採集の続きといきましょう。
あぁ、ストーカー吹き飛ばせてすっきりしたー!
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それから1週間後。
第7大隊長(笑)は魔王軍総出の捜索で無事発見されたそうです。
「彼の体はぼろ雑巾のようだった」と彼の第一発見者であるケルベロスさんは彼の怪我のあまりの酷さにそう呟いたらしいです。
次回、013.今日は月一のうさぎ狩り




