011.勇者教会のみなさん ~大変申し訳ありませんが、今までずっとハントクラブの人だと勘違いしていました~
「久しぶりだな、師匠!」
友人のクインブル氏が王都に帰ってから数日後。僕は黒髪の少年に話しかけられました。
武装しているので、正直話したくないのですが、仕方がありません。
今日はそんなに忙しくありませんし、誠に不本意なことではありますが、彼の相手でもしましょう。
──そういえば、女騎士さんはどうしたんだ!
──お前は彼女に追いかけられるのが好きじゃないのか! 好きだから散々煽っているんだろう?
──もっと女の子出せよ!
そんなこと言われても、彼女と出会わないのですからしょうがないでしょうに。
僕は来る者は基本、拒む人ですからね。
出来ることなら、彼にも会いたくありませんでした。
何しろ、僕のことを勝手に師匠呼ばわりするのですよ。
そんな人が付きまとっていたら、普通気持ち悪いですよね?
「い、いったい僕はいつからあなたの師匠になったんでしょうか? 教えてくれませんか?」
「そんなの最初からに決まっているでしょう。師匠は弱い私を適当にあしらい、私を何度も逃がしてくれたじゃありませんか。私は師匠と稽古しているうちに、魔王軍の大隊長を倒せるようになりましたよ。すべて師匠のおかげです? 師匠はオークの姿をしているが、中身は人の中の人だ。聖人と言ってもいい存在です。──むしろ、神として崇められるべきだ」
いろいろ突っ込みたいところはありますが、とりあえず一言言います。
──狂っている!
僕に勝手に斬りかかってきて、稽古だ? 冗談じゃない! さっきから何を言っているんですか。この男は!
「あぁ、何を言っているんですか。──本当にうっとうしいですね。いつになったら、僕を狙うのをやめてくれるんですか? 僕の中身が人間だと思っているのなら、勇者の中でも比較的まともな君なら、見逃してくれるものじゃないのか?」
「師匠に褒められると、なんだか照れますね」
「あなたはいったいいつからこんなふうに壊れてしまったんですか?!」
「失礼ですね。壊れていませんよ。あと、師匠の助命嘆願ですが、それはできません。師匠がオークになるふりをしているのは重々承知しているのですが、生憎教会の皆さんが許してくれなくて。──ほら、ミリアとかナキジンにも見られましたしね。師匠は教会の中でも魔王軍の大隊長、黒龍と並ぶ殲滅対象ですよ。それなら、いっそのことあなたの弟子であるぼくがあなたを殲滅することがわたしができるあなたへのたった一つの恩返しだ!」
長い。長すぎる。
よく噛まずに言えたと褒めたいところですが、この人の頭がぶっ壊れすぎているので、褒められませんね。
うっかり褒めてしまうと泣きながら、僕にその腰に付けている聖剣(25本目)で僕に襲い掛かってしまうでしょう。
──あれ? 聖剣ってそんなにあっていいものなのでしょうか?
少し疑問に思います。
しかし、そんな些末なことはどうでもいいのです。
僕はそれ以上に彼に襲われることを避けなければなりません。
諦めの悪い男と戦うのは厄介ですからね。
「そもそも、人畜無害な僕を殲滅対象という物騒な物に入れないでください。教会の人はバカじゃないですか?」
「──師匠。いくらなんでもそれはないでしょう。確かにあなたの稽古には私しかついていくことができませんでした。それに、今まであなたの首にかかっている報奨金目当てに何百人もの勇者が現れたと聞きます。弱者である彼らも一応、勇者なのです。教会としては、勇者を何百人も倒す師匠を危険視するに決まっているでしょう?」
「ちょ、ちょっと待ってくれないかな?」
まず、僕は彼らに稽古なんてつけたことありません。
せいぜい縄で縛って、魔物のえ、コホン。──森に置いてけぼりにしたつもりなのに、なぜ僕のことを師匠と呼ぶのでしょうか?
まったく理解できません。
──ひどい?
そんなの勝てないくせに僕に付きまとう彼らに言ってあげてください。
「なんでしょう、師匠? ──そういえば、デュラハンの魔石はどうでしたか? 一応、魔王軍の第5大隊長だったやつですが、師匠よりはるかに弱かったので、この聖剣で露にしましたよ」
「あなたが第5大隊長を殺したんですか! だから、あの“病人”が来たんだ!!」
あなたのせいでしたか!
だから、大隊長(笑)が僕のところに押しかけてきたわけだ!
──あいつ、僕を厚遇していると言っていたくせにポストが空いたから後釜として僕をねじ込もうとしていたのか!
後でしっかり問い詰めてやる!!
──そうでした。彼は黒焦げになってしまったんでしたね。
これじゃあ、問い詰めようがありませんね。
また、化けて出てくるかもしれませんから気をつけないといけませんね。塩でも撒いていたら寄り付きませんかねー?
「あれ? 大変怒っておられるようですが、師匠はお歓びではないのですか? それにいつも“病人”という魔物の愚痴を言っていたではないですか」
「それはそれ! これはこれ! あなたのせいでスカウトが来たんですよ!」
「そうですか。なら仕方がありません。今から、魔王領に言ってそのスカウトの首とやらを師匠のために斬って差し上げましょう」
「何を言っているんですか! いきなり人に話しかけてきて、自分の要件が済んだらすぐに帰ろうとするなんて! ──あなたはぼくの話の一つも聞けないんですか?」
「確かに師匠の話を聞かないのは弟子として失格です。話を聞きましょう」
そう言って、彼は正座をしました。
いや、そこまで熱心に聞いてもらいたかったわけでは……。
──いいでしょう。少し話をしてあげましょう。
僕を師匠と呼ぶくらいなら、僕が今まであなたたちに対して積もりに積もった疑問を解消しようっていうものです。
「まず、勇者とは何ですか?」
「魔物を倒す選ばれた戦士のことです。それ以外は言えません」
「次に勇者と狩人の違いは?」
「僕たちとハントクラブのやつらを一緒にしないでください! あの人たちは日ごろからお酒を飲むためのお金を稼ぐことしか考えていない下賤な人たちです。勇者とは高尚なものなのです」
へぇ、ハントクラブ。
てっきり冒険者ギルドとかそういう名前が出てくるのかと思っていましたが、そんな名前だったのですか。
それにしても本当に彼らとあなたたちに差はないのですが?
ほら、僕のところに来る際、大体の人は『俺は勇者だ! 悪逆の限りを尽くすオークめ! 俺が貴様をこの聖剣で成敗してくれる!』なんてクサイ台詞しか言わないんですよね。
たまに坊主で筋肉ムキムキの方がいますが、──その人たちもきっと同じですよね。聖剣を片手に襲いかかってきたので、きっと同じですよね。
ところで、聖剣とは一体何でしょうか?
かなり多く出回っているようですが、貴重なものではないのでしょうか?
──おっと、そんなことよりも話に戻りましょう。
「それにしては、僕のところに来た勇者のほとんどは調子に乗っていましたね。そう、まるで奴隷をこき使うかのように仲間にいろいろ指図していましたね。たとえば、3年前にぼくのところにそれはそれは調子に乗った眼鏡をかけたそこら辺のオタクにしか見えない勇者が獣人の女の子たちを侍らせ「これ以上は言わないでください!」──なぜですか?」
「──あれは僕が真の勇者になる前の話です。今の僕には関係ないでしょう?」
勇者に真も偽もあるんですか?
正直、僕からしたらあなたもあまり変わらないんですけどねー。
「そうですか? それにしては今もあまり変わらないような……」
「そ、そんなわけがないじゃないですか。し、師匠と稽古をするためにか、彼女たちを置いてきているわけではあ、ありませんよ。彼女たちとは私の弱さを理由にパーティから離れてもらったのですから」
──嘘だな。こういうのは絶対に別れていない。
僕がかつて『女を侍らせてウハウハするようなやつが死ぬほどむかつくんだ!』って言って(特に顔を)散々、ぶちのめしてから急に彼女たちを連れてこなくなったじゃないですか。
たどたどしいところを見る限りまだ彼女たちとの関係は続いているのでしょう。
まったく、この世界の住人達は頭の中は“ピー”しかないのでしょうか?
コホン、失礼。少し言い過ぎました。
言っておきますが、僕はいたって純粋で清純派なオークです。
常日頃から“ピー”なことは考えていませんよ。
──本当ですよ。
「ところで、あなたは最近、第5大隊長を倒したと言いましたね。どうしてですか?」
「決まっているでしょう。──すべては師匠を倒すためです」
「そんなにカッコつけなくてもいいですよ。本心を言ってください」
「僕が師匠をいつまで経っても斬りおとせないから、契約更改の際に魔王軍の大隊長を殺さないとクビにすると言われましてやりました」
すごい素直です。
正直、驚きです。
まず、勇者に契約なんてあるんですね。
どこぞのプロ野球選手かなんかですか?
次に驚いた点。
それは僕は絶対に倒せないと踏んで、魔王軍の大隊長を狙う姑息さですよ。
僕はあなたの素晴らしい姑息さに感嘆します。
出来ることならこのまま僕を狙わないでください。
「さて、あなたはいつになったらぼくを狙わなくなるんですか?」
「勿論、あなたが死ぬまで」
まったく怖いですね。
死ぬまで僕を追い詰める?
──アハハ、何を言っているんでしょうかこの人は。
正直気色悪いです。
確かに彼は良い金づるですが、中身がこれじゃ利用価値が下がります。
少しお仕置きして中身まできっちり鍛えてあげるることにしましょう。
ほら、僕って彼の師匠らしいですから。──別に問題ないでしょ?
「そういえば、あなたは僕に修行をつけてほしいのですよね?」
彼が僕のことを師匠と言うのなら、それくらい聞いてくれますよね?
「望むところです。ところで、何をするんですか?」
そういえば、考えていなかった!
うーん。お空に向かって蜥蜴の悪口を言うと、ひょっとするとおつむの小さい彼と一緒に女騎士さんもついてきますからね。
そうだ! こうしよう!
「さて、これからあなたには僕の友人と戦ってもらいます。もし、仮に彼に勝てたのなら、僕が相手をしても構いません」
「なるほど。それはいいですね。──しかし、師匠に友人がおられたとは。これは意外ですね。師匠はぼ、──孤高の人だと思っていたのに」
今、こいつ僕のことをぼっちとか言いましたか?
言いましたよね? 絶対に言いましたよね?
──孤高の人ってかっこいい! なんて言って、心の底では笑っているんでしょ?
なら、その腐りきった根性を彼に叩き直してもらいましょう。
「師匠、地面に何を描いているのでしょうか? 魔法陣ですか? ──なら、やはり、友人というのは建前で本当はテイムしたモンスターなんですよね。いくらなんでもそんなモンスターを友人と呼ぶなんて……。──師匠はやっぱりおかしい人だ。まったく」
こいつ、僕と彼の十年来の友誼を何だと思っているんでしょうか?
ちなみに、彼とは二人暮らしでもやっていけますよ。
彼は心の優しいモンスターですからね。
──ところで、いま、モンスターって言ったよね? 友達じゃないの?
そうですよ。モンスターが友達じゃ悪いんですか?
ねぇ、答えてくださいよ。
「僕と彼の友情をバカにするあなたの根性を叩きなおしてやりましょう。さぁ、友よ、来てください!」
光輝く魔法陣の中から現れたのは壺でした。
そう、壺です。
見たところ何の変哲もないただの壺です。
「なんだ、壺じゃないですか。これのどこが友人で? ひょっとして、師匠は妄想を抱いておられているのでしょうか?」
彼が少し苦笑しながら、その壺の蓋が開きました。
中から紫色のゲル状のものが噴出しました。
ゲルは次第に集まって、スライムの形になりました。
「な、なんですか! この大きな“ポイズンスライム”は!」
「彼の名前はキング。種族名は“ポイズンキングスライム”ですよ。ただの“ポイズンスライム”とはわけが違いますよ。ちなみに、彼はただいま、恋人の“ホーリーキングスライム”のスラ子さんと喧嘩中で僕のところに身を寄せているんですよ」
「そんな情報いりませんよ。なんでこんな化け物がいるんですか? “キングスライム”なんて伝説上の存在じゃないんですか?」
僕の友達紹介にケチつけてくるなんて、──この人は本当に失礼な人ですね。
僕をいつもよいしょしていますが、本当は僕の首を狙っているんでしょう? そうですよね!
「さて、友よ。この愚かにも我らの友情を笑った勇者をぶちのめしてやりましょう!」
『BOOOOOOO!』
「おい、待ってくれ。いくらなんでもそんなにすぐに奇襲されても、心の準備が」
「では、今度は心の準備ができるまでみっちり修行してくださいね。できることなら、二度と来ないでください」
「な、なんですって!」
『BOOOOOOOOOOOO!』
キング君はあっという間に彼を粘液まみれにしました。
勇者君はピクピクふるえています。
「どうでしたか? 彼の腕前は?」
『BOO、BO、BOBOBO!』
なるほど、まだまだ修行が足りないと。
ならば尚更、修行しないといけませんね。
さて、少しお絵かきでもしてから帰りましょうか。
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数日後、山中に入ったハントクラブの方々によって、顔に落書きをされた毒まみれの勇者が保護されたそうです。
次回、012.第7大隊長再び




