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010.オークとドワーフ


 ──おーい!

 起きてくださーい!


 一体いつになったら、起きるんでしょうかね?


 何度呼び掛けても返事がありませんね。

 生きているのは分かっているのですがね。


 それほど、彼女に振られるのは辛いのでしょうか?


 いや、僕にとってはその瞬間、あの緊迫した半年間から解放されるのです!


 さっき、束の間のいとまとか言ってなかったか?


 あれれ? なんのことでしょう?

 僕はずっと怯えて過ごしていましたよ。


 さて、そんなことよりも友人を何とかして元に戻さないといけませんね。


 大隊長はどうするかって?


 そんなのは放置ですよ。放置。


 そこにある黒い何かは放っておいて、どうやってクインブル氏を起こしましょうか?

 そうだ! こう言えばきっと彼も起きるはずです!


「今度、かわいい女の子を紹介するので、起きてください!」

「はっ!」


 まさか、たった一言で起き上がってしまうとは……。 ──いや、ここでは目覚めると言った方が正しいでしょうか?

 少し驚きました。

 まさか、こんなことで固まった状態から復活するとは思ってもいませんでしたからね。


「オーク! やはり、持つべきものは友だな!」

「いきなり、どうしてそんなことになるのかよくわかりませんが、友人が目を覚ましたので、とりあえずホッとしています。──さぁ、取り引きをするためにあの洞穴に行きましょうか?」

「それは分かっているのだが、友よ。──ところで、そこに転がっている黒焦げのスケルトンはどうするのか?」

「あぁ、これは放置して構いませんよ。どうせ生きていますし。それに、彼には八千人の部下がいるようですからすぐに彼を介抱しに来るでしょう」

「──八千人か……。──それにしてはかなり弱っちく見えるが」


 ──言えない。


 僕が少し言ってみたかった台詞がつい口に出てしまったことを......。


 ──いや、大隊長様のことですから、これ以上の部下がいるんでしょうね。そうですよね。


「さて、僕たちは楽しい親睦会をしましょうか」

「おう、そうだな! いやぁ、これからどんな魔石が出てくるのか楽しみだぜ」

「そうですか。とびっきりの魔石があるので、楽しみにしてください」

「おう、友よ!」


 こうして、僕たちは取引、──もとい、親睦会をしに約束の洞穴に向かうのでした。


 黒焦げ大隊長は助けませんよ、絶対に。


 ******


「さて、今回の魔石はこれですよ!」


 酒のさかなとして今回用意した魔石を彼に見せました。


「おぉ、これはすごいなぁ……。どれも一級品の魔石だ! これは魔王軍の大隊長クラスに匹敵する大きさではないのか? そんなものどこで拾ってきたんだ?」


 実は彼には僕が魔石を拾ってきたとしか言ったことがありません。


 ほら、誰かから強請ゆす……、もとい、譲ってもらったとか言ったら、5年の信頼関係が崩れるじゃありませんか。


 しかし、あの狩人も成長したものです。

 僕に未だ、傷一つつけられませんが、強くなったものです。

 自称勇者と名乗っていた頃とは見違えるくらいになっています。


 いやぁ、彼は素晴らしい狩人になったのですね。


 ここで、友人であるクインブル氏との出会いを簡単に紹介しておきましょう。


 てっきり自称勇者の狩人の話をするのかと思ったでしょう?


 違いますね。彼の話は次回のお話なので。

 お楽しみにしてくださいね!!


 僕が突然、襲ってきた彼を捕まえて縄でぐるぐる巻きにしてそこら辺の木にぶら下げて尋問していたところ黒くて大きな魔石に気づいて、震え始めたのです。


「これは黒龍の魔石じゃないか! どこで手に入れたんだ!? これを譲ってくれないか?」


 と、宙ぶらりんの状態で商談を持ちかけられたのがきっかけです。


 僕は彼から衣服(ほとんど腰布ですが……)と魔法道具を譲り受けることを条件に魔石を譲り受けることにしました。


 あれ? 今、聞き捨てならないことを聞いた気がする?


 アハハ、そんなことないでしょ。

 僕はただ、大きな黒蜥蜴を退治して、味見しただけです。


 そしたら、あのおつむの小さい彼が僕に付きまとうようになっただけです。


 いやぁ、あのとき、僕が懲らしめた黒蜥蜴は僕のことをただのそこら辺でジャガイモを掘り起こしているイノシシのようにしか見ていませんでしたからね。


 僕はそんな傲慢な黒蜥蜴めにちょっと鉄槌を下したまでです。


 まぁ、こんなにも付き纏うのですから、ひょっとすると、あの黒蜥蜴は彼の肉親だったのかもしれませんね。


 おつむの小さい彼がそんなこと気にしますかね?

 ただでさえ、攻撃する相手を勘違いしたのですからね。


「──これを使えば、ご令嬢たちと“ブンブンブン”な関係が築けるかもしれないぞ!」


 すっかりトリップしているようですね。

 これなら、入手経路を聞かれずに済みます。

 一安心、一安心。


 まぁ、いつ思い出されるのか分からないので、今のうちに話題でも変えましょうか。色々、聞きたいことがありますし。


「ところで、彼女とはどういった関係なのでしょうか? 僕には今一つ彼女があなたを怖がる理由が分からないのですが」


 ここ半年間、僕は彼女の恐ろしい強さしか見てきませんでした。


 この森一帯のオークたちは彼女の毒牙にかかり、ここ半年間でぎったんぎったんに倒され尽くして、僕が20年近く磨きかけてきた逃走技術にもジョギングするかのような軽やかな走りでついてきます。


 さらには、あのおつむの小さい彼を手なずける荒業まで成し遂げました。


 僕には彼にあのおぞましい名前を付けられるほどの信頼をどのように築き上げてきたのか気になります。


 たしか、彼女は無防備のまま戦っていましたよね?

 どういうことなんでしょうか?


「それはな。今から10年ほど前に遡るのだが……」

「長い話は勘弁してもらえませんか?」


 尺の都合上まずいのでね。


「──いいぞ。俺も早く帰って、この魔石を素晴らしい装飾品にしなければならないのでな。──簡潔に言うとな、彼女はわしに条件付きで結婚を認めてくれたただ一人の令嬢なのじゃ」

「条件付きって何ですか? それに彼女、あんなにあなたのことを恐れていましたが」

「10年前にな。俺はいつものように淑女の方々にそうするように彼女にプロポーズしたのだ。勿論、答えは『タイプじゃない』だったのだがな。そして……」

「ちょっと待ってください。『タイプじゃない』って言われた時点で諦めたほうがよかったのではないのでしょうかね?」

「そう言われたら尚更、燃えてしまうじゃないか!」


 なんとなくわかってきました。

 この二人は似た者同士ですね。


 僕も何度も彼女を突き放してきたのに、彼女は僕をひたすら狙い続けています。

 彼もまるっきり同じじゃないですか。


 彼の場合は、同類と出会えた歓びで舞い上がっちゃったんですね。


 そして、それが色んな意味で理想な女性だったことから尚更、スキンシップが積極的だったのですね。


 一方、彼女の場合は完全な同族嫌悪と言ったところでしょうか。

 きっと難癖をつけて断っているのでしょうね。


 ──本当に彼らが結婚すればいいのに。


「──それでどんな条件なのですか?」

「付きまとい続けて5年。ようやく認められたのが『より強いオークを連れてきたら、籍は入れる』ということじゃった」


 ──今、やばいことを聞きました。


 5年以上前から彼女はオークが好きだったのです!


 そっちじゃない?


 そんなの僕には関係がありません。むしろ、こっちの方が重要なのですよ。


 それに彼は『籍は入れる』という言葉に酔いしれていますが、どう考えても、あなたが連れ込んだオークで“ドッシーン”な関係を築く気でしょ!


 あなたは愛人を連れ込むことをひきかえに彼女と結婚してもらうようなものですよ。

 そんなのいくらお金が有り余っている大富豪でもしないでしょうに。


 いい加減、目を覚ましてください!


 ──あれれ?


 まさかね。そんなことあるはずないよねー。


「ひょっとして、5年ほど前に僕を奇襲してきた理由は……」

「そうじゃ! 今までに見たことが無いくらい強いオークだったもので、彼女の条件に合致したオークだと思ってつい仕掛けてしまったのじゃ。──まぁ、結果的に良い友人が手に入ったのでよかったのじゃがな」


 彼女は5年前に既にぼくに被害を与えていたのですね!


 もうこうなったら許せません。


 一刻も早く逃げるしかありませんね。


 ──だって、彼女には勝ち目なんかないじゃないですか。


「そういえば、王都の近くの森に移る話ですが」

「すまぬが、それはなかったことにしてくれ」

「どういうことですか?」


 さっきまで言っていたじゃないですか! どういうことなんですか?


「俺が王様とお酒を飲んでいたのじゃが、『強いオークを王都の近くの森に住まわせたいのじゃが? ほら、王都の周りではゴブリンとかオークが出て、困っているじゃろう?』ってうっかり言ってしまったら、血相を変えて叱られてしまってその話は無しになったのじゃ」

「まず、あなたが王様とのつながりを持っていたことはとりあえずおいときましょう」

「おう、王女様との婚約をいつまでも認めてくれないという愚痴は置いておくことにしよう」

「それ、この世界で一番求婚しちゃいけない人じゃないですか!! そもそも王女様はあなたの求婚を受け入れたんですか?」

「まったく」

「なら、許す必要性ないじゃないですか!」

「王女と結婚するのは男のロマンじゃないか! お主もそう思うだろう?」

「ま、まぁ、そうは思わなくもないですけど……」


 どうして僕が王女様が嫌いかって?


 それは僕の知っている王女様があの悪名高い例の教会の幹部だったからですよ。


 ──まぁ、実のところ、彼女はなんちゃって幹部なのでしょうが。


 ほら、王族を教会に引き込むことによって、さらに哀れな信者を量産していくスタイル。

 多分、彼女はそれに使われているのでしょう。


 ──まぁ、その彼女以外がまともならいいのですがね。


 ほら、王女様ってほかにも何人いるはずだよね。


 別に彼は彼女に告白したわけではないですよねー。

 多分、そうですよねー。


 まったくあくどい商、ゲフンゲフン。──宣教活動をしていますね。


 こう思うと、なんだか彼らにイラつく気持ちも理解できますね。


 だから、彼(スケルトン?)も毎日死にそうな顔なのですか。ようやく納得しました。


「そう思うだろ! 友よ! さぁ、どんどん飲め!」


 僕が彼の意見を賛同したことに機嫌を良くしたのでしょうか、クインブル氏は僕の杯に酒を注ぎました。


 ──いやいや、それ、僕が“H”さんたちから譲り受けたお酒ですよ。


 それをあたかも自分のものであるかのようにふるまうのはやめてくれませんかね?

 いや、返してください!


 お前も“H”さんたちに返せ?


 それは無理ですね。

 慰謝料なしに彼らを生きて返すわけにはいかないでしょ?


「まぁ、あなたの趣味についてはとやかく言いません。──それよりも、王様に僕の移住計画を漏らすのだけはやめて欲しかったのですが」

「つい、酔っぱらちまったもんで♪」


 てへぺろしてもいかつい顔しているので、許してあげようと思えるほどの可愛さはありませんよ。


 だから許しません。


 そもそも、ドワーフであるはずのあなたがお酒に弱いのもまずいですよ。


 たった4杯で酔いつぶれてしまうからいつも僕に対して、どかどか注いでばかりですよねぇ。


 それなら、次からいっそあなたの方でお酒を用意してくださいよ。


「さて、これからどうしましょうか?」

「お嬢様に俺の良さを説き伏せて、お嬢様が俺と結婚するように仕向けたら、お前さんは解放され、俺はお嬢様と結婚出来るんじゃないのか?」

「そんなのしたら、彼女にどんな目にあうか分かりません。少なくとも、5年間ずっとオークと結婚したかったのでしょう? それなら、嘘をついてでもあなたと結婚するって言うんじゃないですか?」

「そうだった!」


 今さら気づいてどうする!


「まぁ、一応、俺もオークを彼女に献上しているのだが、強くなかったという理由でここ5年、彼女に会えなかったのじゃ。──今日までな。それに、俺がこの森に入るのにはわざわざ申請もいるんだ。ほかのハンターたちにはそんなことせずとも入れているくせに」


 よっぽど嫌われているのですねって言いたい!

 めっちゃ言いたい!


 それに彼も一応は強い部類に入るのに、そんな彼が生け捕りにしたオークに文句ですか?


 さすがにひどいですよ。僕じゃなくてむしろ彼があなたのために捕まえてきたオークの方に向かってください!


「だから、出来ることならさっさとお嬢様と結婚して、俺に少しでも貴族のご令嬢との結婚生活を味合わせてくれないか?」

「ごめんなさい」

「即答?!」

「いや、そうでしょ。あんな危険な生き物と一緒になんかいられませんよ」


 それにそれは結婚生活なのでしょうか。

 僕にはどうもそう思えません。


「──言っておくがお嬢様が一度欲しいと言ったものはすべて手に入っておるからな。お主も気を付けておくのじゃぞ。──さぁ、わしはこれからこの魔石ちゃんを磨くので帰るとするわ!」

「分かっていますよ」

「おう、友よ!」


 クインブル氏も帰ったことですし、引っ越しでもしましょうか。──ほら、あのスケルトンにねぐらがバレましたからね。

    

次回、011.勇者教会のみなさん ~大変申し訳ありませんが、今までずっとハントクラブの人だと勘違いしていました~

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