001.完全装備騎士はオークのストーカー
はじめまして。半 空白です。
年も変わったので、ノリと勢いで初投稿しました。
よろしくお願いします。
※万が一卑猥な言葉が出た場合は擬音語で極力かき消しているつもりです。
初めまして。オークです。
名前はありましたが、色々あって捨てました。
今のところ名前を名乗る機会はあまりないので、オークっていうことで名前を通しています。
そんな僕ですが、異世界系ライトノベルでよく出てくるようなオークらしいことは一切していません。
毎日、森の中で木の実を採って食べます。たまにお肉が食べたいときにかわいいうさぎちゃんを泣く泣く捕まえて丸焼きにして食べて生きています。
──文字通りの意味ですよ。決して誤解はしないでくださいね。
勿論、ちゃんと泣き喚いて「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」と言ってから傷をつけないようにやさしく殺しています。
だから、僕は決して悪いことをしているつもりはありません。
そもそも、生きていくためなら生き物がたとえかわいかったとしても殺すしかないでしょうが!
現に人間もそうしているじゃないですか。
まぁ、これ以上変なことぺちゃくちゃ話しているといろいろめんどくさくなるので、話題を変えることにしましょう。
ところで、どうして僕がオーク生活を送っているのかについて話しましょう。
いきなり、話が変わった?
それくらい別にいいでしょ。
僕も早く困っていることを話しきって楽になりたいのです。
だから、そんなに変なことを話す余裕もありません。
さて、僕がどうしてこんな生活をしているかについてでしたね。
──それはぼくがかつて人間だったからです。
まぁ、この話の流れからどうせこいつも前世は人間だったのだろうなと予測されていた方もおられることでしょう。その通りです。
かつて、──と言っても前世のことですが、僕の人生は女性の“じ”の字もないほど浮ついた話がないことを除けば普通にいいものでした。
──最後にトラックに轢かれたりしなければ、ですが。
いやあ、あれにはまいりました。
正直に言って、ひどい幕切れでした。
ある夜、仕事からの帰り道に狭い路地の横断歩道でボタン式信号機でボタンを押して青になるまでじっと待っていたんですよ。
──青になった、と思って歩きだしたらトラックに轢かれたわけです。
幸いなことに痛みも走馬灯もなくすんなりと息を引き取りました。
──つまり、即死ということですね。
いや、本当は走馬灯を見ながら、「あっこれが走馬灯なのか」と思いながらぽっくりと生きたかったのですが……。
──まぁ、ないものねだりをしちゃいけませんね。
親には申し訳がありませんが、比較的苦しまずに死ねたので今では少しラッキーだったなと思います。
ほら、お金が不安なこのご時世なのに、老後も色々お金がかかる人生。
働いているときでもお金について不安なのに死ぬ直前までお金の心配をする人生なんて嫌じゃないですか。
それなら、いっそ出来る限り早く自然にぽっくりと逝きたいものです。
──あっ、トラックに轢かれた時点で自然じゃありませんでした。
そして、気づいたら僕はオークになっていたわけです。最近流行り(?)のあの異世界転生が僕にも起きてしまったんですよ。
ひょっとすると、異世界転生っていうのは現象としては意外とあるのかもしれませんね。
けれど、実際にそんな人に会ったことなんてないし、まずそんなことを言う人はなんか胡散臭いですよね。
しかし、現実に起こってしまった以上オークとして生きていくしかありません。
オークに生まれ変わったことを自覚した瞬間、僕は──今世こそは老衰で死んでやる! という誓いを立てました。
ほら、前世は事故死だったじゃないですか。
だから、今世ではしっかり最後まで生き抜こうと思ったのですよ。
ただ、なんとなく分かっていたことですが、オークになってからというもののぼくの人生は散々でした。
前世は人間だった僕には人は当然食べられないし、ましてや人を“ピー”することもできないぼくは村の中で次第に孤立していき、オークの村を追い出されました。
見た目はオークでも中身は人間でありたいと思い続けてオークの生活に順応できなかったことがこの結果に結びついたのでしょうね。家族に見捨てられてもしょうがないです。
──別に一度もあの“ザッバーン”豚共を家族とも思ったことはないのですが……。
──失礼しました。さっきの発言は気のせいです。忘れてください。
村を追い出されてからというもの、森を放浪していると勇者を名乗るおかしな狩人さんたち(笑)に追いかけ回される。
魔物に襲われていた薬草を取りにきた村娘の人たちを善意で助けてあげたら、「オーク退散!」という謎の呪いの呪文を捨て台詞に逃げられる。
しまいには仲間であるはずのオークにもそこら辺の女の子と“どっかーん”をする邪魔をしたという理不尽な理由によって追いかけまわされるこの人生。
よく23年生きてこれました。
褒めてほしいくらいです。
ブブゼラで大合奏されても大歓迎です。
だから、皆さん僕を褒めてください!
さて、気を取り直して話に戻りましょう。
ここまで話を聞いてもらったのですが、申し訳ありません。
実のところ、今回困っていることは今まで生きてきた中でそれほど辛いことじゃないのかもしれません。
えっ、帰るの?
ちょっと待ってください!
僕は人生の中で考えると、大して辛いとは思っていないのですが、困っているんですよ。
ほら、これまで村八分を受けて以来、人から“ゴーンゴーン”豚のような色んな魔物にまで石を投げられる人生を過ごしていたら、そりゃこれ以上の不幸はないなって思ってしまうでしょ?
だから、現に困っている以上述べないわけにはいけません。
「おお、ここにおられたのか。オーク殿」
そうこうしているうちにその元凶が現れました。
僕は慌てて木の陰に隠れます。
しかし、どう考えても隠れ切れていません。普通にまる見えです。
いやいや、これはぼくが隠れられるほど太くて立派な木がこの辺にないのが悪いのです。
別にこの体が疎ましいと思ったことはありませんよ。
──すみません。本当は生まれ変わってからずっと疎ましかったです。
全身を鎧に包んだその人はガチャガチャと装備がぶつかり合う音をさせながら、こちらに歩み寄ってきます。
僕はガタガタ震えています。
もう怖いです。
近寄ってほしくないです。
僕は人を一度も食べたことがありませんから殺さないでくださーい。
本来ならそう喚くべきでしょうが、大変残念なことにこの人とは殺しあう仲ではないのでそんな台詞は不適切になります。
そのことについて説明しようと思うと、とてもめんどくさいことになるので今日のところはどういう関係なのか詳しく語るのはやめておきます。
「あはは、そんなことをしてもオーク殿は図体が大きいから丸見えでまったくごまかせていないぞ」
全身鎧を着た、きれいな声をした彼女(兜をかぶっていて、口ぶりも女性っぽくないので本当に女性なのかは分からないと思いますがたしかに女性ですよ。決して押し付けではありません)は見た目の通り騎士をしているそうです。
そして、現在僕のストーカーをしています。
そう、あのストーカーです。
次回、002.ストーカー女騎士さんとぼく(オーク)の出会い(1)
ついでに卑猥に聞こえない擬音語募集中です。
ご都合がよろしければ感想と一緒に書いていただけると助かります。