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Hello,again

作者: 有栖まき

ティーボールのなかに

紅茶をセットして

カップのなかに沈めた


アールグレイの香りが

緊張を和らげ始めている




会いたいと言う君からの連絡に

なんて返そうか

もう3日も迷っていた





あの映画をふたりで観たのはいつだったか…

映画を観たあと腑に落ちないぼくに君は教えてくれたんだ


「あなたが観たという映画の

アナザーストーリーとして書かれたの

元の映画はサスペンス色があったけれど、女子にはこちらの方が泣ける作品として好かれるみたい…」



君から借りた本はいまも

棚ではなく引き出しのおくにある

目につくところにあると

つい手に取ってしまうのがつらくてそうしてる


手にとってまた、あの言葉にやられてしまうから








就活に失敗した僕は卒業後

バックパッカーになった

帰国後も しばらく音信不通のまま数年が経ち

再会したとき君は既婚者になっていた





「もう会えない…」



突然告げられたあの夜から


僕は


水槽のなかをくるくると

ネジを回された人形のような従順さで泳いでいる


悲観や未練とは違う空虚さに

心をなくしていたのかもしれないね




そうして僕は4日めに 

君にメールをした




待ち合わせによく使った

レストランは避けて



ずっと以前 仕事の打ち合わせで利用したカフェを指定した



お互いの家から


それなりに離れていることも ちょうど良かった




付き合っていた頃

君はよく僕を待たせた



髪型がきまらない、とか

ネイルが乾くのを待っていた、とか

たいてい つまらない理由だったけれど


一時間やそこいら

懲りずに待っていたものだ




今日は僕が少し遅れた




君は

手付かずのまま

冷めてしまったコーヒーを前に

じっと 待っていたね




簡単に近況を報告しあって

すぐに

会話は途切れ始めた




君は俯いて



「ごめんなさい…」




ため息と一緒に吐き出した




出張先のホテルで

夫が急逝したこと



葬儀や様々な手続きに追われ

自分の気持ちに向き合うことも出来なかったが



ようやく日常を

取り戻しつつあることを

ゆっくりと話してくれた




「会ってくれてありがとう 

もう一度会って

気持ちに蓋をしたかった」




伝票に手をのばそうとするのを制し 君の手を握った


君はひとすじ涙を流しながら



「思い出をありがとう」



そう言うと



静かに手を引いて

店を出ていった





3杯めのおかわりをオーダーして

外をみると雨が降り始めていた




君は言わなかったね



また いつか会いましょう

さよなら、またどこかで…







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