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異世界もコネ次第!~王立貴族学園魔法学科へようこそ  作者: 武蔵野純平
第四章 ようこそ! 戦後のゴタゴタへ!

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第四十四話 目が覚めて

ここから第四章です。

 長い夢を見ていた。

 長い、長い夢を。


「あっ……ここは……?」


 目を覚ますと、そこは黄金のグリフォン号の見慣れた船室だった。


 あれ?

 俺はどうしたのだろう?

 ボーっとした頭で思い出そうとするが、頭が回らない。

 喉も乾いた。


 テーブルの上にある水差しを取ろうと立ち上がるがフラフラする。

 やっとの思いで水差しからコップに水を入れ、ゆっくりと水を飲む。


 乾いた体に水が染み込む感じがする。

 随分長く寝ていたみたいだ。


 船室の小さな丸い窓から外を見ると、どうやら空の上らしい。

 黄金のグリフォン号は飛行中だ。


「アルト! 目が覚めたか!」


 船室のドアが開いてサンディが入って来た。


「ああ、サンディ。おはよう……。今は何時? 黄金のグリフォン号はどこへ向かっているの?」


「今は昼過ぎだ。黄金のグリフォン号は王都へ向かっている。話は後だ! ちょっと待っていろ!」


 サンディは部屋を飛び出すと食事を持って来てくれた。

 オニオンコンソメスープとパン、目玉焼きにカリカリベーコン。

 俺は余程腹が減っていたのだろう。

 あっという間に平らげた。


 食事をとった事で少しシャキッとして来た。

 サンディに寝間着から制服に着替えさせてもらう。


「なあ、サンディ。王都へ向かっているらしいけれど、戦争は?」


「こっちの勝ちだ。覚えていないのか?」


「覚えて……いる……あれは夢じゃなかったのか……」


 少しずつ、少しずつ、記憶がハッキリして来た。

 俺がパルシア帝国軍を全滅させた。

 随分と酷い目に合わせた気がする。

 夢だと思っていたが、どうやら現実らしい。


「夢じゃないぞ。アルト、オマエは大活躍だった! 支度が終わったらブリッジへ行こう。パウル王子たちが待っている」


「大活躍……。わかった……」


 サンディは、大活躍と言った。

 俺としては大虐殺だったと思うが……、サンディは現場を見ていないからか?

 かなり凄惨な事になっていたと思うけれど……。

 見ていないから大活躍なんて言うのかな?


 支度を終えてサンディとブリッジへ向かう。

 通路ですれ違うクルーたちは、みんな立ち止まって丁寧に敬礼してくる。

 ちょっと前までは『見習い学生』、『貴族の若様』的な扱いだったのだけれどな。

 随分態度が違う。


 ブリッジに上がるとみんながいる。

 パウル王子、マックスウェル先輩、アメリア、アメリアの世話係マリエラ、ジャバ先生、コード夫人。

 みんな笑顔だ。


 パウル王子が両手を広げて迎えてくれた。


「おお! アルトよ! 目が覚めたか!」


「あ……ひゃい!」


 まずい、かんだ。久々にかんだ。


「良くやった! 余は、そなたを誇りに思うぞ!」


「は、はい! ありがとうございます! あの……途中で気を失ってしまって……。今、どうなっているのでしょうか?」


「うむ。マックスウェルから説明させよう」


 パウル王子の横に立っていたマックスウェル先輩が、いつもの淡々とした口調で話し始めた。


「ますは時間経過から説明します。アルト・セーバーが気を失ってから、五日が経過しています」


「五日! そんなに!」


「アルト・セーバーは、ずっと眠っていました。ジャバ先生によると魔力酔いで体に相当負担がかかったのだろうと」


「魔力酔い……。そんなに体に負担が?」


 ジャバ先生を見るとゆっくり肯いた。

 いつもの学者口調で話し始める。


「アルト・セーバー君は、かなり長時間魔力酔いの状態であったと聞いています。魔力酔いは体力の消耗が激しいですからね。長時間続けば当然体のあちこちにダメージが蓄積します」


「そう言う物ですか……」


「はい。お酒も長時間飲めば、翌日に疲れを引きずるでしょう? それと同じです。ああ、お酒の例え話しは、学生のアルト・セーバー君にはまだ早かったですね」


「何となくわかります」


 前世では二日酔いを経験しているから、酒に例えたのはわかりやすかった。

 マックスウェル先輩に視線を戻して質問する。


「それでパルシア帝国軍は?」


「数人を残して全滅です。アルト・セーバーは、魔力酔いの中で戦っていましたが覚えていますか?」


 残念ながら覚えている。

 三度目の魔力酔いだからだろうか……。

 凄惨な光景だったので、覚えていない方が良かった。


「覚えています……」


「敵総大将のハカム将軍の首を持ち帰ったのは、お見事でした。手柄として重要です」


「そうなのですか?」


「ええ。敵の総大将を確実に仕留めた証拠ですから。首が無ければ、ハカムに逃げられていた可能性も考慮しなくてはなりません」


 そう言う物なのか……。

 現代日本人感覚の残っている俺としては、非常に残虐な行為に思えるけれど……。


 だが、マックスウェル先輩の説明を聞くと、合理性と言うか……、残虐に見えてもこの世界では必要な行為もあるのだと頭でわかる。

 感情的には受け入れ難いけれどね……。


 俺はどこかボンヤリとした思いで返事をする。


「そうですか」


「女魔法使いを生け捕りにしてくれた事もありがたかったです。彼女はパルシア皇帝の娘でした」


 いたな! 女魔法使い!

 身分が高いだろうとマックスウェル先輩が言っていたけれど、まさかパルシア皇帝の娘とはね!


「じゃあ、パルシアのお姫様ですか!?」


「いえ。母親の身分が低いので、姫ではないそうです」


 どう言う事だろう?

 皇帝の娘なら姫になるのでは?


「えーと……。マックスウェル先輩が言っている意味が良く分からないのですが……」


「パルシアの皇帝ともなれば、後宮には沢山の女性がいます」


「あー、それはそうでしょうね。何人くらい?」


「おそらく千人は下らないかと」


「千!」


 絶句した!

 千人!

 超絶ハーレム!


 一晩で一人としても、二年かけても一周出来ないのか……。

 うーん、めくるめく千夜一夜物語。


「ですのでパルシア皇帝の血を引く子供は沢山います。全員を皇族にするわけにはいきません」


「なるほど。そこで母親の身分ですか?」


「そうです。母親の身分が低いと皇族ではなく、貴族扱いになるそうです。それでもパルシア皇帝の血を引く娘ですから、和平交渉の材料になるでしょう。お手柄ですよ」


 パルシアも世知辛いんだな。

 もし、彼女が皇族だったら、こんな最前線に出て来る事は無かったかもしれないし、捕虜になる事もなかったかもしれない。

 あの女魔法使いにちょっと同情してしまう。


「それで、和平交渉は?」


 俺の質問にパウル王子とマックスウェル先輩が気まずそうに目を合わせた。


「和平交渉は交渉相手がいません」


「えっ?」


「アルト・セーバーが敵をほぼ全滅させましたから……。交渉出来そうな高位の生き残りがいないのです」


「あっ……」


 マックスウェル先輩が苦笑いしている。

 やり過ぎたか……。


「すいません! 魔力酔いしていたとは言え、やり過ぎました!」


「アルト・セーバーが気にする必要はありませんよ。パルシア本国に交渉団を送り込めば済む話です。時間はかかりますが、和平交渉は行われます。それに……パルシアにも良い薬になったでしょう」


 マックスウェル先輩が悪そうな顔で微笑んでいる。

 俺も魔力酔いをしていた時は、そんな風に考えていました。

 でも、今考えるとあきらかにやり過ぎ、オーバーキルだったと思う。


「いや……しかし……」


「最後の串刺しも良かったですよ。味方もドン引きしていましたから。これでパウル王子にちょっかいを出すバカも減るでしょう。良い仕事をしましたね!」


「それは……どうも……」


 マックスウェル先輩の立場もわかるけれど、そんな怖い笑顔で褒められてもうれしくないです。


「コホン! アルトよ。見事な働きぶりであった。まだ体力が回復しておらぬであろう? 王都到着は明日の昼だ。それまでゆっくりと休むが良い」


「ありがたく」


 俺はサンディとブリッジを後にした。


 五日も寝ていたせいか、やたら腹が減る。

 食堂でサンドイッチとスープを頬張りながら、サンディに細かい話を聞いた。


 何でもカルソンヌ城に詰めていたラブラドル王国軍は、暗い中で俺の魔法が発動する音だけを聞いていたそうだ。

 そして陽が昇ってみると目の前に無数の土の槍と串刺しになったパルシア帝国兵。


 まあ、ホラーだよね。

 やった俺も趣味が悪すぎると思う。


 俺が魔法攻撃する事を、先行したアメリアが伝えてくれていたので、友軍が魔法に巻き込まれる事はなかったそうだ。

 後始末が大変であの土の槍を全軍総出で処理したそうだ。


 それが終わったのが昨日の夕方。

 それから、黄金のグリフォン号は王都へ向かい、今日の昼になって俺が目覚めた。

 なるほど……。


「なあ、サンディ。カルソンヌ城の守りは良いのかい?」


「ああ。パルシア帝国軍は全滅したし、和平交渉団も出すらしいから大丈夫だろう。最低限の人数を残して解散になったよ」


「ふーん。そうか」


「まあ、あれだけの軍がカルソンヌ城に張り付いていると補給も大変だろうしな」


「ああ、それはそうだね」


 補給か……。それはそうだよな。

 万を超える人間がカルソンヌ城と周辺に詰めていた。

 毎日食べるパンや肉を考えると、とんでもない量だよな。

 金に翼が生えて飛んで行く。


「ところでアルト。あのオッサンをどうするんだ?」


「へ? あのオッサン?」


 サンディが言うオッサンとは誰の事なのか?

 俺に心当たりはなかった。


「パルシア帝国の捕虜だよ。女魔法使いと同じ場所にいたらしいぞ。平民でヒラの兵士だから、何でアルトが捕虜にしたのか分からなかったけど。この船に乗せているぞ」


「ええ!」


 オッサン……オッサン……。

 女魔法使いと一緒にいたオッサン……。


 ああ!


「あの人は炊事番だよ! 旨いパルシア風サンドイッチを作るんだ!」


「オマエ……。そんな理由であのオッサンを捕虜にしたのか? 他にもっといるだろう! 偉い人とかさ!」


「……そうだね」


 結局、魔力酔いしていた俺が気紛れで捕虜にしたオッサンは、炊事場で働いて貰う事になった。

 その晩、パルシア風サンドイッチが夕飯に出て大変好評だった。


マックスウェル先輩のお世話係のハインツ先輩は違う仕事をしています。

(書き忘れではないです)

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