第四十話 上空から見た伝説級魔法
今話は視点変更して客観視点でお送りします。
短めですが、入れたかった。
時間は少々さかのぼる。
パルシア帝国西軍に陽動攻撃を行ったマックスウェルとアメリアは、野営地の高度上空で待機をしていた。
雲よりも高い空を、二匹の大型ドラゴンがゆっくりと円を描くように周回している。
アメリアは、夜目にも鮮やかなコーラルレッドのアビアシオドラゴン『ラファール』に跨り、魔力で身体強化された目で心配そうに地上を見ていた。
「アルト一人で大丈夫でしょうか? やっぱり私も一緒に行った方が……」
アメリアは、昨晩、全身大火傷で帰艦したアルトを思い出し、不安な気持ちでいた。
先輩のマックスウェルに不安な気持ちをぶつけてみると、マックスウェルは落ち着いた様子で答えた。
「何かあれば私たちがすぐに救出します。アルト・セーバーがやりやすいように、やらせましょう」
マックスウェルは、闇夜に溶け込む漆黒のバルザックドラゴン『ノワール』に跨り、怖い程真剣な顔で地上を凝視していた。
魔力で強化されたマックスウェルの目には、暗視スコープで見るよりもはっきりとパルシア帝国西軍野営地の様子が映っていた。
「アルト・セーバーが仕掛けましたね!」
マックスウェルの目は赤い炎――アルトが放ったファイヤーランスの光跡を捉えていた。
高度上空からは一瞬かすかに見える程度の炎の動きを、強化された視力と集中力でマックスウェルは見逃さなかった。
「どこですか!?」
「あの辺りです」
マックスウェルが指さす辺りから、バッカニアドラゴン『アオ』が上昇して来た。
「アオが上がって来ました!」
「そうですね……地上に降りましたか……」
マックスウェルはアルトの身を案じた。
地上に降りれば敵パルシア帝国兵に包囲されるリスクが高まる。さらにパルシア帝国軍は精鋭歩兵のイェニチェリ兵である。
(リスクを取ってでもパルシア帝国の新兵器……、火炎放射器の対策を試すと言う事ですか……。死なないで下さいよ……)
マックスウェルは背中にじんわりと汗がにじみ出るのを感じた。
そしてアルトのドラゴン『アオ』が上空周回に加わった。
「あ! あれ! アルトですよね? 火炎が沢山……。凄い! 弾き返した!」
「本当です! 成功ですね! アルト・セーバーの推測は当たっていました! 物理障壁で炎を防げています!」
パルシア帝国軍の火炎放射器が火を噴き、アルトの物理障壁が炎を防ぐ。
眼下で行われる戦いに二人は興奮と安堵を覚えた。
アルトに火炎放射器は効かない。
これなら無事に帰って来るであろうと。
しばらく二人は無言で地上の戦いを眺めていた。
するとゴウと言う地の底から響くような音が聞こえ、地面が揺れ、大きな地割れが辺りの木々やパルシア帝国兵を飲み込み始めた。
マックスウェルもアメリアも、この現象はアルトが引き起こした事はわかった。
しかし、こんな大規模な魔法は見た事がない。
「一体何が……」
アメリアが誰ともなくつぶやき、マックスウェルはそれに答えるでもなく呻くように言葉を発する。
「レジェンダリー……」
「えっ!? マックスウェル様? レジェンダリー?」
「あれは……恐らく伝説級の地属性魔法『エノシガイオス』ではないかと……。自らの魔力を地に住まう神『エノシガイオス』に捧げ、地のエレメントを動かし地震と地割れを起こし地の底へ敵を叩き落す」
「そんな魔法が存在するのでしょうか?」
「私も学校にある本で読んだだけですが……。伝説級魔法とでも考えなければ、この威力は説明できないでしょう?」
マックスウェルは地上を指さす。
そこは地に飲み込まれるパルシア帝国軍兵士の悲鳴で溢れかえっていた。
野営地全体を地割れが襲い、強烈な揺れは精鋭イェニチェリ歩兵であっても逃げ出す事を許さない。
マックスウェルとアメリアは地上におらず、ドラゴンに乗り遥か上空にいる。
空の上だからこそアルトの伝説級魔法の影響を受けないが、もし地上にいたら二人とも命は助かるまい。
その事を直感的に理解した二人は強烈な寒気を感じ、アメリアは両の手で自分の体を強く抱いた。
「アルトは……気が優しいのに……あんな事を……」
「まったく容赦がありませんね。普段の気弱なアルト・セーバーからは、ちょっと想像がつきません。あれではパルシア帝国軍に生き残りは、いないでしょう」
「ええ……」
二人は上空から地上を見続けた。
魔力で強化された二人の瞳には、あまり見たくない光景もしっかりと映し出されてしまった。
パルシア帝国軍は地割れに飲み込まれ、森までも地割れに飲まれてしまった。
なだらかな丘も崩れ去り、あたりの地形が一変し、伝説級魔法がおさまった時には、ただ荒れ地が広がるだけであった。
伝説級魔法のあまりの威力に二人が言葉を失っていると、アルトのバッカニアドラゴン『アオ』が地上へ降りて行った。
「マックスウェル様! アオが!」
「どうやら終わったようですね。やれやれ、飛行船に帰ったらアルトから色々と話を聞かないと……おや?」
マックスウェルの視線の先には、カルソンヌ城へ向かって一直線に飛ぶバッカニアドラゴン『アオ』の姿が見えた。
アオの背中にはアルトが跨っている。
「アルト・セーバー! 一体どこへ!? アメリア! アルトを追います! ノワール! あのドラゴンを追いなさい!」
言うが早いかマックスウェルは、自らが乗るバッカニアドラゴン『ノワール』を急速降下させた。
アルトの乗るバッカニアドラゴン『アオ』は、カルソンヌ城へ続く街道の上空500メートルを高速で飛行している。
マックスウェルとアメリアは高度一万メートル超の高さ――雲を超える高さに待機をしていた。
バッカニアドラゴン『ノワール』は、一万メートル超える高度から一気に急降下し、降下する早さに任せてアオに追い付いた。
魔力により身体強化をしている魔法使いだからこそ耐えられる無茶な飛行である。
マックスウェルはノワールを、アルトのドラゴン『アオ』の横につけ大声でアルトに呼び掛けた。
「アルト・セーバー! どこへ行くのです!」
マックスウェルの声に振り返ったアルトの顔は、いつか見た魔力に飲まれた不敵な顔だった。
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