第三十三話 アメリアとの距離、深まる仲
本日3話目の更新です。
――六日後。
パルシア帝国軍の援軍、通称南西軍二万への奇襲も成功した。
やったことは南軍の時と同じだ。
飛行船『黄金のグリフォン号』艦内は、勝利に沸いた。
残るは西軍一万。
黄金のグリフォン号は進路を北西にとった。
――さらに四日後の昼。
伝令のワイバーン騎士が戻って来た。
カルソンヌ城近くの宿営地にいる総大将ニブロン・ダラス将軍へ送った伝令だ。
このワイバーン騎士は、南軍を叩いた十日前に送り出した。
通信機器も無いのにどうやって合流したのか不思議だったが、予め日数を計算して合流地点を決めていたらしい。
今は伝令がパウル王子に報告をしているところだ。
ブリッジには多数のクルーが詰めかけている。
黄金のグリフォン号は、単艦行動だからみんな本軍の情報が欲しいのだ。
「総大将ニブロン・ダラス将軍は、殊の外お喜びでした。『歴史に残る活躍である』とのお言葉をいただきました。また、カルソンヌ城城主アルル辺境伯は、『別動隊の活躍に感謝する』との事です」
総大将からの賞賛にブリッジが湧いた。
人の壁を掻き分けてサンディが来る。
白い陶製のマグカップに淹れたコーヒーを運んできてくれた。
「アルト。コーヒー」
「サンキュ」
最近、俺は飲み物を紅茶からコーヒーに変えた。
ラブラドル王国では紅茶の方が主流なのだが、何となく気分的にコーヒーが飲みたいのだ。
「砂糖もミルクもなしで良く飲めるな? 苦くないのか?」
「この苦いのが良いのさ」
「そんなもんかね」
パウル王子と伝令ワイバーン騎士の話しは続く。
「ご苦労。カルソンヌ城の方はどうか?」
「変わりありません。カルソンヌ城に物資を運び込み、周りに守備陣地を構築しています。パルシア帝国軍に動きはなく。援軍を待っている物と思われます」
「その援軍は来ないがなあ。我らが叩き潰してしまったからな。パルシア帝国軍も気の毒な事よ」
パウル王子の言葉にブリッジがどっと沸いた。
勝ち戦でクルーの士気が高いのだ。
あちこちで冗談が飛び交い『パルシア帝国何の事かあらん』と怪気炎を上げる者もいる。
「よし! 今夜はパルシア帝国の西軍を叩くぞ! アメリアは偵察を、アルトは攻撃まで体を休めておけ! では解散!」
移動するパルシア帝国西軍一万を今朝マックスウェル先輩が発見した。
この西軍一万を叩けば、パルシア帝国の援軍は全滅。
カルソンヌ城で睨み合いになっているパルシア帝国軍も、援軍が来ないと分かれば退却するだろう。
平和の為に、あと一歩だ。
マグカップを持ったままアメリアと並んで歩く。
「アメリアはマックスウェル先輩と偵察交代でしょ? 見送るよ」
やっと最近アメリアと普通に会話出来るようになった。
「ありがとう。それ何?」
「コーヒー。飲む?」
アメリアは少し頬を赤らめて俺からマグカップを受け取った。
一口含むと表情が渋くなった。
「うわっ! 苦い! よくこんなの飲めるわね!」
アメリアがつき返したマグカップを受け取り、コーヒーを啜る。
「この苦さが良いんだよ。……って、あれ? アメリア! 何赤くなっているんだ?」
「うるさいわね! バカ!」
アメリアはドラゴンデッキに駆け出した。
アメリアのお世話係マリエラがダークブラウンの長い髪をなびかせながら、アメリアの後を追う。
俺を追い抜きざまに一言。
「バカ! 鈍感! デリカシーって言葉知っている?」
ヒドイ言われようだ……。
こう言う時は、サンディに聞こう。
「なあ、サンディ。俺は何かしたか?」
「アルト……。相手は侯爵令嬢だぞ。カップをそのまま渡して回し飲みするのは、まずいだろう。それから、それ、間接キスになっているから」
サンディは冷たく言い放った。
俺は右手に握るマグカップを凝視した。
な、る、ほ、ど。
間接キッスですか……。
そうだよな。
俺たちは、まだ十三才な訳で、ウブな訳で……。
うーむ。
俺は大人から異世界に転生したから、中身は大人の感覚と子供の感覚が半々なんだよね。
十三才の女の子には、間接キスは重大事件……なのかな?
「サンディ、どうしよう?」
「どうしようって……。さっさとそれ飲んで、アメリアお嬢さんを追うぞ! 見送りするだろ!」
「そうでした!」
コーヒーを流しこんで、アメリアの後を追って走り出す。
アメリアはドラゴンデッキから上部甲板へ移動する途中だった。
コーラルレッドのアビアシオンドラゴン『ラファール』に跨る姿は、なかなか美々しい。
今日は風が強い。
風音に負けないように俺は大声でアメリアに呼び掛けた。
「アメリア! 学校に戻ったらケーキをおごるよ!」
一瞬アメリアはキョトンとした顔をして、それからとろけるような笑顔になった。
「よろしくてよ! さあ! 行くわよ! ラファール!」
「QUE!」
アメリアとラファールは、あっという間に見えなくなった。
ところで、サンディがジトっと俺を見ているのだが……。
「なんだよ! サンディ!」
「なあ、アルト……。オマエ……さっきの言葉だけどさ……」
「うん? ケーキをおごる? ダメじゃないだろ?」
「ああ、ダメじゃない。ところで、それってさ。デートに誘っている事になるのだけれど、自覚している?」
「……自覚してなかったです」
「知らねえぞ……」
こうして俺たちは夜を待った。
パルシア帝国西軍に最後の奇襲を行うのだ。




