第三十二話 居心地の悪い英雄
本日2話目です。
パルシア帝国の南軍三万人への奇襲は成功した。
恐らく生存者はいない。いたとしても野営地を離れていた数人程度だろう。
黄金のグリフォン号の上部甲板に着艦するとサンディが駆け寄って来た。
「アルト! お帰り!」
「ただいまサンディ」
「意外としっかりしているな……。大丈夫そうだな」
「ああ、今回は覚悟を決めていたからね」
精神的なダメージが無いとは言わないが、三万人を殺した罪悪感……みたいなのは考えないようにしている。
それを考えだしたら夜も眠れなくなるだろうし、重圧に耐えられず発狂してしまうかもしれない。
ただ、『自軍を守る為』、と大義名分を信じるように自分を仕向けているだけだ。
パウル王子、マックスウェル先輩、アメリアお嬢様もやって来た。
マックスウェル先輩に報告を行う。
「奇襲は成功です。フレイム・エクスプロージョンを特大でぶち込んできました」
「ご苦労様です。こちらからも巨大な火柱を確認しました。あれなら生存者はいないでしょう。明日、日が昇ったら上空から戦果確認を行います」
「お願いします」
続いてパウル王子だ。
かなり興奮しているのか、頬が紅潮している。
「アルトよ! 良くやった!」
「ありがとうございます」
「今日は、もう休むが良い。後の事は余とマックスウェルに任せておけ」
「お言葉に甘えて下がらせていただきます。では……」
俺はアオを連れてドラゴンデッキへ向かった。
アメリアお嬢様がついて来るので、礼を述べた。
「ありがとうございます。偵察通りの場所に野営地がありました」
「お安い御用よ。あなたが無事で良かったわ」
「ご心配をおかけしました」
「ねえ! そろそろ、その他人行儀な言葉遣いは止めにしない? 私たちは級友で、戦友なのよ」
アメリアお嬢様は腰に手を当てて、ご立腹だ。
そう言われてもなあ……。
アメリアお嬢様は名門ラファイエット=レビル侯爵家の令嬢だからな。
俺は下級貴族の騎士爵家の息子だ。
粗相があったら首が飛ぶ。
「そう言われても……。アメリアお嬢様は――」
「アメリア! アメリアと呼びなさい! 呼ばなかったら、もう口を聞いてあげないし、偵察にも行ってあげないから!」
「ええっ! それは困る!」
「ならアメリアお嬢様なんて呼び方は止めてちょうだい」
「わかりました。アメリア……」
「なあに? アルト?」
アメリアお嬢様は嬉しそうに笑っている。
わかんねえな。
何を考えているのだろう?
「えーと、それで……。アメリアの家は侯爵家ですから。セーバー家は田舎の騎士爵家です。序列と言うか、格が違うでしょう? 失礼は出来ませんよ」
「あらっ! それはお互いの実家の話しよね? 貴族学園魔法学科生徒のアメリアとアルトには関係なくてよ。サンディに話すように、私にもお話なさい!」
「ええっ!? それは無理ですよ!」
「無理じゃないわよ。それとも私が偵察しなくても良いの?」
「それは困りますよ」
「じゃあ、私と話す口調も普通にしてちょうだい。いいわね?」
「わかった。普通にするよ」
「フフ……。じゃあ、お疲れ様!」
アメリアお嬢様は嬉しそうに去って行く。
後姿を見送ってから、アオに魔力をあげる
「なあ、アオ。女心はわかんないよ」
「キュウ!」
何故かアオに尻尾でひっぱたかれた。
まあ、でも、アメリアのお陰で少しリラックス出来た気がする。
風呂に入ってゆっくり眠ろう。
翌朝、いつも通りサンディに世話をして貰って支度をし、食堂で食事を済ます。
ブリッジに上がるとパウル王子、マックスウェル先輩、船長が、額を寄せて相談をしていた。
マックスウェル先輩が俺に気が付いた。
「おはようございます。アルト・セーバー」
「おはようございます!」
「日の出とともに私が飛んで戦果確認をして来ました。敵南軍三万は全滅です。お見事です」
マックスウェル先輩は淡々と事実だけを告げる。
俺は何と答えて良いかわからずにいた。
「街一つ分の広さが消失していました。フレイム・エクスプロージョンは私も使えますが、あれほど広範囲に発動させる事は出来ません。あれは威力だけなら上級魔法をも上回ります。やはりアルト・セーバーの魔力は規格外ですね」
「水晶玉は壊れていなかったと言う事だな。アルトよ。次も頼むぞ」
そう言ってパウル王子は俺の肩を叩いた。
これで少しは恩返しが出来たかな?
キングスホール寮に入寮させて貰って、服や生活全般の面倒を見て貰って、バッカニアドラゴンのアオを与えて貰った。
お金がいくらかかっているのか、もう、まったく分からない。
パウル王子に少しでも恩を返せたなら、やった甲斐があると言う物だ。
船長も俺に声を掛けて来た。
「いや、しかし、アルト様の魔法は凄まじいですな。私も長らく軍におりますが、あれほどの魔法は初めて見ました。アルト様がお味方で良かったと心底思いましたよ」
「恐れ入ります。魔法障壁が無いとワンサイドゲームですね」
「そうですな。この黄金のグリフォン号は、魔道具である程度の魔法障壁を張れておりますが、パルシア帝国軍は魔法後進国ですからな。魔道具は装備していなかったでしょう」
黄金のグリフォン号の魔法障壁は、ファイヤーボール程度の初級魔法は弾き返す。
中級以上の攻撃はジャバ先生がやったように、魔法使いが魔法障壁を重ね掛けする。
「まあ、もっとも。アルト様の魔法の威力を考えると魔道具があっても結果は同じでしょうな」
船長の声は明るい。
ブリッジのクルーも声が出ていて、全体的に活気がある。
「なんか……昨日と違って、ブリッジがにぎやかですね」
「勝ち戦だからです。勝っている時は、将兵の士気が上がります。興奮しているというのもありますが……。少なくとも死ぬ可能性が減っている訳ですから、気分も明るくなると言う訳です」
「なるほど……」
マックスウェル先輩がいつにない優しい笑顔で俺に指示をくれた。
「次の目標は、南西軍二万。会敵予想は、五日から七日後です。それまでは、ゆっくり過ごして下さい」
「わかりました。ありがとうございます!」
ブリッジを出て自室へ向かう。
ブリッジだけでなく艦内はにぎやかだった。
俺を見て敬礼する者。
話しかけて来る者。
俺の魔法や戦果を称える者。
昨日までは、貴族のお坊ちゃんあつかいだったのだが、周りの俺を見る目が一晩で随分と変わってしまった。
英雄扱いでちょっと居心地が悪い。
だが、あまり変わらない人もいる。
「アルト! おはよう!」
「アメリア……おはよう!」
アメリアお嬢様を呼び捨てにするのは、どうも慣れない。
「食事は終わった? 艦内で走り込みをするなら、付き合ってあげても良くってよ」
「そうですね。お願いします!」





