第三十話 単艦行動
本日3話目の更新です。
軍議から三日が過ぎた。
カルソンヌ城を後にした飛行船『黄金のグリフォン号』は、単艦で南へ南へと進む。
目標はパルシア帝国から北上して来る三つの援軍。
まず南軍三万だ。
なぜ黄金のグリフォン号の単独行動になったかと言うと、俺のボスであるパウル王子と政敵ポアソン王子の言い合いだ。
軍議では――。
野戦を仕掛けるか?
陣地を構築して守るか?
飛行船の機動力を用いて援軍を各個撃破するか?
この三択で議論された。
パウル王子は野戦もしくは各個撃破を推し、ポアソン王子は陣地構築を主張した。
最初はまともに議論がされていたのだけれど、途中からポアソン王子がパウル王子を挑発した。
「ふん! パウルは小さな頃から短慮で我慢が足らなかった。おっと! まだ子供であったな。すまん、すまん」
「むっ! ポアソン! 皆の前で無礼な事を申すな!」
「おお! すまぬ、すまぬ! しかし、否定しない所を見ると、己が短慮で我慢が足らぬ事に思い至ったのだな? いやあ、兄として出来の悪い弟の成長は見ていて清々しいぞ。良かった、良かった」
「クッ! 良くもそのような!」
「だいたい各個撃破戦術など机上の空論、子供の空想の産物よ。出来もしない事を声高に主張するなど愚の骨頂であろう」
「そんな事はない! 各個撃破戦術は戦理に適っておる! ポアソンこそ目が曇っているのではないか? ああ、すまぬ! ポアソンは小さな頃より卑怯と臆病をモットーとしていたのだったな」
「貴様!」
「人を批判するだけのお気楽人生を邁進中か……。いやあ、羨ましい程に、甘ちゃんの精神構造であるな。恐らく頭の中に砂糖菓子が詰まっているのであろう。甘々であるな!」
以下略……。
つかみ合い寸前の所で、ダラス将軍が割って入った。
そして売り言葉買い言葉……。
「ならば己が身で証明してみせろ! 各個撃破戦術とやらを!」
「やらいでか!」
これで決まり。
総大将のダラス将軍としても、両王子がエキサイトしてしまい収集が付かなくなったので、この言葉に乗った。
ポアソン王子の顔を立て全軍は陣地構築を行い、パウル王子の顔も立てて飛行船で敵援軍への牽制を行う事になった。
「我ら単独でもやる! ポアソンは指をくわえて見ているが良い!」
パウル王子が意地をはった為、黄金のグリフォン号単艦での行動となった。
まあ、パウル王子も大人びて見えるけれど、俺と同じ十三才だ。
兄弟喧嘩で意地になるのも仕方がない。
「みな苦労をかける……」
会議から黄金のグリフォン号に戻り、ブリッジで主だった船員に作戦を伝えるパウル王子はシュンとしていた。
さすがに単艦で合計六万の援軍を相手取るのは無理があると思ったのだろう。
俺はパウル王子を励ました。
「大丈夫ですよ。俺が前に出てドン! と特大魔法をぶっ放しますから。単艦でも何とかなります」
「アルトよ……」
「それに各個撃破戦術の言い出しっぺは俺ですから、自分の言葉には責任を持ちますよ」
「うむ! 頼むぞ!」
パウル王子の悪かった顔色に血色が戻って来た。
その場で作戦会議が始まった。
マックスウェル先輩が場を仕切る。
「基本は……火力担当がアルト・セーバー。索敵を私とアメリアがドラゴンに乗って行いましょう」
「良いと思います。私のラファールとマックスウェル先輩のノワールは、高度高速飛行を長時間行えます。その任務をお引き受けします」
アメリアお嬢様が偵察役を買って出てくれた。
もっと前に出たがるかと思ったが、ちょっと意外だ。
「ワイバーンは周辺警戒とアルトが攻撃する時の護衛役で……」
「あの……マックスウェル先輩。護衛はいりません。俺が攻撃する時は単独行動にして下さい」
「アルト・セーバー! 正気ですか!? 万を超える敵に一人で挑むと言うのですか?」
「周りに味方がいると魔法攻撃に巻き込んでしまいます。魔法を思いっきり放てないのですよ」
「なるほど……かえって邪魔と言う訳ですか……」
「ええ。正直に言うと、その通りです。僕とドラゴンのアオだけなら、低空飛行で敵に忍び寄り奇襲をかけられます。大きな魔法を一発ドカン! あとは全速で離脱してきますよ」
「ふむ……」
マックスウェル先輩は腕を組んで考えだした。
デカイ攻撃魔法を放つのは、技術的には難しい事じゃない。
魔力任せで全力で魔法を撃てば良いだけだ。
だが、近くに味方がいれば、巻き込まないように細かくコントロールをしなくちゃならない。
これが面倒と言うか……俺の修行不足と言うか……俺はあまり魔法の細かいコントロールが得意じゃないのだ。
初陣のカルソンヌ城攻防戦は、正直やりにくさを感じた。
敵味方が入り乱れているので、どの位の威力で魔法を放てば良いのか最適解がわからなかったのだ。
マックスウェル先輩が考え込む間、気になる事を確認しておこう。
「パルシア帝国軍は魔法使いが少ないのですよね? 援軍に魔法使いがいる可能性は?」
ジャバ先生が俺の質問に答えてくれた。
「その可能性は低いでしょう。パルシア帝国では、本当に魔法使いの数が少ないのです。もし、魔法使いがいたとしてもレベルの低い魔法使いでしょうから、アルト君の魔法攻撃を防ぐのは難しいと考えます」
不安要素が一つ消えた。
魔法障壁を張って防御されると面倒だからね。
「援軍の航空戦力……えーと、敵にドラゴンやワイバーンはいますか?」
パルシア帝国軍に飛行船はない。
先日サンディに教えて貰ったので、飛行船の心配をする必要はない。
ワイバーンやドラゴンが空に上がって来ると空中戦になる。
これがもう一つの不安要素だ。
ジャバ先生は学者口調で俺の質問に答えてくれた。
「パルシアに住むドラゴンは飛ばないドラゴンです。地竜と呼ばれています。体が大きく鱗が固く力が強いです」
「でも、空は飛べない?」
「そうです。ワイバーンもパルシアにはいません。小型化した地竜を馬代わりに使っています」
「パルシアは陸軍国ですね」
「ふむふむ。陸軍国ですか。面白い表現ですね。アルト君の言う通りパルシアの戦力は陸上戦力に偏っていますね。陸軍国とは言い得て妙ですね」
前世日本で覚えていた言葉が、つい口から出た。
ジャバ先生は面白がっている。
マックスウェル先輩の考えがまとまったようだ。
「わかりました。攻撃はアルト・セーバーの単独攻撃としましょう。パウル王子、よろしいでしょうか?」
「うむ。そのようにいたせ」
こんな会話が交わされたのだ。
急ぎ食料等の物資を積み込むと黄金のグリフォン号は南へ向かった。
残念な事にジャバ先生とコード夫人は、カルソンヌ城に居残りだ。
アルル辺境伯から、『敵魔法使いへの防御としてお二方は残留して欲しい』と強い申し出があったのだ。
お二人はカルソンヌ城で魔法防御の指揮をとる。
黄金のグリフォン号には、パウル王子、マックスウェル先輩、アメリアお嬢様、俺、サンディなど貴族学園の生徒が乗り込む。
マックスウェル先輩とアメリアお嬢様がドラゴンで索敵を行っている。
雲の上からの索敵なので敵に発見される可能性は非常に低い。
逆にドラゴンに乗る魔法使いからは、地上の様子は丸見えだ。
身体強化した魔法使いの目からは、何人も逃れられない。
黄金のグリフォン号で南下する事三日。
ついにパルシア帝国軍を捕捉した。
アメリアお嬢様が発見したのだ。
ブリッジで誇らしげに報告を行う。
「いたわ! パルシア帝国軍旗も確認したので間違いないわ! 地図で言うと……この辺りね……」
この世界の地図はかなり大雑把だ。
現代の地図に馴染んだ俺には、距離感がわからなくて困る。
アオの足で届くのか?
マックスウェル先輩がテキパキと仕切る。
「アルト・セーバーのドラゴンで攻撃をかけるには、まだ少し遠いですね。艦長、もう少し接近可能でしょうか?」
「恐らくこの辺りまでは大丈夫でしょう」
白い制服に身を包んだ艦長が地図を指さす。
ここはもうパルシア帝国領内だ。
ここまで戦闘は数回起きているが、地上の現地軍から散発的に矢が射かけられた程度でワイバーン騎士が追い払っている。
だが、あまりパルシア帝国領深くまで入り込むのは危険だろう。
飛行船なら大丈夫だと思うが、万一逃げられなくなったら全滅だ。
「では、船長。この地点まで船を進められますか?」
「ここなら敵の索敵範囲外ですので、大丈夫でしょう」
「よろしい。アメリアは再度出てパルシア帝国軍を監視して下さい。今夜の野営地を突き止めるのです」
「はい!」
「攻撃は今夜です。アルト・セーバーは、今のうちに食事をして休んでおいて下さい」
「わかりました」
いよいよか……。
今夜の敵はパルシア帝国南軍三万。
ブルリと体が震えた。





