第三話
教室の前方では学長や先生たちの紹介、授業内容の説明が続いている。
授業は日本の学校とはかなり違う。
数学歴史といった基礎的な授業もあるが、乗馬、宮廷マナー、ダンス、剣術、領地経営の様に日本では体験しなかった授業も沢山ある。
授業の進め方は、どうやら日本の大学に似たシステムらしい。
全員が同じ授業を受けるのではなくて、自分が取る授業に出席するシステムだ。
学科と言うグループに分かれて、それぞれの学科の授業や活動を中心にして空き時間で自分の興味のある授業を取る。
一通りの説明が終わった所で、学長先生が話し始めた。
「それではこれより学科選抜試験を行う。学科選抜試験は、君達を適性によってそれぞれの学科に振り分けるのだ」
さて、どの学科になるのかな……。
隣のサンディがワクワクした声を出した。
「なあ、アルトはどの学科に行きたい?」
「そうだな……。ウチは領地貴族だから領主学科とか……。それか俺は割と計算が出来る方だから文官学科もありかな……」
「なるほどなあ。俺は騎士学科希望だな!」
「サンディの親父さんは、ここの騎士団所属だっけ?」
「そう。ウチは武門の騎士爵家だからね。それに俺は四男坊だから、騎士の爵位は兄貴が継ぐ。けれど騎士団に入れば準騎士になれるからな。平民落ちしないで済む」
準騎士は一代限りの下級貴族の位だ。
貴族の家に生まれても全員が貴族になれる訳じゃない。
爵位を継ぐのは長男で、次男以下は平民に落ちてしまう。
下級貴族の次男以下に生まれれば、将来がどうなるかはわからない。
サンディや俺の立場では一代限りの準騎士でも、ありがたい話だ。
学長先生の話しが続く。
「まず魔法学科の選抜を行う!」
何!? 魔法学科!?
あるのか! 魔法!
教室の中もザワリと湧いた。
「なあサンディ。魔法学科ってナニ?」
「ああ。魔法使いを養成する学科だよ」
「魔法使いなんているんだ……」
サンディは呆れた様に俺を見た。
俺はムキになって弁解する。
「いや、ウチなんて王国の東の端にあるド田舎の騎士爵領だぞ! 魔法が使える人間なんて一人もいやしなかったよ!」
「ああ! ああ! そうか! 悪い、悪い! まあ魔法使い自体が少ないからな。田舎の方に行けば、魔法使いが一人もいない地域もあるよな」
サンディはフォローを入れて来た。
魔法使いか……。異世界に転生した甲斐があったと言うか……。
ちょっと夢が広がるね。
しかし、魔法使い自体が少ないって言うのが気になるな。
「それで、魔法使いはそんなに少ないのか?」
「そうだな……。千人に一人とか……それ位じゃないかな」
「千人に一人!?」
「ああ。それでも初歩的な魔法を使えるレベルって話だからな。中級、上級の魔法使いとなると一万人に一人とか……」
一万人に一人か……。そりゃ宝くじに当たる様な物だな。
ひょっとして俺にも魔法の才能があるかも!? なんてちょっと期待したけれど、無理っぽいな。
魔法使いになる事はあきらめて教室の前の方を見ると学長先生の話しが続いている。
「――であるからして、魔法使いは我がラブラドル王国にとって重要なリソースなのであります。皆さんご存知の通り魔法使いの素養を持つ者は、数千に一人と言われておりますからな! ですので、魔法学科は全てにおいて優先されるのであります!」
凄いな……。
全てにおいて優先される……か。
魔法学科は超エリートコースって事かな。
「それでは前から順番に、一人ずつ、この左の扉から次の部屋に行くように! 次の部屋では魔法学科の先生が選抜試験を行います! では、パウル王子からお願いいたします」
一番前の席に座る金モールの少しぽっちゃりした男子生徒が立ち上がって左の扉から隣の部屋へ進んだ。
どうやら俺達は最後の方らしい。