第二十四話 バッカニアドラゴン
飛行船『黄金のグリフォン号』の外に出るとマックスウェル先輩が待っていた。
マックスウェル先輩は、兵士から書類を受け取りサインしている。
「なあ、サンディ。竜が届いたってどう言う意味……だ……」
俺はサンディに言葉の意味を確認しようとした。
だが、マックスウェル先輩の背後にいる『それ』を見て絶句した。
マックスウェル先輩の後ろには黒いこんもりとした大きな物体があった。
俺はてっきり補給品の山だと思ったが、近づいてみるとそれは黒いドラゴンだった。
竜ってマジもんのドラゴンの事か……。
竜が届いたって、ドラゴンが届きましたよって意味か……。
ドラゴン……初めて見た……。
マックスウェル先輩の後ろに控えるドラゴンは、全身ゴツゴツとした黒い鱗で覆われている。
猫のように丸まっているけれど、それでも大型トラックより一回り大きい。
立ち上がって首や尻尾を伸ばしたら、更に大きいだろう。
サインを終えたマックスウェル先輩が黒いドラゴンの額を撫でた。
「よく来たな、ノワール。よろしく頼む」
「GYAAAA!」
マックスウェル先輩に撫でられて、黒いドラゴンは気持ちよさそうに目を細めた。
顔付きはイカツイが、表情は犬っぽいな。
ちょっと可愛い。
マックスウェル先輩に懐いているのが一目でわかる。
「ほえ~。ノワールってあのドラゴンの名前かな?」
「そうだな。マックスウェル先輩のドラゴンは、何て種類だろう?」
俺とサンディが世間話をしていると後ろからジャバ先生が話に入って来た。
「あれはバルザック種ですね。ラブラドル王国中央の山岳地帯に住んでいるドラゴンです」
へえ。ドラゴンにも色々種類があるのか。
ジャバ先生は授業を進めるようにバルザック種の説明を続けた。
「バルザック種は中型のドラゴンで、戦闘力が高いです。ただし、気性が荒いので手懐けるのが難しく、飼育数は少ないですね」
「あれで中型ですか……。ワイバーンよりは随分大きいですが……」
飛行船『黄金のグリフォン号』にいるワイバーンは胴体だけなら大きめの馬くらいだ。
だが、マックスウェル先輩があやしているバルザック種のドラゴンは、大型トラックサイズ……かなり差がある。
「ふむふむ。良い所に気がつきましたね。黄金のグリフォン号に載っているワイバーンは、人の手で長い時間をかけ改良されたワイバーンです」
「と言うと……ワイバーンを……こう……交尾と言うか……人工交配? かな? 掛け合わせて……」
「その通りです! 良く勉強していますね! 人に懐きやすい性格で、小型のワイバーン同士を掛け合わせたのです。それを何世代も続けることで人が乗りやすい小型のワイバーンが誕生したのです。野生のワイバーンはもっと大きいですよ」
「なるほど!」
地球の犬とか牛とかと同じだな。
そうすると……今目の前にいる黒いドラゴン、バルザック種は野生なのか?
「あれ? じゃあ、マックスウェル先輩のバルザック種は野生のドラゴンですか?」
「そうです。野生のドラゴンを捕まえて来るのです。当然ですが、ドラゴンを生け捕りにするには、非常に高度な戦闘技術と高度な魔法技術が必要になります。ですからドラゴン一頭は非常に高額です。特にバルザック種は気が荒く捕獲が難しいです」
「じゃあ、相当高いですね」
「ええ。ちょっと私には手が出ないですね」
ほえ~。伯爵のジャバ先生でも買えないのか!
マックスウェル先輩の家は侯爵だからな。
やっぱお金があるのかな。
続いて真っ赤なドラゴンが連れて来られた。
赤いドラゴンを見てアメリアお嬢様が飛び出した。
「ラファール! 来たのね!」
「GUEEEEE!」
アメリアお嬢様は赤いドラゴンに飛びつき、楽しそうにじゃれつきだした。
ラファールって名前なのかな。
アメリアお嬢様は嬉しそうだし、赤いドラゴンも長い首をアメリアお嬢様にこすり付けている。
「ふむふむ。アメリア嬢のドラゴンは、アビアシオン種ですね。世界で一番美しく、エレガントなドラゴンと言われています」
「確かにきれいなドラゴンですね」
珊瑚を思わせるコーラルレッドのうろこが全身を覆い、背骨から尻尾に沿ってクリームっぽい白い線が入っている。優し気な目は金色だ。
マックスウェル先輩のバルザック種より体は小さいが、首と尻尾が長い。胴体の翼とは別に、首に小さな翼が付いている。
全体にほっそりとスマートなドラゴンだ。
エレガントとジャバ先生が評するのもうなずける。
「アビアシオン種は南の海がテリトリーです。気性は穏やかですが、何せ個体数が少ないのです。ですが、美しいので人気があります」
「当然、お高い」
「その通りです。名門ラファイエット=レビル家でなければ、手に入らないでしょうね」
そりゃ、アメリアお嬢様だもんね。
楽しそうにアビアシオン種のドラゴン『ラファール』と遊んでいる。
見た感じ飼い犬と遊ぶのと変わらないな。
「あの……ジャバ先生……上流貴族はドラゴンを飼うのが普通なのでしょうか?」
ふと俺は疑問に思った事を聞いてみた。
俺の実家セーバー家の領地にはドラゴンどころか、小型の魔物すら出なかった。
もちろん実家でドラゴンなんて飼ってない。
サンディの実家でドラゴンを飼っている何て話も聞いた事がない。
俺の実家もサンディの実家も騎士爵なので、ドラゴンはおろかペットを飼うのも経済的に厳しいからだ。
「そうですね。中級貴族になるとドラゴンをペットにする人が増えますね」
やっぱりそうか。
前世地球でも虎だのピューマだの猛獣をペットにする金持ちがいたからな。
一種のステータスなのかな?
「ただし、ドラゴンは魔法使いでないと乗れません」
「へっ?」
ジャバ先生の一言が俺には理解出来なかった。
ドラゴンは魔法使いでないと乗れない。
何でだろう?
「ワイバーンは、騎士が乗っていますよね? あの人たちは魔法使いじゃないですよね?」
黄金のグリフォン号にはワイバーンデッキがある。
あそこにいるワイバーンに乗っているのは、魔法使いじゃなく騎士だ。
竜騎士と言って、普通の騎士より格が高いそうだが、魔法が使えるわけじゃない。
普通の人間だ。
「そうですね。ワイバーンは訓練された騎士であれば乗れます。貴族学園でも騎竜術の実習がありますよ。まあ、馬に乗るよりは難しいですが、訓練すれば誰でもワイバーンに乗れます」
「でも、ドラゴンは魔法使いだけ?」
「そうです。もちろん、地上にいるドラゴンにまたがって歩かせるくらいは誰でも出来ます。しかし、ドラゴンに乗って空を飛ぶのは魔法使いでないと無理ですね」
わからないな……どう違うのだろう?
「アルト君のドラゴンも私が手配しておきました。お金はパウル王子が出してくれましたので、後でお礼を言って下さいね」
おお!
俺のドラゴンもあるのか!
「はい! ありがとうございます!」
「ああ。来ましたよ。あれが君のドラゴンです」
ジャバ先生が指さす方を見ると、運搬役の兵士が一頭の青いドラゴンを連れてこっちに向かっている。
「アルト・セーバー大尉! ドラゴンのお届けです。こちらにサインをお願いします」
運搬役の兵士は、お歳暮を配達する宅配便のお兄ちゃんみたいなノリで、書類を俺に突き出した。
この世界でドラゴンのお届けって普通なのか?
書類にサインすると運搬役の兵士は、説明も何もなくさっさと帰って行った。
後には、青いドラゴンが残された。
「アルト君のドラゴンはバッカニア種です」
「バッカニア?」
「北の海沿いに住んでいるドラゴンです。中型のドラゴンの中では小さい部類ですが、俊敏で戦闘力はなかなかです。サーペント、海竜と格闘戦を行うくらいですからね」
「へえ……」
バッカニア種と紹介された俺のドラゴンは、薄い青色、セルリアンブルーの鱗が全身を覆っている。
体のサイズは2トントラックくらいで、マックスウェル先輩のバルザック種より二回り小さい。
体はずんぐりしていて、手足も尻尾も太く、首は太くて短い。
顔は可愛い顔をしていて、大きい目をしている。
良かった。
イカツイ顔のドラゴンだったら、怖いけどこのドラゴンなら……。
まあ、なんとか大丈夫そうだ。
「ジャバ先生。このドラゴンは体形がずんぐりむっくりですけど、俊敏と言うのは……」
「キュー!」
俺の質問に抗議するようにバッカニアドラゴンが声を上げた。
こいつ『キュー』って鳴くのか。
可愛い。
「ドラゴンは知能の高い魔物です。人語を理解しますから気を付けて下さい。バッカニア種は北の海で生活していますからね。風が強く、岩場もあり気流が複雑な海辺を飛び回るドラゴンです。特に低空で安定した飛行をしますね」
「へえ。オマエって凄いんだな!」
「キュー!」
褒めてやると得意げに短い首を反らした。
本当に言葉がわかるんだ。
「しばらくはパルシア帝国軍とにらみ合いが続くでしょう。その間にドラゴンに乗れるようになっておいてください。先生も呼んでありますから。ああ! 来ましたね! 彼です!」
ジャバ先生が空の一点を指した。
遠くに急速接近する青色のドラゴンが見えた。





