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異世界もコネ次第!~王立貴族学園魔法学科へようこそ  作者: 武蔵野純平
第三章 ようこそ! パルシア戦役へ!

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第二十二話 軍議は紛糾する

 俺がゆっくりと風呂に入って戦いの疲れをとっている間に、飛行船『黄金のグリフォン号』は、カルソンヌ城後方の宿営地に移動していた。


 風呂上り濡れた髪をタオルで拭きながら、船室の小さな窓から外を見る。

 宿営地の上空には沢山の飛行船が見え、地上にはテントが並んでいる。


「なあ、サンディ。どうしてカルソンヌ城へ入らないんだろ?」


「そりゃあ、カルソンヌ城には避難して来た住民もいるだろうからな。とても全軍は入れないよ」


「なるほどね。じゃあ、俺たちはこの宿営地で寝泊まりして、戦いになったらカルソンヌ城へ出張ってく感じか」


「そう言う事。飛行船に部屋があるからテントに寝泊まりしないで済む。かなり楽だよ」


「へえ、そう言うもんか」


 キャンプ気分でテントに寝泊まりしてみたかったな、と言う思いもちょっとある。

 まあ、でも、飛行船の部屋はベッドに風呂トイレ付で水やお湯を使いたい放題だ。滞在が長くなるかもしれないから、ちゃんと休める部屋の方が良いのだろう。


 俺は初陣でかなり緊張していたらしい。

 夕食を食堂で済ませるとバタンキューでぐっすりと眠った。


 ――翌日。

 軍議が開かれた。

 宿営地に大型のテントが設置され、主だった将官が招集された。


 俺やアメリアお嬢様も一番端だけれど席を用意された。

 魔法使いって凄いんだな。

 まだ学生で周りの大人から見たらガキ丸出しなのに、軍議に参加出来ちゃうんだもん。

 お世話係は軍議に出席できないので、サンディは大型テントの前で軍議終了を待ってもらっている。


 軍議会場正面の長いテーブルに四人が座っている。

 一番右端に俺のボスであるパウル王子が座り、右から二番目に援軍の総大将が座っている。

 確か名前はニブロン・ダラス将軍だったかな。

 ダラス将軍は、白髪白髭で落ち着いた感じの初老の将軍だ。


 ダラス将軍の隣に、左から二番目にカルソンヌ城城主のアルル辺境伯。

 この人は四十代位の威厳のある黒髪の男性で、横に長い髭をピンと油で固めている。隣のダラス将軍に刺さりそうだ。


 そして一番左端にポアソン王子が座る。

 ポアソン王子は飛行船『黒い双竜号』に乗っている人、俺のボスであるパウル王子の政敵になる。


 座る位置が左端と右端に分かれてしまっているので、二人の王子の仲が悪い事が一目でわかる。


 俺たちの座る位置は右の後ろ。

 アメリアお嬢様が小声で教えてくれたけれど、パウル王子派閥が右側、ポアソン王子派閥は左側に陣取っているそうだ。

 ダラス将軍とアルル辺境伯はどちらの派閥にも入っておらず、中立の立場で真ん中にすわったらしい。


 会議はアルル辺境伯から援軍の礼が述べられ、ダラス将軍から現状が伝えられた。


「パルシア帝国軍は、カルソンヌ城の包囲を解いた。城へ食料など補給品の搬入も始まり、城主アルル辺境伯もこうして軍議にご出席いただけるようになった。卿らの奮闘の成果である。総大将として感謝する」


 カルソンヌ城の包囲が解かれたのは良かった。

 昨日の戦闘ではアメリアお嬢様たちが城攻めをするパルシア帝国軍を、必死で撃退していたのを俺は見ている。

 アメリアお嬢様に『良かったですね!』と小声で告げると、得意げにニッと笑った。


「だが、パルシア帝国軍はこの地にとどまっている。カルソンヌ城の西に陣を張り長期戦の構えを見せておるのだ。野戦を仕掛け短期決戦でパルシア帝国軍を追い出すか、守りに徹し持久戦を行うか。諸卿の活発な議論を期待する」


 ダラス将軍の言葉を受けてパウル王子が発言した。


「余は短期決戦が良いと考える。昨日の戦いで余の配下である魔法使いが、敵の魔法使いを魔法戦で抑え込んだ。兵力では我が方が少ないが、魔法戦なら我が方が有利! パルシア帝国軍を討ち! カルソンヌ城領域を解放せん!」


 パウル王子の勇ましい発言に、軍議の右側、つまりパウル王子派閥の貴族たちを中心に賛成の声が上がった。

 カルソンヌ城城主のアルル辺境伯は、嬉しそうにパウル王子に頭を下げた。

 アルル辺境伯からしたら、領民の生活もあるし早めに戦が終わって欲しいよね。


 戦争で興奮しているのか、パウル王子派閥以外でも好戦的な連中が騒ぎ立てている。


「パウル王子のおっしゃる通り!」

「パルシア帝国軍を討つべし!」

「南方の蛮族を蹴散らしてくれようぞ!」


 だが、この騒ぎを一番左側に座るポアソン王子が一喝した。


「静まれ! 俺は長期戦が良いと思う。パルシア帝国軍は特に歩兵が精強だ。我が軍より敵の数が多いなら野戦で敗れる可能性もあると言う事であろうが! それにカルソンヌ城兵は防戦の疲れで使い物にならんぞ!」


 カルソンヌ城主のアルル辺境伯が目をつぶり数回うなずいた。


「昨日、俺の配下がカルソンヌ城に入場して確かめたから間違いない。地の利はこちらにあるのだ。ここはしっかりと陣を構え、守りに徹するのが良策。なーに、酒でも飲んでいれば、敵もくたびれて国へ帰るだろうさ。無理する事はない。長期戦だ!」


 このポアソン王子の意見に左側に座るポアソン王子派貴族たちから賛成の声が上がった。


 ポアソン王子のあまりにまともな意見に俺は驚いた。

 彼は貴族学園で配下に鞭を振り回していた人だが……、腐っても鯛、腐っても王位継承を争う王子だ。戦を見る目はあるんだな。


 短期決戦か、長期持久戦か。

 攻めるか、守るか。


 どちらが良いのか俺にはまったくわからない。

 何せ俺の中身は平和国家日本の会社員だから、戦争戦略なんて考えた事もない。

 隣に座るアメリアお嬢様に聞いてみよう。


「どちらが良いのでしょう?」


「難しいわね……。確実性があるのは、持久戦だけれど……持久戦になればお金がかかるでしょ? この戦に参加した貴族の負担が心配ね」


「貴族の……負担……? えっ!? 戦争にかかるお金って自己負担なんですか!?」


「そうよ。あなた……何も知らないのね!」


 アメリアお嬢様は俺の無知に呆れたが、丁寧に教えてくれた。

 俺たちの住むラブラドル王国は、王様がいて貴族がいる。

 王様直轄の軍は、中央軍と呼ばれ国の予算で賄われている。

 各地方の貴族も独自に騎士や兵を雇っていて、彼らは諸侯軍と呼ばれている。

 諸侯軍は、各貴族が自分で給料を払っている。


 俺とアメリアお嬢様は王様からの招集に応じて参戦しているので中央軍所属、つまり国の予算で動いている訳だ。


 だが、諸侯軍は各貴族が自分たちの予算で動いている。

 戦の働きに応じて王様から褒章が与えられ、手柄を立てれば大幅に黒字、手柄が少なければそれなりで下手すると赤字になるらしい。


 諸侯軍の貴族の立場だと長期戦は費用がかさんで辛い訳だ。


「ああ! だからパウル王子は短期決戦を提案したのですか?」


「それもあると思うわ。ここに座っている人の半分は土地持ち貴族、つまり諸侯軍ね。彼らからすると、パウル王子の短期決戦の提案はありがたいのよ」


「なるほどね~」


「けれど、ここにいる人の残り半分は法衣貴族……法衣貴族はわかるわよね?」


「ええ。サンディのお父さんみたいに、土地を持っていない貴族でしょう? 王様から役職を貰って、給料を受け取っている貴族ですよね?」


「そうそう。彼らの中でも文官は短期決戦のパウル王子支持、武官は長期戦のポアソン王子支持みたいね」


 軍議では激論が交わされている。

 パウル王子とポアソン王子は会場の正面で腕を組んで議論を見守っているが、両派閥は立ち上がり、互いを指さし、拳を振り上げ、激しくやり合っている。


「文官は短期決戦支持ですか? 意外ですね? 文官は怖がって守備重視になりそうな気がしますが……」


「長期戦になればお金がかかるでしょ? 文官は予算を預かっているから、戦争が早く終わると助かるのよ」


「ああ、なるほど! じゃあ、武官が長期戦支持なのは何故です?」


「武官としては負けるのが怖いのよ。ここで負けるとラブラドル王国にパルシア帝国軍が侵攻してくるでしょ? だから、ここで確実に食い止めたいの」


「なるほど~、さすが優等生ですね!」


「あなたねえ! もう少し軍略も勉強しなさい! 上級生になったら貴族学園の授業に出るわよ!」


 例によって例のごとく、アメリアお嬢様に説教されてしまった。



 軍議はまとまらない。

 前列に座るジャバ先生、コード夫人、マックスウェル先輩も難しい顔をしている。

 ジャバ先生が総大将のダラス将軍から意見を求められた。


「ジャバ老師はいかがでしょう? 魔法使いとしてのご意見を拝聴いたしたい」


「そうですな……敵の魔法使いは、なかなか強いですが、昨日の戦いではアルト・セーバー君がきっちりと抑えました」


「アルト・セーバー?」


「貴族学園魔法学科所属の学生です。セーバー騎士爵家の子息で今年入学しました。魔力が豊富な魔法使いです」


「ほう……魔力量が……。ジャバ老師と比べて魔力量はいかほどに?」


「さて、困りました。アルト・セーバー君の魔力量は多すぎて計測が不能なのです。私の百倍かもしれませんし、それ以上かもしれません」


「なっ! ジャバ老師の百倍かそれ以上ですと!?」


「ええ。彼は歴史に名を残す魔法使いになるでしょう。アルト君、立って皆さんに顔を見せて下さい」


「ひゃ、ひゃい!」


 俺の話しになって驚いた。

 うわ! 緊張する!

 何とか立ち上がったが、緊張してガチガチだよ。


 軍議に参加している貴族の皆さんが俺を見ている。

 うわああああ! もう、帰りたい!


 アメリアお嬢様に助けを求めると『しっかりしなさい!』と一喝されてしまった。


 総大将のダラス将軍が俺を見て驚いている。


「ほう……彼が……。しかし、セーバー……騎士爵……ですかな? 聞きませんな……。本当に彼が魔法使いなのですか? その……ジャバ老師を魔力量で上回るほどの……」


 まあ、俺は凄い魔法使いに見えないよね。

 貴族学園の制服を着てなきゃ、平民に間違われそうだもの。


「アルト・セーバー君のご実家は東の端にご領地を持っているそうです。あまり中央では家名が知られていませんね。ですが、彼がセーバー家の家名をこれから王国中に轟かせるでしょう」


「ほう……そこまで……ジャバ老師がおっしゃいますか……ふむ……」


 止めて!

 俺は魔法使いにはなりますけど、そんな人の注目を集める人生は送りたくないです。

 小心者だから出来れば戦争とかにも参加せずに、地味に目立たず生きたいのです!


 軍議の場はざわついた。


「セーバー家? 聞かんな……」

「東の端? 当家と近いのか? しかし、聞いた事のない家名だ」

「ふん! 騎士爵風情が! 引っ込んでおれ!」


 どうもすいません。

 可能であれば引っ込みたいです。

 本当にすいません。


「あー、アルト君ありがとう。座って下さい。それから貴族学園魔法学科から、アメリア侯爵令嬢も参戦してもらっています。昨日はカルソンヌ城にとりかかるパルシア帝国軍兵士に次々と魔法を撃ち込んでいました。アメリア嬢、立って皆さんにお顔を見せて下さい」


「はい!」


 アメリアお嬢様は俺と違って堂々とした態度で立ち上がり、笑顔を見せた。


「彼女はラファイエット=レビル家のご令嬢です」


 何かあれだな。

 総大将ダラス将軍の態度も違うな。

 やっぱり名家出身は違うな。


「ほう! 御父上とは何度か戦場を共にした!」


「父からダラス将軍の勇名をうかがっております。どうぞよろしく」


「こちらこそよろしく! 御父上にもよろしくお伝えください」


 アメリアお嬢様は俺には見せた事がない、しゃなりしゃなりとしたお上品な態度だ。

 何よこのハイソサエティな感じは!


 周りの反応も俺の時とは大違いだ。


「おお! ラファイエット=レビル家! 魔法の名門ではないか!」

「いや、なんとも、お美しいお嬢様だ!」

「ご助力かたじけなく!」


 オマエら……態度があからさまだな。


「あーアメリア嬢は着席して下さい。ありがとう。さて、魔法学科からは、この二名の他にもコード夫人、マックスウェル君が参戦しています。中央軍の魔法使いも着陣していますし、諸侯軍にも魔法使いがいるでしょう。魔法戦力は揃っています。我が方有利です」


 ジャバ先生の言葉を受けて総大将のダラス将軍は腕を組んで考えだした。


「ふむ……パルシア帝国軍には飛行船もないし……それなら短期決戦も悪くないか……」


 ラブラドル王国軍の飛行船は、巨大な飛行船だ。

 攻撃用の魔道具も搭載している。

 魔法使いと魔道具で地上を一方的に攻撃できるのだから、相当優位性があるだろう。


 軍議の雰囲気が短期決戦に傾きかけた。

 その時、長期戦を主張するポアソン王子が口を開いた。


「ちょっと待て! 魔法戦で我が方が有利と言っても、敵の魔法使いは生きているのだろう? 違うか?」


 意見がまとまりかけていた軍議の場が、この一言でまたざわつき出した。

 ポアソン王子は言葉を続ける。


「それに今まで魔法後進国と思っていたパルシア帝国から強力な魔法使いが現れたのだ。他にも強力な魔法使いがいるかもしれないではないか! 油断はならんぞ!」


 ドン! とポアソン王子がテーブルを強く叩いた。

 可能性で言えばポアソン王子の主張は間違っていない。

 だけど彼女ほど魔力が豊富な魔法使いは、そうはいないだろう。


 俺はポアソン王子の意見に否定的だ。

 そんな事を考えていたら、ポアソン王子と目が合った。


「オイ! アルト・セーバー! 敵の魔法使いを仕留めたのか? どうなのだ?」


 軍議参加者の目が一斉にこちらを向く。

 突然の指名に俺は固まってしまって答えられない。

 だが、ポアソン王子は許してくれず畳み掛けて来る。


「アルト・セーバー! 返事をしろ! 敵の魔法使いを仕留めたのか? 死を確認したか?」


「い……いえ……。その……魔力切れには……追い込みましたが……後方へ……逃げて行きました……」


 俺は絞り出すように、切れ切れになんとか答えた。


「すると敵の魔法使いは生きているのだな? 魔力切れになっただけなのだな?」


「は……はい……」


「ふん! それでは意味がない! 敵の魔法使いはまた出て来るぞ! 魔力は回復するからな! 役に立たんヤツめ!」


 まとまりかけていた軍議はまた振り出しに戻ってしまった。

 あちこちで俺を非難する声が聞こえる。


「何と! 敵の魔法使いを取り逃がすとは!」

「若いから仕方ないが、詰めが甘いのではないか?」

「やれやれ、騎士爵魔法使い殿には荷が勝ち過ぎていたのでは?」


 何だよ! 俺が悪いのかよ!


 そりゃ、敵の魔法使いが魔力切れになっていた時に、迷わず魔法を撃ち込めば仕留められたとは思う……。

 けれど、敵の魔法使いは女性で……それに……まだ……面と向かって相手を殺す覚悟は出来ていなかった。


 そんなに俺を責めないでくれ!


 俺が固く拳を握って罵声に耐えているとパウル王子が大声を上げた。


「アルト・セーバーは余の配下である! 侮辱は許さんぞ!」


 軍議の場が静かになった。

 パウル王子は続ける。


「ポアソン! アルトが敵の魔法使いを退場させたからこそ、黒い双竜号から兵士が無事降下出来たのではないか? その方はアルトを役立たずと言ったが、取り消せ!」


「ふん! 殺せる時に殺さないから、役立たずと言っておるのだ! それともオマエの指揮が悪かったのか?」


「何を申すか! ロクに戦わず最後にカルソンヌ城に入城だけした、その方らが役立たずであろう!」


「何だと!?」


 兄弟喧嘩が始まった。

 もう、こうなると軍議も何もあったもんじゃない。


 結局総大将のダラス将軍が両王子をなだめ、数日敵の様子を見る事になり軍議は終了した。

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